水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

沈水性トウエンソウ科

日本では見たこともない科の水草、というのはそう多くない。

とくに熱帯性のものでは顕著で、アポノゲトン科Aponogetonaceaeやヒダテラ科Hydatellaceaeなどがぱっと思いつくが、他は?と聞かれると結構言葉に詰まる。ようするに、水草というのはとんでもない距離を移動できるので、アジアに分布するようなものはたいてい日本まで進出しているし、アフリカに分布するものは大抵アジアにも分布を伸ばすし、南米のものもしょっちゅうアフリカに渡るからである。アポノゲトンだって台湾にはA. lakhonensisがいるではないか。

さて、となるとまったく見たことがない水草がいる場所・・・というのはなかなかに難しい。見たことがある属や科の突拍子もない姿を楽しむのは素晴らしく楽しい。しかしまったく新しいものを…となると、ヨーロッパとアメリカの亜寒帯、南米アマゾン流域、南アフリカ南端あたりだろう。

南米では単子葉植物の水生適応が著しく多様であるように思う。

まず最も目に付くものとして、ホシクサ科が何度も何度も水中適応を繰り返している。Eriocaulonはもともと水生だろうがSyngonanthusは湿生でこそあれEriocaulonほど水を得意としないと思うし、もともと陸生と私は思っているPaepalanthusLeiothrixといった属にも水生種が発生している。こうしたことから、おそらく南米だけで水生化イベントが10回ほど生じているのではないかと思っている。この件に関してはいつかブログに書きたい。

ホシクサ科以外ではカヤツリグサ科のEleocharisおよびRhynchosporaが特異な適応を遂げており(Eleocharis fluctuans, Eleocharis glauca, Eleocharis confervoides, Rhynchospora albescens)、オモダカ科ではSagittariaにも沈水性といっていい種がいる(Sagittaria pseudohermaphroditica)。また、水中で生育するわけでなくとも渓流性のパイナップル科(Dyckiaの一部やNaviaの一部)がいたりするので、もしかすると今後水生のものがみつかるかもしれない。水生といえばThurniaなどは水生のアマゾン地域固有属である。アクアリウムでは一般化しすぎて全く認知されていないがMayacaCabombaもこの地域を代表する、分類的にはかなりおもしろい水草だろう。

いっぽうで双子葉類にかんしては水生化の傾向はあまり強くないように感じてしまう。ノボタン科に沈水耐性をもつものがいたり(Aciotis acuminifolia)するが、どのくらいの範囲のノボタン科がそうなのかはよくわからない。すくなくとも、突拍子もないものが突拍子もなく水生適応しているようなものがBacopa程度しか頭に浮かばない。知っている人がいたら是非教えて欲しい。

 

さてようやく本題に移ろう。アマゾン流域に生育する沈水性のトウエンソウ科はこのブログでもXyris aquaticaを以前紹介した。トウエンソウ科は一見したところアヤメとホシクサを足して2で割ったような植物で、ほとんどの種は茎がほとんど伸びず、アヤメのような平板状に配置された単面葉をもち、ホシクサのような長い柄をもつ頭花から黄色い三弁花を咲かせる。ほとんどは葉長10㎝程度の小型種だが、ときに大型化する種もある。熱帯性のものが多いが、北米においてはそこそこ高緯度まで適応している。

この科はアクアリウムにおいて全くと言っていいほど認知されていない科で、台湾までは分布があるものの日本に分布しないこともあいまって認知度は著しく低い。しかしながら、最近になって沈水耐性をもつ”Xyris sp. Red”なる小型種が海外の珍水草マニアの間で注目されており、わずかに日本国内にも流通が始まったようだ。

野生下において、湿生~抽水性のXyrisが季節的に水没して生育する姿はよく見られると聞く。そのため潜在的には水草になりうる種が多い属なのだが、あきらかに沈水生とみなせる種は少ない。北米ではフロリダにランナー状に根茎を横に伸ばし、水深70㎝程度まで適応し浮島をしばしば形成するXyris correlliorumがみられる。(この種に関しては興味深い両生植物なので、いつか別の項目で紹介するかもしれない)

アジア、アフリカでは今のところ聞いたことがない。

南米ではブラジルにおいてXyrisの多様性がきわめて高く、渓流性でしばしば沈水するものや、ときに沈水性のものもみられる。以前も紹介したXyris aquaticaはアマゾン流域上流域の支流に広く分布し、糸状の葉を水中にたなびかせる。また、ブラジル中央~西部、南西部、南部などの岩地やパンパにはXyris filifoliaが分布している。長い節間をもつ根茎をもつことが特徴的で、細流に沈水状態でみられるという。

 

Xyris aquatica Idrobo & L.B.Sm.

