水草オタクの水草がたり.

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エキノドルス① ホレマニーとはいったい何なのか

エキノドルスについて書こうと思います.

得意分野ではありませんが,嫌いではありません.書かなかった理由としては高額商品が多いことやまだ熱量をもったファンがある程度の数いるため,下手なことを書くとどんな批判を呼ぶかわからなくて怖い…ためやらなかったのですが,ついに決心がつきました.

 

というわけで第一回では

ホレマニーって何

ということについて述べていこうと思います.

いきなり爆弾タイトルですね.誰もが気になっていたタイトルなんじゃないでしょうか.

 

種について語るには,原記載とホロタイプに当たるのが手っ取り早いです.というわけでホレマニーの原記載を見ていきましょう.

最初にお約束事として,ラテン語,英語,ドイツ語から翻訳して日本語に直して書いていますので誤訳がある可能性が十分有ります.原文はソースからたどり着けると思うので,余力のあるかたはチェックしてみてください.

 

New Species of the Genus Echinodorus from South Brazil (1970) 

Echinodorus horemani Rataj

ホレマニーのタイプ標本.これが基準

原記載におけるホレマニーの葉.なぜかA, B(オシリス)の間にC(ホレマニー)が挟まっており紛らわしい.

シノニム

Echinodorus undulatus Hort. Catal. Lotus Osiris, Mage, Brazil, 1967. (nomen nudum)

形態記述

葉は有柄,沈水性,膜質,長さ30~40㎝,柄は12~19cm,葉身長15~20㎝,葉身幅2.5~3.5㎝,光沢のある暗緑色,両側が尖った披針形.主脈は5本,偽羽状脈,Pellucid markingsなし.花序は総状花序,3~5輪生,離生.苞は披針形,長さ2㎝,花弁は白色.雄蕊18本.

ホロタイプ

Brazil, Parana, Ponta Grossa, 8. 11. 1967, HOREMAN, PR: 27 0203

備考

全草が知られていないが,沈水葉は既知の種と大きく異なるため新種であることに疑いはない.(要旨より)E. horemaniE. osirisとともにみられるが,よりずっと珍しい.E. osiris及びE. uruguayensisとは沈水葉の緑色の違いとPellucid markingsの欠如によって区別される.E. majorとは濃い緑色,膜質の葉,雄蕊の数によって区別される.E. majorは革質の淡黄緑色の葉を持ち,雄蕊は12本.

訳注

要旨,記述ではスペルがE. horemaniとなっているが図の注釈ではE. horemanniとなっている.比較ではE. maiorと書かれているが,E. majorの誤植とみられるため直した.

 

 

 

Alismataceae of Brazil (1978)

Ratajは1978年にAlismataceae of Brazilにてホレマニーについて述べている.少し追加情報がある.

Echinodorus horemanii Rataj Folia geobot. phytotax . Praha, 5-214-5 , 1970

シノニム

Echinodorus undulatus Hort. Catal. Lotus Osiris, Mage, Brazil, 1964. (nomen nudum)

形態記述

茎は上行(もしくは垂れ下がる),20~35㎝.花序は総状花序,2~4段,各段に6~12花をもつ.苞及び花柄はE. uruguayensisに似ている.花は白色,雄蕊は18,痩果は長さ2~3㎜,短い嘴をおよび3~6の腺点をもつ.水中葉は有柄,沈水性,膜質,長さ30~40㎝,柄は12~19cm,葉身長15~20㎝,葉身幅2.5~〔3.5〕㎝,光沢のある暗緑色,披針形~長楕円形,両側が尖る.主脈は通常5本,偽羽状脈.水上葉は有柄,柄は葉身より長く葉身は楕円形~卵形.水上葉,水中葉ともにPellucid markingsなし.

ホロタイプ

Brazil, Parana, Ponta Grossa, 8. 11. 1967, HOREMAN, PR: 270203

備考

E. horemaniiE. osirisとともにみられるが,よりずっと珍しい.E. osiris及びE. uruguayensisとは沈水葉の緑色の違いとPellucid markingsの欠如によって区別される.E. majorとは濃い緑色,膜質の葉,雄蕊の数によって区別される.E. majorは革質の淡黄緑色の葉を持ち,雄蕊は12本.

 

茎及び花,水上葉について加筆されたほか,全草の図がついた.

 

Echinodorus Die beliebsten Aquarienpflanzen (2001)

Echinodorus uruguayensis Arechavaleta var. minor Kasselmann

E. uruguayensisとは水中葉が高さ10~30㎝であることで異なる.

ホロタイプ

Brazil, State of Parana, Rio das Flores,(ネット上に公開するので座標伏せました),August1, 1995, Kasselmann 501, Botanicau Museum Berlin.

