水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

カヤツリグサ科の水草を楽しもう

最近カヤツリグサ科に執着している。

果てには「カヤツリ来ないっすかねぇ」という話を大声でした結果、大量のカヤツリ輸入を起こさせ大損させかけてしまっている…本当に申し訳ございません。

まあ需要ない…ですよね.

 

というわけで、今回はカヤツリグサ科の水草の魅力を語ろうと思います。

 

ホシクサから水草に入った私にとって、姿かたちが若干似ているカヤツリグサ科は以前から好きなグループではありました。

しかしとりわけ興味を持つきっかけになったのは、とある池での調査の際です。

クロホシクサやミズマツバなどが沈水条件で水深50㎝ほどで生育している場所で、見慣れない水草が生育しているのを見つけて栽培してみたところ、ヒメガヤツリ Cyperus tenuispicaに育ちました。この種が水草であるということは殆ど述べられていませんが栽培するにつれ、水中での生育能力を持つだけでなく加温すれば多年草としてふるまい、穂から出芽して無性増殖も容易であること、ライトさえ強くすれば水上でのストックが容易であることなどがわかってきました。

その後、沈水状態で生育しているカヤツリグサ科を見かけ次第育ててみることをはじめてみたところ、タマガヤツリ Cyperus difformisやヒナガヤツリ Cyperus flaccidusも水中から生えていることがしばしばあり、実際に水槽内でも栽培できることがわかりました。但し、寿命が短くタネをつけると枯れてしまうものも多く、どれもが水草としてよい適性を備えているわけではないことも学びました。

ここで気付いてしまったのです。

カヤツリグサ科の沈水栽培はホシクサ科よりよほど簡単ですし、それでいて水生適性をもつものも多く、気にして見比べてみれば、結構水中形に違いがあるのです。へたなホシクサをやるより、カヤツリを片っ端から沈めてみた方が面白いのでは?と。

 

いまや「シペルスはヘルフェリーしか沈まない」のは幻想なのだとはっきりしました。シペラスはかなりの種が水生適性を持っていますし、ヒメガヤツリ、ツルナシコアゼガヤツリ、ヒナガヤツリのように野外でも沈水状態でみられるものが多く含まれます。

ほかの属にも目を通してみれば、ハタベカンガレイ Schoenoplectiella gemmiferのように自明に沈水生育能力を持ち、水槽栽培も容易なものや、シズイ Schoenoplectus nipponicusのように野外でも素晴らしい沈水形を見せてくれるものの栽培下で活用するのはなかなかコツが掴みにくいもの、クログワイ Eleocharis kuroguwaiのように生活史の一時期だけとはいえ美しい沈水葉を出し感動させてくるもの、オオハリイ Eleocharis congestaのように(折らないように)細心の注意を払ってやる必要があるものの育てて楽しいもの…などなど、あちこちの属に水中栽培が可能な面白い水草が見当たります。

 

世界に目を向けてみるとクログワイに近縁でランナーが直立して成長するエグレリア Eleocharis fluctuansや、ハリイのような生育スタイルでありながら特殊化の激しいラジアルヘアーグラス Eleocharis glauca、そしてマナウスシペルス Scleria sp.やフラグミテスspギニア Fuirena sp.といった正体が謎めいたもの…面白いものがゴロゴロ転がっています。

そして非常に美しく極めて沈水生活に適応しているもののいまだに輸入された話を聞かないウェブステリア Eleocharis(Websteria)confervoidesやアメリカでは水槽で育てる人がいるらしいSchoenoplectus subterminalis、生きた写真すら見たことがないアフリカの季節性湿地で沈水状態で生育するCyperus wailyiやマダガスカル版ハタベカンガレイのようなSchoenoplectiella heterophyllusなど、「まだ見ぬ水草」を多く含むグループでもあります。

 

さらに、東南アジアの採集紀行やかつてのカミハタインド便、今までの様々なワイルド水草の入荷を見回してみれば、謎の沈水性カヤツリグサというのは本当にたくさんあって、調べてもなかなか真相にたどり着けないことがしばしばです。他の水草がたいていすぐに何者か判明するのに比べると、奥深さを感じさせます。

 

面白いのが、沈水可能な種が様々な属で独自に発生していること、そして沈水栽培可能な種がいる属であっても水槽栽培できるものとできないものがあることです。

今のところ沈水可能な種を含むカヤツリグサ科は以下の通りです。

・Cyperus

・Eleocharis

・Schoenoplectus

・Schoenoplectiella

・Fuirena

・Scleria

・Isolepis

・Schoenus

他の属にも水中育成可能な種がいる可能性が大です(たとえばFimbristylis)が、まだ情報不足です。抽水性のものにも面白いものがいそうです。

同じ属内でも水中適性は様々です。

カンガレイ Schoenoplectiella triangulataやイヌホタルイ Schoenoplectiella juncoidesといった種は発芽直後に数枚の短い沈水葉を出し、その後シュノーケルのように茎をするすると伸ばして抽水植物に育ちます。しかしそれらの近縁種であるハタベカンガレイ Schoenoplectiella gemmiferはかなり長い間沈水形で生育可能で、ヒメホタルイ Schoenoplectus lineolataは茎の状態で沈水で育ちます。ヒメカンガレイ Schoenoplectiella mucronataは沈水葉を長く伸ばし、もしかしたら沈水で生育する場所もあるかも…事実、ハタベカンガレイのように茎状態で沈水して生育する個体群が海外にはいるようです。マルホホタルイ Schoenoplectiella hotarui globosospiculosusなどは水中での発芽能力に乏しく、水草と言えるかすら疑問です。

こうした様子から見るに、カヤツリグサ科は比較的水中への適応力が潜在的にはあるものの、水中と陸上との相互移行をおびただしい回数繰り返してきたグループと考えられます。

 

現地写真をみるに東南アジアの水辺などはカヤツリグサ科で満ち溢れていて、河川の水位が非常に上下する環境であるにもかかわらず多年性の種がみられる場所が多く見られます。そういった場所のカヤツリグサはおそらく沈水状態で休眠するか、水中生育することによって雨季を耐えているものと考えられますが、これにフォーカスした研究や個人観察例をなかなかみつけられず、まだ未知な点が多いです。

 

このようにカヤツリグサ科の水草はまだまだ探検の余地が非常にあって、水草の中ではカワゴケソウ科や南米のホシクサ科と並んで何も知られていないグループだと思います。さらに多くの種が世代交代が非常に速く増殖力も強く(Mapaniaなどの陰性種は例外な気がしますが)、今流行りのサトイモ科などの植物に比較して環境負荷をかなり小さく抑えられると考えられます。

というわけでカヤツリグサ科、水槽で試してみませんか?