今年は日本のトリゲモ属を全種見ることができました.
ヒロハホッスモとムサシモに関しては自生地を見つけることはできなかったものの,栽培された個体を見せていただくことができました.本当にありがとうございました。.
それらを踏まえると,日本のNajasは以下のように検索できるのではないかと思いました.あくまで実物を見た上での私の個人的な感想なので,参考までにとどめてください.また,素人が布教のため書いていますので表記上不適切な部分があるかもしれません.
1 草体は大型,茎に棘をもつ・・・2
1 草体は小型,茎に棘はない・・・3
2
葉の棘の数は片側5以上・・・イバラモ Najas marina
葉の棘の数は片側5以下・・・ヒメイバラモ Najas tenuicaulis*1
3
葉鞘はすべて斜めに切れ,種子は太く表面に粗大な格子をもつ
・・・サガミトリゲモ Najas chinensis*2
葉鞘は斜めに切れ,鋸歯は1細胞で極めて小さく,肉眼上で殆ど葉の鋸歯を目視できない.ほとんど種子をつけることはなく,根は貧弱
・・・Najas guadalupensis guadalupensis *3
葉鞘は斜めに切れないものがある・・・4
4
葉鞘はすべての葉において著しく突出し,先端は尖って見える
・・・ホッスモ Najas graminea
種子は顕著に曲がる.葉鞘は切り形.小型だが硬く,水から挙げても形態を保つ
・・・ムサシモ Najas ancistocarpa
種子には粗大な格子があり,専ら汽水に生息し,葉鞘はやや突出する.鋸歯は1細胞からなるも明瞭.
・・・ヒロハホッスモ Najas guadalupensis floridana*3
種子の先端は曲がらず,表面には薄い縦長の格子があり,艶を帯びる.・・・5
種子の先端は緩く曲がり,表面には顕著な横長の微細な格子があり,艶消し状となる
.・・・6
5
種子はふつう2つずつつき,水田などの浅い富栄養水域に生息する.小型.・・・イトトリゲモ Najas japonica*4
種子はふつう1つずつつき,深い貧栄養湖に生息する.大型・・・イトイバラモ Najas tenuissima
6
葉鞘は茎の上下を問わず,明瞭に切型.雄花は容易に発見でき,葯室は4.表皮細胞は縦長な傾向をもつ・・・オオトリゲモ Najas oguraensis
葉鞘は変異に富み,同じ草体でも様々な形をとる.雄花は微細で発見は困難.葯室は1.表皮細胞の縦横比はオオトリゲモに比べると小さい・・・トリゲモ Najas minor
*1 ヒメイバラモは自生地を見ての印象では別種たりえないのではないかと思った.同一の栽培条件下で比較検討する必要性を感じるが,種の保存法指定種のためそれも困難となってしまっている.この種を「種」として認識するのであれば,たとえば琵琶湖と芦ノ湖のイバラモは別種とせねばならないだろうし,世界のイバラモには大分割が必要になるのではないかと思う.遺伝子にせよ形態にせよ,包括的な再検討が必要だろう.
*2 Najas foveolataがあてられることがある.現状でN. foveolataはN. indicaのシノニムとされているが,N. indicaはサガミトリゲモとは全く異なる種類である.日本産のサガミトリゲモはN. chinensisである.
*3 ヒロハホッスモはアクアリウムで流通するN. guadalupensisとの混同がみられるが,両者は明らかに異なっているため別に扱う.知る限りヒロハホッスモがアクアリウムプラントとして輸入・流通されるのは確認できない.
*4 N. gracillimaがアメリカ西海岸に分布しないことからすると,イトトリゲモとN. gracillimaの異同に関しては微妙な点があるかもしれない.(本州での分布を見るに,周極分布するとも思えない)N. gracillimaの図では種子が2つずつ着いていないことも多く,暫定的に別種とみなした.そのため見慣れない学名となっている.
**ヒロハホッスモ,イトイバラモ,トリゲモにおいて葉鞘が突出して見える場合がある.ホッスモの葉鞘の突出は顕著であり別格であるが,その他3種における突出は五十歩百歩といったところである.そのため「葉鞘が突出する」ことは強調しなかった.
またムサシモ,オオトリゲモ,トリゲモ,ヒロハトリゲモにおいて葉のカールは顕著であるが,成長期には必ずしもそうでない.そのためこれは同定形質に含めなかった.