そういう質問について、解説しようと思う。
「○○は育てやすい、××は増えすぎる…」といったものはよく聞くけれども、それ以上に踏み込んだ内容はなかなかお目にかかれない。
但し、その方が意味するビオトープがどのような概念のものであるかどうかによってかなり変わってくるし、構造によってもかなり違う。それぞれの場合において書いてみようと思う。
ビオトープに関して
ビオトープはBiotope/Biotopの音訳であり、その語源はギリシア語のBio(生きる)-topos(場所)である。現代英語においては生息地 Habitatとほぼ同義に用いられており、生物が自然に生育する場所、というニュアンスが強い。生き物のために作った人工の池をそう呼ぶこともあるが、自生地や生息地のことを言うことも多い。そうしたニュアンスを含めて、強引に訳すとすれば「生き物にとっての生きる場所」だろう。
同じような語源をもつものにVivarium =ラテン語の Vivo(生きる)-arium(場所)があるが、こちらは専ら「飼育/栽培のために設けた場所」に対して用い、自然に対して用いることはない。こちらは「人が生き物を生かす場所」である。
さて、現在ビオトープと世間で称されているものには本来のビオトープからかなり乖離したものが多数派であるようにみえるのが現状である。ただしここでは、そういったものを含めて解説したいと思う。ビオトープとよばれているものの問題点に関しては以前のブログ記事でしているので、そちらを参照されたい。
ここでは世間に言われるビオトープを大きく2つに分け、後者をさらに2つに分けようと思う。
A. 自然の生物が居着く場所を人為的に作ることで生物多様性の維持および増進を目的とした、狭義でのビオトープ。
B.何かしらの水生・湿生動植物を飼育・栽培するための、一般に”ビオトープ”と呼ばれているもの。これらはあくまでも屋外アクアリウムもしくは園芸の一種である。
B-1. メダカなどの水生動物を主体とした、アクアリウムの延長上にあるもの。
B-2. スイレンやカキツバタ、水生植物などの栽培を主体とした、園芸の延長上のもの。
これらの線引きをしてはじめて、それぞれに適した種類が見えてくる。
A. 生物多様性の維持および増進を目的としたビオトープ
このタイプに適した植物はずばり、できるだけ近所に自生しているごく普通の在来種である。
買うな、自分で探せ!
このグループはあくまでも、特定のなにかを育てたいわけではないことが多いかと思われる。(特定の水草を育てるのであれば、どちらかといえばB-2. 園芸の延長上のものを参照あれ)
作った環境に適した植物がちょうどよく生き残って、できれば世代交代してくれればちょうどいいし、園芸ではないので完璧に育てることを目的とするものでもない。
さて、近所に自生しているごく普通の在来種とはいってもなかなか難しいのではないだろうか?そう、フィールドに自分の足を運んでみないとなかなかわからないのである。しかしそれが楽しい。歩けば歩くほど楽しみが増えるし、視野が広くなる。
風媒花の植物などは、たとえ隔離されていたとしても遺伝子汚染を起こしうる。
購入する植物の条件は
・県レベルでほぼ絶滅状態で、自力で見つけることは困難
・自殖中心である
・採集すべきでないもの
くらいであり、そうしたことを加味したうえで敢えて買うべきものがあるとしたらヒシモドキ、ミズキンバイ、コウホネ類、ヒツジグサ、ミズスギナ、デンジソウくらいしかないだろう。但し、地域による。
採集はちょっとにしておこう
さて、自分で植物を探してこよう・・・となった時問題になるのが、採集圧である。
基本的に採集は、あまりすべきではない。これは前述したこととは大きく矛盾するように聞こえるが、要するに外来種被害も採集圧も在来個体群にとっては悪いのである。要するに、「在来個体群を守ろう」という点においてはどちらも同じことである。
