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水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

エレオカリス・ビビパラとその仲間たち

今回はエレオカリス・ビビパラとそれに似た植物たちにフォーカスします.

アクアリウムで取引されるビビパラ的なやつら

現在アクアリウムでは”ビビパラ”,”ミニマ”,”アラグアイアヘアーグラス”,”レトロフレクサ”,”ラジアルヘアーグラス”が入手可能と思います.(レトロフレクサは業者のリストには載っているが輸入されたことは殆どないかと)これらの種は水生傾向が強く,栽培は簡単です.糸状の桿の先端に退化した小穂から子株を吹き,チェーン状に増えていきます.pHもやや低めにしておけばさほどこだわらないようで,しばしばCO2添加のない水槽でも増えていきます.(ROにソイル単用とかだと逆に育たない場合あり.少しだけ硬度要ります.)東南アジアでもアマゾンでもこうした”ビビパラっぽいやつ”はありふれた植物で.現地を再現した水槽を作るにもうってつけの植物と言えるでしょう.

奴らは何者なのか?

さて,アクアリウムで扱われるこれらのよく似た種群が何者であるかはかなり難しい問題です.育てていると確かに一種一種ちょっとずつ性格が違って面白いのですが...

なぜならエレオカリス属の分類は小穂と果実から行うにもかかわらず,これらの種は水上にあげてもなかなか開花せずに栄養増殖を続けるためです.同定を目標に増やしてはいるのですが,なかなか開花してくれず困っているのが現状です.さらに開花したとしても小穂の構成と微細な果実表面の構造が同定形質となっており,図示している文献も少ないことから同定は困難を極めます.

またいつものことながら,アクアリウムで取引される種が本当に正しい名前で流通しているかどうかには甚だ疑問があります.この疑惑については後述します.

ひとまずこれらの種がEleocharis subseries chaetariaに属する種群を指すことは確からしいので,これらの種群をまとめて今回は紹介しようと思います.

 

そもそもEleocharisの分類について

ハリイ属Eleocharis はだいたい300種ある大所帯で,殆どの種で葉が殆ど退化して筒状の鞘だけになり,草体の大部分は茎(桿)だけ,茎の頂点に小穂が1個つく...という非常に簡略化された姿をしています.逆にいえば,小穂が沢山ついていたり,葉が発達していたり,小穂が桿の途中から出ているように見えれば他の属を疑った方がいいです.要するに殆どの種が「ぱっと見同じ」わけで…

同定形質となるのはもっぱら小穂を分解した花の構造と痩果の形質で,以下のように分類されます.但しこれは形質をもとにした分類用の枠組みで,遺伝解析から得られる種間の関係とは異なることがしばしばあるので注意が必要です.

Eleocharis subgenus Scirpidium・・・マツバイなど.

Eleocharis subgenus Zinserlingia

・・・section Baeothryon

・・・section Disciformes

Eleocharis subgenus Limnochroa

・・・section Limnochloa・・・クログワイ,ミスミイ,エグレリアなど

Eleocharis subgenus Eleocharis

・・・section Eleogenus

・・・・・・series Ovatae・・・エンゲルマンハリイなど

・・・・・・series Maculosae

・・・・・・・・・subseries Ocreatae

・・・・・・・・・subseries Rigidae・・・タマハリイ,サルバドールカールラッシュなど

・・・section Parvulae・・・チャボイのみ

・・・section Eleocharis

・・・・・・series Eleocharis

・・・・・・・・・subseries Eleocharis・・・ヌマハリイなど

・・・・・・・・・subseries Acutae

・・・・・・・・・subseries Truncatae

・・・・・・series Multicaules・・・ハリイ,シカクイなど

・・・・・・series Albidae

・・・・・・series Rostellatae

・・・・・・series Tenuissimae

・・・・・・・・・subseries Chaetariae・・・ビビパラ,ミニマ,レトロフレクサ,カヤツリマツバイなど

・・・・・・・・・subseries Sulcatae

Eleocharis  subseries Chaetariaに属する種たち

series Tenuissimaeは1.痩果が3稜形であり,表面は平滑から深い網目状("海綿状”とも),2.花柱は3分岐状である,3.小型で糸状~糸状よりやや太く,しばしば先端に子株を生じる,といった特徴で他のEleocharisから区別されます.その中でsubseries Chaetariaeは1.痩果は平滑~深い海綿状で色は様々,2. しばしば株の基部に開放花からなる小穂(basal spikelets, (Svenson, 1937)),ことにより他から区別されます.(González-Elizondo and Peterson, 1997)

subseries ChaetariaeはEleocharisの中でも大所帯で,南米とアフリカで特に多くの種が知られています.E. retroflexa complexおよびE. minima complexに関してはまだ研究が進んでおらず,未記載種が今後も出てくると思われます.

