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乾燥しても復活する水草,Lindernia intrepidus (Chamaegigas intrepidus)

今回は世界の水草の中でも驚異的な植物,乾燥からよみがえる水草を紹介します.

Lindernia intrepidus(=Chamaegigas intrepidus)とは?

ナミビア中西部の岩盤にできた水たまりに生える水草です.この水溜まりは乾季には干上がってしまい,雨季の短い期間にのみ水が溜まります.一年の長い間干上がったまま,しかも水が溜まっても日中に水温が非常に(35℃ほどまで)上がり,さらにpHが一日の間に激変し,朝ではpH6だったものが午後にはpH10にまでなります.空気が乾燥しているため,たくさん雨が降っても乾燥により一日に10㎜も水位が減ります.雨水はあっという間に干上がってしまうため,1回の雨季の間に15~20回も乾燥と復活を繰り返します.結局のところ,一年間で水がたまっている期間は40~85日間しかありません.

こんな環境下で本種は多年草として生育します.雨が降るとすぐに緑色に戻った本種のロゼットで水底が埋め尽くされ,その翌日には糸状の茎が伸び,翌々日には1㎝ほどの4枚の浮葉からなる浮葉の真ん中に花が咲きます.完全に乾燥した草体は8か月以上にわたってそのまま耐えることができるようです.

L. intrepidusの栽培観察記録

Smook(1969)は本種を栽培観察しています.ガラス瓶に1.5㎝ほど現地の土を敷き,その上に完全に乾燥させた植物体を植え,ため置いておいた雨水を入れました.瓶は西日の当たる場所に置きました.実験に用いた草体には浮葉をつけた成長したものと浮葉をもたない草体がありましたが,そのどちらも水に漬けてしばらく置くと基部の葉は緑に戻り膨らみ,生育がみられました.その後冬越しのため乾燥させ,10月の朝8時にふたたび雨水を満たしました.時期と時間の都合上水が冷たかったものの,1時間半ほどで葉が緑になり始め,4日で最初の浮葉がみられはじめました.水温が低い場合浮葉の伸長は遅いようで,6.5㎝上の水面に達するまで32.5時間かかったとのことです.最初の2枚の浮葉は曇天であり気温も低かったため開花がみられなかったものの,その後に展開した浮葉は開花しました.Smook(1969)では種子の発芽の観察もしていますが,ここでは割愛します.

 

どうやって耐えているのか?

L. intrepidusは草体を乾燥から守る構造を欠いており,乾燥するスピードは乾燥状態から再生する植物のなかでも最速の1時間未満です.

ロゼット状の水中葉(浮葉は乾燥に耐えることができず,水中葉で乾燥を耐えます)は乾燥する際に長さが10%から20%ほどにまで「縮み」ます.この奇妙な収縮は本種が被子植物であるにもかかわらず仮導管を持つことにより起こります.この仮導管は乾燥した際に収縮するという,特殊なものです.さらに表皮細胞は細胞壁と強固にくっついており,収縮する際に細胞壁ごと細胞全体が縮むようになっています.乾燥する際,細胞間の原形質連絡も保ったまま収縮することは驚異的です.乾燥時に長さが縮むのは一見理由が不可解ですが,強烈な直射日光を避けるためと考えられています.

根は水中と異なり長さが縮むことはありませんが,乾燥すると細くなります.根の長さまで縮むと一年の大部分を占める乾燥した期間にどこかに飛ばされてしまうため,合理的と言えます.

乾燥ストレスに対する応答に関してはまだわかっていないことが多いですが,高濃度のアブシジン酸が重要な役割を果たしていそうです.水がなくなった岩場は日中50℃を超える高温にさらされることから,その耐熱性にも目を見張るものがあります.但しまだ不明な点が多いです.また水たまりでは窒素分をはじめとする肥料も不足します.これに関してはアミノ酸尿素といった,普通の植物は窒素源としてそのまま利用しない(分解されて初めて吸収する)物質を使っているようです.

 

今回は正気とは思えない珍妙水草を紹介しましたが,この種に関してはまだまだ書くべきことが沢山あるのでそのうち書き足そうと思います.次回もまた珍妙水草シリーズをお楽しみに.

 

 

Giess, W. (1969). Die Verbreitung von Lindernia intrepidus (Dinter) Oberm.(Chamaegigas intrepidus Dinter) in Sudwestafrika. Dinteria1969(2), 23-28.

Smook, L. (1969). Some observations on Lindernia intrepidus (Dinter) Oberm.(= Chamaegigas intrepidus Dinter). Dinteria1969(2), 13-21.

Schiller, P., Hartung, W., & Ratcliffe, R. G. (1998). Intracellular pH stability in the aquatic resurrection plant Chamaegigas intrepidus in the extreme environmental conditions that characterize its natural habitatNew phytologist140(1), 1-7.

Heilmeier, H., Durka, W., Woitke, M., & Hartung, W. (2005). Ephemeral pools as stressful and isolated habitats for the endemic aquatic resurrection plant Chamaegigas intrepidus. Phytocoenologia35(2/3), 449.