さいわい、ふつうにみられる水生植物に関しては高いシードバンク形成能と非常に高い栄養繁殖力を持っているものが多く、また採集圧云々よりもアメリカザリガニの侵入などによる生息地自体の壊滅の方が極めて激甚な影響をもたらしているものが多い。しかしながらそれも度を越せば同じことである。
個人で販売を目的とする業者がやるような、乱獲じみた採集を行うひとはあまり多くはないと信じたいのだが、失われつつある個体群に最後のとどめを刺す人がいるかもしれない。「採集するのはできるだけ少数」にしてほしい。
スコップは要らない
私が採集に用いる道具は
・漂流物を引っかける棒(2.7m超小継玉の柄にルアー回収フックをつけたもの)
・袋とタッパー
・文具用のハサミ
これだけである。他の道具を使う必要は感じたことがほとんどないし、ハサミは滅多に使わないで済んでいる。他の荷物がある時でも装備一式がリュックサックに収まるので、別件で行動しているときにふと気になる水草を見かけたら数本だけ持ち帰る・・・ということもできる。タッパーと袋をセットにするのは、他の荷物で草が潰れないように外殻としてタッパーを用いるのである。よくチャック袋を使う人がいるが、長時間運ぶなら普通の袋のほうがいい。チャック袋だと草体の周囲に袋が密着して、草体にダメージが大きい。デリケートな沈水植物の場合、入念に洗ってからミネラルウォーターを買ってそのボトルに入れるとよい。輸送費と重みが問題だが、破損や1日程度の輸送でだめになることはまずない。
水生植物は、水に生える植物である。
したがって、陸上植物のように根をごっそり掘り取る必要はほとんどない。
根がなくともほとんどの種類はすぐに根付いてくれる。さらに、周囲の土ごと採らなくても生えている基質からそっと抜いてやれば、根の周囲はグズグズの泥なので綺麗に抜けるのである。そうならないものもいくつかあるのだが(たとえばオモダカやヨシ)、球根や生育初期の芽生えを狙えばよいし、最初全滅したかに見えても条件さえ整っていれば不死鳥のごとく復活する。
水草は生長点1個になってもあきらめない。
茎のある植物なら、一枝あれば無限に増える。
だから除去も大変なのだけど。。。
そもそも、抜く必要すらない。
マコモやヒシ、沈水植物などなど、水への依存度が高いものであれば、浮いている株を拾ってくるのがおすすめである。生えている場所を見つけたら、散歩してみよう。抜けた株がたくさん浮いているはずだ。犯人は水流のことが多いが、コイだったりアメリカザリガニだったりミシシッピアカミミガメだったりの影響が疑われる場合もある。
水草は生長点一個でもあきらめないので、破損してもそれが新天地に流れ着いて拡散する戦略をとっている。ただそのほとんどは失敗する。
だから、
とにかく相当な数の水草が抜けてしまってそのまま枯れるのである。
これを有効活用しない手はない。
おすすめなのが、磯玉の柄にルアー回収用のフックを取り付ける方法である。3m圏内くらいに浮いているものなら回収できるし、無理して抜かねばならないような草を抜くほどの強度はない。もちろん落ちているルアーも時々回収できる。
秋になると殖芽をばらまく水草もあるので、そうしたものもよく漂着するし、多くはそのまま干からびて枯れる。かといってたくさんあっても腐るだけなので、必要な分だけをいくつか回収すると栽培しやすい。殖芽は次の年の1株に相当するので、保管ができれば10個もあれば十分すぎる。冬場は冷蔵庫に入れておくと紛失しにくい。
挿し木してみよう
水草は洪水のたびにバラバラに押し流されるのを前提とした構造になっているので、たいていの種類は破片からの再生力が高い。
抽水性で茎のある種であれば、一枝切って浮かせておけば発根する。