代表的な種を列挙します.主にGonzález-Elizondo and Peterson, 1997をベースとし,Trevisan & Boldrini (2010)などから追加しました.

が,まだまだ抜けはあります...

Eleocharis alveolata Svenson

E. alveolatoides S. Gonzalez & Reznicek

E. amazonica C. B. Clarke

E. angolensis H. E. Hess

E. angustispicula R. Trevis

E. antunesii H. E. Hess
E. bahiensis D. A. Simpson

E. baldwinii (Torr.) Chapm

E. barrosii Svenson

E. brainii Svenson

E. braunii H. Hess

E. bicolor Chapman

E. caespitosissima Baker

E. caillei H. E. Hess

Eleocharis canendiyuensis F. Mereles & S. González

E. chamaegyne L. T. Eiten

E. columbiensis L. E. Mora

E. complanata Boeck

Eleocharis cryptica Saarela, P. M. Peterson, S. González & D. J. Rosen

E. glauca Boeck

E. grisea Klik

E. knutei Pab6n & Zavaro

E. microcarpa

E. microlepis (Griseb.) D. A. Simpson

E. minima Kunth

E. minutissima Britton

E. monantha Nelmes
E. morroi D. A. Simpson

E. nana Kunth

E. naumanniana Boeck

E. nigrescens (Nees) Kunth

E. niederleinii Boeck

E. oligantha C. B. Clarke

Eleocharis pedrovianae C.S. Nunes, R. Trevis. & A. Gil

E. ramboana R. Trevis &H. Hess

E. retroflexa D. A. Simpson

E. rugosa 

E. setifolia (A. Rich.) A. Raynal
E. spongostyla H. E. Hess

E. squamigera Svenson

E. subcancellata C. B. Clarke
E. subfoliata C. B. Clarke

E. subtilissima Nelmes

E. svensoniana S. Gonzalez
E. tortilis

E. tuberculosa

E. urceolala (Liebm.) Svenson

E. urceolatoides R. Trevis & Boldrini

E. venezuelensis S. Gonzalez & Reznicek

E. vivipara Link

これらの植物は形態的に非常によく似ている一方で、光合成に対する適応は種間で異なることが知られており,植物生理学的な興味を集めています.Eleocharis viviparaは水中でC3、水上でC4光合成を行いますがE. retroflexaでは水中でもC4、E. baldwiniiでは水中でC3とC4の中間、水上ではC4です.また、一部の先行研究ではE. baldwiniiをE. viviparaと誤認したまま報告され、のちに訂正がついているものもあります。

というわけでこれらのビビパラっぽいものをなんとかして見分け、分けて維持することには非常に重要な価値があると言えるでしょう。非常に難解ですが,ボチボチやっていこうと思っています…

さて,めったに咲かないこれらの植物の中で,幾つかの種は草体にも特異な性質を持っています.そうしたものを中心に,幾つかの種に対して解説していこうと思います.

 

 

・・・いくつかの種についてピックアップ・・・

”エレオカリス・ビビパラ” Eleocharis sp.

【分類について】

E. viviparaはsubseries chaetariaeに属する他の種とはやや遠い関係にあるよう(たとえばHinchliff et al., 2010 参照)ですが,草体にも大きな差があるようです.Svenson(1937)は以下のように書いています.

”The species produces mature achenes infrequently, and is often most readily identified by the coarse brown roots proceeding from thickened rootstocks”

…あれ,アクアリウムの”ビビパラ”ってそんなやつだっけ・・・?という気がしましたので,お手持ちのビビパラが咲いたり,戸外で越冬させている方は是非とも真面目に検索していただけると面白いかと思います.形質に関して(補足)にメモしておきます.個人的に,流通している個体群はE. baldwiniiなどの別種である可能性を疑っています.

そもそもビビパラとして流通する植物に複数タイプがあった経緯があることに注意が必要です.ヨーロッパで栽培されていたビビパラと東南アジアで生産されていたビビパラはおそらく違う起源をもつだろうといったことはかつての熱帯魚雑誌をあさると出てきます.さらに,ビビパラとして太さや水中適性が明らかに違う草が入荷することがあります.

