水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

リトレラ ウニフローラのはなし.なぜ水中で多肉植物になるのか?

リトレラ・ウニフローラもまた先に紹介したウォーター・ロベリアと同じく北米とヨーロッパの貧栄養湖に生育する両生植物です.

分類的にはオオバコに極めて近縁で,水生オオバコと言っても過言ではありません.こうした地域に生育する水草は栽培が難しいものが多く流通は殆どありませんが,本種は例外的にトロピカ社から発売されています.栽培が難しいといわれがちですが,まあ.浅くしたり屋外半日陰管理などで何とか育てられます.

この水草には奇妙な点があります.

リトレラ・ウニフローラの葉は水上では細くしなやかなのですが,水中になると太く多肉質になります.本種はアクアリウムで取引される中では唯一の「水中性多肉植物」といっても差し支えないでしょう.

さて,この形態にはもちろん理由がある合理的な形なのだというのが今回の話です.

同所的に生育するウォーター・ロベリアやミズニラ類が水中でCAM型光合成をおこなったり,根からCO2を吸収したりしている話を述べました.そう,リトレラもそうした一員なのです.

リトレラ・ウニフローラは主に根からCO2を吸収するので,他の水草のように葉を介して水中からCO2を取り入れる必要はありません.そもそも,リトレラの水中葉からは気孔そのものが退化してしまっています.(Hostrup, Wiegleb, 1991)こうした貧栄養水域ではコンパクトに育つ方が有利ですし,根からのCO2分配に支障をきたすと思われます.なお,重炭酸イオンを根から吸収することはできないようで,本種の生育は低pH水域に限られます.

ミズニラ類の場合は含気組織に吸収したCO2を貯蔵しますが,一般にCAM植物では多肉質の葉にリンゴ酸として貯蔵します.そのための適応のため,葉が水中では多肉質になっていると思われます.

この水中葉にはそもそも気孔がないので,水上ではほとんど役に立ちません.そのため水中葉は栽培下でも野外でも水上では速やかに枯れ落ちる様子を見ることができます.

さて,リトレラは他の点においても奇妙です.普通水生植物の根はただでさえ貴重な酸素のロスを防ぐため周囲にあまり酸素が漏れないようになっているのですが,リトレラ・ウニフローラの根からは酸素が漏れることによって根の周囲の土壌を好気条件にすることが知られています.これによりリン酸鉄が根の周りに沈殿したり,硫化物を硫酸塩に酸化したり,アンモニウムイオンを硝酸塩に酸化することによって養分吸収の効率が上がるものと考えられています.

 

Søndergaard, M., & Sand-Jensen, K. (1979). Carbon uptake by leaves and roots of Littorella uniflora (L.) Aschers. Aquatic Botany, 6, 1-12.

Hostrup, O., & Wiegleb, G. (1991). Anatomy of leaves of submerged and emergent forms of Littorella uniflora (L.) Ascherson. Aquatic Botany, 39(1-2), 195-209.

Kolář, J. (2014). Littorella uniflora (L.) Ascherson: A review. Scientia agriculturae bohemica, 45(3), 147-154.