中国でとれたアサリを数日間熊本で畜養しただけの「熊本産アサリ」が話題になっている.今回はそのあたりの話である.
日本産水草との付き合い方(0)において,
「水槽で育てることを主目的に日本産水草を売買するのはやめていただきたい.まして,ワイルドならなおさらである.」
と書いた.ヤフオクでの希少種取引にウンザリしている私ながらの,怒りの一文である.
しかし,ここで困ってしまうことがある.ワイルド品ってなんだ?
例えば私の手元にはここ数年の間に拾ってきたコキクモやらマツモやらミズタガラシやらミズトラノオやらが無限増殖しているが,これはワイルド品なのか?
コキクモは5本ほど枝をちぎってきただけ,マツモにいたってはたった2本である.ミズタガラシに至っては河原一面に生えていたものから10本ほどちぎってきたのは10年前,ミズトラノオは15年前の3枝からである.でも実生はしていないようだから,これもワイルド品が伸びただけとも言える.
だから私がたとえばコキクモを20本,マツモを50本,ミズトラノオを100本売ったところで環境破壊要素はほぼ皆無なわけだが,いったいどこに線引きを設けるべきだろうか?
たとえば「野外で採集した株を一旦栽培したものをワイルド品ではなく,栽培増殖品と呼ぶ」としたならば,たとえば野外から100本ミズトラノオを抜いてきて,100個のポットに植えて,根付いたころに出荷するのもみんな栽培増殖品と呼ばれる未来がありありと見える.(ヤフオクのことだから,人によっては採集数が100なんかじゃ全然足りないんだろうけど)
では「1年以上維持したもの」
んー,水草のことだから増えるものは1か月あれば水槽いっぱいだ.
「ワイルド品から増殖したもので,野外で育った要素を含まないもの」
うーん...だったら上に伸びた部分だけちょん切るのもそうだよね?
要するに線引きが非常に難しく,モラルの問題であるとしか言えないということである.
「信用できる人」の定義も同じくらいに,なかなか難しいだろう.
それに上記のように,「栽培増殖品」と書いてあっても信用できない場合が容易に想像がつく.
というわけで,クローン増殖品に関してはザックリとした採集時期を書き,それと平均的な成長スピードを加味して吟味する(たとえば「2021年夏」採集のキクモが2022年の春に売っていたら確実に栽培増殖品といえるだろう,それがコウホネだったとしたらワイルド品だろう)くらいしか野どり品との区別ができないのである.
一方,実生増殖品は確実にワイルドでないことが言える.私の持っている例だとクロホシクサは種子で採集したもので実生3~5代目(一部は室内でも回したりして,近親交配を避けるため親世代と子世代をかけてみたりしているのでブレがある)だが,これはクワガタの人たちが使うような用語でいうと「F3+」として採集品と差別化できる.スブタはえーっと,何代目だっけ?F10位いっている.
また,種子で採集したものも環境負荷が小さくてすむだろう.クワガタの人たちがよくいう「WF1」に近いかな.
こうして,採集時期と最終手段,そして累代数を書くことによってある程度トレーサビリティのきいた,SDGsに配慮して日本産水草が取引でき,将来的にはいい方向にもっていけるのではないかなと思う.
とにかく現状はまずい.
栽培よりとってくる方がはるかに安上がり…というのは時と場合により嘘で,需要の高いような,探すのが大変な種は見つけるまでに莫大な投資を必要とする.
すると労力を回収するためには自生地を破壊するほど取りまくる必要が出てくるはず.
採集にかかる費用とヤフオクで取引されている相場を計算して,ゾッとした.
採集は全然安上がりではありません.安いとしたら,それは環境破壊を意味します.