水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

ソイルとは何なのか,それは本当に「水草」に向いた底床なのか?

今回はソイルについて書いてみる.

ソイルは本当に「水草」のための底床なのか?

水草といえばソイルを使うもの,というのはいまや常識と言った方がいいのかもしれないが,新品のソイルを使った水槽では逆にうまく育てにくい水草が確かに存在する.

結論から言ってしまえば,

「常時深い水域に生える”水草らしい水草”にはソイル環境は向いていない」

列記してみよう.

カナダモ類(アナカリス),バリスネリア,殆どのポタモゲトン,ニムファ類,ニムフォイデス類,ラガロシフォン,ナヤス(特に,グアダルペンシス),サジタリア,わりと多くのエキノドルスなど・・・

これらはソイル水槽でかえって育てにくい.大磯砂を敷いた熱帯魚水槽で照明も貧弱,CO2も添加していないような環境でもどんどん育つのに,バリバリの水草水槽設備を整えるとうまくいかないことが多い.

「ソイルは,一時的に水没する水域に育つ湿生植物を育てるために有効である」

逆にソイル環境で栽培が容易になるものは,ブリクサやトニナ,ケヤリソウといった例外以外は水上葉をもつものである.そしてこいつらは水中適応してから日が浅い新参者の水草だったり,沈水しているとはいっても浅い湿地に生えるものである.特に水田雑草の類にはソイルが圧倒的に有利であることはいうまでもないだろう.(両生植物,というのが的確なのだがあえてこの記事では「水中適応もしている湿生植物」などと書いている)

また,ブセファランドラやアヌビアスミクロソリウムといった渓流植物の類はそこまで底床に関係がないが,ソイルの方が若干有利な気がしないでもない.

 

では,それはなぜなのだろうか?一旦ソイルの基本的なところに立ち返る必要があるだろう.

 

ソイルと砂,そして他の園芸用土は何が違うのか?

ソイルは極めて高額で特殊な用土である.興味深いことに,園芸資材として用いられる用土とソイルの間には共通性があまりない.

水生園芸の観点から

水生園芸において用土の定番はなんといっても「泥」である.荒木田土やケト土といった泥がが有名だが,自作する場合には赤玉土腐葉土を混ぜてぐちゃぐちゃに泥状になるまで練って,一冬熟成させて使うのだ.

さて,屋外で試してみる限り,これら泥系の用土では上記に挙げたようなソイルに向かない水草も,ソイルに向いた水草もどちらもよく育つ.

では,ソイルの原料たる黒土ではどうだろうか?

黒土ベースにするとサジタリアやニムファ類,ポタモゲトンの成長が悪くなる.一方でニムフォイデスは影響を受けない.所謂ソイルに向いた水草は基本的に,とてもよく育つ.ただ黒土は腐植質が多すぎて,深いと嫌気条件になって臭くなりがちなのが難点である.

赤玉土は肥料が少ないが,赤玉土+化成肥料でもわりといろいろ育つ.但しソイルや上記の用土のような成長はあまり期待しにくい.

砂は単体だとまるでダメだが,腐葉土と組み合わせて使い続けるとなかなかいい栽培用土になる.また,他の用土を覆土するのに使うのもよい.

使い古しの,水槽ではうまくいかなくなったソイルは全日照下の屋外栽培だと驚くほど良い結果が得られる.非常に奇妙なことだ.なんなら使い古しソイルを買い取りたいくらい,屋外で水草を育てる上では良い用土である.実験数が足りないので何とも言い難いが,軒下で使うのにはあまり使い古しソイルがそこまでいい印象がない.紫外線の影響じゃないかというのは,私個人の勝手な推測である.

そして,これも面白いことに新品ソイルは意外にパッとしない.育つには育つのだが,園芸用土×10の値段に相応な出力は望めそうにないし,他の用土に比べて根はりが悪い.

水生園芸の観点からしてみると,ソイルは黒土とそこまで違いはないし,一部の点で劣っている.やはり手が汚れないという点以外において,泥系の天下を覆せるようには思えない.

 

水槽でのソイルの作用

水槽でのソイルの作用は色々喧伝されているが,注目したいのはたった2つである.

1.”新品ソイル効果”による水草の活性化

2.吸着・イオン交換効果

これらは水槽の立ち上げにおいて非常にありがたい.

1.は腐植酸の影響によると思われるが,主に湿生系の水草が一気に調子良くなる.いっぽうで上述した「ソイルに向いていない水草」にはあまり効果を実感したことがない.何が効いているのかいまいち不明な点が多いとはいえ,「新品ソイル効果」の存在は事実と言わざるを得ない.肥料が多いのも当然あるのだろうが,恐らく違う要因もあると考えないと納得がいかない.

