今回の案件は「エグレリアってエグレリアなの?」案件です.
私は”エグレリア・マナカプル”やラジアルヘアーグラスが大好きで仕方がない,好きな水草トップ10には入れるくらい好きなので,まあ暇をみつけてなんかしら情報ないのかと調べるわけです.
で...気づいちゃったわけですよ.
なんか,各種文献に出てくるエグレリアって間延びしてね?
…なーんか違和感あるんだよな…
何かこれとんでもない勘違いしてないか?
とりあえずFlora do Brasil2020でブラジル北部のEleocharisを洗いざらい検索,標本写真を片っ端から漁ったものの
…なんか,いわゆるエグレリアの標本,なくね?…
困惑しかないですよ.だって私の知る”エグレリア”ってアマゾンの水中写真では常連客です.
ネグロ川の一部水系ではこのように滅茶苦茶はびこっていて,ネグロヘアーグラスと俗称されるくらいです.
タパジョス川にもいっぱいいます.でもちょっと大きめというか大きくない?違和感あるなあ.
うーん,Egleria fluctuansの原記載にあるこの図は私が知っているエグレリアな気がするなあ…
なんかすごく不穏だな…と思ったのでとりあえず直近の近縁種であるEleocharis eglerioidesに関して原記載を当たってみることにしました.
(González-Elizondo, M. S., & Reznicek, A. A. (1996). New Eleocharis (Cyperaceae) from Venezuela. Novon, 356-365.)
Eleocharis eglerioidesは...
基質に根を張る沈水性多年草.茎は幅0.5~1.1㎜,1~4㎝ごとに節がある.各節には7~17㎜の膜状で筒状の葉鞘があり,透明な先端部は円頭もしくは鋭頭,基部は紫色.
(ここで気付く.…Flora do brasil 2020にあがっているE. eglerioidesの写真はここまでの情報となにひとつあってないじゃん…写真挿入ミス?)
節では幅0.1~0.4㎜の二次桿が偽輪生(false whole)を示し,主桿はここで分岐する.偽輪生は主桿に沿って左右交互に配置される.副桿は基部に葉鞘をもつ.
(なんかものすっごく見覚えがある気がするんですが…)
結実桿は短く1.6~4.6㎝,柄状で主桿の先端3~4節から一本ずつ,2~4本の二次桿とともに生える.穂は長い葉鞘に覆われ,葉鞘が小穂まで及ぶこともある.小穂は円筒形で7~10㎜,成熟時の幅1.3~1.5㎜,花は1つあたり6~9.最下部の小片は小穂の基部を被覆し2.6~4㎜,あたかも桿の延長であるかのようにみえる.痩果は1.4~1.6㎜,幅0.7~0.8㎜で倒卵形~楕円形,凸レンズ状または圧縮三角状.
分布は…ベネズエラのブラジル国境付近とボリビアの一部…間にあるアマゾン盆地の大部分に分布する可能性が高いが,収蔵庫ではEgleriaやWebsteriaとご同定されている可能性が高い・・・
EgleriaとEleocharisの属レベルとしての違いは2点しかない.
・結実桿はEgleriaにおいては多数の二次桿に混じって輪生上に出るが,Eleocharisでは遠位の節に単独で生じる.
・RostrumはEgleriaでは痩果と連続し中央で最も幅広くなり,痩果にいくにしたがい細くなるが,Eleocharisでは関節状で円錐形である.
E. eglerioidesとEg. fluctuansにみられるほかの違いとしては結実桿の長さや小穂の色程度しかなく,Egleriaは分岐するEleocharisから進化したとみられる…
(ほうほう,面白い)
E. eglerioidesはE. elogataやE. robbinsiiに近縁であるようで,これらの種の水中形態( Fernald & Long 325, MICHなど)でも分岐し節を持つ主桿が匍匐茎状に伸び,その各節から偽輪生を示す二次桿が出る.
亜族は異なるが,Eleocharis亜族のEleocharis retroflexa complexでも主桿の頂点から毛状の桿が輪生する...
おお,珍妙なのが出てきましたね.
E. elongataは海外でちょっとだけ流通したことがあったんですよね.それはそれは珍妙な水草です.
これなんか,言及されている”エグレリア状の”匍匐茎をのばしてるじゃないですか.前から気になってました.点と点がつながったようでうれしいです.
E. retroflexa complex…おお,また大変なところが出てきちゃいましたね.非常に厄介なので次回以降にします….
さて最後に,Websteriaとも混同されてきたとのこと.分岐のパターンが異なる,小穂はWebsteriaと異なり多くの花からなる,Websteriaの痩果はEleocharisの他の種とは全く似ておらず,むしろScirpusに似ているといった点で区別できるとのこと.
うわー,Websteria迄出てきちゃいましたか.どろぬまかくていですね・・・
まとめ
・アクアリウムで流通する”Egleria”はEleocharis eglerioidesである可能性が捨てきれません.最終的な判断は花が咲くまでわからないが,以下の点で私は”エグレリアマナカプル”はE. eglerioidesの可能性がかなりあるのではないかと考えました.
・KewのK0000632146は輪生する結実桿をもち,E. fluctuansとしてよいと思われます.しかしながら本標本の節間は5㎝以上が平均的で,1~4㎝とするE. eglerioidesに比べて明らかに長い.両種の違いとして明記はされていないですが,私が当初感じていた違和感のある個体群は本物のE. fluctuansであることが予想されます.
・世界にはエグレリアやラジアルヘアーグラス以外にもびっくり!?どっきり!?な珍エレオカリスがまだまだたくさんいます.
では次回に続く.