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ヒドロトリケ属 Hydrotricheについて

ヒドロトリケとして昨今ではミリオフィラムが流通しているようだ.実に悲しいことである.というわけで今回はヒドロトリケ属について語っていきたい.

 

ヒドロトリケ属はマダガスカル固有の水生~湿生植物である.バコパやリムノフィラなどと同じく旧ゴマノハグサ科水草とされてきたが,現在ではオオバコ科とされている.属名はHydro-(水)+triche(毛)で,水生で細葉であることからついた.尚,見た目も名前が紛らわしいヒドロトリックス属Hydrothrix(ミズアオイ科)も同様の,水生の毛という意味である.似たような見た目から同じ発想で名付けられたという面白い経緯といえよう.タイプ種はH. hottoniifloraであり,1832年にZuccariniにより記載された.

輪生に見える”葉”は深く細裂した1対の葉の一部である.これは発芽初期の葉が対性であることや苞葉が対生であることだけでなく,輪生する葉の間のスペースにやや広い部分があり,分岐する際には輪生数にかかわらずこの広い葉間から90度の角度を付けて1節あたり2本の側芽しか出さないことからうかがい知ることができる.

 

本属は4種と2亜種が知られている.最も一般的なのはH. hottoniifloraで,残り3種は分布が狭く記録も少ない.

種の特徴についてまとめてみる.

H. hottoniifloraは輪生の1脈で細い”葉”をもち,抽水葉も作る場合があるが,基本的に水生である.水上葉も水中葉も棒状の細葉で,断面は楕円形である.先端部にかけて微細な鋸歯を持つ.長い花茎を上げて水上に花序をあげる.苞葉は三角形の対性である.マダガスカルの広域に分布する.

花の色によって2つの型に分けられる.ピンク色の花の中心部が黄色いH. hottoniiflora hottoniifloraと,花は全体に黄色のH. hottoniiflora flavaである.

H. gaiifoliaはH. hottoniiflora latifoliaとかつては呼ばれたものである.輪生の3~5脈で幅広の”葉”をもち,抽水葉も作る場合があるが,基本的に水生である.水上葉も水中葉も幅のある披針形の葉で,平たい.長い花茎を上げて水上に花序をあげる.苞葉は三角形の対性である.ナモロカ国立公園などマダガスカル北西岸の沿岸部に分布する.

H. bryoidesは陸生の小型種であり,葉は3~5脈で披針形から線形,平たい.花は腋生で長い柄をもつ.茎は短く太い多肉質で,よく分岐する.

H. mayacoidesは湿生の一年草であり,葉は3~5脈で披針形から線形,平たい.花は腋生で柄は短い.茎は細長く分岐は少ない.

 

Hydrotriche hottoniifloraは栽培が容易な植物であるが,水質の適応幅も広い.自生地でも季節性か水が通年あるかどうかにかかわらず,また止水,流水に関わらず生息する.水質の適応幅も広く,カルシウム分を多く含む水域から軟水のピート質の水域まで生育がみられる.H. gaiifoliaに関しては分布が局限されるものの,石灰沈着を伴う標本が知られていることからミネラル分の豊富な水域に生育するようだ.

H. bryoidesおよびH. mayacoidesに関しては情報が著しく少なく,標本数も限られてはいるものの高標高からのみ得られている.

 

結局のところ,Hydrotriche属はほぼH. hottoniifloraであり,一部地域に葉幅が広いH. gaiifoliaがみられる...と考えておけばよさそうに思う.極めて稀なH. bryoidesおよびH. mayacoidesは情報と標本数が少なすぎて,そもそも現存しているのか,それがほんとうに独立種に値するのかすらどの程度確からしいか...という気もする.マダガスカルでは貧困とそれによる焼き畑農業が急速に拡大している.ひっそりとどこかに生えているであろうこうした地味な水草が,生きのこっているうちに再検討されることを願いたい.

 

参考文献

A. Raynal-Roques. 1979. Genre Hydrotriche (Scrophulariaceae) Adansonia 19:145-173.