水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

謎のGlyceria

右が謎のGlyceria、左はムツオレグサ

 

ムツオレグサを探していたところ、水田の”ほりあげ”で変なものに遭遇した。

スケール感はムツオレグサやドジョウツナギと同大の中型種だが、穂はムツオレグサよりやや小さい。

最上部の葉しか採集できなかったが葉幅5㎜、葉舌6㎜ある。下部の葉はより幅広だったので推定7~9㎜。

ヒメウキガヤやウキガヤ(と思ってきた植物)よりはるかに大型である。セイヨウウキガヤか?

最初はムツオレグサそっくりなので持ち帰ってみてみればムツオレグサなのだろうか、と思ったが、拡大してみると全然違う。ムツオレグサは内穎の先端が二分岐して長く突出するが、この謎のGlyceriaは内穎は短く、突出するものの先端は円頭である。先端が二分岐しないのでどうもセイヨウウキガヤでもなさそう・・・?となるとヒロハウキガヤG. fluitans?


小穂は円柱状で長さ20㎜~25㎜、10~15小花よりなる。なお咲き始めのため、もっと長くなるかもしれない。

さすがにムツオレグサに比べると小さいが、外穎の長さは5.5㎜ある。



セイヨウウキガヤなのか、ヒロハウキガヤなのか、それとも他の種なのかに関しては私の力不足で断言しがたいが、典型的なGlyceriaではないと思うのでこのような変なものがそこら辺にいるということを共有したく記事にした。

水槽レイアウトに関して思うこと…水景はジオラマである、ジオラマに”本物”を使うべからず…

先日、アクアリウムを題材にしたゲームが発売されたという。内容としてはゲームフィールドから水草や流木を採取してきて水槽に配置・配植する…というものらしく、海外での水草熱の高さには驚かされるばかりである。(多分もうその辺の熱量では日本よりずっと先を行ってるんだろうな)

Youtubeでも海外の水草動画がときどき投稿されるので見るが、野生から水草や木を採ってきて配置して水槽に現地で並べる…という動画もちらほらと見かける。

海外で最近流行っているビオトープアクアリウムというのも、できれば同じ”産地”の魚や水草を揃えるべき…らしい。

だが、私はそうしたものを見てとても変な感触を覚えてしまうのだ。

…現地からモノごと切り取って持ってくるのって創造性ある?と…

 

水景とは天野尚が作った語であるが、自然を水槽に切り取った”かのような”、”自然のエネルギーを水槽に再現する”芸術だと私は捉えている。そして、自然を水槽に取り込むにはスケールの差があって、リアルな現実をそのまま持ってきたとしてもそこに観賞価値は生まれないのである。

つまり、水景とは、無限大のキャンパスに描かれた自然を、60×36ないし120×45ないし、の限られたサイズの中に圧縮して出力した、家庭サイズに濃縮された自然の創出である。

つまり、水景とは生きた植物を使ったジオラマ(情景模型)なのである。これはアクアリウムであろうが、テラリウムであろうが変わらない。

*ここでいう「ジオラマ」はハードスケーピングとかでしばしば揶揄的に言われるものではない点に留意。そもそもそういうジオラマ作品も少数派なような…

 

さて、ここまで考えたうえで水景にこだわるポイントとは、何だろうか?

それは、

「本当はそうではないものを、いかにもっともらしく演出するか」である。

そして、その視点から考えると、そのままのものを野生からむしってきて配置する、というのはあまりに幼稚かつ面白くない解答なように思われるのである。

水槽はどうあがいてもジオラマの一種である。

そしてジオラマとして水槽を創る以上、「ホンモノじゃない」ほうが寧ろホンモノらしくなることもあるし、「ホンモノじゃないけどホンモノっぽい」のを作れた方が、カッコイイのではないか?と私は思うようになってきた。

 

ただ、「ホンモノじゃないけどホンモノっぽい」もあまりに度が過ぎると雰囲気だけの、色使いだけのために色鉛筆のように水草を使うだけの面白くないレイアウトになってしまう。(レイコンが一時期、石と色鉛筆代わりの色違いロタラばかりになったみたいに)

