水草オタクの水草がたり.

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水生植物(浮葉植物、抽水植物)の育て方

夏が近づいてきました。

店先で水生植物を見かけることが多くなる季節ですし、採集に行かれる方も結構いらっしゃるのではないかと思います。今回はザックリとですが、水生植物の中でも抽水植物と浮葉植物にフォーカスして、栽培について書いてみようと思います。

*本記事はビオトープやメダカ飼育を行うこともできますが、基本的には植物栽培のみを目的として「栽培」を行うことに特化した内容となります。

抽水植物、浮葉植物は水草の中でも特に育てやすいものであり、かつ園芸植物として最も容易に育てられるものです。

全日照が確保できる場所と大きめの水が張れる容器があればだれでも育てられます。

育て方…といっても

「水に沈む土を入れる、肥料を入れる、水を張る、植える」

「水がなくならないように、時々足す」

「増えすぎたら間引いて追肥する」

以上のことが殆どないのですが…やりがちな失敗や、問題が生じたときのトラブルシューティング用に長い記事を書きました。

 

  • 選び方

 まず、屋外で管理された水上葉を買うべきです。温室内であってもできるだけ全日照を当てられているもの、鉛巻き水草なら入荷当日がベストです。なぜなら屋内で栽培されているものは屋外に出すにあたって日照順化をおこなう必要があり、非常にリスキーかつ困難なためです。屋外管理の水上葉であれば有茎草はポットでも鉛巻きでも構いませんが、ロゼットはポットの方が無難です。根がついた水上葉であれば比較的直射日光に耐えられます。

次に、ミズメイガがついたものを持ち込まないことが重要です。葉を見回し、同じ売り場でも葉が食いちぎられて綴り合せた巣のようなものがあったら購入を見送るか、入手後速やかにモスピラン水和剤に漬け込まなければ、あっという間に周囲の植物まで食い尽くされてしまいます。モスピランはエビに対して即死させる効果はないものの数日かけて効いてしまいますが(死亡まではいきにくいが動きが鈍くなる)、魚にはほとんど毒性がないようです。前処理として浸潤したものを洗って導入する分にはエビも大丈夫なようです。ミズメイガが水上部につくことは無いので、有茎草でポットを買った場合は、水上部だけを切り取って挿し木すれば持ち込むことは無いです。

 

日照順化について

全日照で育てられた新鮮な株を入手するのが最善と書きましたが、どうしても日照順化を行わねばならない場合は、栽培容器の上に鉢底ネットをかけるなどして遮光したうえで外に出し、根を張って新しい葉が出てきたところで覆いを外して全日照に出します。裏庭やベランダなどがある場合そういったところで順化するのも有効です。しかしこうした遮光下や裏庭、ベランダなどは本来栽培不適環境ですので、通常よりかなり弱体化させてしまうことになります。こうしたことから、私は毎年日照順化で何かしらをだめにします…。

 

温度と置き場所

 雨ざらし全日照が最適です。

抽水植物は基本的に、ある程度の大株になってしまえば暑さにはめっぽう強いです。水温40度程度でも生育するものが殆どです。

日なたの湿地は北でも南でも猛烈な直射日光が照り付け暑いものですが、そのため多くの抽水植物は日陰が大の苦手です。一応生存するものが多いですが、アブラムシなどの被害が多くなります。特にベランダなどでは雨水が直撃しないためアブラムシ被害が深刻です。

栽培自体にあたって遮光することにメリットは何もないので、山野草愛好家が使うような遮光ネットを用意する必要も、矛盾した日本語である「明るい日陰」を探す必要もありません。もし室内で育てる場合には用意できるだけ強力なライトを用意してください。弱すぎて枯れることはあっても強すぎて困ることはありません。

ベランダ栽培で最大の障壁は雨ざらしにならないことにより、害虫の発生に歯止めがきかなくなることです。ベランダで栽培する場合はアブラムシ、ハダニ、アザミウマ等の対策に上から散水し洗い流すとよいです。ただし、沈水植物は適度に遮光されるベランダの方が栽培しやすいこともあります。

 

北方種は遮光すべきか?

