水草業界の冷え込みはすさまじいですね.
どのくらいすさまじいかというと,かつて業界をリードしたショップは「水草はもう流行りませんし流行るものでもありません」と断言,多くのショップには金魚藻しか並んでおらず,この私が「お探しのものは見つかりませんでした」という意味である404 エラーをTwitterのアカウント名にするくらいです.
しかし.
水草は今だからこそ,流行りうる存在です.
他のあらゆる熱帯魚よりも流行るポテンシャルがあります.
そもそも,水草はどのくらいあるのでしょうか?
アクアルートで扱われる水草は,品種やバリエーションを含めると2000は軽く超えると思います.例を挙げれば,ブセファランドラだけでも(名前違いみたいなのも多いですが)700以上が流通していたくらいです.
コレクション性に関しては納得がいくでしょう.しかし,今どのくらい手に入るか?といいますと...
だいたい200か300でしょう.
この差は何か?ここに今回問題に挙げたい問題があるのです.
熱帯魚は,殖やすのが非常に困難な生き物です.熱帯魚を殖やそうとすれば,文字通り生活を差し出すことになります.そもそも産卵させるのが厄介です.しかも,稚魚に一日二食~三食,ブラインシュリンプを与えなければならないこともしばしばです.
断言します.普通の生活をしながら熱帯魚を売るほど増やすのは不可能です.
その一方,熱帯魚は膨大な種数が次々に輸入されてきます.そして,飼育者の手に渡った後遅かれ早かれ死んでいきます.
海外で採集/増殖される
→問屋が海外に金を払って買う
→問屋からショップが買う
→ショップから消費者が買う
これが熱帯魚の流通であり,ここに僅かな例外こそあれ,逆流はありません.
なぜなら,熱帯魚は増やせないからです.
増やしたとしても海外からの輸入品には値段でとてもかなわず,国内増殖品がメジャーになることもありません.
つまり,ショップから購入した熱帯魚はいずれ死に,次の熱帯魚を確実に買ってくれるというのが熱帯魚流通の一方通行性を支えているといえるわけです.
しかし,世の中には「飼育する=殖やす」ペットが3つあります.
・昆虫
・エビ
・メダカ類
この3つに関しては,ショップから買うのはあくまで種親であり,各飼育者はそれらを殖やすことによって楽しみます.
そのため自然を切り売りして消費し続けることもなく,持続的な趣味といえます.それだけでなく飼育者側にも,ブリーダーとしてある程度の小遣い稼ぎができるという恩恵があります.
そのため,勿論上記3者のすべてが一大ブームを築いてきましたし,今でも勢いをかなり保っているように思います.
これらの流通は双方向性で,そのためショップ,個人ともに高いモチベーションを維持できているように思われます.昆虫ではだれから仕入れたかわかるようにブリーダー番号を振り,メダカでは増やしている方が直接産地直売することが多いように,だれが殖やしたものなのかよくわかるようになっています.
問屋が海外から輸入
→ショップが購入・繁殖
→個人が購入・繁殖 →ショップ,他の個人への販売
ここで水草を見てみましょう.
水草は虫やメダカやエビと同様,「飼育する=殖やす」側にあります.
育つということは増えるということと同義です.
しかも,土を飼っているような期間が大半であるクワガタやカブトムシと違って
水草は殖やす過程も美しく,インテリア性があります.
増えすぎたり選抜落ちした分を捨てる際にも,メダカやグッピーであるような
「命の選抜をしている」という罪悪感がありません.
しかしながら,業界を見てみましょう.
ショップを占拠しているのはほとんどが海外のファームから輸入された水草です.
ショップで増やした草を販売しているところもありますが,極めて稀です.
ましてや客が殖やした草を売ってくれる店など,ほとんどありません.
つまり,水草は国内増殖を経て双方向性の流通がされるべきなのに,
熱帯魚的な消費流通,自然の切り売りがされ続けているのです.
「ショップに入った水草は一度売れれば戻ってくることは無い.」
これこそが,2000は軽く超えたであろう水草が今ではその1/10も流通していない理由なのです.しかも,自分の水草を買ってくれる人がいないのであれば,スペースがなくなり次第処分するしかなくなります.こうして世界の裏側からはるばるやってきた貴重な水草が,次々と焼却処分されていったのです.
そして,ヤフオクが現れました.
ヤフオクを使えば,ショップや問屋をバイパスしてほしい人同士がほしいモノをやり取りし,小遣い稼ぎをすることもできました.
しかし.
しかも,ネットオークションにより得られる金は,水草の価値=金額という傾向をさらに強めました.
そして,「好きで育てていたはずの水草の価値は現金だけになり,
水草ファン同士は互いを詐欺師として罵り合い,睨みあう」
地獄の2010年代が訪れ,2020年までにはかつて流通していた水草のほとんどが失われてしまったのです.
