パンタナルピンクムグラがDiodiaであるというのは有名な話である.日本にも帰化しているメリケンムグラDiodia virginianaとの著しい類似性がゆえんであるが,Diodiaである以上の同定はあまりなされてこなかった.海外サイトではしばしばDiodia cf. kuntzeiとして本種を紹介しているが,本当にD. kuntzeiでいいのだろうか?
本種の出自は1996年に吉野敏がパンタナルにて採集したものである.正確な採集地はよくわからない.というのも採集紀には「ムトゥン川河畔やトランスパンタネイラ沿いの道路わきでよく見られた」と書いてあるからである.現地写真もあるので参考になる.
また,たまたま本種と思われる水上葉の写真が投稿されているのでこれも使える.
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南北アメリカの狭義のDiodia属は5~6種であり,Bacigalupo & Cabral (1999)がモノグラフをまとめている.この記述を参照したところ,そもそも水上葉が細長いDiodiaはメリケンムグラとD. kuntzeiのみであった.(オオフタバムグラも細長いが,狭義Diodiaではないと書いている)メリケンムグラは南米にはいないのでまあD. kuntzeiとするのが妥当だろう.
さて,D. kuntzeiの場合葉脈は基本的に主脈のみしか見えず,副脈が見えることも稀とある.また辺縁は鱗片状で基部でも毛は生えない.パンタナルピンクムグラは無毛であるのに対し水上葉のメリケンムグラでは葉の基部では結構毛が目立つから,これは参考になる.パンタナルピンクムグラは葉鞘の形状もD. kuntzeiのものに近く,草体で見る限りはやはりD. kuntzeiでいいと思われる.果実を見れば検索表にかけるにあたってより確実だが,草体だけでも同定できるようである.
さて本種は見ての通り陸生植物で,水生にあまり適しているようには見えない.一時的に水に耐性のある類の植物だが,そんなものが20年以上も沈め続けられて生き残っているのは驚異的である.
参考文献
BACIGALUPO, N. M., & CABRAL, E. L. (1999). REVISIÓN DE LAS ESPECIES AMERICANAS DEL GÉNERO DIODIA (RUBIACEAE, SPERMACOCEAE). Darwiniana, 37(1/2), 153–165.