水草オタクの水草がたり.

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ミズタカモジ再考

ミズタカモジは水田畔に稀に生じるイネ科植物である。

当方の感想からいわせてもらえば、おそらくもっとも見つけるのが難しい水田雑草の部類ではなかろうか。(ほんとうの最難関はデンジソウ、タタラカンガレイ、スジヌマハリイだと思う)

水田畔に群生するミズタカモジ

 

当方はほぼ完全な乾田地帯であり、冬~春の水田ではネズミムギやホソムギ、シバムギ、ボウムギなどがスズメノテッポウ&スズメノカタビラの次によく出現する種である。運よく湿り気のある水田を見つけても、スズメノテッポウとカズノコグサでほぼ占領されており、ミズタカモジの姿を見ることはなかなかできない。

 

そもそもタチカモジグサのようなものを想定しながら探してしまいがち(アオカモジグサやカモジグサより自然度高めの、河畔の湿ったヨシ原や状態のよい水田脇などに出現する)なこともあり、ポイント開拓になかなか苦労した。

タチカモジグサ
たしかに穂は立っているが…
文字にするとまるで同じなので、滅茶苦茶紛らわしい。穂は柔らかい

 

カモジグサとその仲間は少し日陰っぽいところにも好んで生える印象がある(映っているのは殆どアオカモジグサ、時々タチカモジグサ)

カモジグサ。流水があれば抽水に近いことすらあり、水はまんざらでもない様子。とても紛らわしい。

渡良瀬遊水地に産するという情報を得たところ、記憶にあった草姿に繋がるものがあった。見に行ったところまさしくそれがミズタカモジだった。

 

ミズタカモジ

ミズタカモジ上にみられたウズラカメムシのペア

さて、渡良瀬遊水地におけるミズタカモジは、水田だけに生えているわけではない。渡良瀬遊水地内部の水田には生えるようだが、一般に水田の植物として書かれ、史前帰化植物であるといわれたりもする姿とは大きく異なっている。



このように、水位上下のある水域の、時期によってギリギリ水没する場所にのみ生育しているようである。生態はキタミソウやミズハコベ、オオアブノメといった減水により生じた裸地に生育する種に近そうだが、乾いたときにはしっかり陸地化する場所を好んでいるように見えた。

 

それではと思い、小規模ながらもキタミソウがみられる別流域のポイントに行って探すと、数株だけながらやはりミズタカモジがみられた。

キタミソウ
関東では水位変動が1m以上ある富栄養な水域でみられる種。環境指標によさそうだ

 

味をしめたので、また別のキタミソウがみられるポイントに行ってみた。

今度は沢山いた。ここでは水位が上がるのが急激かつ大胆なので、種子が熟する前になんと全草が水没していた。

水没したミズタカモジ

大多数の個体が水没してしまっており、かつ未熟だった。今後どうやってこの個体群が生きていくのか不思議でならない。そもそもミズタカモジは結実数もかなり少ない。水没したまま種子を完熟させる機構でも仮定しないと、個体数が保てるようには思えない。ここは成長はほぼ完全に陸地だったころに行い、結実直前に水に没する場所のようだ。

 

もっといってみよう。また別水系でキタミソウが出る場所。

セトガヤ、ミズタカモジ、カズノコグサのそろい踏み。やはり水没しかかっているし、沖合にはすでに水没した個体も見られた。クサヨシが多くなってきており、今後クサヨシ群落に呑まれないか、注意が必要だろう。

 

 

 

さて…ここまで見てきて思ったのは、おそらくミズタカモジは水没耐性型の渓流植物的特性を持っているのだろう、ということである。少なくともある程度以上の水生適応があると考えざるを得ないし、先行研究においてその耐湿性について調べられてきたのも納得である。

そして、生育自体は陸のほうがよいものの、おそらく発芽には一定期間水没する必要があるのではないだろうか。通例コムギ連の種子は水没に弱いので、他の近似種が同所的に生えてこないという効果があることは見込めるが、こうした水位変動地におけるミズタカモジ群落に他のコムギ連イネ科が被る様子があまりないことは説明できても、完全に陸地にミズタカモジがまったく見られないことは説明しがたい。

 

水田においても、ミズタカモジがみられたのは水に接触する辺縁部か、もしくは畔塗によっていったん水没した泥が陸に持ち上げられた場所であるように見えた。

また、畔塗をしていない場所では水田の際までカモジグサやアオカモジグサが進出し、すぐ隣の水田ではよくみられるミズタカモジはまったくみられなかった。逆も然りで興味深い。

 

さて、ミズタカモジが本来水位上下の変動により生じた”春は陸だが夏は水中”の環境を好むのだとすれば、水田によく適しておりかつてはよくみられたことが伺える。しかし、なぜこんなにも少ないのだろうか?

いそうな環境はあっても、なかなかいない…というのは、かつてはいたが滅んだか、もしくはもともといなかったかである。私にはむしろ後者のように思えた。ミズタカモジの種子は6㎜もあり、ちょっとした穀物なみのサイズ感がある。種子の拡散能力は低いはずであり、かつて氾濫原…というか水位変動による裸地のできる場所から外れたところには分布していないのだと思われる。

となると…

史前帰化種とする説はきわめて怪しくなってくる。

まず帰化にしても拡散能力の乏しい種が、とくに動機もなく(作物だったとかそういう記録もない)日本全国にいくだろうか。

それに日本には元々ミズタカモジを支えるような水位上下の激しい水域があり、コカイタネツケバナなど独自の種を生み出すほどのスペースとニッチがあったことを踏まえると、ミズタカモジもまた日本に元々いたのではないか、という気はしてくる。そもそも、栃木などでもミズタカモジが水田でもなんでもないところから報告されていて、水田依存も水位変動依存もキタミソウほど激しくはないのかもしれない(多分私もないのだと思う)。

但しこれは夏雨ばかり降って冬はカラカラに乾き、河川の水位はほおっておけば1~2mも上下する関東平野での話であって、冬と夏の降雨量がさほど変わらない西日本などでは史前帰化種的な性質を強く帯びているのかもしれず、水田に依存する(?)西と自然環境にも多く見られる東の遺伝的比較がなされても面白いテーマかもしれないと思った。

 

*追記

ミズタカモジは水田の泥中で”草体で”越夏し、春になると出てくるのだという。

とすれば結実する前に漉き込まれても特段問題ないのだろうし、キタミソウ的な生活史であることはほぼ明らかである。