意外に、カヤツリグサ科などは花序を切り取って水に浮かせておくと子株ができるものもある。挿し穂とでもいうべきか。基本的に同じ属の中でも水生傾向が強いものほど穂から芽が出る経験則があるが、自由研究のネタに面白そうだ。
コウガイゼキショウなども花序の茎を切り取って浮かせておくと、節々から子株が出てくる。
例外がスイレン科で、これはどうにもならないことが多い。とにかく傷に対してデリケートで、その場に居座る性質が強い。これは水草の中でもとりわけのイレギュラーといえるだろう。
さて水草の挿し木は、基本的に
浮かべる→発根→植え付ける
の順番で行うことが私は多い。
陸上の挿し木はいきなり刺すが、これは土壌中の水分にアクセスさせるためである。だから挿し木用の用土は「清潔な」ものが求められる。しかし水中では用土がなくとも水分にアクセスできるし、浮いて漂流している状態だと「どこかに引っかかって根をおろさねば」と盛んに発根するのである。根が出てきたらそれを土でお迎えする。
水田雑草
田んぼの土を貰ってきたり、トラクターが道路に落としていった土を拾うなどによって土から何が生えてくるのかを楽しむのもまた一興である。
水田を回って採種してみるのもありだ。ホシクサなどは簡単だが、他のもの稲刈り前くらいの結実期の草体を一部切り取って浮かべておくと、沢山の種子がばらまかれて次の年生えてくる。耕作後の田起こしで転がっているものでもよい。但し、水田雑草の多くはかなりの施肥を必要とする(だって稲を育てている環境に出るのだから)ので、ただ置いておくだけの管理で維持できるものはひじょうに少ない。ホシクサやサワトウガラシといった小型の種や、ハリイやマツバイなどの燃費の良い種は毎年出てきてくれることが多い。水田雑草は元々、毎年~数年に一度の氾濫により大量の栄養がもたらされるような環境で生きるものである。しかしそんな場所はもう日本にはほとんどないことを実感できるだろう。そうした環境の再現を試みるべく施肥にこだわってみたりするのも楽しい。結局、稲作ってすごいなということになる。
水田雑草は土質は黒土で大概は良いが、ときに用土にもとから種子が混ざっている。堆肥+砂や堆肥+赤玉土、赤玉単用に肥料、園芸用培養土を赤玉で覆土などやり方は色々ある。但し購入した荒木田土だけはやめたほうがいい。何を育てているのかわからなくなる。ケト土は湿地に採集圧をかける点で好きではないが、種子の混入は多くはない。
・マツバイ
・ホシクサ
・ハリイ
・サワトウガラシ
・クログワイ
・イヌホタルイ
・アゼナ
これらは維持しやすい。但し大量に種子がばらまかれて過密になりがちなので、3年目以降は冬場代掻きをした方が良い。
・コナギ
・クサネム
・キカシグサ
・タイヌビエ
これらは施肥をしっかり行うことで栽培可能になる。
・スズメノトウガラシ
・トキンソウ
・ヒデリコ
このあたりは水が抜かれた中干し期に旺盛に成長する。湿地植物として扱う。
・オモダカ
こうしたものは栽培がかなり難しく、どちらかといえば園芸として扱うものだろう。
水のたまった空き地や遷移初期の休耕田
日本の平野部は、元々多くが湿地であった。それを乾かした場所に、私たちは住んでいる。だから分譲地や工事現場といった、表土がはがされる操作をされた場所にもしばしば水生植物が出現する。休耕田でも肥料が少ない場所だったりすると、ヨシ原になる前に様々な”水田になる以前”の植物が復活してくる。いつの種子なのかはわからないが、土中できっと耐え忍んでいるのだろう。分譲予定地などにヨシなどの大型水生植物の芽生えがたくさん生え始めているのが遠目に見えたら、ヨシが茂りきったり、工事でつぶされてしまう前にそっと足を運んでみるとよい。こうした場所に出現する水生植物は水田雑草とはかなり異なっていることがあり、イグサ属やイヌタデ属をはじめとしてフトイ、タコノアシ、ヌマトラノオ、カンガレイ、ミゾコウジュ、シカクイ、コブナグサなどを見かける。