「サンフランシスコ グリーンステラータ」という謎の水草があります.
いや,あったというべきでしょうか.いまも維持されている方はいるのでしょうか?
この水草についての知見は非常に少なく,ヤフーブログが消え,Geocitesが消えた今,残された情報はレヨンベールアクアの写真や,絶版になった世界の水草728種図鑑,同じく絶版になった幾つかの水草図鑑くらいです.つまり,写真数枚しか情報がありません.
さて,こいつが何なのか考えるのが私の仕事と言えるでしょう.
日本にブラジルからはるばる持ち込まれた以上,何もわからないまま消えていくのではあまりにも水草に対して失礼です.ちゃんと弔ってやらねばなりません.
というわけで,候補を考えていきます.
まず「グリーンステラータ」というのはミズトラノオPogostemon yatabeanaのアクアリウムでの流通名です.最初に持ち込んだ人はこれをPogostemon だとおもったようです.
しかし,Pogostemonは南米には分布がなく,また本当にPogostemon であれば,たぶん誰かが今も維持されていることでしょう(そんなに呆気なく消えない筈…).
また,一見するとペンソラム セドイデスPenthorum sedoidesやベトナムゴマノハグサLimnophila helferiにも似た雰囲気です.しかしPenthorumもLimnophilaも南米には分布していません.
つまり,手詰まりに近い状況です.
さらにRoots配信では
「あれはポゴステモンというか,リンデルニア的なものだったと思う」
ということで,Linderniaも候補に…いや,でもブラジルのLinderniaって言わゆるドルマリアLindernia rotundifoliaと,珍妙なLindernia brachyphylla, ドルマリアをとがらせたようなLindernia microcalyx, お馴染みアメリカアゼナくらいです.どれも違う.というかアクアリウムの「リンデルニア」はボルネオリンデルニアのようなものを指しているのでは?(こいつらは現状Vandellia)と思うと...やっぱりそんな感じでもない.(帰化のV. diffusaしかいないはず)
しかし.
日本人は南米の水草を「あらかた」南米水草ブームの際に輸入しています.ネタ切れに近いくらいに.なので,今度は消去法で攻めることにしました.
まず植生に関する論文に出てくる水草のリストからひとまず水中化しそうな属をピックアップ,Flora do Brasil 2020で属ごとに水生種を調べ上げていき,広域分布種なのに日本に入ったことがないものを絞り込んでいくと…案外残りません.そして,見つけました.
Bacopa aquaticaです.
本種は対生の湿生~抽水植物で水没することもあることから水草としての適性がいかにも高そうな種であり,さらにシソクサやスズメノトウガラシに似た草姿であることから絶対に誰かが入荷させたことがある筈だと確信していました.
しかしトップヒットする画像が対性であることから最初はサンフランシスコグリーンステラータの候補リストから外していました.しかし残された数少ない写真を見るだけでも,サンフランシスコグリーンステラータには対性になることがあるとうかがえます.さらに,B. aquaticaもしばしば3~4輪生し,葉が細長く伸びることもあります.草姿はスズメノトウガラシによく似ており,リンデルニアっぽいという仲里氏の証言とも合致します.
↑輪生になったり水中葉(?)になったり細葉になったりしている例
というわけで実物は入手できておらず,今現存しているかどうかすら怪しいですがサンフランシスコグリーンステラータはおそらくBacopa aquaticaではないかと思います.まあ花の写真もないですし,いかんせん謎のままですが.
どこかにあれば話が楽なんですがね...