【栽培について】

一般的な「ビビパラ」に関しては非常に容易で,CO2添加がなくとも生き永らえ増えていきます.ボトルアクアリウムなどでもお勧めできる水草ですが,ちょっとした断片からでも再生し,根を張る土壌がなくともあちこちに広がっていくので注意が必要です.ネイチャーアクアリウムでの使用はソーシャルフェザーダスターやロングヘアーグラスに駆逐され減ってしまっている印象を受けますが,水草はガチガチのセットを組まないと育たない!といった固定観念を外して魚水槽に入れてみると面白いと思います.開花させるのはかなり難しいですが,咲かないこともありません.スイレン鉢に浮かべておいたところよく咲いた覚えがあります.(そのときの穂を保存しなかったことを悔やむ…)

 

エレオカリス・ビビパラ Eleocharis vivipara

”本物の”エレオカリス・ビビパラが一般的に知られるものと同一であるかどうかに関して疑いの目を向けざるを得ないので,別項としました.本種の分布はフロリダからバージニアまでで,フロリダ中部~北部に多いようです.春から初夏にかけて開花します.

本種は水中ではC3光合成,水上ではC4光合成をおこなうことが知られています.光合成の研究に用いられている株はフロリダのタンパ近郊で採集された株で,一般に市販されているものではありません.水中では糸状の柔らかい桿ですが,水上では太くしっかりとした桿をもちます.野外でも陸上から水深数十センチに生育しますが,浮かんで生育することは少ないようです.フロリダに分布するE. baldwiniiおよびE. microcarpaとは葉鞘の上部が厚く,辺縁に赤い斑点があること,葉鞘の先端部が1㎜未満であることで区別されます.(E. baldwinii及びE. microcarpaでは葉鞘の上部が膜質で辺縁にで色は変わらず,葉鞘の先端部は1~2㎜)

 

Eleocharis baldwinii

アメリ中南部に広く分布する種で,ノースカロライナからルイジアナにかけて知られています.英名がRoad grassであることからわかるように,低地の湿った地域では陸上から水中まで広く適応し,しばしばマット状に広がります.草体が絡み合って浮島を作る場合もしばしばあります.フロリダに自生するEleocharisの中では小穂が赤みを帯び,2列状であることが特徴的とされ,また最下部の鱗片が他の鱗片に比べ短いことで同じ地域に分布するE. microcarpaと区別されます.E. viviparaに比べ桿が細いこと,またしばしば浮草として生育することも違いとして有効とされます.Ueno(2004)では本種について,本種は水陸両生のEleocharisの中でどうやら(理由はわからないものの)最も水中で活発に成長するとあります.

 

Eleocharis retroflexa

本種はこのグループの中で最も広く分布しており,世界中の熱帯~亜熱帯から記録があります.日本にも石垣島から記録があります(和名カヤツリマツバイ)が,実物を見たという話は全くと言って聞いたことがありません.この類の分類にはまだまだ謎が多く,未記載種が多く潜んでいると思われます.

 

 

アラグアイアヘアーグラス Eleocharis sp.

【分類について】

Oliveira et al., 2011ではアラグアイア流域のEleocharisの検索表が掲載されていますが,そもそも全然咲かないために検索表にかけられず困っています.栽培と同定に自信のあるかた,是非やっていただきたいところです.

【草姿について】

”ビビパラ”に比べてあまり伸びず,桿の数も少ないために小さい印象を受けます.子株は”ビビパラ”に比べて早く根を出すため,子株が上に連なっている印象を受けます.水上葉では”ビビパラ”に比べて小型で葉数が増えます.花は滅多に咲きません.

【栽培について】

”ビビパラ”よりは若干難しさを感じますが,容易に育てられる水草です.ビビパラに比べて根付いていた方がよい印象を受けるので,”ビビパラ”のつもりで浮かせたまま育てようとするとうまくいかないこともあります.ピンチカットでも差し戻しでも維持できます.水上栽培でも先端に子株を付けて増殖します.

 

ラジアルヘアーグラス Eleocharis cf.glauca

【同定について】

南米,ブラジルに分布するE. glaucaおよびパラグアイのE. canindeyuensisは桿が太いものと細いものに分かれ,太い桿の先に極めて細い桿からなる子株をつけます.概して,E. confervoidesやE. fluctuans, E. egleriodesなどに似た形態と言えるでしょう.本来水棲の植物ですが,サンプリングされた個体は陸生形(というか干からびて根を張った状態?)であったため,検索表では21世紀に至るまで一貫して匍匐茎をもつことになっており,Svenson(1937)にある図では水中葉も特徴的な桿も描かれていません.このあたり,水草では難しいところです.検索表や図版を見ただけではこの種の同定は極めて困難と言えるでしょう.そのため長らくにわたって,E. glaucaはしばしばEgleriaやWebsteriaと誤同定されてきました (Hinchliff et al., 2010).ラジアルヘアーグラスの正体に関してさんざん悩みましたが,どうやら正体はE. glaucaだと思われます.(お詫び参照)E. pedrovianaeも「匍匐枝を持つ」と形容されますが,こちらはどちらかというと茎が伸びたかのように生育し,小さな閉鎖花をまるで腋生するかのようにつけます.