こうした植物は比較的安定した湿地を好み、貧栄養に対してある程度耐性がある。数年から十数年スパンで大水により撹乱されるような場所や、もとから栄養が少なくヨシなどの強豪な種が出現しない場所を好んで生育していたと思われる。埋土種子ではなく自生がみられる場所もしばしばあるが、そうした場所は減少している。扱いやすいサイズ感と貧栄養への耐性から、このタイプの植物は湿地ビオトープの水上部に最適である。但し、あまり深い水深に耐性を持たないものが多い。一部の例外を除いて、水深0~5㎝といったところだろう。
イヌタデ属、コブナグサ、ハイヌメリなど・・・発芽は水上で行われる。夏場足元が漬かるのは問題ない。
ヌマトラノオ、イヌゴマなど・・・一年目は根張りがよわく本領は発揮しにくい。2年目からが本番。足元は5㎝くらい水に漬かっていても大丈夫。
タコノアシ、サクラタデ、シロバナサクラタデ、カンガレイなど・・・肥料がやや必要。足元は5㎝くらい水に漬かっていても大丈夫。
イ、コウガイゼキショウ、シカクイ、セイタカハリイ・・・基本的に丈夫。足元5㎝くらいなら漬かっていて大丈夫。
フトイ、サンカクイ・・・肥料多めで抽水条件で育てる。
河原や湿地、池、遷移の進んだ休耕田
フィールドを歩いて気付くことがある。いわゆる「自然に保たれた」湿地や河畔、長期間放置された休耕田に出現する水生・湿生植物は驚くほど少ないのである。歴史のある河畔湿地など、本当にすごい場所に行かないとなかなか多くの種数を見ることができないが、そうした場所はできれば採集などしたくないようなところである。世の中のほとんどの「湿地」において、ヨシ、オギ、ガマ、ヒメガマ、マコモくらいしか見ることができない、いやそうしたものしか生きることができない。条件がかなり良いとスゲ属や、撹乱地に生じるメンバーが出てくる。
ヨシ・・・移植がとにかく難しい。野外から持ち込んだ茎葉は枯れる前提で、根本から出てくる新しいシュートに期待する。そもそも家庭で栽培するものなのだろうか。
*クサヨシは現存する株は殆ど外来系統であるようだ。野外採集の株を栽培導入することはお勧めしない。
ガマ・・・若い株なら移植可能だが、成功率は低い。根付けば盛大に繁殖する。
スゲ属・・・アゼスゲやカサスゲ、ヤガミスゲ、ジョウロウスゲは足元がやや冠水するのに耐性があるが、基本的には湿生植物。
マコモ・・・大型化するが肥料少な目で管理すれば矮小管理できる。とにかく根張りがすごい。水深30㎝以上でも生育させることが可能であり、水生・湿生植物でも特に適応幅が広い。ジリ貧になっても施肥でちゃんと生き返ってくれるのがありがたい。
ヒシ・・・かなり栽培が面倒。とにかく施肥しながら育てる。池の鯉に餌をやるイメージで。
偶然に出会う、珍しい植物
上記のような植物を探すフィールドワークではときに沈水植物や浮葉植物、ヒルムシロ類、ミズトラノオ、ヌマハリイ類などといった珍しい植物に遭遇する場合がある。これらの栽培は独特の癖がある場合もあるので、最小限の採集に留め自前の環境で育つかどうか試す感じでやるのが良いだろう。もしくは、B-2で述べる園芸に準じた方法で増殖させてから導入する。
沈水植物・・・有機質多めで水が澄んだ環境を作ってやるとうまくいきやすい。メダカ等は入れず、余計な肥料は抽水植物に吸わせるイメージである。全日照を嫌うものもあり注意が必要。
小型の浮葉植物(トチカガミ、ヒシモドキ、ヒルムシロなど)・・・肥料が足りないと露骨に嫌そうな葉色になり、正直な草である。足りなさそうなら追肥する。
中型の浮葉植物(ガガブタ、アサザなど)・・・夏場は施肥をたっぷり、春先は貧栄養気味に。冬場の水質が悪いとガガブタは殖芽が腐って全滅することがあるので、取り分けてリスク分散する。