ある程度の規則やこだわり…たとえばこの水槽には南米のものしか基本入れない、とか…はあった方がいいし、植生を踏まえたうえで自然を表現することは、自然を「風景」としてみるのではなく「生態系」としてみることが多いだろう生き物好きにとっては欠かせない視点である。

ただ、それにあまりにも細かいロカリティを追いかけ続け、既知の栽培系統があるにもかかわらず採集圧を野生にかけ続け、自然を簒奪して水槽に突っ込むようなことが続くのはいただけない。とくに日本産のものなどは手近なだけに、そうなりがちである。

だいたいこの種はいるよね、くらいで正直いいと思うし、水槽での形態的に矛盾しないのならば”本物”を入れる理由は自己満足以外に存在しない。しかも、それは芸術性を削ぐ方向での自己満足でしかない。

大外れをひかない程度でだいたいここにこれがあっても矛盾しないよね、とか、ここのこれは形似てるけど入手可能な種で代替、とか、そういった形で妥協点を探りつつ、その妥協をただの妥協ではなく芸術性を高める方向に発展させていったら、と思う。

 

あまりにも「レイアウトで使える、使えない」の話ばかりされて植物自体の価値が一蹴されていた数年ほど前から、少し風向きが変わってきたと思う。しかし、だからといって”本物”にばかり手がいく、自然の簒奪者になるべきではないし、かつてからある栽培系統をないがしろにしてロカリティばかりを追い求めるのはどうか、と思う次第である。

 

ノビエプロパガンダ

今回は身近にあるカオス、ノビエについて…おもに「雑穀の自然史」とWu et al., 2022をベースに書いていますが、勘違いなどあるかもです。ひとまずノビエに興味を持ってみる人が増えたらなあと思って書いています。

A. ヒエと食

ヒエ属植物Echinochloaは農業とそれにともなう雑草の進化を考える上で非常に興味深い植物である。この属は世界各地で食用利用され、作物化も複数回試みられてきた。ニジェール川では浮性をもつヒエ類のE. stagninaが野生利用される。その収穫はネイティブアメリカンのワイルドライス利用と似て、小船の上から穂を叩いて脱粒性に富むその小穂を回収し、脱穀して用いるものだという。ノビエ類の利用は縄文時代の遺跡からも確認されており、イヌビエが主に用いられてきた。東南アジアのE colonaはJungle riceとよばれるように、いまでも採集利用されることがある。日本においても、かつては野生ヒエ属植物を採集利用していた。縄文時代の遺跡からヒエ属の粒が見つかることはしばしばあり、特に北方において顕著である。北海道の縄文時代遺跡では時代とともに土器に埋まったイヌビエ粒が大型化し栽培ヒエに近づいていく様子が確認されており、野生ヒエを利用しながらも粒の大きい食用に適した個体を選抜し、栽培化が行われてきたことは想像に難くない。いっぽうでこうしたヒエ属がそのまま食用にするために用いられていたのか、それとも酒用に栽培されていたのかは未だ明らかではない。日本の東北~北海道において縄文人の栽培化したヒエがのちのニホンビエに繋がっていったのではないか、というのはあくまで推測に過ぎないが、有力な仮説である。

中国において、タイヌビエが食用とされ脱粒性を欠く作物として品種改良されてきたことは長い間知られていなかった。モソ族の栽培する“モソビエ”をはじめとして、中国各地に非脱粒型タイヌビエが分布することからは、タイヌビエが作物化され栽培利用されてきたことは疑いようがない。そもそも私は、タイヌビエもまた作物であった、或いは作物が二次的に雑草化したのではないかと考えている。タイヌビエの小穂は野生ヒエ類の中でも最大であるし、事実タイヌビエとはまた別に雑草型タイヌビエとでもいうべき、小穂の小さい平伏性の個体群が東アジアの一部に分布している(E. oryzoides var. hainanensis Wu et al., 2022)。