2.のイオン交換・吸着効果は原理上色々分けて扱うべきなのだが,アクアリウムとしての便宜上纏めて扱うものとする.イオン交換効果はソイルの原料である黒ボク土において非常に高いことが知られている.但しこれでは黒土と比較する意味がない.黒土もほおっておけば水が澄むのだが,ソイルとは比べようもない.吸着系ソイルが「吸着系」たりうるのはむしろ,焼成時にできた空隙であると考えている.要するに新品ソイルは活性炭の類と同じように,空隙に水中の様々な物質をトラップするとみられる.水槽に入れたとたん急激に濁りがとれたり,メチレンブルーの青が消えたりするのは他の効果では説明しがたい.

1,2を考えてみればソイルの「寿命」の存在はおのずと見えてくる.

新品ソイル効果はソイルに元から入っていた物質が原因なので,当然枯渇する.吸着・イオン交換効果はため込むうちはいいのだが,どんなにストレージがあってもものごとはいつか必ず飽和する.そして飽和したらもう吐き出すしかない.

要するに,こうした効果は一方通行としか言いようがない.

底床としての根を張りやすさであったり,保肥性に関しては他の用土でも代替が効くはずなのでここでは詳しくのべない.

 

ソイルの効果は水草の生育にとって何が重要なのか?

あくまでも仮説にすぎないが,こんなことを考えている.

ソイル環境下で良く育つ植物は基本的に「沈水条件に耐える湿生植物」であることについて先ほど述べた.こうした植物においては,空気中におけるものと近い代謝系を備えていると思われる.たとえば,根から金属イオンが吸収されることはあっても,空気中に金属イオンが浮いていることはほぼない.ソイルのイオン交換効果はおそらくそこに効いているのだと思うし,有機酸もキレート化によって同様の効果をもたらしているのではないだろうか,という仮説が立てられる.実際に実験はしていないので,だれかやってみてほしい.

水中適応が中途半端で,かつ大量に金属イオンを根から要求する水草が厄介だが,”中途半端に使いつぶしたソイル”であれば対応しやすいように思う.

”新品ソイル効果”に関しては恐らく単なる有機酸によるものと思っている.

有機酸に関しては砂水槽にピートやケト土,パワーサンドなどの添加などで”ソイルに向いていない”水草に関しても生育がよくなることをすでに確認しているので,キレート化以外の効果も恐らくあるのではないだろうか.さらに言えば,有機酸効果は水草に限った話ではない.有機酸資材があれだけ売られているわけだし,そのての(たとえばフルボ酸資材など)の説明書を読んだ方がより直感的に書いてくれているような気がするので,あとは任せる.

 

結局,ソイルはどう使うべきだろうか?

ソイルの相性がいい”水草”は多くの場合氾濫原に生育する湿生植物で,水位の上下や土壌の撹乱(しばしば数年に一度だったりする)によって環境のリセットを繰り返すような環境に生育するものである.そのため,連作障害の影響を基本的に受けやすいと思われる.そもそもリセットされた環境が好きなので,ソイルを定期的に交換してリセットする環境下では旺盛にかつ簡単に,インスタントに育てることができる.自生地の環境に非常に近いのだから,あるいみ当然なことである.

逆にソイルが”使いつぶされた”状況に適した水草は”真の水草”たる沈水植物や浮葉植物たちであって,有茎草+エキノドルス→エキノ水槽になる,とかそういうのが無難な使い方なのだろうな,と思ったりする.立ち上げがとにかく容易なのがソイルのいいところだ.いったん立ち上がってしまえばこっちのものであるし,スターティングに有茎草(要するに水没適応型湿生植物)を植えて,ソイル効果がが落ち着いてきたころに沈水植物や浮葉植物が勢力を拡大させる・・・というのがまあ自然ではなかろうか(そんなことADAも書いてたなあ).

要するに,有茎草をメインにやるならばソイルは効果が切れてきたら交換するのが手っ取り早いし,そうでなく水草の茂った水槽がよいのであれば有茎草にエキノドルスやらニムファやら,パールグラスやらを混ぜたり足したりしながら遷移を楽しむのがよい付き合い方であるように思う.

あとは,使い古しソイルは屋外栽培において非常に優秀なので,外で色々育てるのに使うのによい.屋外スペースがどのくらい使えるのかと,水槽内での埋土種子が問題にならなければの話ではあるが・・・

 

それでもソイルを使い続けたい

ただそれでは「その環境に適性のある草が育っている」のであって,「草を育てるために環境を作っている」とはいいがたい.

水中適応が中途半端な湿生植物を愛する身としては,なかなか納得いきがたいのである.こうした湿生植物は隔年で出現することも多く,自然下で安定した湿地では徐々に見られなくなってしまう.ただ柵で囲っただけではいずれ滅んでしまう,アクティヴな介入を要する植物たちである.遷移による影響が大きいのはまあ確かなのだが,ここでは連作障害の観点から考えてみようと思う.