採集してはいけない植物
法律で定められた保護種、外来種は勿論採集してはいけない。
また趣旨からして外来種はこのタイプのビオトープには適さないだろう。
さてこれらの他にも、採集してはいけない植物がある。それは資源回復が遅かったり、栽培が著しく困難だったり、採集によって株自体がダメージを負うものである。
ラン類は資源回復が遅く、また採集圧が問題となりやすく、採集したとしても栽培が不可能に近いものが多い。
コウホネ類は資源回復が遅く、根茎を折るとそこから親株も腐敗して枯死する場合があるので、採集してはいけない。流されて漂着した根茎も生着率が低いが、ほおっておいても根付けずに枯死するのでチャレンジする価値はあるだろう。
ヒツジグサは資源回復が遅く、開花株に育つまで数年を要するので採集してはいけない。実生によってのみ増殖と世代交代を行うが、実生による世代交代がうまく回っていない産地も多い。実生増殖も難しい。
湿地性サトイモ類も根茎損傷による腐敗リスクや世代交代の遅さから採集すべきではない。
安定した湿地に依存する植物も再生産が遅いものが多い。少産少死戦略をとっているように思えるものがある。
莫大な種子生産能やすごい増殖能をもった”雑草的”性質をもった植物が水生・湿生植物の大半を占めるが、中には上記のようなものもある。
B-1. 所謂「メダカの水草」について
ここでは、メダカの水草として扱われる植物について述べる。現状こうした植物を大々的に生産しているのは2社しかないという状況である・・・。
さて、この用途に適しているのは頑丈で深い水深によく耐え、かつ種子生産の少ないものである。水面を占拠するのも観賞の面からよくない。
個人的には、マコモ、エキノドルス、イグサあたりを推奨したい。
マコモは栽培が容易で在来で水質浄化力が高い。エキノドルスは外来だが結実率が悪い上に実生苗は耐寒性が低く、栽培が容易なのに帰化の心配が低いためである。イグサは近場の自生を探して採集するとよい。アンペライもよさげではあるが、栽培経験がないため割愛した。ヒメホタルイや”ヌマイ”は近隣に自生地が現存する可能性は低いだろうから遺伝子撹乱の危険性も低く、良いとは思う。ただ水田でふつうに得られるクログワイやイヌホタルイ、マツバイなどに比べてとりわけ優越しているかといわれると微妙である。ミズトラノオは冬場の地下茎腐りを対処できるならばよいが、そこがトリッキーなので初心者にはお勧めしがたい。ヤナギトラノオやハッカ、シラサギカヤツリは水深が深いといじけがちである。ロタラは冬場耐えられない地域が多く、春咲きなのでそうした地域ではせっかくの花を楽しめない。
わりとキケンな市販外来水草たち
ガガブタの仲間 Nymphoides
危険性 3/5
この類は水深が深くても生育でき、栽培も間引きも容易である。在来のものもあるが遺伝的に分化していることもあり、繁殖力が非常に強いことも併せて絶対に野に放ってはならない。アサザなどは日本に生息する全個体の遺伝子がわかっており、どこの個体が逃がされたかすぐわかってしまう。タイワンガガブタ、姫千鳥は冬場は室内水槽で加温して維持する。
オモダカの仲間 Alismataceae
危険性 1/5(エキノドルス) 2/5(バルデリア)4/5(ナガバオモダカ、ヒロハオモダカ、サジオモダカ)
栽培しやすいのはナガバオモダカ Sagittaria graminea、ヒロハオモダカ S. platyphylla、エキノドルス アルゼンチネンシス Aquarius grandiflorus、ラジカンス Aquarius floribundus、バルデリア ラヌンクロイデス Baldellia ranunculoidesなどである。一般に矢じり状の葉を持つ日本のオモダカやアギナシ、クワイは少なからず栽培に癖があるので上級者向けと言える。エキノドルスは子株の耐寒性が低いため日本では帰化リスクが低いが、熱帯ではごく普通に帰化している。サジオモダカは種子増殖が盛んで遺伝子撹乱の恐れがあり、九州などでとんでもないことになっている。ナガバオモダカとヒロハオモダカはとくに、野外に出た場合たいへんな増え方をして危険なので絶対に野に放たないこと。他の種に関しても同様。