インド亜大陸において、ヒエ類は現在もなお重要な穀物としての地位を保持している。熱帯アジアに広く分布するコヒメビエEchinochloa colonaは野生ヒエ類の中でも最も小型で生産性の低い種のように思われるが、インドではこれをインドビエ E. colona var. frumentaceaへと改良した。インドビエはホワイトパニックと呼ばれるものの少なくとも一部を占め、日本でもそうと知られず栽培されているようである。また、ヒエとして市販されるインド産穀物はおそらくインドビエであろう。インドビエとニホンビエはしばしば識別困難なほど酷似する。コヒメビエとイヌビエはそこまで似ていないので興味深い。

ヒエ類の食用化過程において、やはり注目すべきはニホンビエだろう。日本におけるヒエ生産はもはや息も絶え絶えで、貧困の象徴のようにすら扱われているが、日本由来のヒエが日本海を渡って東アジアを席巻し、中国や朝鮮半島の広域にわたって栽培されるようになったこと、また大陸においてはいまだ主要な穀物のひとつであることは特筆すべきものがある。厳しい気候でも育つ強健さ、また茹でて脱穀し食用に加工した状態ですら何年もの保存に耐える保存性の高さ、乾燥した土地でも水田でも育つ水条件への自由度は、いかにニホンビエの食味や生産力がイネに劣ろうとも人々の最後の命綱として育てられ続けた理由である。それでいて、種子の休眠性や脱粒性といった野生ヒエの悪癖も克服している。現代農業の浸透により貧困の時代が終わった今、過去の苦しい時代を思い起こさせるとしてニホンビエが邪険に扱われ、もはや育てている人を見つけることが難しくなりつつあることはたいへん悲しいことである。

いまやヒエを入手するのは、小鳥の餌用が最も容易である。そのひと粒ひと粒を見てみると、産地によって結構な差があることに驚かされる。中国から輸入されているヒエもおそらくニホンビエであろうが粒のふくらみが著しく弱く、粒径も小さく、イヌビエの風体を残している。ニホンビエにも勿論様々な品種があり、様々な個性があるはずなのだが、その一端を垣間見えるといえるだろう。日本産の小鳥の餌用ヒエも産地によって少しずつ違っていて、さまざまな系統が流通しているようだ。

 

B. 雑草としてのヒエ

A章ではヒエの作物としての側面をみた。野生ヒエ、栽培ヒエはともに、食用として多くの人々を救ってきたことは間違いないことである。いっぽうで稲作においてヒエが害草であり雑草であることは疑うべくもない。藪野, 1975によれば斉民要術(550頃)に野生ヒエの防除法として1年おきに栽培するという記述があるというが、ヒエの性質からしてこれがどの程度有効なのかは疑問である。肥料がそうとう少ない前提なのだろうか。

ヒエ属植物はしばしば稲作に牙を剥く。例として、青森県で昭和38年度に実験的に行われた湛水直播栽培試験をみてみよう。この試験では1ヘクタールあたり393時間の作業時間を要し、そのうちの90.4%がヒエを抜く作業だったという。単純計算すれば、1ヘクタールあたり355時間もヒエを抜いていたことになる。湛水直播栽培の利点は省力化であるが、ヒエの発生により対象区の290時間/ヘクタールに対し明らかに劣る結果となっている。