記述

高さ10~30㎝と通常のものに比べずっと小さい.水中葉は柄部~5㎝,葉身長10~25㎝,葉身幅1~2㎝,淡緑色.水上葉は非常に高湿度にしないと栽培できない.他のウルグアイエンシスと比べて栽培しにくく,クレイを足すなど栄養を多くしたり,強い光が必要となる.Wanke & Wanke(1994)はRio Peixeで緑色の個体群と赤色の個体群が混在しているのを確認している.筆者はE. uruguayensisを南ブラジル,アルゼンチン北部,ウルグアイの様々な地点で調査した.浮葉の形成は稀であり,その条件は明らかでない.

よく似た形態,生態をもち葉が濃いオリーブグリーンや濃赤色の個体群はE. horemaniiとして以前知られていた.これは葉身の透明な線(訳注:Pellucid markings)の欠如によっても特徴づけられるとされてきた.Hoeschstetterのファームでは自家受粉と播種によりこれが明らかに雑種である事が示された.ホレマニーはブリーダーによって交配の種親としても用いられてきた.

 

An Integrative Approach to Species Delimitation in Echinodorus (Alismataceae) and the Description of Two New Species(2008)

2008年のLehtonenによるエキノドルスの総説ではホレマニー,ウルグアイエンシス,オシリスについて少し述べられている.

 Echinodorus horemanii Rataj (1970a: 214 - 215; 1975: 43; 2004: 72). 

記述

Rataj 1970aではE. uruguayensisを3種(E. uruguayensis,E. horemanii,E. osiris)に分けている.これらの記述は若干異なっているが,タイプ標本はE. uruguayensisの原記述に基づいて分けることができない.そのためこれら3種はE. uruguayensisのシノニムとみなされる.

 

2017年にSomogyiによってホロタイプの誤記述が指摘されている.

NOTES ON SOME RATAJ’S NAMES IN THE GENUS ECHINODORUS (ALISMATACEAE)(2017)

Echinodorus horemanii Rataj (1970: 214–215 as “horemani”)

ホロタイプ 

PR270203/10233

Brazil, Paraná, Ponta Grossa, 11. 8. 1967

記述

Thomas HoremanはJoachim Schulze, Michael Bleherとともにブラジルを探検した.Schulzeによればこの探検は1967年8月のことである.Schulzeはこの時採集された植物園向けの標本の写真を撮影,出版しており,これらの標本のラベルは11.8.1967とある.したがって,E. horemanii, E. opacus, E. osirisのラベルは11. 8. 1967であって8. 11. 1967ではない.E. horemaniiE. uruguayensisのシノニムである.

 

 

 

結局ホレマニーとは何なのだろうか?

ホレマニーグリーンについて

まず最初に書いておきたいのが,Horemanが採集し,Ratajが記載したホレマニーはいわゆるホレマニーグリーンであって(ある情報筋では所謂座標軸そのものなのだとか),色付きのホレマニーではないということである.

非常に残念なことに,Lehtonen & Falck (2011)のような交配親の推定実験には緑系のホレマニーが使われていない.(使われたのはホレマニーレッドだが,交雑が推定されたうえに...という感じ.この辺は改良品種エキノについて掘り下げるときに書かねばと思っている)さらに,Kasselmannの「ホレマニーは交雑であった」という一文もいったいどんな「ホレマニー」の自家受粉をさせたのかどうか,私には読み取れなかった.しかもKasselmannはその1文前に「濃いオリーブグリーンや濃い赤のもの」とホレマニー(と呼ばれたもの)について書いているので,ホレマニーグリーンについて実験が行われたかはかなり怪しい.

そもそもホレマニーグリーンにこんなに注目して維持しているのは日本くらいかもしれないので,ぜひとも維持されていきたいところである.

 

また,ホレマニーとはRatajがつけた名前なので,Ratajがホレマニーと呼んだ個体について議論することが必要である.Ratajは「深緑色である点でウルグアイエンシスと異なる」旨のことを書いており,茶色だったりオリーブグリーンだったり赤かったりするものに関しては原記載では言及していない.つまり深緑のものこそ真のホレマニーとして扱うべきであって,ここから下に私が考察する内容では赤かったりオリーブグリーンだったりする個体群に関しては一切無視して扱うこととする.

 

結局,ウルグアイエンシスなのか?

Lehtonen(2016)には「典型的なウルグアイエンシス」とまで書かれてしまったホレマニーのタイプ標本なのだが,Ratajのホレマニーに関する記述や,Kasselmannのウルグアイエンシスミノールに関する記述は栽培者の感覚と非常にしっくりくるのではないだろうか?つまりこれらは深緑系であって,水上では成長が滞る.

