あ~もやもやする.アフリカンチェーンソードの正体が.
ということで今度真面目に取り組んでみる前に色々調べておこうかと思った.
アフリカンなのか?というところはアトラスレイアウトに使うにあたって非常に問題になるかと思う.
名称について
アクアリウムで扱われる”水上葉が幅広で,水中葉はテネルスを小さくデリケートにして黄緑色にしたような草”はかなり昔から流通している.厳密にいつどの名前が使用されているのかに関しては後で見てみようと思うが,エキノドルス ハムリック/アフリカンチェーンソード→ラナリスマ ロストラータムの順なのは間違いない.アフリカンチェーンソードとハムリックのどちらが古いかは自身がなく,同時並行で使われていたようにも思う.
流通する草姿はほとんど変わりがないように感じるが,以前に興味を持たれた方がすでに記事にされているものがいくらかみあたる.
水草図鑑『ハムリック Ranalisma rostrata』 : SONOアクアプランツファーム水草情報局
Ranalisma humile
生態写真
図
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:58438-1/images
標本写真
シノニム
Alisma humile Kunth Enum. Pl. 3: 154 (1841)
Echinodorus humilis (Kunth) Buchen. in Pringsh. Jahrb. 7: 28 (1868); F.T.A. 8: 211 (1901); E.P. IV. 15: 26 (1903)
Sagittaria humilis (Kunth) O. Ktze. Rev. Gen. 3: 326 (1891)
分布 アフリカ熱帯地域
小型,高さ2~4㎝.水中では時に15㎝に達する.ストロンは短い.葉柄は1~10㎝,扁平.葉は水上で楕円形~楕円ー披針形,0.5~1.5×1~3㎝.葉の基部は円形~楔形~わずかにdecurrent. 3~5脈が葉柄の先端から伸びる.水中葉の先端は鋭,~0.5×10㎝.花序は1つの花からなる.稀に2.花柄は葉柄と同長,苞は3~5㎜.しばしば栄養繁殖の芽をつける.ガクは卵形,4×3㎜.花弁6×4㎜,非常に繊細.雄蕊は8~12,花糸2.5㎜.葯は卵形,1㎜以下.雌蕊は倒卵形,花柱1㎜.痩果は密に淡黄色,6~10㎜の頭花につき,斜倒卵形,2~2.5×1.5~2㎜,花柱の残骸は硬く,長さ1㎜.
Flora of Tropical East Africa, page 1, (1960) Author: Susan Carterより.
引用↓
Ranalisma rostrata
生態写真
长喙毛茛泽泻 Ranalisma rostrata | Nature Library
(?明らかにR. humileではないが,R. rostrataより花弁が長くあまり一般的な個体ではなさそう)
図
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8d/Ranalisma_rostrata_IP.png
shui sheng wei guan shu zhi wu tu ce 水生维管束植物图册 - Biodiversity Heritage Library
標本写真
シノニム Echinodorus ridleyi Steenis; E. rostratus (Stapf) Gagnepain (1929), not (Nuttall) Engelmann ex A. Gray (1848).
分布 中国南部~インド
匍匐茎をもつ植物.葉柄12~32㎝,葉は全縁,浮葉~水上葉は卵形から卵長円形,3~4.5×3~3.5㎝,基部はやや心臓形,先端はやや鋭.花は花茎の先端に1~3つき,苞は2,へら状,7㎜.ガクは幅広の長円形,5㎜.花弁は倒卵形~長卵形,ふつうガクと同程度.雄蕊2.5㎜,葯は長円形.心皮は込み合っており,中心に残存性の花柱をもつ.柱頭は長い.痩果は±倒三角形,嘴3~5㎜.
引用↓
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=2&taxon_id=220011374
Flora malesianaでの記述は少しサイズ感が異なるので追記しておく.
水上葉は幅広の長円形から卵形,基部は円形~やや心臓形,先端は円形~やや鋭,1~3.5×1.5~2.5㎝,3~5脈.葉柄は4~20㎝.
少なくとも記述を見る限りではアフリカンチェーンソードはどちらかというとR. humileに思えるのだがどうだろうか.
↓市販流通株とその花
水草図鑑『ハムリック Ranalisma rostrata』 : SONOアクアプランツファーム水草情報局
https://idtools.org/uploads/idtools/15/232/Ranalisma-habit-emersed.jpg
https://idtools.org/uploads/idtools/15/232/Ranalisma-flower.jpg
↓中国のWeb百科事典にあった見慣れないRanalisma
多分これはR. rostrataだと思うのだが,明らかに市販のアフリカンチェーンソードとは別物である.
市販流通株との比較
幅広な水上葉はR. rostrataに似ているが、やや細長い花弁、短い葉柄はR. humileに近い。
両者の間に花の形質に違いはあまりないが、果実の突起R. humileで1mm、R. rostrataで3-5mmである。これは計測してみないとわからない。ただ5mmとなると、花弁やガクに比肩する長さである。市販株の種子にある突起がそこまで長いようには見えない。
そもそもR. rostrataが水中葉をメインに増殖するという話が見当たらなかった。
R. rostrataは極めて稀な種で、この100年間でごくわずかな回数しか採集されたことがない。各国でほぼ絶滅状態であり、比較的情報のある中国ですら一度は絶滅したとみなされ、域外保全が行われている。他国での現状はわからないが、かなり厳しいのではないか。
一方R. humileに関してはかなりの採集記録がある。R. rostrataにおける水中葉の記述の不在は単に観察された個体数が少ないことによるかもしれない。
R. rostrataの水上葉は市販株に比べて小さく、市販株が成長不良を起こした時の姿にきわめてよく似ている。
小型の植物であることから自生地の好適環境では種間競争に敗れ、大型化できていない可能性も考えられる(そのため水中で繁茂する戦略をとっているのではないかという予想)。
観測前の予想
1.市販株の生育形はR. humileのものに近い(R. rostrataのように浮葉を作ったり,葉柄が10㎝を超えるような株は見たことがない.).もし仮に市販流通株がR. rostrataだったとしても,市販株の姿は典型的ではなく,きわめてR. humileらしい個体が流通していると考えられる.
2.市販流通株はやっぱりアフリカのものであって,"R. rostratum"というのは誤同定である可能性がある.
3.もし仮にR. rostrataが流通しているとしても,市販株の草姿や生態はほぼアフリカのR. humileそのものであり,アフリカンレイアウトに間違って使ったとしても草姿からは区別不可能である.逆に市販株をR. rostrataだとしてアジアンレイアウトに使うのは不自然かもしれない.そもそも普通のアジアの水辺にR. rostrataはいない。「日本の水辺」レイアウトにタカノホシクサ(をイメージしたセタケウム)を植えるようなもの。