ヒエ害は今も続いている。ヒエ類に対して有効な農薬はかなりあるが、その多くが発芽直後のヒエを枯死させるのみであり、育ってしまったヒエは抜くほかない。農薬を撒くタイミングを間違えたり、育ってしまったヒエを放置すれば次の年にはたいへんなことになる。一度ヒエ類が蔓延れば埋土種子が形成され、その後何年でも出てくる。いうまでもなく、厄介極まりない雑草である。ヒエに対する除草手段が長い間(今も部分的には)人力除草であった結果、さまざまな系統のヒエ類において独自にイネ擬態性が生じている。なかでもタイヌビエのイネ擬態性は秀逸なもので、長らくタイヌビエとイネの識別に葉耳の有無が用いられた結果、葉耳のないはずのヒエ属でありながらそれを擬態した“偽葉耳”とでもいうべき毛列を持つ個体群がいるほどである。タイヌビエのイネ擬態性は有名であるが、他の種においても独自にイネ擬態性が発生した。ヒメタイヌビエE. crus-galli var. praticolaは西日本や台湾、東南アジアに分布するが、葉は直立し草姿がイネに似ているものの、タイヌビエに比べると芸が足りない。ヨーロッパの稲作地帯にはまた別のイネ擬態性イヌビエが存在し、これはE. crus-galli var. oryzoidesと呼ばれる。日本ではいまだに認識されていないが、どこかで見つかる可能性は大である。この変種も雑草型でありながら栽培化との双方向の利用がみられ、さらには粒がタイヌビエ並みに大きく非脱粒性であるなど作物的な性質も備えるため興味深い(作物型イネ擬態性イヌビエのE. macrocarpaは本種の作物型である)。イヌビエE. crus-galli自体もしばしばイネ擬態性をもつ個体群がある。

稲作あるところイネ擬態性ヒエ類あり、と言っても過言ではない。イネ擬態性ヒエ類は東洋のタイヌビエ(とくに非脱粒性タイヌビエE. persistentia)および西欧のE. crus-galli var. oryzoides (作物型E. macrocarpa)でみられるように粒が大きく作物的な性質をもつものがあるが、これらが元作物なのか、作物を模した結果作物的になったのかははっきりとはしない。ただ私は、これらは元作物であったのではないかと考えている。

 

C. 野生ヒエの種とその起源

コムギにおいて、種間交配と倍数化は様々な作物系統を生み出すために非常に重要であったことが知られている。イネの場合、交雑は重要な因子とはみなされていない。ではヒエではどうだろうか。現在野生に生育しているヒエ類の大部分が異質倍数体であり、つまり交雑を起源とする種であることは特筆すべきである。2倍体ヒエ類は希少で、そのうちの少なくとも一部は絶滅したか行方不明である。どこかにひっそり生えているのかもしれないが。二倍体ヒエ類をはじめとしてヒエ類の多様性の大部分はアフリカに由来し、他の地域に分布するものは全て雑種起源である。しかも、北米と東アジアに同一回の交雑に由来する種が分布するなど奇妙な分布も多い。人間との関係性などを含めた検討の余地があるだろう。

下記は世界のヒエ類の要約である。

ヒエ類はきわめて変種が多い。これはほとんど自家受粉しかしないためである。そのため変種があたかも種のようにふるまい、広域に分布し各地で数変種が棲み分けている。

2倍体ヒエ類

基本的にアフリカにしか分布しない。

・E. haplocladaは多年生で長いノギをもつ。

・E. obtusifloraは西アフリカの乾燥したアフリカイネ田に生育する。

・E. pyramidalisの一部は二倍体だが様々ある。巨大な主に立ち性の多年生ヒエで、氾濫原に生育し高さ4mに達する。

・E. stagninaの一部は二倍体だが様々ある。多年生かつ浮性の水生種で、楕円形でしばしば長い禾を持つ。多年生かつ水生で類似するE. pictaは禾を持たず粒が丸い。どちらも倍数性が多様。

ほかにもいくつかの種がアフリカには分布するとされる。

4倍体ヒエ類

・タイヌビエ・グループ

東アジアと北米に分布する。

oryzicola var. oryzicola(タイヌビエ)、E. oryzicola var. hainanensis(日本にも分布するが和名なし。(Sato et al., 2023)穂が赤紫色で草体は顕著に平伏する無禾陸生種(Wu et al., 2022))、北米のE. walteriを含む。E. walteriとE. oryzicola(E. phyllopogonと呼ぶこともある)は核型およびサブゲノムは等しいとされているが分布や形態が大きく異なる。E. walteriは禾が長く、小穂の表面は毛におおわれる。