コブラグラスの仲間 Lilaeopsis
危険性 2/5
一般的ではないが耐寒性があり、屋外で栽培するのが容易で遊泳スペースをあまり妨げず、種子増殖が盛んではないなど、メダカの水草としては良いだろう。種子増殖が盛んではないとはいえ絶対に外に逃がさないこと。
ルドウィジアの仲間 Ludwigia
危険性 3/5(交雑種)5+/5(パルストリス、レッドルブラ)
パルストリス、レッドルブラ(グランデュローサ)は外で育てては絶対にいけない。大量の種子を産生して陸にも生えはじめるからである。自力で出て行ってしまう数少ない水草と言える。ニードルリーフ、レペンスも原種の可能性があり、潜在的に危険である。(自殖するかは怖くてテストしていない)さて、レッドルドウィジア、ナタンスなどで売られる大多数のルドウィジアは交雑種であり種子増殖はしない。
但し、交雑種であっても増殖力が非常に高く、野外に絶対に出してはならない。現在帰化して問題になっている個体群はL. repensであるということになっているが、形態からしてアクアリウム由来の雑種であろう。
パールグラスの仲間 Micranthemum
危険性 4.5/5
耐寒性と自殖による種子産生能をあわせもち、種子生産数も莫大である。危険なのでこの趣味を長く続けたければ外で栽培すべきではない。
グロッソスティグマ Glossostigma
危険性 3/5
帰化が騒がれているが湧水河川で帰化して繁茂するものの、他の環境での帰化リスクは高くないのではなかろうか。耐寒性はNewラージパールグラスと同程度で、凍結を免れる環境でもダメージを負う。破片からの再生力が高いため2/5ではなく3/5とした。帰化例が多いのはむしろ意図的な植栽が多いためと推測する。栽培中は比較的安全に思えるものでもこれだけ問題になるのだから、絶対に外に逃がさないこと。
ハイグロフィラ Hygrophila
危険性 種による
ポリスペルマは耐寒性があまり強くはなく、湧水河川などでは問題になりうるが他での定着は難しいと思われる。種子生産が盛んな系統の侵入があれば危険性は5/5に引き上げる。レッドシャープリーフハイグロなどの海外産オギノツメは数系統入っているが種子増殖が盛んでライフサイクルが速く陸にも生えうるため5/5とする。ラージリーフハイグロなどのH. corymbosaは耐寒性が低いので3/5、ジャイアントハイグロなどのH. costataは耐寒性が低く市販系統の種子増殖も確認できないので、1~2/5とする。いずれも絶対に外に逃がさないこと。
ミリオフィラムの仲間 Myriophyllum
危険性 5+/5
種子生産していないオオフサモがあんなことになっているのを尻目に、水上でミリオフィラムを楽しむ精神性が理解しがたい。水鳥などにより簡単に草体が生きたまま運搬されると推測される。室内の水槽の中に封印して絶対に部屋の外に出さないこと。
アマゾンフロッグビット Limnobium
危険性 4/5
繁殖力が大変危険であり、ものすごいことになってしまっている地域があるが、耐寒性がやや弱くオオフサモほどの脅威ではない。種子産生は稀。絶対に外に出さないように栽培すること。
サンショウモ類 Salvinia、ホテイアオイ
危険性 3/5
増殖力は高いが、耐寒性に難がある。積極的に世代交代しているところは少ない。絶対に放さないというモラルの向上だけで減っていくのではないか。
