エキノドルス,第二弾はエキノドルス全体の系統関係についてです.
極めて多くの改良品種が存在するエキノドルスですが,いったい何と何が交配されたのか,何が親なのかという点に関してはファーム側の自称に留まっているのがアクアリウム業界における現状です.大同小異な改良品種の乱発,同じロットの筈なのに品質が安定しないのは当たり前(まあ水草ですからね...)といった状況にあるのですが,エキノドルス全体とともに改良品種にも遺伝子的にメスを入れたLehtonen &Falck(2011)が面白かったので紹介してみようと思います.
改良エキノドルスは交雑種であり,単純に遺伝子を比較するだけでは答えにたどり着くことは困難です.またファームにより主張されてきた親種に関しても,本当にその組み合わせであったのかは疑問があります.
そのためLehtonen &Falck(2011)では改良エキノドルスの両親を推定し,その間の系統関係を推定しています.
両親の推定には葉緑体DNA及び核DNAが用いられました.一般的に葉緑体は母系遺伝であるため,葉緑体DNA(psbAとtrnHの間にあるノンコード領域が用いられました)と核DNA(LEAFYの2番目のイントロンが用いられました)の比較を行い,葉緑体DNAと核DNAがともに近い方が母親,そうでない方が父親と推定されました.DNAの比較にはDNAクロマトグラムの蛍光ピークが用いられ,親種に関しては先行研究で得られたデータベースとの照合により推測されました.推測された両親の形質をもとに各雑種の形質をコード化し,遺伝子及び形態に基づいた系統樹が作成されました.メソッドはかなり端折っているので,詳しいところは本文を参照してください.
さて,一般に栽培されるエキノドルスは3つのグループに分けられました.E. grisebachii(アマゾンソードの類)及びE. subalatusに近い一群,E. glaucusと姉妹関係にある一群です.
アマゾンソードに近い一群
E. grisebachii, E. amazonicus, E. amphibus, E. parviflorus, E. heikobleheri, E. bleherae, E. gracilis
E. grisebachiiとそれに近縁な種の間では遺伝子的に顕著な差は認められませんでした.広葉のものに比較して細葉のものでは葉緑体DNAに短い配列の逆転がみられたものの,種内変異でもしばしば認められ,また発生頻度が高く同形形質となりやすいことから系統解析では重視されない変異のようです.そのため,E. grisebachiiを細分化することは結局できませんでした.さらに,Kleiner Bär (スモールベア)の片親は従来言われていたようなE. parviflorusではなく,他のグループとの交雑の証拠は確認できませんでした.
E. subalatusに近い一群
E. major, E. decumbens, E. palaefolius var. latifolius
E. palaefolius var. latifoliusおよびE. inpaiは非常に近縁であることが示唆され,同種である可能性もあるようです.
E. glaucusと姉妹関係にある一群
アクアリウムで重用される殆どのエキノドルスがこの一群に含まれ,また観測されたすべての交雑種はこの一群に含まれました.非常に多様な形態を持つにもかかわらず遺伝的には近縁であることが知られており,恐らくこの範囲を超えると交雑が起こらないのではないかと推測されました.