水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

デイノステマ・ビオラセウム,ことサワトウガラシのはなし

草自体は地味ながら,学名にしてみるとやたらカッコいい植物というのがある.

サワトウガラシ Deinostema violaceumあたりはその代表ではなかろうか?

サワトウガラシ属Deinostemaは東アジア固有の属で,サワトウガラシ Deinostema violaceumおよびマルバノサワトウガラシDeinostema adenocaulaしか知られていない.

両種ははじめオオアブノメ属Gratiolaとして記載されたが,山崎敬により「恐ろしい雄蕊」という仰々しい意味の新属が提唱され今に至る.

http://www.jjbotany.com/pdf/JJB_028_129_133.pdf

↑「サワトウガラシ属とその類縁(1)」植物研究雑誌 28(5)129-133(1953)

Fig4の6,7をFig2の3(オオアブノメ)およびFig2の4,5(アブノメ)と見比べてほしい.たしかに雄蕊が仰々しい形態をしていることがうかがえる.

 

さて,そんなサワトウガラシ2種の話を今回はしていこう.

サワトウガラシとマルバノサワトウガラシはしばしば水田では混生するが,生育条件に若干の差があるようだ.水中にはサワトウガラシは生息するもののマルバノサワトウガラシはほとんど見られない.私の意見では,サワトウガラシは水草,マルバノサワトウガラシは条件により水没することもある湿生植物である.まあ水中発芽能力も成長能力も確かに持ち合わせているのを栽培下で確認しているので,水草にぎりぎり入れてはあげたいのだが.

 

とにかく,サワトウガラシは水草である.

水深50㎝程度の池にクロホシクサやフラスコモ類,ミズマツバなどとともに一面に群生していた姿は実に見事だったし,これは確かに水草なのだということを強く実感させられた.

サワトウガラシはこのように,頻繁に水が涸れて沈水植物が蔓延れない水域においては水中を支配するほど大繁殖する.水上では地味な植物で他の草の影に隠れているが,水中では競合相手がいなくなるためであろう.

サワトウガラシは顕著な異型性を持たず,水中葉も水上葉もほぼ同じ形状をしている.そのため一気に水が干上がってもほとんどダメージを受けない.さらに短期間で成熟し,水中で盛んに閉鎖花を形成する.両生植物としてだけでなく,沈水植物としても生活史を完遂できるのは非常に強いポイントである.

種子生産数が非常に多いため,他の小型水生植物を育てているところに侵入するとすぐにサワトウガラシ畑になってしまいがちである.この辺りは同じような場所にいて大量のタネをばらまくホシクサ類に通じるものがある.まあ水中でも閉鎖花で自己完結するサワトウガラシの方が一枚上手であろう.

 

個人的に気になっていることがある.同じ条件で育ててもサワトウガラシのサイズに二型あるように思えるのだ.このあたりはもう少し実験を繰り返さないとならないが,もしかすると倍数体が居る可能性もあるのでは?と思っていたりする.アカヌマソウといわれた矮小株は小さいほうだったりするのかなぁと思うが,あくまで想像にすぎない.私の気のせいかもしれない.

 

私の行動範囲内ではサワトウガラシは比較的上流部の水田でよく見かける.もしかするとため池がそこにあった名残なのかもしれず,平野部ではそこまでは見かけない.また黒土系の水田にいることが多い.ハリイほどではないが,そういう環境が好みなようだ.

いっぽうでマルバノサワトウガラシは滅多に見かけない.水田環境にいるのだが,いたとしても大量のサワトウガラシが群生する環境に数本紛れているような形で見つかる.要するに激レアである.しかし地域によっては個体数が逆転するようで,不思議なものである.予想ではあるが,水田に水がある期間などが関連しているのではないかと思う.

マルバノサワトウガラシもいちおう水中で育つし,アクアリウムではむしろマルバノサワトウガラシのほうが珍重されるほどであるが自生地や屋外栽培での感想では水草としての適性があまり高いようには思えない.

 

さて,アクアリウムにおいてサワトウガラシはいまのところ殆ど活用されていない.生育条件はホシクサに似ているが,より水深の深いところまで適応することから水中適性はより高いと思われる.私の水槽でも時々入れてはみているが,全力を出させることはいまだ難しい.ただ活用さえできれば,ツンツンととがった対性の葉は非常に印象的だろう.本種は綺麗に澄んだ水で主に見かけるので,光の要求度がとても高いのかもしれない.いまの超高性能LEDでは案外簡単に育つのではないか?と思っていたりする.

 

屋外栽培は極めて容易である.黒土に挿して全日照にあてておけば次の年には無数に発芽する.水槽栽培が難しいといわれがちな草であるが,この段階で屋外で水位をあげてやるとすくすくと水中で育つ様子を見ることができる.水槽と屋外の違いを研究するうえで面白い実験対象になりそうだ.より水草として有名なタチモは水位をあげるとなかなか素直に育ってくれないことが多いので,はじめての両生植物栽培にはホシクサ類とともに是非お勧めしたい.

いっぽうでマルバノサワトウガラシを育てる際には水深は5センチ未満にとどめた方が無難に思う.また,マルバノサワトウガラシのほうが肥料要求が多い気がする.

 

今回は出典をあまり示さずほんとうにただサワトウガラシについて語るだけの回になってしまったのが心残りである.面白いネタを見つけた際にはサワトウガラシ第二弾をやるかもしれない.