E. haplocladaを交雑の片親としている(Sato et al., 2023)。ほかに、2倍体型のE. pyramidalisを片親にする(Yabuno, 1976)可能性が示唆されている。

  1. *日本国内でも地域により分類不能の無禾ヒエ類があり、その一部が未知のタイヌビエグループである可能性は捨てきれない。
  2. *タイヌビエは”低緯度型”と”高緯度型”があり、高緯度型はイタリアと東アジアに自然分布する。イタリアと東アジアの系統は東アジア地域内よりも遠縁なようで(Sato et al., 2023)、東アジアからイタリアに移入されたわけではなさそうである。

6倍体ヒエ類

・イヌビエグループ E. crus-galli

イヌビエグループはE. crus-galli var. crus-galli(イヌビエ)、E. crus-galli var. oryzoides(和名なし)、E. crus-galli var. esculenta(ニホンビエ*E. crus-galli var. crus-galliの食用品種)、E. crus-galli var. praticola(ヒメイヌビエ)、E. crus-galli var. formosensis(ヒメタイヌビエ)、E. crus-galli var. crus-pavonis(ケイヌビエに相当?)を含む。ほかにもいくつかの変種を認める説もある。30万年前に起きたタイヌビエと“何か”の交雑を祖としていると考えられており、その“何か”はE. haploclada(但し現生のE. haplocladaとは約160万年前に分岐)と考えられている。また、少なくとも一部のイヌビエcrus-galli var. crus-galliは比較的近年にタイヌビエとの交雑形跡があるという。*ケイヌビエをイヌビエの一部とする扱いには問題があるように感じている。日本でそう言われているものの少なくとも一部はE. crus-galli var. crus-pavonisに相当するのではないか。

・コヒメビエグループ E. colona

野生型のE. colona var. colona(コヒメビエ)と栽培型のE. colona var. frumentacea(インドビエ)がある。栽培化はインドもしくは熱帯アフリカで起きたと考えられている。

 

D. 日本のヒエ類

日本のヒエ類は非常にありふれており、夏場の水田地帯を歩けば目にしないことはない。日本産ヒエ類は水条件によって住み分けている。

タイヌビエは最も水を好むヒエ類で、水中発芽能力をもちほぼ水田中にのみ生じる。稀にハス田にも生えるが、野生状態で目にすることは滅多にない。開花期は8~9月で、日本産ヒエ類で最も早生である。小穂は野生ヒエ類の中で最大で、栽培のニホンビエやインドビエに匹敵する。穂につく粒数が少ないため遠目にスカスカに見え、また穂は直立する。C型と呼ばれる小穂が膨らみ艶を帯びるタイプとF型と呼ばれる平滑なタイプがある。C型は西日本から太平洋側、F型は日本海側から東日本に多いが両方みられる地域もある。それぞれに無禾と有禾がある。暫定的に、C型およびF型の呼称を他のヒエ類にも用いる。見ているポイントは同じで、そうした方が理解しやすいためである。

イヌビエは次に水を好むヒエ類で、水中発芽能力は未熟で5㎝以深から発芽できない。。これも水田にほとんど生育し、生育の初期だけ弱いイネ擬態性をもち後に這い、節から根を出して広がる。しかし形質は安定せず、ほぼ完全なイネ擬態性を持つ系統もあるようだ。小穂はF型で禾はないことが多いがあることもある。粒径はタイヌビエより明らかに小さく、第一苞穎が短い。穂はタイヌビエよりも大きく、粒数が多いためふつうややしなだれる。タイヌビエにしばしば酷似するが、タイヌビエより花期が遅いことと小穂が小さいこと、イネ擬態性が洗練されていない点がポイントである。

ニホンビエはイヌビエの栽培化種であり、野生種に比べ草体は明らかに大きく粒数が多いが禾はほとんどなく、非脱粒性である。

crus-galli var. oryzoidesも日本にいる可能性があるが、これも非脱粒性であり長い禾をもつ。粒数は比較的少なくしなだれる。小穂はタイヌビエ並みに大きく長い禾をもつ。イネ擬態性。