なぜ失われたか?もちろん,ヤフオクで値段がつかない水草は次々に生ごみになっていったのです.なぜあなたはその水草を買ったのか,頭を冷やして考え直すべきでしょう
熱帯から死ぬ気で持ち帰った人のことも少しは考えるべきでしょう
世界的にアクアリウム熱が冷え込み,世の中が暗くなってくると海外ファームは生産の効率化を図り,より育てやすいものを売るようになりました.それが実際に水草としてよいかは別として.そうして,中身が入れ替わった水草が次々に市場に現れ,ショップや問屋は真贋の判断もせずに盲目的に売り続けました.
結果,本物を売るべきショップですらモノと名前が一致しない事態となりました.
「問屋から買ったものはヤフオクよりはモノと名前が一致している」
それ,今でも言えますか?
何もかもが入れ替わり,水槽での育てやすさよりファームでの増殖速度が優先されています.ハイグロフィラポリスペルマ,ポリゴナムサンパウロレッドをはじめとして,どんどん質の悪いモノに入れ替わっています.最近ではビビパラなどですら怪しいものが来ているのが現状ですし,何の前触れもなくコロコロとモノと名前を入れ替えます.海外ファームのつけた名前は笑い飛ばすもの,それが正解です.
そんなものが,信用できますか?あなたの水槽でいま育てている水草の方が少なくとも確実に育ちますし,ずっと価値のあるものだと思いませんか?
もうこんな愚行はやめにしましょう.
まるで水草業界を嵌めるための策略であるかのように,水草業界は勝手に自滅の道をたどっています.
どこをどうすればよいのか?
まず,日本では今でも貴重な水草が生産されています.国内にある幾つかのファームだけでなく,私やあなたの水槽でも.
それらをショップが買い取ったり,即売会等で回収・吟味・販売すれば,市場に出回る水草の数倍の種数が入手可能になるでしょうし,流通する水草の品質も上がる事でしょう.さらに,水草を殖やすわれわれ側のモチベーション向上にもつながるでしょう.
水草の好きな人が直接コミュニケーションをとれるようになり,ヤフオク時代よりもはるかに温かい人間関係が築けることでしょうし,生産者から直接栽培法を聞ければ,購入者が栽培に失敗することも格段に減ると思うのです.
海外直送便から地産地消に持ち込む,水草の負のスパイラルを断ち切るのに必要なことは,たったそれだけであるような気がするのです.
え,それだけでは水草を始めないのではないかって?
水草が美しいということはもはや万人が知っていると思います.
ADAのレイアウト水槽を見て「草ボーボーで汚い」と思う人はいないでしょう.
「誰だって美しいと感動させられ,嫌う人がいない」それが水草の真なる魅力です.
それが流行っておらず廃れる一方というのは,盛り立て方の問題のはずなのです.
え?栽培が難しいからみんな失敗するって?
ならば方法をお教えしましょう.
水槽にフィルターをセットします.エアリフト以外であればなんでもいいです.
栄養系ソイルをひきます.
ライトはパワーIIIやアクロトライアングルといったものを.
バケツに水を汲み,pHマイナスをpH5から6になるような量で入れます.
(量は地域のショップに聞いてください.スーパーで汲めるRO水だけでも良いです.)
CO2をセットします.pHが低く水深が浅ければ量は少なくてもOK. 化学反応式が電磁弁もついておりおすすめです.
水草を植えます.できるだけ最初から多く,ガツガツ植えます.
コケとりとして,シルバーフライングフォックスかサイアミーズフライングフォックスを入れます.その他の魚はできるかぎり少なくしたほうが,管理が楽です.
これだけで大抵の水草は育ちます.種によって少々違うって?誤差の範囲内ですよ.
肥料は?足りなそうになれば足すだけです.
魚が少なければ,カミハタスティックを挿すだけで特殊な液肥もいりません.
つまり,良いライトとCO2があればOK.
アオミドロも黒ひげゴケもサイアミーズフライングフォックスやシルバーフライングフォックスが食べてくれます.(エビはアオミドロあまり食べないよ.ミナミヌマエビ100匹<<7㎝のフライングフォックス1匹です.)藍藻が生えたら,スポイトでオキシドールを吹きつけます.
毎朝夕ライトとCO2をつけ消しする,もしくはタイマーでこれすらも自動制御にできます.
水替え?ほとんど足し水でも育つものは育ちますし,調子がいいときは月一以下でもOKですよ.成長が悪くなってきたら模様替えを兼ねて,栄養系ソイルを交換するのが無難です.
ね,簡単でしょ?
毎日餌をやる必要もないし,シンプルかつ簡単に始められます.
魚を健康的に飼うより,よっぽど楽なんですよ.
そして,初期投資さえあるものの,増えれば小遣い稼ぎにもなれば・・・
じつに2020年代に向いた趣味ではないでしょうか?