北方系の種であっても成熟した株であれば生育可能なものが多く、夏の前半に大量の肥料で成長を促進してやれば夏を越すことができるものが多いです。これは夏の湿地に行ってみればよくわかることです。いかに北方であれども、止水の浅い水域はお湯のような水温となり、これに耐えるためには耐暑性が必要なためでしょう。また、夏に代謝が上がった状態で肥料切れになるとダメージを喰らいやすいです。

但し、北方種は実生から出たての幼株がしばしば弱く、これをいかにクリアするかが栽培の要となります。(私は未だに苦手)しかしこれに関してもやはり株の充実が第一であり、西日のみ遮る、容器を白っぽくかつ大きくするなどで地道に温度を下げるべきでしょう。

 

栽培に必要なもの

水生植物は基本的に「植木鉢に水をためて育てる」ものなので、容器、用土、水が必要です。

容器

容器について、できれば大きいものがよく、30Lほどあると育てられるものの範囲が広がります。できれば黒でない容器のほうが水温の上昇を避けられ栽培に有利な印象があります。一般に、沈水植物は水温上昇を避けた方が無難です。(溶存二酸化炭素量は水温に反比例する)

水深は種により調整します。浮葉植物などは深い方がよいのですが、浅く育てたものを深いところに導入するとすぐ見た目が締まるのですが逆をやると葉柄が水面でとぐろを巻き見苦しいので、展示やレイアウトなどに使いたいのなら浅く育てたほうがよいでしょう。ただ深いほうが水温水質とも安定するので、深い容器にかさ上げして(方法は問いません)上に鉢を置いて植え付けるのが無難です。小型の湿生植物(湿地系ホシクサとか食虫植物とか)の場合はトロ船+浮舟式栽培箱(発泡スチロールの底に穴をあけ、そこに用土を盛って水位ヒタヒタで管理する)が有効です。箱により遮光されるので水温を若干下げることもできます。

 

タライ、トロ船

万能容器30Lおよび45L、各ホームセンターのタライ、トロ船などがコストパフォーマンスに優れます。但し黒っぽいものが多く、価格面で妥協の要素はあります。

当方ではコストパフォーマンスの面で万能容器30Lと45L、また緑のトロ船(黒より緑の方が栽培成績がいいです)をよく使っています。ただ入手性からすると黒のトロ船を使わざるを得ない場合が多いのもまた事実です。饅頭箱や漬物樽のようなものは使いやすそうですが案外高額で、見た目もかなり悪いことから当方では使用経験がありません。(使っていい成績を出しているのは見ます)キングタライなどは栓の耐久性が問題なければよい定番容器なのですが、類似品には時々、じわじわ漏れる製品があります…。栓のない大型角型タライも一部のホムセンには売っていて重宝していたのですが、絶版になってしまいました。

スイレン

スイレン鉢を使う場合、設置した後に動かせるかどうか、設置後の耐久性、そもそもの大きさが最も大事です。Charmの直径44㎝鉢は塗装しておらず軽量、安価かつ大型なのでお勧めです。よく売っている小さくて黒いものはかなり使いづらいです。(あれで育てられるのはドウベンかミロク、あとは小型の抽水植物くらいでしょう…。)

塗装してあるタイプのスイレン鉢は塗膜が経年劣化してはがれてきたりしますし、軟質のものは傾けて水を捨てる時に歪んでぐにゃぐにゃします。あとは単純に…丸い容器は非常に土地効率が悪いです。箱状のもののほうがいいです。陶器製のものは長持ちしますが、置いたらもう滅多なことでは動かせないので…。

プランター、植木鉢

プランターや栓をするタイプの鉢(カスクポット等)を使う人もよくいますが、事故で栓が抜けたときが悲惨なので使っていません。小さい湿生植物の場合は私も使うこともありますが…。安価なのがメリットですが容積対価格では万能容器やトロ船とそう変わらないです。