ケイヌビエは大型で草姿はあきらかに開帳性で、節から根を出して広がる。小穂は紫色の長いノギをもちタイヌビエほどではないが大型であり粒数も多いため、穂は大きくしなだれる。脱粒性は高い。おそらく海外でE. crus-pavonisとよばれている植物であろうと思う。この種もE. crus-galli の一員とされる。比較的早生だがタイヌビエよりは遅い。関東の自然湿地に生じるヒエ類はたいてい本種である。

ヒメタイヌビエは他のイヌビエ類よりさらに晩生で、稲刈りに間に合わない地域が多い。小穂はC型で無禾、かつほかのイヌビエ類より小さい。穂は直立し、大きさを除いてタイヌビエに酷似する。イネ擬態性はあまり洗練されておらず、しばしば開帳する個体が混じるが、匍匐し節から発根することはまずない。ヒメタイヌビエもタイヌビエほどではないが、水中発芽能力に優れる。

ヒメイヌビエは早生かつ陸生で、タイヌビエと同時期に開花する。生育初期から茎をのばして倒伏しながら広がる。小穂は短い禾をもつこともあるが基本的に無禾である。小穂はつねにC型で、コヒメビエと並んでイヌビエ類で最も小さい部類である。

そのほか本州には分類不能のヒエ類が分布する。たとえばヒメイヌビエのように陸生し明らかに平伏するが茎は伸びずC型のもの、タイヌビエのように直立するが粒は小さくイヌビエに似るものの、第一苞穎は長いもの、など。こうした個体群も未記載や日本未記録の変種を含んでいるのではないかと思っている。つくづく奥が深い。

 

Wu, D., Shen, E., Jiang, B., Feng, Y., Tang, W., Lao, S., ... & Ye, C. Y. (2022). Genomic insights into the evolution of Echinochloa species as weed and orphan crop. Nature communications13(1), 689.

Sato, M. P., Iwakami, S., Fukunishi, K., Sugiura, K., Yasuda, K., Isobe, S., & Shirasawa, K. (2023). Telomere-to-telomere genome assembly of an allotetraploid pernicious weed, Echinochloa phyllopogon. DNA Research30(5), dsad023.

南西諸島にはコヒメビエが分布し、日本でもインドビエがときに栽培される。南西諸島に多年性ヒエ類が分布するという情報は掴んでいないが、いつか見つけてやると思って探している。

1967年に流通していた水草リスト(一部)

A Manual of Aquarium Plants

(Shirley Aquatics Ltd., Monkspath, Shirley, Solihuli, England)

に掲載されていた水草リストです。適宜注釈入れています。

気まぐれ更新なので、そのうち気が向き次第第二弾など作るかもしれません。

今よりむしろ多様なのが面白いのとともに、これから半世紀以上が経過しているのにわれわれはなにをやっているのだ、という気分にもなります。

 

掲載学名                             掲載英名                                               現代日本通名

Acorus gramineus                            The Japanese rush                           アコルス

var. folis variegatis             The striped Japanese rush                縞セキショウ

var. pusillus                        Dwarf Japanese rush                        ドワーフアコルス

var. intermedius

Aglaonema modestum                                                                             流通なし

Aglaonema simplex                                                                                  アグラオネマ シンプレックス

Alternanthera sessilis                                                                               レッドグラス             

*葉表が暗いワインレッドからダークグリーン、葉裏が真っ赤とあり、いまのレッドグラスと思われる。

Anubias afzelii                                                                                         アヌビアス アフゼリー

Anubias barteri                                                                                        *図は耳付き。葉柄の先端付近に毛があるとある。

Anubias congensis=A. heterophylla                                                                       アヌビアス コンゲンシス

 var. crassispadix                                                                       *花序が短く太い

Anubias lanceolata=A. barteri var. glabra                                               アヌビアス ‘ランケオラータ‘

Anubias nana                                                                                           *図は細葉、6インチ未満とのこと

Aponogeton bernierianus                                                                        細葉レースプラント

Aponogeton crispus                                                                                 アポノゲトン クリスプス

Aponogeton elongatus                                                                             流通なし、オーストラリア産

