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ササバモのこと

日本最大の水草と聞いて思い浮かぶのは、ササバモである。

わりかしありふれた種だが分布にやや偏りがあるという話もちらほら聞き、興味深い。また水質汚濁に強いようなイメージがなんとなくあるものの霞ケ浦をはじめとした水草にとって汚染がきつくなった水域ではエビモやヤナギモより先に姿を消す種でもある。

ササバモは形態変化が非常に激しい種でもあり、他の種と混同されることはそこまで多くはないものの、本当にそれらがみんなササバモといえるのかに関してはやや疑問がある。そのため、ササバモを取り巻く状況について少し書いてみようと思う。

 

ササバモの学名について

結論:

現時点において、日本に分布するササバモの学名はPotamogeton wrightii Morongとすべきである。

P. wrightiiか?P. malaianusか?

ササバモの学名に関してはじめて言及したのは牧野富太郎と思われるが、彼の「日本産ひるむしろ属」ではその学名をPotamogeton sp.に留めている。その後1892年に牧野はササバモP. mucronatusとみなしている。三木茂はじめ後の日本人研究者はササバモに対してP. malaianusをあてることが多く、その源流はHagstroemら(1916)に遡れるようだ。その後Wiegleb (1990) はホロタイプの検証により

・P. malaianusP. nodosusのシノニムである

・日本で記録されていた”ササバモ P. malaianus"はP. malaianusではありえない

・ササバモの学名はP. wrightiiである

ことを示し、P. wrightiiを再記載した。また、P. mucronatusはじめ、多くの学名をP. wrightiiのシノニムとしている。

ササバモはどのように識別するか?

Wiegleb(1990)ではササバモと混同されやすい種として、P. lucens, P. illinoensis, P. gramineus, P. distinctus, P. nodosus, P. sumatranusを挙げている。

P. lucens vs ササバモ

Wiegleb(1990)ではP. lucensP. dentatusP. gaudichaudiiを含めている(要するにガシャモクを含める)。

P. lucensは浮葉を欠き、より大型で柄の短い葉を持つこと、倒卵形から円形の果実をもつこと、より太い花茎をもつこと、中心柱は殆どの場合長楕円形であること、表皮下に維管束を持つことで区別できるとしている。

ガシャモクvsササバモに関しては日本語でもある程度資料があるので、苦労はあまりしないのではないかと思う。

 

P. ilinoensis vs ササバモ

P. ilinoensisはササバモのように浮葉をしばしばつける、P. lucensによく似た北米を代表する大型のPotamogetonである。

より大型で柄の短い葉を持つこと、倒卵形から円形の果実をもつこと、中心柱は長楕円形から縮小した8維管束状から7~9維管束状(Prototypeともいう)であること、表皮下に維管束を持つことで区別できるとしている。

 

P. gramineus vs ササバモ

P. gramineusは分岐が多く概形が異なること、太い花茎をもつこと、沈水葉は無柄で披針形であること、中心柱は主に長楕円形であること、皮下に維管束を持つことで区別できるとしている。

 

P. nodosus vs ササバモ

P. nodosusは浮葉に富むこと、より大型で丸みを帯びた果実をもつこと、Interlacunar bundleをもたないことで区別される。

 

P. distinctus vsササバモ

P. distinctusは浮葉に富むこと、より大型で丸みを帯びた果実をもつこと、Interlacunar bundleをもたないことに加え、1~3心皮であることで区別される。

 

なおP. sumatranusに関してはササバモP. nodosusの中間的な形質を示し、ササバモの一型ととるか、ササバモP. nodosusの雑種である可能性も示唆している。

 

Wiegleb(1990)はササバモが茎断面にInterlacunar bundlesをもつことを強調しており、これは保存状態が悪い標本でも確認可能であることから、迷った際の同定に有用と思われる。これは維管束の中心柱と表皮の間に1~2重に維管束の束の列をもつもので、ヒルムシロおよびP. nodosusでは欠くとされる。

交雑種について

インバモ、オオササエビモ、サンネンモ・・・略

アイノコヒルムシロ

P. × malainoidesのタイプロカリティの個体が浮葉形態のササバモである可能性が指摘されているものの、Interlacunar bundlesはあるものの小さく、表皮下の維管束がみられるものもあり、花穂は長く20段におよび、雌蕊は完全に発達せず、3心皮 (1~4心皮が混在)することで区別される。

角野(2014)では浮葉は完全な平面にならず辺縁が波打つこと、クチクラ層の発達が悪く、表面が平滑でないことを特徴的としており、花穂の長さに関しては両親種と比較して極度に長いとはしていない(2~5㎝)。P. nodosusとササバモが交雑した場合、認識が困難である. P. sumatranusがそれに該当する可能性がある。

 

結局、どこまでがササバモなのか?

ササバモとして知られている植物はしばしば浮葉を形成し、ヒルムシロとの判別が困難である。4心皮か2心皮か、また沈水葉の先端の形態や沈水葉の質感などはヒントになるだろう。またInterlacunar bundleは標本検討においても有効とみられる。

あくまで私の個人的な感想として、アイノコヒルムシロの浮葉の特徴は”浮葉は完全な平面にならず辺縁が波打つこと、クチクラ層の発達が悪く、表面が平滑でないこと”である以上、完全な平面の浮葉をもち、クチクラが発達して表面が平滑な浮葉をもつものをササバモとすべきではないと考えている。Wieglebの記述からしてもあくまでもササバモは「緊急事態に浮葉や水上葉を作れる沈水植物」であって、沈水葉でやっていける条件であるのにもかかわらず浮きたがるものはササバモと呼ぶべきではない。もし花が4心皮であるのを確認したならば未知のものの可能性を示唆しつつ、不明種として扱われるべきではないだろうか?

 

 

 

 

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