・衣装ケース

おすすめしません。NFボックスなどの半透明衣装ケースは直射日光に弱く、3年ほどで割れるのでやめておきましょう。割れて手を怪我します。

冬の使い捨て簡易温室には使えます。

用土

沈水植物とハス以外の水生植物はあまり用土を選びません。基本的に「水に沈みさえすればOK」というレベルには適当でよいです。欲を言えばよく練った方がいいとか、堆肥を熟成させて…とかありますが、少なくともそうしないとうんともすんともいかない、という例は聞きません。他の土を使うにしても要するに沈めればいいので、上から重い土を加えてやればOKです。

園芸用土を覆土する方法

当方のメインは有機培養土+マグァンプKの上から分厚く赤玉芝の目土OR川砂で覆土する方法で、沿岸性のものには覆土にボレー粉を混ぜています。安価に仕上げられるのがメリットです。(参考価格:有機培養土:14Lで150円、赤玉芝の目土:20Lで300円くらい)肥料に関しては検討の余地があります。(たとえば稲作用コーティング肥料など。)

ソイル

使用済みソイルはとても良い用土で、根腐れに弱いミズトラノオなどでも安心して使用でき、さらに洗って再利用できるなどかなり多くのメリットがあります。正直いえば、買い入れしたいくらいです。新品は価格面でメリットが皆無です。

水稲育苗用土

水稲育苗培土も使いやすいですが、品質や特性がピンキリです。それでいて最低単位が24Lなので、ヘビーユーザー向けです。(参考価格 24L 500円)

肥料いらずな製品もあるので全部植え替えると300Lくらい必要な人にはとてもよいです。全部とっかえ、はしないけれど…これも覆土に使ったり、単用でよかったりと性質が様々で実物を見ながら選ぶ用です。水に浸すとものすごいグリーンウォーターになるだけでろくに草も育たない製品もあるのでご注意。

イネ科にはCaが足りない製品が多いので、草体が軟弱と感じたらボレー粉を入れます。

荒木田土

荒木田土などの泥系用土はよく使われるしうまく使えばよい栽培結果が得られるのですが、安定するまでは濁りが出やすく、さらに十年単位で使用するとガチガチに硬化し土壁のごとき耐久性を発揮してとても厄介です。栽培難種に対して用法用量に注意して使うのが良いでしょう。また、アゼナやイヌホタルイ、アメリアゼナアメリカタカサブロウ、ミゾハコベあたりがほぼ必発で侵入してきます。生態系を乱す恐れがあるので屋外遺棄なども避けたが無難です。一部、泥系や間の詰まった砂系のほうが根の発達が明らかに良い種があるので(例えばエキノドルス)、そうしたものを植えつける際に特に有用です。またガガブタなど泥系用土に接触した状態で冬越しすると腐りやすいものもあるので、一長一短な用土です。

田土

水田の土は荒木田土よりは軽く固まりにくいものが多く、最高の用土ですが入手性が悪いです。以前使わせてもらったことがあるのですが、何でも簡単に大きく育つので農家の知り合いがいる人は本当にやりやすいだろうなあと思いました。ただし土から色々生えてきたり湧いてきたりしてビオトープ化しやすく、何を育てているのかわからなくなる危険があります。勿論ですがカブトエビの出る土は実生に使えません。ホウネンエビなら水も澄むしボウフラ抑制するので大歓迎なのですが。

 

沈水植物と違って抽水植物や浮葉植物は水を選びません。あまり考えなくてよいです。

夏場はかなり水が減るので、水道からホースなどでアクセスのいい場所が望ましいでしょう。夏場は気にせずバシバシ水をやって大丈夫です。

 

植えつけ

用土にもよりますが肥料が水中に露出するとグリーンウォーターになりやすいので、肥料を用土で蓋するようなイメージで組むとよいです。用土は深い必要はなく、殆どの種は5~10㎝あれば大丈夫です。内鉢を入れる場合、肥料溶出と藻類防止のため鉢の底は塞ぐことが基本ですが面倒なので放置していることも…。

内鉢を入れるかどうかはかなり植物によります。ひっくり返してリセットできない容器の場合、管理のためにほぼ必須です。しかし、直接土を入れて多種混植したほうが安定することがおおいのもまた事実…悩みどころです。鉢管理でも結局ランナーなどで混ざるし後が大変なので、最初から土を入れて混植してしまうのは結構ありなやり方です。

 

管理

 

