水草オタクの水草がたり.

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芦ノ湖の水草2022

2022年10月に岸辺及び切れ藻で観測した芦ノ湖水草です.

観光がてら散歩したところ,2時間ほどで記録のある全種を確認できました.

意外にまとまった資料がないと思うので記事にまとめておきます.

 

ミズニラ科 Isoetaceae

ミズニラ? Isoetes sp.

岸辺で確認できた.根は三分岐状であり,ヒメミズニラではない.幼株であり胞子嚢は熟していなかったため,種類は不明である.

富士五湖では確認していないが,探せばあると思う.

 

トチカガミ科 Hydrocharitaceae

セキショウVallisneria natans

個体数は非常に多く,優占種のひとつ.本種はVallisneriaの中ではかなり先端がとがるが,芦ノ湖の個体は特に鋭くとがる印象が強かった.セキショウモの産地ではよくあることに若干ねじれる個体も散見されたが,ネジレモほどのものではなくセキショウモの範疇と考える.

富士五湖にも生育する.関東付近では榛名湖,赤城大沼,中禅寺湖猪苗代湖,南湖に多く見られるが,平野部や大型湖沼以外の産地は壊滅的である.

 

クロモ Hydrilla verticillata

個体数は非常に多く,優占種のひとつ.殖芽形成タイプか地下茎形成タイプかはまだ判断できていない.芦ノ湖の個体は栄養条件によるものか非常に小さく華奢なものが多かった.同様のものは琵琶湖でも見かけたことがある.

富士五湖にも生育する.関東付近では榛名湖,赤城大沼,中禅寺湖に多く見られるが,平野部や大型湖沼以外の産地は壊滅的である.

 

イバラモ Najas marina

個体数はかなり多い.岸辺からでも生育しているものがぽつぽつみられる.芦ノ湖の個体は東日本によく見られる,葉が比較的細長いものである.有名産地のものでは福島の南湖でみられるものに酷似している.イバラモは関東地方では極めて珍しく,見られる産地はいまや片手の指で数えられるほどしかないと思われる.関東近辺をみてみても福島県唯一の産地である南湖は生育条件が悪化している.

富士五湖にはヒメイバラモがみられるが,芦ノ湖ではみられない.逆にイバラモは富士五湖では確認できていない.

 

イトイバラモ Najas tenuissima

個体数は比較的多い.漂着しているだけでなく,岸辺からでも時折みられる.芦ノ湖に漂着していた小型トリゲモ類は確認できる限りすべて本種であった.希少種とされてきたが広域に分布し,関東付近の高山湖沼ではもっともありふれたトリゲモ類である.

完熟した種子があれば鑑別は容易で,概形としてはイトイバラモの種子は紡錘形だが,トリゲモには若干反りが入る.表面にイトイバラモは粗く薄い縦方向の網目模様があり,完熟した種子は強い光沢をもつ.トリゲモでは表面に細かい横方向の網目構造があるため光沢は鈍い.イトトリゲモとも似ているがより大型で生息条件が異なり(イトトリゲモは富栄養な浅い水域,水田などを好む),また種子が2つずつつくことは本種では少ない.

富士五湖にも生育する.関東付近では赤城大沼,中禅寺湖,南湖,猪苗代湖で見ているが,漂着数は多くなく観察は割と難しい.

 

(参考)トリゲモ Najas minor

富士五湖ではトリゲモが優占種であり,植物相で共通点が多い芦ノ湖にもトリゲモが生育する可能性は大いにある.葉鞘は両種で酷似しており,種子なしでの同定は難しい(トリゲモの方が輪生数が少ない傾向はあるが).

トリゲモは平野部や水田でも確認されることが稀にあり,また富士五湖に莫大な量が生息している.ちなみに従来”普通種”とされてきたオオトリゲモはいまや南湖および猪苗代湖ではみられるが多いとはいいがたく,関東では殆ど確認できていない.

 

コカナダモ Elodea nuttalii

コカナダモも少数みられたが,優占種とはなっておらず少数派であった.同様の傾向は富士五湖でもみられる.

 

アリノトウグサ科 Haloragaceae

ホザキノフサモ Myriophyllum spicatum

生息している場合個体数はふつう多いが,1本しか漂着していなかった.

平地を含む幅広い水域でみられる.本種以外のフサモ属は極めて稀である.

 

ヒルムシロ科 Potamogetonaceae

ヒロハノエビモ Potamogeton perfoliatus

個体数は非常に多く,優占種のひとつ.葉が非常に密につき丸っこいことで容易に判断がつくが,条件によりササエビモと紛らわしいことがある.葉の基部が茎をほぼ抱くことが特徴的.

岸からも非常に多くの個体が目視でき.藻場を作っている.

富士五湖でもみられるが,数は少ない.関東地方では他に中禅寺湖に現存するくらいである.福島では猪苗代湖にのみみられる.