【栽培について】

水草水槽の設備があれば,さほど難しい水草ではありません.最初は水槽に浮かべておき,発根を始めたら根をソイルに埋めるとうまくいきます.しっかり根を張ると巨大化するので,子株から根が生えてきたタイミングで”差し戻し”の要領で子株を植えなおします.”ビビパラ”のつもりでピンチカットすると弱りがちです.

 

とりあえず中途半端な進捗ですが,1卍も超えてきたのでこの状態で公開します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(補足1)Svenson, H. K. (1937)より, Eleocharis viviparaの形態記載 

 Erect from a stout often vertical rootstock covered by the culm bases of the previous
 year: roots coarse, deep brown: culms 1-3 dm. high, filiform, to 0.5 mm. wide, light green, faintly punctate, deeply striate to sulcate: sheaths yellowish, often purple at base, firm, acute and frequently lightly purple tipped at the apex: spikelets linear cylindric, acute, many-flowered, 3-8 mm. long, usually wholly proliferous and seldom perfecting fruit: scales appressed, obtuse, 2 mm. long, usually without a keel, dark chestnut on the sides, with whitish hyaline margin, the lowest somewhat larger, erect and appressed
 to the base of the spikelet: style 3-fid: achene triangular, obovate, 1 mm. long, dark gray, coarsely reticulate to cancellate: style-base pyramidal, narrower than the achene, light gray to nearly black (if so with a whitened elevated ridge at the base): bristles reddish-brown, closely retrorse-toothed, nearly equalling the achene.

Eleocharis baldwinii - FNAおよび,Eleocharis vivipara - FNAも参考になる.

 

お詫び)

E. pedrovianaeとしてE. glaucaの写真が流れており,それをもとにラジアルヘアーグラスの正体に関して間違った情報を流してしまいました.原記載を購入したところ間違いと判明したので,当該記事は一旦取り下げております.所属機関が購読してない論文,高い…

 

 

 

 

参考文献

Svenson, H. K. (1937). MONOGRAPHIC STUDIES IN THE GENUS ELEOCHARIS. IV: 1. Series: Tenuissimae. Rhodora39(462), 210-231.

González‐Elizondo, M. S., & Peterson, P. M. (1997). A classification of and key to the supraspecific taxa in Eleocharis (Cyperaceae). Taxon46(3), 433-449.

Trevisan, R., & Boldrini, I. I. (2010). Novelties in Eleocharis ser. Tenuissimae (Cyperaceae), and a key to the species of the series occurring in Brazil. Systematic Botany35(3), 504-511.

Roalson, E. H., Hinchliff, C. E., Trevisan, R., & da Silva, C. R. (2010). Phylogenetic relationships in Eleocharis (Cyperaceae): C4 photosynthesis origins and patterns of diversification in the spikerushes. Systematic Botany35(2), 257-271.

Mereles, F. & M. S. González-Elizondo. 2003. Eleocharis canendiyuensis F. Mereles & S. González (Cyperaceae), una nueva especie para la flora del Paraguay. Candollea 58: 75–78.

Saarela, J. M., Peterson, P. M., González Elizondo, M. S., & Rosen, D. J. (2010). Eleocharis cryptica (Cyperaceae), a dwarf new species from Durango, Mexico. Brittonia62(3), 233-238.

Hinchliff, C. E., Lliully A, A. E., Carey, T., & Roalson, E. H. (2010). The origins of Eleocharis (Cyperaceae) and the status of Websteria, Egleria, and Chillania. Taxon59(3), 709-719.

Ward, D. B., & Elizabeth M.(Hodgson) Leigh. (1975). Contributions to the Flora of Florida: 8, Eleocharis (Cyperaceae). Castanea, 16-36.

Ueno, O. (2004). Environmental regulation of photosynthetic metabolism in the amphibious sedge Eleocharis baldwinii and comparisons with related species. Plant, Cell & Environment27(5), 627-639.

Oliveira, A. L. R. D., Gil, A. D. S. B., & Bove, C. P. (2011). Hydrophytic Cyperaceae from the Araguaia river basin, Brazil. Rodriguésia62, 847-866.