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日本産ハリイ属に関する感想とメモ

日本産ハリイ属に関する感想を走り書き。交雑種は含めていない。

 

ハリイ属 Eleocharis

葉は葉鞘のみであり、鱗片に覆われた松ぼっくり状の小穂は先端に1つだけつく。小穂が2つ以上つくことはない。苞が小穂の上に突出することは無い。

本州産で上記を満たす植物はハリイ属のみである。

ハリガネスゲなどよく似たスゲ属があるが、葉があるので基部を確認すれば間違うことは無い。またヤマイもしばしば紛らわしいが、これも葉がある。なお、八重山にはウナヅキテンツキがいる。これはきわめて紛らわしい。

 

日本産ハリイ属は様々な群に含まれるものがあり、様々な流入経路があったと思われる。水草の例にもれず、ほぼすべての種が広い分布域をもつ。

具体的には

マツバイ

・ヌマハリイ類 (北方から南下)

・クログワイ類(南方から北上)

・シカクイ/ハリイ類(主にアジアに分布)

・マルホハリイ(北半球の周極分布)

・タマハリイ(世界の熱帯~亜熱帯)

・カヤツリマツバイ(世界の熱帯~亜熱帯)

クロミノハリイ(汎世界分布)

といったところだろうか。日本固有種とされるのは茨城県にのみ分布するカドハリイだけである。

 

グループ分けはあくまでもぱっと見の見た目を特徴として扱った。

マツバイ級・・・普通10㎝未満で糸状の茎を持ちランナーで増える

ハリイ級・・・糸状の茎で株立ち、しばしば先端から子株を吹いて倒伏しながら広がる

穂は丸く中型、匍匐茎を欠く種・・・その名の通り。「その他」に相当

ヌマハリイ類・・・北方系の大型種でランナーは太く直線的に伸び、そこから等間隔に茎が直立して伸びる。先に有花茎がのびてそのあとに花のない茎が伸びる傾向がある。

クログワイ類・・・南方系の大型種でランナーは長く曲がりくねり、

 

マツバイ級の種

10㎝未満でランナーで増える。

痩果が細いマツバイと丸いチャボイが代表的。アクアリウム用にマツバイ近似種が大量に流通しているので、警戒が必要だろう。日本には中途半端な大きさでランナーで増えるハリイ類はいない。

簡易検索

痩果は細く表面に格子をもつ。茎及びランナーは細い・・・マツバイグループ

  刺針状花被片がある・・・マツバイ

  刺針状花被片がない・・・チシママツバイ

痩果は丸みを帯び平滑、全草はがっしりする。塊茎をもつ。塩生植物・・・チャボイ

Eleocharis acicularis (L.) Roem. et Schult. var. longiseta Svenson  マツバイ

水田から湖までどこにでも現れるが、本当にすべて同じなのか。痩果がとにかく貧弱。こんなものが埋土種子としてやっていけるのがすごい。越冬芽は不思議なほど図示されないがシカクイにちょっとだけ似ている。

Eleocharis acicularis (L.) Roem. et Schult. var. acicularis  チシママツバイ

刺針状花被片を欠くタイプ。マツバイの果実をいちいち確認していないので未確認…。おそらく北方系と思うので高山のマツバイは気にしていこうと思う。なおE. acicularisは分類的な再検討が要ると聞いたことがある

 

なんか花が黄色くてゴツい。海岸性・汽水性だが稀な種だと思う。塊茎も有名。

 

 

ハリイ級の種

5~10㎝~40㎝、茎は糸状でランナーを欠き、盛んに穂から子株を吹く。水生傾向が強いものが多い。

日本産のハリイ級の種は柱基が大きく発達するハリイ種群と、そうでない珍種に分けられそうだ。

柱基が小さいハリイ級を見かけたらとんでもなく珍しいものの可能性がある。また、ハリイがきわめて多型を示すので非常に紛らわしい。花がない場合、シカクイ級の種の実生のことがあるので注意を要する。