チドメグサの仲間 Hydrocotyle
危険性 5/5
ウォーターマッシュルームはすでにあちこちで大変なことになっているし、ブラジルチドメグサは九州などで災害級の増殖をしている。種子生産は少ないが、人に扱える植物ではない。アマゾンチドメグサはいまのところ帰化報告がないが、たとえ冬を越せなくても夏限定でとんでもないことになるポテンシャルはあるだろう。
危険性 2/5
耐寒性はあまり高くない。水没部分はなんとか越冬する程度。
種子生産も盛んではないが、ロタラは極めて稀に自生系統(ホザキキカシグサ/マルバキカシグサ)がある。そういったもののいる地域では栽培を慎むこと。帰化例を最近よく聞くようになった。絶対に外に逃がさないこと。
ウォータークローバー Marsilea
危険性 3/5
耐寒性があり爆発的に繁殖するが、草体が小さなこともありそこまで問題には今のところなっていない。ただし各地で帰化例があり、絶対に外に逃がさないこと。
危険性 1.5/5
近縁種は日本に分布しない。虫媒花でありおそらく自家不和合性があるのか、結実例を聞かない。一般流通するにもかかわらず帰化例を聞かないなど、今のところ危険性レートを高くする根拠は見当たらない。但し続報次第で3/5に引き上げることはありうる。とにかく絶対に外に逃がさないこと。
危険性 その他(メダカが死ぬ)
トチカガミは数少ない「魚を殺す水草」である。繁殖力と肥料要求からトチカガミ栽培槽では魚がもたない。一週間でも目を離すと根で詰まって泳げなくなって酸欠で死ぬ。ヒシモドキもそれに近い殖え方をすることがある。
危険性 5+/5(温帯種)
温帯スイレンは野に放つと池が干上がるまで上に積み重なって育ち、取り返しのつかない大変なことに。横浜駅SFみたいなものである。ため池環境を不可逆的に破壊する最も危険な水生植物の一つであり、絶対に外に逃がさないこと。
熱帯スイレンは枯れ葉による水質汚染がほかの水草に比べて大きいことに注意。
B-2. 水生園芸を楽しみたい方へ・・・
ここでは、花が綺麗であったり育てやすかったりなど、園芸としての鑑賞性に優れた水草を紹介する。
スイレン、ハス、カキツバタ、ミズアオイ、コウホネ、ヒツジグサ、ミズトラノオ、ミソハギ、サワギキョウ、ミズキンバイ、ロタラ ロトンジフォリア、ガガブタ類などがあげられるが、どれもちょっとしたコツというか癖がある。しかしそうした難所を乗り越えて楽しみたいかた向けだろう。
ここでは、「単に外で水草を育てる」方法について述べる。こうした方法で増やしてからビオトープに水草を導入するのもよいだろう。
育てる鉢について
鉢は大きい方がいい。通常売られている30㎝級のスイレン鉢は小さすぎて安定しない。湿生の小型種なら浅型のトロ船、抽水性・浮葉性の中型種なら深型のトロ船、抽水性の大型種ならバケツやタライを使う。栓でとめるタイプの鉢は安いが強度や、万が一栓が抜ける(下から出てきた雑草がこじ開けたりと、割と起きる)ことを考えるとよくない。蓮ポットは安いがぐにゃぐにゃしているので、排水などで傾けると曲がってあらぬ方向に水がぶちまけられたり、稀だが破損からか最初から穴が開いていたりする場合もある。キングタライは直射日光に晒すと5年程度で破損してしまい、そうなった際の処分がすごく大変である。
トロ船やCharmの44㎝スイレン鉢、トンボの丸型ストロングタブ45は底に穴がなくある程度の水量があり頑丈なので、大型抽水種やスイレン類によいと思っている。
なお、黒いトロ船は緑のトロ船に比べて水温が上がりやすく、経験上栽培実績が大きく劣る。高くてもできるだけ緑を買うこと。
育てる場所について