管理はシンプルで、水が干上がらないように水を足すこと、沈水植物がいる場合は気まぐれに水替え、追肥、あとは間引きくらいでしょう。このうち一番大事なのは間引きで、増えすぎは崩壊のもとです。ぎっちりにならないように、葉が黄色くなったりしてきたらまず増えすぎを疑うようにした方がうまくいく印象があります。ミズメイガの巣が浮いていないかだけは目を光らせ、オンブバッタは見かけたら除去しましょう。

追肥は水が濁るので敬遠しがちですが、夏の成長期はわりと強気で行った方がうまくいく印象です。9月半ば~10月以降の衰退期に追肥はしません。

根茎や殖芽で越冬する種の場合、越冬芽はバックアップとして何も用土を入れない容器に沈めておくと越冬トラブルを防止できます。

 

害虫について、追記。

ミズメイガ類

ミズメイガの脅威についてかなり強気に書きましたが、なめていると本当に草が全滅します。もとから水中の生き物かつメダカなどの魚が殆ど捕食しないので、狙って生物的な防除を行うのは難しいです。

持ち込まないこと、そして早期発見早期防除が重要です。

現状ミズメイガ類が豊富な湖沼は限られてしまっており珍しい昆虫になりつつありますが(ウキクサを主に食べるヒメマダラミズメイガは別、これは被害はまあ、数株が葉を食い尽くされて枯死するか…程度)、生息する湖沼で水草を採集するとしばしばくっついてきて、早期の駆除を怠るとバケツ一杯の水草が一週間で食いつくされ唖然とすることがあります。野外では猛烈な水草の増殖速度でカバーしているのが、輸送や栽培の問題、根付くまでのタイムラグなどにより増殖速度が落ちたため…と思われますが、野外ですら群落が食い尽くされていくのを見ることもありこのあたりは釈然としないです。

トラフユスリカ

トラフユスリカも被害がひどいことがあり、浮葉植物スイレン育種家の間では忌み嫌われています。葉が線状の虫食いだらけになり、特に小さいスイレンガガブタ類は葉が食われて全滅に近いことがあります。ただトラフユスリカは未熟な有機質(堆肥とか)を入れすぎたときに出やすく、またメダカがよく食べるので対処のしようもあります。

アブラムシ、アザミウマ、ハダニ

アブラムシ、アザミウマ、ハダニに関してはだいたい陸生植物に準じます。陸生植物に比べれば被害は軽微な印象で、雨ざらし管理を徹底すれば全滅まで至ることはほぼないです。

オンブバッタ

オンブバッタはたしかに食害量も数も多いので地道に駆除するべきですね…書くのを忘れていました。特に好む水草が一部あるので、(ミズトラノオやミズキンバイ)囮に使って守りたい植物の被害を押さえることは一応できます。ただ被害の規模はミズメイガに比べればかわいいものです。

イモムシ・毛虫

イモムシ・ケムシの類はかなりつきにくい印象です。その他害虫として、鱗翅類ではないですが、カブラハバチがミズタガラシを食い尽くすのはよく起きるので気を付けてください…。

ハムシ類

アカバナ科ロタラにはアカバナカミナリハムシが、また他の水草にもジュンサイハムシがついて食い尽くすことがあります。水草なので水没させるか、手で除去するか…と言ったところです。決定打になる駆除法は今のところ持ち合わせていません。

その他特殊な害虫

特殊な害虫としてはホシクサ類の果実を食害するコホソハマキの類でしょうか(スズメノトウガラシの実を食べるのもコホソハマキなのかは未同定ですが、これも被害甚大になることあり)。果実食いですがふつう全滅まではいかないようです。ただ糸を吐いたり総数が少なくなって、採種がかなり難しくなります。

カルガモ

敷地が広い場合、深刻な脅威です。当方では現状最大の脅威で、着陸を許せば草を食い尽くす上に糞をしていって水質が壊滅します。

基本的に着陸点/着水点から歩行・遊泳して首を突っ込んで食べる生き物なので、害獣ネットで囲うのが有効なようです。

イネなどの場合はスズメの食害が洒落になりませんが、これはちょっと別ジャンルの話なので今回は害虫として扱いません。