 

ササエビモ Potamogeton × nitens

ヒロハノエビモとエゾノヒルムシロの交雑種.個体数は非常に多く,ヒロハノエビモと並んで優占種となっている.芦ノ湖のササエビモは変異が大きいようで,ほとんどエゾノヒルムシロにしか見えないようなものからヒロハノエビモと紛らわしいものまで存在する.但し,根本までみてみるとどれもササエビモの範疇のように思える.花序はヒロハノエビモ等よりは大きいものの,中禅寺湖でみられるような非常にアンバランスで巨大な花茎をあげる個体はみられなかった.

岸からも非常に多くの個体が目視でき.藻場を作っている.

関東地方では芦ノ湖中禅寺湖,湯川でしか見られない.どれも個体数は非常に多く,優占種となっている.富士五湖では確認できていない.猪苗代湖にはエゾノヒルムシロとヒロハノエビモの両親がいるにもかかわらず,奇妙なことに典型的なササエビモを見たことがない.

 

(参考)エゾノヒルムシロ Potamogeton gramineus

葉は極度に透明,披針形,葉の基部は茎を抱かない.茎の下部はすべての節から分岐する.花茎は数枚の浮葉をつけ,茎の下部に比べて著しく太くなる.浮葉は他のヒルムシロ科に比べて著しく丸みを帯び,色は淡い.先端は微突形.

関東近辺では猪苗代湖中禅寺湖にそれらしき個体が生息するが,純粋なものかは怪しい.新潟のものはヒロハノエビモ×エゾノヒルムシロであったらしい.

芦ノ湖のヒロハノエビモ×エゾノヒルムシロは形質にかなりのばらつきがあるように見えた.もしかするとどこかに純血のエゾノヒルムシロがいて,いまも交雑を繰り返しているのかもしれない.

 

センニンモ Potamogeton maackianus

個体数は比較的多いが,岸からはあまり見えなかった.芦ノ湖のセンニンモは比較的小型な印象を受けた.先端が凸形であることで容易に区別がつく.

関東近辺では湧水河川や水路,高山湖沼などに比較的残存がある.富士五湖にも生息するほか,榛名湖や中禅寺湖などでもみられる.

 

フジエビモ Potamogeton ×leptocephalus var. fujiensis

センニンモとヒロハノエビモの雑種.個体数は比較的多いが,岸からはあまり見えなかった.芦ノ湖のフジエビモはかなり大型で,オオササエビモを少し小さくしたくらいのサイズ感である.浮いていても質感とその大きさで見当がつく.葉先はとがり,茎や葉は濃緑色で固く質感はセンニンモに似る.しばしば葉縁が波打つ.琵琶湖でみられるヒロハノセンニンモとは異なり葉はまっすぐでありカールしない.

 

ツツミズヒキモ Potamogeton × tosaensis

芦ノ湖でも1本だけそれらしきものが漂着していた.ホソバミズヒキモに比べて葉は短く鮮やかな緑,先端はホソバミズヒキモに比べ鈍頭,殖芽は棒状である.葉鞘は深く切れ込み,ツツイトモを除外するには有効だがホソバミズヒキモと区別するにはあまり役に立たない.

本種は7月ごろがピークなので,時期がずれていたために少数しか見つからなかったのではないかと思う.

小型の細葉系ヒルムシロ属では最普通種で,関東地方の高山湖沼ではほぼどこでもみられる.富士五湖にも多数生育する.現状ではあまり認知されていないが,今後日本各地で見つかるものと思われる.

 

今後の展望

芦ノ湖は広大であり,かつ貧栄養かつザリガニやプランクトン食性魚類が少ないため水草の生育には非常に適した環境である.フジエビモをはじめとして富士五湖と植生的には類似点があり,またササエビモが生育することは中禅寺湖とも似ている.

富士五湖に生育し芦ノ湖に生育しないものはゴハリマツモ,エゾヤナギモ,トリゲモ,ササバモ,オオササエビモ,ヒメイバラモであるが,草体の大きさからササバモ及びオオササエビモの不在はほぼ明らかだろう.原因としては貧栄養すぎることが考えられる.エゾヤナギモは富士五湖では河口湖および山中湖に分布し,北方系で透明度の高い貧栄養湖を好むことから芦ノ湖で見つかる可能性は高い.トリゲモはイトイバラモに紛れた場合非常に同定が難しいことから見過ごされている可能性が考えられる.ヒメイバラモはそもそも生育条件によるイバラモの一型であり,種のレベルでは存在しないのではないかと思う.イバラモと同所的に生育した場合交雑により発見不能になっているのではないか.中禅寺湖にはリュウノヒゲモが生育するが,芦ノ湖では確認できなかった.もしかすると今後見つかる可能性もある.

最後に,今回観測できた地域は芦ノ湖全体の1/10にも及ばず,調査時間も非常に短かったことを書き記しておく.より精度を上げれば”何か”が見つかる可能性は非常に高い.