Flora e Funga do Brasil

形態記載(原記載*1より訳)

水生。有茎で根茎はよく分岐する。葉は繊維質、断面は円形で鈍頭、軟弱で直径0.2-2.4㎜、長さ30㎝を超え、おそらく水中にたなびく。葉鞘は長く、基部に向けて徐々に太くなる。葉耳は2㎜に達し、淡褐色で先端はしばしば二岐する。花茎は直立し硬く、直径1.5-2㎜、長さ15-40㎝。柄部の平滑で暗色の鞘は長さ4~12.5㎝、鈍角で若干ねじれ、柄部を抱く。穂は楕円形から紡錘形、長さ6-16㎜、直径3-6㎜、20花以上よりなる。苞は楕円形で鈍頭で全縁、最下部で長さ2㎜、徐々に大きくなり4㎜に達する。縁は淡色で背側の領域はよく定義され、淡~濃灰色、鋭頭。基部は切型。前側の嚢状の萼はひじょうに薄くすぐ脱落する。側方の萼は4.5㎜で長いさじ状。基部は非常に細く、カリナをもつ。カリナは細く基部は武装されておらず、残りは乳頭状~鋸歯状。蒴果は楕円形、長さ2㎜、直径1.5㎜、胎座は基部。種子は楕円形、長さ0.5㎜、直径0.3㎜。

*Flora do Brasil 2020の記述も要確認

 

Xyris filifolia L.A. Nilsson.

形態記載(*2より訳)

多年草または一年草。叢生し草体の基部は細い。根は繊細。葉はやや繊維質で長さ40~60㎝で細く、茶色から栗色、光沢を持つ。カリナを持たず、表面には筋があり、辺縁は平滑である。葉舌をもつ。葉身は34~53㎝、幅0.5~1㎜、糸状で先端は徐々に細くなる。二つ折状の苞(花茎を抱く苞)はカリナを欠き、長さ0.5㎝。花茎は50~70㎝、円柱状で肋を欠き、表面には溝がある。穂は6花よりなり、長さ9~10㎜、幅4~5㎜、卵形から倒卵形。茶色の苞は表面に縞があり、幅広で灰緑色のしみをもち、カリナを欠き先端は円形、全縁、やや膜質。不稔の苞は10程度、長さ4~6㎜、幅3㎜の長楕円形。花苞は長さ6㎜、幅3㎜、長楕円形。花は側方のガクを含めると長さ約6㎜で狭披針形、カリナはわずかに引き裂かれる~波打つ。雄蕊は約3㎜、葯は矢じり状、花柱および柱頭はみられない。胎座は基部。蒴果は細い楕円形、種子は楕円形、茶色で縞をもつ。長い節間をもつ特徴的な根茎および柄部の先にまばらに叢生することで他種から容易に識別できる。

 

ブラジルからはほかにもX. aquaticaX. filifoliaに酷似した植物が多数記載されているが、そのうちどの程度が沈水性なのかはよくわからない。一見よく似ているが水上に生育するといわれているものもあり、また水草であることから水上形と水中形が大きく異なる可能性もある。またブラジル以外の南米諸国にもこのような変わったXyrisが分布する可能性が高く、今後色々見つかるかもしれないと期待している。

 

 

 

*1:Idrobo, J. M. (1954). Xiridáceas de colombia. Caldasia6(29), 185-260.

*2:Guedes, Juliana Santos, and Maria das Graças Lapa Wanderley. "Xyridaceae in Serra do Cabral, Minas Gerais State, Brazil." Hoehnea 42 (2015): 367-397.