 

Eleocharis congesta D.Don var. japonica (Miq.) T.Koyama  ハリイ

七変化して紛らわしい草。大きく育った株は穂が白いのですぐわかる。小さい株は困りもの。当方では見かけるハリイ類はほぼこれ。オオハリイやエゾハリイとしばしば混生するのでさらに困る。「小穂が卵型である」のがポイントかも。同サイズのエゾハリイより細身で穂も小さい。

 

Eleocharis congesta D.Don var. congesta  オオハリイ

南方系で西日本から沖縄に主に分布。関東にもギリギリいる。谷津田の奥などにひっそりと生えるほか、状態のいいため池にもいるという。多年型ハリイといった方がいいかも。沖縄の個体は本州に比べて特徴がはっきりせず、まるでハリイのように見える個体がいるように思う。

 

Eleocharis congesta D.Don var. subvivipara (Boeck.) T.Koyama  ヤリハリイ

未見。

いつか見つけたいものだ。

 

Eleocharis maximowiczii Zinserl.  エゾハリイ

穂も小穂も鋭くとがるのと、痩果がオリーブ色~黒色なのが特徴的。株本の色とサイズと穂の色と先端の子株はあてにならない。(小型のハリイはこれらの「エゾハリイ的な」特徴を全て備えうる)

Eleocharis retroflexa (Poir.) Urb. subsp. chaetaria (Roem. et Schult.) T.Koyama  カヤツリマツバイ

未見。

ハリイによく似た熱帯性の稀種。穂はごく少数の花よりなる。柱基は短く果実にめり込む独特な形態であり、痩果実には隆起が顕著であることから目を凝らせば肉眼でも判定できるのではなかろうかと思っている。石垣島では保護種とされている。そもそも日本に現存しているのだろうか。

 

Eleocharis atropurpurea (Retz.) J. et C.Presl   クロミノハリイ

未見。

幻の草。ハリイに比べて柱基がきわめて小さいので、柱頭数を数えずとも野外で果実をバラせれば肉眼で確認できるはず。汎世界分布種なのでどこに出てもおかしくないので探し続けている。

 

シカクイ級の種

20㎝以上、小穂は細く、ランナーなし、茎はおもに直立し子株はあまり吹かない。主に湿生~浅い水中の抽水性。

湿地に生育する株立ちの種で、抽水したとても浅い位置に主に生育する。穂はあまり丸みを帯びない。セイタカハリイ、シロミノハリイとシカクイ類を含む。シカクイ類は柱基が異常に発達する。その他の種として、外来種のイトハリイもこの群に入りうると考えられる。

 

Eleocharis attenuata (Franch. et Sav.) Palla  セイタカハリイ 

最初に咲き始めるハリイ類。分布にはやや偏りがあり、おそらくだが何かしらの養分が足りない環境を好む。花崗岩地の湧水があるような谷津田休耕田や大河川の河川敷など。いまいち読めない。湿生植物であり、あまり水が好きではない。

 

Eleocharis attenuata (Franch. et Sav.) Palla f. laeviseta (Nakai) H.Hara  チョウセンハリイ

セイタカハリイの、刺針状花被片がやや長くけば立たないタイプ。外観もほんの少しだけ違っていてセイタカハリイよりちょっと穂の色が濃い。平野部の休耕田一面に群生していて、度肝を抜かされた。

 

Eleocharis margaritacea (Hultén) Miyabe et Kudô   シロミノハリイ

北方系のまぼろし系ハリイ。サイズはシカクイーセイタカハリイに近いようだが…。

 

Eleocharis wichurae Boeck.  シカクイ

赤さびた湧水湿地にどこからともなく表れて群生する。茎は1角がつぶれた四角形。ミツカドシカクイと聞いたところではよく似ているが、触ってみると全然違う。柱基は巨大であり、観察してみるとびっくり。

