トリゲモ類が出たとたんにNajas sp.でストップしてしまうのは本当に困りものです.
さらに,葯室を見る以前に雄花を探すのがトリゲモにおいては極めて難しい…
表皮細胞の縦横比で鑑別することができることはMiki(1935)においても指摘されていますが,Midorikawa et al., 2020で統計的に検証され標本の鑑別に有効であることが示されました.
しかしやはり肉眼で見分けられないというのはもやもやします.なにぶんとっつきにくい.興味を持ちにくい,持たれにくい.
トリゲモはオオトリゲモに酷似している.オオトリゲモの葉鞘は直角に切れているからトリゲモもそうなはず…と思いきや,実際繋がった株を見てみるとむしろ,突出して見えるものが多い.アメリカの図説だとどうみても葉鞘が突出した図版が載せられていたりするし,三木の図版でもそう見えなくもない.
↑著しく葉鞘が突出したN. minor
↑ Miki(1935)におけるN. minorの葉鞘
トリゲモは葉鞘に非常に変異が大きいといった方がよさそう.
ちなみに,↑の図版ではイトトリゲモとトリゲモが比べられているが,図に示されているようにトリゲモやオオトリゲモのタネがゆる~くS字型に曲がるのは日本でもアメリカでも同じらしい.(北米東海岸とヨーロッパのN. gracillimaとアジアのN. gracillimaが同じなのかどうかはさておき)
イトトリゲモと形態が類似し,また葉鞘とサイズと好む場所がトリゲモとそっくりなイトイバラモとの肉眼的な鑑別には役に立つはず.以前にも同じような比較をしている.
↓イトイバラモの種子は黒光りしていて短くまっすぐ.トリゲモは緩く湾曲し艶消し
↓それに対してオオトリゲモ N. oguraensisはこう.
比べてみると結構違うという感じがする.
でもトリゲモはあくまで「葉鞘に変異が多い」ので,これだけでトリゲモとオオトリゲモを判断するのはお勧めできない.いや,やめた方がいい.
だって三木茂だってこう書いている.
It resembles a larger form of Na jas minor ALL. but distinguished by 4-celled anther, large leaf epidermal cells twice in diameter and 2 hypodermal layers in stem.
葉鞘に関しては一見して異なるようにみえる図を示しているにもかかわらず,違いとして記載はしていないのだ.
やっぱり,こういうやつを見たら顕微鏡を覗かなければいけないのか….
Miki, S. (1935). New water plants in Asia Orientalis II. Shokubutsugaku Zasshi, 49(587), 773-780.
Midorikawa, S., Shutoh, K., & Shiga, T. (2020). An easy method of identifying herbarium specimens of Najas minor and N. oguraensis (Hydrocharitaceae). Acta Phytotaxonomica et Geobotanica, 71(1), 55-63.
Meriläinen, J. (1968). Najas minor All. in North America. Rhodora, 70(782), 161-175.