連作障害というのはよくわからない概念で,病害虫やアレロパシー,微量元素の枯渇などなど様々な原因を含んでいるのだが,手っ取り早い解決法は日光に晒したりマルチをかけて消毒し,堆肥を大量に漉き込んで発酵させたうえで肥料や微量元素(例えば苦土石灰)を添加し,数作は違う作物を育てることである.ただソイルは粒が成形されている都合上,堆肥をすきこめないし,連用には限界がある.

細かい目の堆肥をすきこんで発酵させた後に乾燥させ,ふるいにかけて水に浮く部分を除去してから使うなどが考えられる.やっぱり面倒だ.

病害虫の話は一旦さておき,こうした連作障害対策においてやっていることは微生物による成長阻害物質の分解であり,堆肥もその火種として入れているという解釈である.アクアリウムに戻ってみよう.ADAの底床設計はやたらバクテリア重視という印象を受けるが,このあたりを手っ取り早く,失敗しにくいように製品化しているように感じる.ADAも長期使用する場合にはパワーサンドなりバクタ―なりトルマリンなりを添加しましょう,と書いている.これらの製品は内容からして,所謂「古い土の改良剤」として売られているもののアクアリウム的応用なのだろう.要するに連作障害が水槽で発生するのを防止するためにこうした製品群をラインナップしていると,とりあえず解釈しておく.わけのわからない連作障害さえ回避してしまえば,あとは単純明快な肥料の話で解決できる.また畑や植木鉢ではなく自然界の”豊かな”土壌生態系のもとでは連作障害はそこまで問題になっていないように見えるわけであり,土壌にこだわって成長阻害物質を微生物に分解させるシステムを作るということはバランスドアクアリウムの概念から出発したと思しきネイチャーアクアリウムの理想にも沿ったものなのだろう.というか,底床作りこそ天野のネイチャーアクアリウムの神髄であるようにすら思う.

 

逆張りの砂万能論について

さいきん,砂底床による水草水槽が流行りを見せている(?).少なくともソイル環境での限界を見出した人によって砂底床の水草水槽が再び脚光を浴びているように思うのだ.砂底床の特徴は「吸着効果がほとんどない」「有機酸を含まない」という二点に尽きる.有機酸がないのは短所でしかないので,補ってやるのがセオリーである.良い意味でも悪い意味でも吸着効果がないので,水質のコントロールがある程度しやすくなる(吸着・イオン交換効果によるpHロックが生じないし,溶出する物質を含む砂でなければ入れた水に近い水質になる).一方で立ち上げ初期は成長の鈍さや,底床微生物の不安定さに起因すると思われる溶けに悩まされがちである.

パワーサンドやケト土,クレイ,ピートモスなどを下に敷いたりピンセットで突っ込むことによって有機酸による効果を付与し,かつ微生物の定着をよくすることが試みられており,実際に素晴らしい水槽も作られている.長期維持性や底床の自然感などからみて,ソイルよりもずっと将来性も美的な優位性もあることは間違いないだろう.

ただし砂底床の水草水槽は未だに職人技に近い部分があるし,ソイルからすると立ち上がりが遅くてもやもやする.そもそも立ち上げ初期のソイルによるスタートダッシュに優れた水草ばかりがもてはやされてきたので,長期維持ソイル水槽や,砂水槽向きの水草は淘汰されつつあるのもまた然り.

さらに,システムを体系的に理解したショップによって誰でもできるパッケージとして市販されることがまだなされていないことからとっつきにくさがある.多分それに一番近いのはウイステリアやSONOアクアプランツファーム,80~90年代のADAなのだが,現在のアクア雑誌などで紹介されることは少なくなかなか情報に出くわすのは難しい.

というわけで,まだ一長一短といったところだろう.

 

将来的には?

ちなみに私の水槽はソイルが主だが,新品ソイル効果がバツグンに効く湿生植物に興味が偏っていることと,単に重量的な制約によるものである.沈水植物を育てるのであればうまく底床が出来上がった砂の方がいいのではと最近思うようになったが,砂,重すぎる.

赤玉土などをベースにした混合水草用培養土も試している方がいる.ソイルに比べてずっと安価で,重量では砂よりはるかに軽い点で優れているが,長期間使用性に関しては私は把握できていない.少なくとも水草の生育はすこぶるよさそうなので,今後の研究開発に期待したい.

ひとまず,アクアソイルアマゾニアが登場してから30年近くも殆ど進歩しなかった日本の水草水槽の底床はそろそろ変わる時期を迎えているのかもしれない.その間に積み重ねられたノウハウが新しいステージを作ることに期待している.