 

Eleocharis  petasata (Maxim) Zinserl. ミツカドシカクイ

三角四角。矛盾でしかない。そして、ほとんど高山植物では?しかし、なぜか浮島湿原にも生育する。シカクイのような果実とマシカクイのように辺縁の尖った茎断面をもち、鱗片もどちらかというとマシカクイに似ているように思う。地下茎が伸びるところもマシカクイに似ているし、カドハリイと交雑する。シカクイとは別種なのではないだろうか。適した環境ではかなり大型化しがっしりする。

 

Eleocharis wichurae Boeck. f. teres (H.Hara) Ohwi  イヌシカクイ

四角と言いつつ丸い。西日本ではイヌシカクイのほうがふつうと聞く。シカクイよりやや好む環境のレンジが広い気がしていて、いる地域では水田の畔や、稀に水田内にまで侵入する。

 

Eleocharis wichurae Boeck. f. vivipara Y.Ueno  コモチシカクイ

それらしきものは見たことがあるが、生育環境の問題なのではないだろうか。そのうち確認が必要と思う。

Eleocharis wichurae Boeck. var. liukiuensis (Makino) Ohwi  オキナワイヌシカクイ 

未見。違いに関してもよく知らない。

 

Eleocharis tetraquetra Nees  マシカクイ

稀種。南方系ときくが、関東ではほとんどなじみがない。角ばった、比較的柔らかい手触りの茎が印象的。シカクイよりやや水を好む気がする。穂からの出芽が多いようだ。

 

Eleocharis tsurumachii Ohwi  カドハリイ

マシカクイに近縁できわめて稀な種。マシカクイの北限に相当する分布である。実質的に浮島湿原にのみ分布しているとされる。種の保存法指定種。マシカクイに似るが鱗片の先はより丸く、茎には艶がありさらに柔らかい, 茎の下部が赤みを帯びるとされる。なお決定的なのは地下の越冬芽らしいが・・・種の保存法指定種を掘って確かめるのは実用性に問題ありではないか。

 

穂は丸く中型、匍匐茎を欠く種

日本にはこのタイプが非常に少ない。外来のエンゲルマンハリイもこのグループに入る。セイタカハリイはシカクイ級に含めた。

 

Eleocharis geniculata (L.) Roem. et Schult.  タマハリイ

世界の熱帯に分布するワイヤーのようなハリイ。初めて見つけた株には除草剤がかけられており、洗いに洗ったがあえなく枯死。アクアリウムでは案外おなじみなのかもしれない。

Eleocharis ovata (Roth) Roem. et Schult.  マルホハリイ

北日本に分布するというが生きた個体の写真はきわめて稀。標本記録が各地からあるが、現状は幻?そもそも日本でマルホハリイと言われているものは本当にovataなのか疑問もあるので、早々に見つけておきたい。ヨーロッパやアメリカでは一般的とされる

 

ヌマハリイのなかま subseries Eleocharis

大型で太くやや硬い匍匐茎でふえる。穂は茶褐色~黒褐色で茎より太い。

この仲間はオオヌマハリイを除き、基本的に珍しい。直立した茎がまっすぐ平行に並んでいればヌマハリイ類が想起される。日本に産する種はすべて北方系。

Eleocharis mamillata H.Lindb.  オオヌマハリイ

おもに山地に生えるヌマハリイ類。刺針状花被片が5~6本なことが特徴だが、現場で葉茎が非常に柔らかいことと、春から秋まで咲いているのが最大の特徴ではなかろうか。北方系だが平地で栽培可能。福島以北で平地にも出る。

Eleocharis palustris (L.) Roem. et Schult.  クロヌマハリイ

コツブヌマハリイと酷似して春咲きで細く、茎はやや硬い。コツブより少し硬い。柱基が大きいことでコツブヌマハリイと区別される。

 