できるだけ全日照がよく、雨ができるだけ当たる、開けた場所が良い。雨はアブラムシを予防し水質を弱酸性に保ち、紫外線は病気や溶けを防ぐ。但しあまりに高温になる場合などは日陰を考慮する。多少日差しが悪くても枯れはしないものが多いが、木の葉は水質を悪化させときに壊滅的な被害をもたらすので、木の多い庭などでは木の葉除けを使うべきだろう。(鉢スタンドに網をかぶせて、網付き鉢スタンドをスイレン鉢の上にかぶせる)
用土と肥料について
用土としては芝の目土、田砂、黒土、使用済みのソイルなど、様々なものが使える。
肥料は人それぞれだが、いちばん安くて普通なIB化成かマグァンプKがとりあえず無難である。堆肥やスイレン用肥料、油粕などを使いこなせる人は使いこなすとより良いとは思うが、少なくとも抽水性のものでそこまでを必要とするものはハスくらいだ。
アクアリウム用のソイルはそこまでよくはないが悪くもない。アクアリウムでみられるような劇的な効果は良くも悪くも外では誤差程度なので、水草水槽で使った後のいわゆる「廃ソイル」を使うのがちょうどいい。完熟バーク堆肥を少し混ぜたりしてもいいが、そのままでもそこそこの万能用土として、とりあえずなんでも育てられる。かなり多くの抽水性水草は(葉が水面より上に出ているぶんには)草体を固定さえできれば肥料があればそれでいいようである。
但しスイレン、ハス、オモダカ科、ミズアオイなど多肥を必要とする、浮草ではない植物に関しては用土をやや選ぶようで、そうしたものに対する土づくりは方法がある程度確立されている。簡単なものとしては、赤玉土とケト土、ときに黒土を混ぜて練る。凝ったものとしては「スイレンとハスの世界」や、宮川花園のホームページ スイレン ハスの栽培方法 を参考にするとよいだろう。赤玉土に堆肥を混ぜて練り、熟成させるのは個人ではかなり大変だが、ハスやミズオオバコなど、用土をかなり選ぶ植物にも対応する万能用土が作れる。最近では性質の異なる用土を重ねて利用する(具体的には、腐植と肥料に富む園芸用培養土を芝の目土で被覆する)ことで肥料もちと水質維持を両立する方法などもYoutubeなどで公開されているので、参考になるだろう。
極めて特殊な例外として、ミズトラノオは通水性のよい用土でないと冬に地下茎が腐って全滅する。小さな鉢や浮舟式栽培箱に植えて沈めておいて水中で(鉢の中ではなく!)越冬させるか、用土をソイルなど洗いやすいものにしておいて春先に救出したりする。他の種の鉢を一緒に置いておくと中に侵入して共倒れしがちなので注意。
余談だが、浮舟式栽培箱に地下越冬のものを植えておくと、鉢穴から越冬部が吊り下ってきてとても回収しやすい。
水位をいかに保つか
いちぶの水草は水草とはいっても深い水位に対応していなかったり、ビチャビチャな湿生環境を好むが水没には耐えられない。腰水がそうした植物の栽培にはよく用いられるが、水位管理が面倒である。栽培を目的とするならばプラスチック製の容器を用いて横に穴をあけることで上限水位を決めたり、発泡箱に穴をあけて水に浮かべ、その中に鉢を並べて半沈没状態にするとよい。(浮舟式栽培箱の沈みかけバージョン)
種間関係を利用して栽培を楽にする
また、組み合わせ方にもややコツがあったりする。たとえば「成長にスイッチが入らないから肥料をやらねばだけどそもそも株が小さくて、肥料をやるとアオミドロに飲まれる」といった状況がよく生じる。そうしたときは「強い植物を入れて、肥料を足し、育ってきたら強い植物を取り除く」といったようなことをするとうまくいく場合がある。
沈水植物は腐植質を必要とするものが多いのか、単に砂や赤玉などの無機質土壌に水を張っただけでは育てにくい。そのような場合、抽水植物を植えて場を整えるのが有効だったりする。食虫植物のタヌキモ類やムジナモは特にそれが顕著で、また病害予防もかねてコンパニオンプランツとしてセリ科を植えるのが有名である。
とにかく水生園芸は制御が重要で、メインとなる一種類を育てるために色々やる、というイメージである。