水草オタクの水草がたり.

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水草オタクの水草講座 マリモは水草なのか?

マリモは水草なのか?という質問をよくいただくので、この観点から水草とは何なのかについて紹介しましょう。

 

まず、最も知名度の高い水草とは何でしょうか?

ごく最近ではマコモになってしまっているような気もしますが…

イネ、スイレンホテイアオイオオカナダモあたりではないでしょうか。

この4種を選んだのには理由があります。

水辺の植物は

①根本が水に漬かり、水の上に葉をのばす植物=抽水植物 (Emergent plantの訳語)

②草体の殆どが水に漬かり、水面に葉を浮かべる植物=浮葉植物(Rooted floating plantの訳語)

③草体全体が浮かんで育つ植物=浮遊植物(Free Floating plantの訳語)

④草体全体が水に沈んで育つ植物=沈水植物(Submerged plantの訳語)

の4つに分けられるからです。

それぞれの植物が、知れば知るほど水辺へうまく適応しており、水への適応度の高さという観点から安直に比較するのは難しいのですが、その中で最も水草らしい・・・水中への適応が特殊化した植物を挙げるとするならば、やはり④の沈水植物でしょうし、「水草」と聞いたとき、真っ先に思い浮かべられるのは沈水植物だと思います。

 

ここで、最も知名度の高い水草として「マリモ」を想像した人が結構いることでしょう。

マリモは水に沈んでいますが、沈水植物なのでしょうか・・・? 結論をいうと否です。

まず、沈水植物は水生植物のひとつあり、マリモは水生植物として数えられることはないからです。

水生植物というのはAquatic plantsもしくはWater plantsの訳語であって、これらの語は伝統的に、水に適応した種子植物、シダ植物、しばしばコケ植物を指してきました。ここで「しばしば」とぼかしたように、水生植物の定義というのは厳密なものではありませんが、これまで提唱されたほとんどの定義について共通するのは「水に適応した陸上植物を水生植物と呼ぶ」ということです。そして学術的な場合には、水草=水生植物を指します。

水草とは非常に難儀な、ひねくれた生き物です。

陸上植物は水中に生育する緑藻類から進化したものですが、水から上がる過程でその構造を極めて複雑なものとしました。コケ植物では、乾燥から守るためにクチクラ層を厚くし、組織内に空気を取り込み、ガスの出入口となる孔をあけ、乾燥に強い胞子をつけるようになりました。さらにシダ植物では、水を隅々まで分配し機械的強度をもたせるために維管束をこしらえ、ガスの出入り口を微調整しやすいように可変して動かせるようにし、種子植物では受精に水を頼らなくて済むようになりました。

これだけ色々こしらえておいて、また水に潜ってしまったのが水草です。

気孔は多くの種で退化し、組織内の空気も多くの種で失われ、維管束すらも退化的な種があります。種子および胞子は保たれていますが、その繁殖方法は極めて多様化していて、どの種も「結構無茶してるな・・・」と思わせてなりません。

どうです、ひねくれているでしょう?

クジラが魚ではない、というのと、マリモは水草ではない、というのはほとんど同じ意味です。水草は水から上陸した植物が水に潜ったもの、クジラは水から上陸した動物が水に潜ったもので、水草とクジラは非常に似ている面があるといえます。

 

ここまで話してもなかなかピンと来ない人が多いかもしれません。

マリモと水草を拡大して比較してみるとその差に納得しやすいかもしれません。

緑藻類に属するマリモは、その進化の過程で陸上を経験したことがありません。

マリモの構造は極めて単純で、その構造はまさに”毛玉”にたとえられるでしょう。その毛玉を顕微鏡で拡大してみると円柱状の細胞が直列に繋がり、その所々でまた円柱状の細胞が分岐するようにつく、という非常に単純なものです。マリモはこの毛玉がちぎれたり、鞭毛のついた細胞をつくって繁殖します。その構造は、繋がって大きな個体を形成しているとはいえ、目に見えない小さなプランクトン性の緑藻類、たとえばクロレラなどとほとんど変わりません。マリモを水草とするならば、クロレラ水草なのか?ボルボックスは?などといった問題も生じるでしょう。

昆布やワカメ、テングサなどもまた、陸上植物とはほとんど無縁な水中ネイティブな存在であり、姿はそっくりですが水草ではありません。サンゴも水草に似ていますがあれはクラゲに近い刺胞動物です。

というわけでマリモは水草ではない、というのがひとまずの結論となります。

 

 

ここからは脱線するので、初学者は読み飛ばしていただいた方が理解によいかと思います。

コラム① じゃあ水草コーナーでマリモが売ってるのは間違いなの?

じつは、水槽に使う水草の語義は学術的に言う水草=Aquatic plantとは異なっています。海外のアクアリウム向けの水草の本をよく見てみると、水槽に入れる意味での「水草」という語に対応する英語やドイツ語はAquarium plantおよびAquarien pflanzenであり、Aquatic plantとはしばしば分けて用いられています。

Aquatic plantとAquarium plantは非常に似た語ですが、微妙に違う点があります。それこそがマリモやアオミドロの扱いです。マリモもアオミドロも糸状の緑藻ですが、Aquatic plantはどちらも含まないのに対し、Aquarium plantはマリモをしばしば含みます。それは水槽にわざわざ彩りとして入れるものだからです。

いっぽうでアオミドロはといえば…わざわざ入れないし排除対象なのでAquarium plantにすらいれてもらえません。

何とも人の事情が絡む話です。こういうニュアンスの違いがあるので、私は水槽に入れる水草については「アクアリウムプラント」と音訳して使うことにしています。世界にはアクアリウムに向いていなくても素晴らしい水草が沢山あるし、ときには水草としての生態や適性をほとんど持っていないにも拘らず、問屋や販売店の都合で水槽に沈められてしまう植物があるからです。

アクアリウムにおいて水槽に沈めて育てられない植物を「あれは水草じゃない」というのは、水草栽培にある程度経験のある方なら見聞きしたことがある表現でしょう。では、それらは本当に「水草ではない」のでしょうか?たとえばイネは水に根元を浸して生育しますが、水中で生育はできない抽水植物なので、水槽に沈め続けると枯れてしまいます。しかしイネはAquatic plantです。

 

コラム②そっくりな水草と海藻、まとめる語はないの?

水草と海藻(主に褐藻類で、葉緑体の起源からことなる極めて異質な生き物)は見た目がそっくりなものがあります。とくに海においては、海水に適応した水草と、海の中で独自に大型化した褐藻類や紅藻類が”水中の森”を作り、生態系に非常に大きな貢献をしています。こうした大きな水中の植物は魚やエビも棲みかや産卵床として語る際、しばしばまとめたほうがいい場合があります。こういう場合、英語圏ではMacrophyteという語がつかわれます。このMacrophyteの訳語には「大型(水生)植物」というものがあてられがちですが、これは上記の水生植物と混同を招きあまり良い訳語とは思いません。ただ、むしろ逆の意味で考えると理解しやすいかもしれません。この「マクロ」植物/藻類という語は、目に見えない、「ミクロ」な様々な微細藻類 Microphyteの対義語です。つまり、目に見えるような藻類や植物はでっかい、マクロな存在であるということです。