関東平野は1980年くらいまで,水草の宝庫でした.多種多様な水草が湖や沼ごとに群落を作り,その中には奇妙な姿をしたものも多くありました.
しかしながらその後,水質汚濁やアメリカザリガニの急増により平野部の水草は片っ端から壊滅し,現在では平地で水草が見られるところはほとんどなくなりつつあります.
かつて普通種といわれたエビモやヤナギモ,ササバモはいまや見つければ小躍りするレベルとなり,クロモやセキショウモは平地からはほぼ絶滅し,高山の清浄でアメリカザリガニがまだ進出していない地域でしか見られなくなっています.
例を挙げてみましょう.つくば市では1980年代にはジュンサイの大群落などがみられましたが90年代には全滅し,2000年代には市内の複数の公園でクロモ,ササバモ,サンショウモ,トチカガミなどがありましたが2010年代にはすべて壊滅しました.現在では沈水性の水草といえばイヌタヌキモが数か所,エビモが1か所,ヤナギモが1か所といったくらいでしょう.そして,そのすべてがいつ滅んでもおかしくない状況にあります.
普通種とかつて言われたものですらこの状況ですから,元から珍しいといわれていた植物に関しては絶望的と言えます.たとえばムジナモは数か所に局地的に分布していましたが,野生からは絶滅し今では栽培保存された個体のみです.自生地への再移植が試みられていますが,いまだうまく行っていません.タカノホシクサは1か所のみで知られていましたが,絶滅しました.ミズスギナは数か所で知られていましたがこれも関東地方からは早々に絶滅しました.
湖に依存する種の末路はもっと悲惨でした.
霞ケ浦や印旛沼,手賀沼,多々良沼など関東平野の多くの湖が,かつて水草に覆われていたことを知る人はもはや絶滅しつつあります.いまや腐臭を放つ茶色の水の表面をアオコの青緑が覆う,まさに腐海と化しているこれらの湖ですが,かつては琵琶湖や河口湖,芦ノ湖のように透明度もあり人が泳げるほど清浄で,水草の森が湖底を覆っていました.そして,そこには多くの生き物が住んでいたはずなのです.水草の森が失われたことによりどれほどの生き物が住処を追われたのか,想像を絶するものがあります.
流水と違い湖では透明度が下がったりヘドロが極度に溜まると水草が生育不能になります.また,コイやアメリカザリガニやソウギョといった,水草の森にすむ生き物を水草ごとすべて食い尽くしていく外来種の影響も莫大です.
ガシャモクやヒロハノエビモ,エゾヤナギモといった水がきれいで,かつ適度の肥料を必要とする種がまず犠牲となりました.そして,いまとなっては平地において,オオカナダモなどの汚水耐性の強い外来の水草すらめったにみられません.
茨城をはじめとして,水草をとりまく環境の悪化は想像を絶するものとなっています.そしてその環境悪化はむしろ加速度的です.レッドデータブックの更新すら,環境の悪化に追い付いていないように思います.
しかし例外的に東京などでは水草がある程度みられる環境が戻ってきています.
かいぼりによる魚やザリガニの駆除,下水道の整備や水質の改善努力,除草剤の使用量減少などによってこうした環境が少しでも戻ってくるのであれば,大いに期待したいところです.