Aponogeton fenestralis                                                                            レースプラント

Aponogeton henkelianus                                                                         *茎(葉柄?)が赤みを帯び、葉は茶褐色を帯びるとのこと

Aponogeton natans                                                                                  *スリランカ、A. ulvaceus似の葉をもち後に浮葉を出すとのことで真のA. natansではないかと思う

Aponogeton rigidifolius                                                                           アポノゲトン リギディフォリウス

Aponogeton stachyosporus                                                                      アポノゲトン スタキオスポルス*ウンドゥラートゥスのシノニム

Aponogeton ulvaceus                                                                               アポノゲトン ウルバケウス*スリランカの輸出業者がナタンスをウルバケウスの名で出荷していたとのこと

Aponogeton undulatus                                                                             アポノゲトン ウンドゥラートゥス

Aponogeton species hybrid                                                                      *図にのみあり。

Armoracia aquatica                                                                                  ウォーターナスタチウム

Azolla caroliniana                                          Fairy moss                        *北米、メキシコ、西インド諸島、南米

Azolla filiculoides                                                                                    *A. carolinianaより大型 南米、ヨーロッパに帰化

Azolla pinnata                                                                                          *現在流通なし*赤褐色で非常に太い根をもつ、オーストラリア、熱帯アフリカ、アジア産

Bacopa caroliniana                                                                                  ウォーターバコパ

Bacopa monnieri                                                                                      バコパ モンニエリ

Bacopa myriophylloides                                                                           バコパ ミリオフィロイデス*ブラジル産

Bacopa reflexa                                                                                         *現在流通なし*真のB. refexa。ミリオフィラムに似るとのこと。Not a very useful aquarium plantとあり、恐らく栽培はうまくいかなかったものと思われる。

Bacopa species                                                                                         *現在流通なし*パラグアイまたはブラジル産、記述や図からするとBacopa aquaticaだろう。水上では披針形で両側にいくつかの鋸歯をもち、水中では細く薄い葉になるとのこと。

Barclaya longifolia                                                                                   バークレア

Barclaya motleyi                                                                                      *現在ほぼ流通なし*マレーからは紅色の個体ももたらされたとのこと

Blyxa echinosperma                                                                                 *アウベルティについては何故か触れられず

Blyxa japonica                                                                                         *茎が伸びた図があるが、記述からするとショートリーフと思われる。

Bolbitis heudelotii                                                                     ボルビティス

Cabomba aquatica                                                                     花は黄色とのことで、イエローカボンバ

Cabomba australis                                                                     *浮葉は長卵形で白花とのことで、広義C. aquatica。葉はときに茶褐色を帯び、各節の先端の裏面が赤く染まるとのこと。ウルグアイ、アルゼンチン、チリ産。

Cabomba caroliniana                                                                 カボンバ

Var.  multipartita                                                       *葉が2.5インチもある改良品種。現在流通するカボンバはこちらと思われる。

Var. paucipartita                                                          *通常型

Cabomba pulcherrima                                                                             *葉や茎が赤紫

Cabomba piauhyensis                                                                              *茎が細く葉は明るい緑~赤茶色。花は赤紫色。葉は線状で先端は鋭く尖る*葉の先端が尖るとのことで、現在のレッドカボンバではないと思われる。

Cabomba warmingii                                                                                 *非常に細く繊細で葉は1インチしかなく、ニテラを思わせるとのこと。花は白色。

Cardamine lyrata                                                                                     *カルダミネ リラタ

Cardamine rotundifolia                                                                           現在流通なし*冷水性とのこと

Ceratophyllum demersum                                                                       *マツモ

Ceratophyllum submersum                                                                      現在流通なし*冷水性とのこと

Ceratopteris cornuta                                                                                現在流通なし*図は南米のC. pteridoidesにみえるが、熱帯アフリカ原産と書いている。どちらも現在流通はない。(ネグロ~はそれまで流通していたC. pteridoidesとは別由来なので。)

Ceratopteris thalictroides                                                                        ウォータースプライト