Eleocharis parvinux Ohwi  コツブヌマハリイ

関東平野では稀に時々見る草。春咲きでゴールデンウィーク頃に咲き、7月には咲きやむ。柱基が小さい以外はクロヌマハリイ的な草姿と生態で穂はオオヌマハリイに似ているという中途半端な形態。この3者の関係は気になるところである。平野に生えているヌマハリイ類はまず本種が疑わしい

 

Eleocharis equisetiformis (Meinsh.) B.Fedtsch.  スジヌマハリイ

幻のハリイ類だが休耕田にひょっこり現れるとのうわさ。お忍びで園芸店にも並ぶ。開花茎はなんだかゴリゴリしているほかは他のハリイ類に似るが、春に咲いた後花を欠く茎に特徴がある。これは艶消しというか青白く粉を吹く。

 

Eleocharis kamtschatica (C.A.Mey.) Kom. f. kamtschatica  ヒメハリイ

Eleocharis kamtschatica (C.A.Mey.) Kom. f. reducta (Ohwi) Ohwi  クロハリイ

アンバランスに大きな柱基が特徴。自生地の印象はもはや海浜植物で、もしかしたら若干の好塩性なのでは?とすら思わせる。全く「ヒメ」ではないし、刺針状花被片の有無で全く和名が違うのはいかがなものか。ほかのヌマハリイ類よりは小型で茎は円形でとても硬い。

 

クログワイのなかま sect. Limnochloa

穂が緑色~灰褐色で茎とほぼ同じ幅であり、鱗片もまっすぐ棒状にくっついており辺縁のみが反り返る。

熱帯~亜熱帯性の平地性で塊茎を持つ種が多い。

Eleocharis acutangula (Roxb.) Schult.  ミスミイ

言わずと知れた(?)まぼろし草。日本で見つけるよりも先にアフリカ産の株が輸入されてびっくり。アフリカの株に関してはクログワイとそう変わらない育て味。

Eleocharis kuroguwai Ohwi  クログワイ

水田でありふれた種。ため池型は違うと聞くが…。かつて(~江戸時代)は普通に食用にされたと聞くが、シナクログワイだったのかどうかは不明。

 

Eleocharis dulcis (Burm.f.) Trin. ex Hensch.  イヌクログワイ

南方系の巨大なクログワイ。穂の鱗片が丸くのっぺらぼうな感じがあるのが特徴。本州では稀だが沖縄ではやや普通。なぜ有用なほうにイヌがつくのかは謎。

 

Eleocharis dulcis (Burm.f.) Trin. ex Hensch. var. tuberosa (Roem. et Schult.) T.Koyama  シナクログワイ

塊根の色彩や形態はむしろクログワイに似ているという意見もあり、本当にイヌクログワイの改良品種なのか気になるところがある。茎はイヌクログワイより硬い。

Eleocharis ochrostachys Steud.  トクサイ

これを見たくて沖縄まで行ったのに見られなかった。くやしい。sect. Limnochloaなのでクログワイっぽいけど中が詰まっている、ハズ

 

 

まぼろしの外来ハリイ類

外来ハリイ類は数種が知られているが、全国的に広がったものは一種類もない。いずれも局所的に発生し、殆ど見かける機会のない稀な種となっている。

Eleocharis erythropoda Steud.  オウギシマヒメハリイ

扇島に出現した直後に工事により消滅したため、日本で最も幻の水草の一つだろう。但し外来種である。ヒメハリイにそっくりだが柱基が発達しないとされる。

 

Eleocharis tenuis (Willd.) Schult.  イトハリイ

ごく一部で帰化していると聞くが詳細をよく知らない。

Eleocharis engelmannii Steud.  エンゲルマンハリイ

Eleocharis engelmannii Steud. f. detonsa (A.Gray) Svenson  シバヤマハリイ

幻の帰化ハリイ。いまもどこかにいるのだろうか。全草はマルホハリイに似て、穂は開花とともにアンバランスな大きさになるはず。