Rataj(1978)ではウルグアイエンシスについても述べているが,ウルグアイエンシスの水上葉の葉身は7.5~13㎝×2~4.5㎝と書いており,Ratajの認識したウルグアイエンシスは水上葉の長い(日本のアクアリストが考える)ウルグアイエンシスであろうと思われる.ウルグアイエンシスをはじめとしたエキノドルスの「ポピュラーな」グループに関しては交雑種も稔性をもつため複雑な交雑が自然界でも栽培下でも繰り返され,もはや種の概念も朧げであるように思われる.そのため現状を把握することは困難で,単純に遺伝子を比較するだけでは答えは出ないだろう.(この辺はのちに記事にしたい)深緑系という性質が種を超えて一部地域に固まっているように見えることからは,特定の種の組み合わせによる交雑の発生によって各種の深緑系が生まれているのではないかという想像が容易に頭に浮かぶ.

なんかしらの交雑による遺伝子の組み合わせによって所謂ホレマニーグリーンらしい,Ratajが書いたような表現型が生まれているのならば,すくなくとも名前としては分けて扱うべきだと思う.変種くらいの地位はあってほしいと思うところである.ところで某小さいものがなぜ改めて命名されているのか,そもそもこれが妥当な命名なのか非常に疑問があるが,この辺りは深堀りしないでおこう.

Rataj (1978)に描かれたウルグアイエンシス

 

 

アクアリストよ,顕微鏡を覗け!

さて,ウルグアイエンシスと所謂ホレマニーグリーンの違いとしてPellucid markingsの有無が挙げられている.これは葉の一部を切ってきてカメラの顕微鏡モードや実体顕微鏡で容易に観察できるはずなので,持っている方には是非試してみてほしい.私はAZのホレマニータイプが実家にあるだけなので今すぐ試すことはできない.すまない...

もし本当にE. uruguayensisE. horemaniiがPellucid markingsの有無で区別可能なのであれば,あるのがウルグでないのがホレマニー,あっても水上が貧弱なのは中間型,という感じで簡単にグルーピングできるはずだ.ウルグアイエンシスのPellucid markingsは上の写真に線状の白いものが書かれているので,こんなものがないことを確認できれば正解となるだろう.またRatajが書いているように,ホレマニーの水上葉が本当にPellucid markingsを欠くのかどうか(もしくは普段はあるのに簡単に欠いてしまうとか,有っても見えにくいとか)は個人的に非常に気になるところである.

ホレマニーに関してのみならず,Pellucid markingsは観察及び検体の採取が容易でありエキノドルスの分類に非常に重要であるにもかかわらず,どの種がどんな模様なのか出している人はほとんどいない.

栽培条件でコロコロ変わる些細な葉の色や葉幅や葉の成長のよじれにとらわれて不毛な闘争に明け暮れるより,よっぽど建設的な気がするのであるが...

 

まとめ

ホレマニーについて,思ったよりのど元に食らいつけたのではないかと思います.しかしこれらのエキノドルスは高額であり,買い集めることも困難です.ホレマニーとは何なのか,具体的に書いている資料も少ないように私には感じられました.

Lumper...纏めたがり屋にとって確かにホレマニーは「典型的なウルグアイエンシス」で片づけられるものなのかもしれません.しかし趣味家は分けたがり…Splitterが多いと思います.そんな時,いったいホレマニーとウルグアイエンシスは何が違うのか?日本語で読む機会はめったにないと思うので,検証する材料として使っていただければと思います.

 

ソース

Rataj, K. (1970). New species of the genus Echinodorus from South Brazil. Folia Geobotanica et Phytotaxonomica, 5(2), 213-216.

Rataj, K. (1978). Alismataceae of Brazil. Acta Amazonica, 8, 5-53.

Kasselmann, C. (2001) Echinodorus Die beliebsten Aquarienpflanzen 

Lehtonen, S. (2008). An integrative approach to species delimitation in Echinodorus (Alismataceae) and the description of two new species. Kew Bulletin, 63(4), 525-563.

Lehtonen, S., & Falck, D. (2011). Watery varieties: aquarium plant diversity from aesthetic, commercial, and systematic perspectives. Ornamental plants: types, cultivation and nutrition, 1-46.

Lehtonen, S. (2016, March). Shutting down the chaos engine—or, identifying some problematic Echinodorus (Alismataceae) types. In Annales Botanici Fennici (Vol. 53, No. 1–2, pp. 115-129). Finnish Zoological and Botanical Publishing Board.

Somogyi, J. (2017). Notes on some Rataj’s names in the genus Echinodorus (Alismataceae). Acta Rerum Naturalium Musei Nationalis Slovaci, 63, 12-22.

 

もうちょっと多角的な意見を取り入れたいので,あとで加筆したいと思っている.