スイレンほど一般的に知られつつも、理解されていない植物はなかなかないだろう。園芸店レベルですら、赤白黄色と、大きいのと小さいの、あと斑入りがある・・・くらいの理解であるように思う。また、スイレンを育てたことがある人はそこそこいると思うが、スイレンを咲かせた人はおそらくそこまで多くないのではないだろうか?
温帯スイレンは実際にどのような交配と歴史を経てきたのか、きわめて謎が多い。園芸業者や趣味人も情報をあまり持っていないことが多いし、そもそもその基礎がよくわからない。IWGS (International Waterlily & Water Gardening Society)のサイトは非常に充実しており、どの品種がいつ誰によってどのような交配で生み出されたかが整理されている。しかしながら大元を辿ってみるとたいてい、不明品種x不明品種になっていて、どこからか“湧いてきた”品種がひじょうに多い。つまり、枝葉は追いかけられたとしてもその原点が殆ど不明である。
さらに、現在国内で多く流通している各種園芸スイレン…古くから「白」とか「赤」とか「姫スイレンの赤」などと慣用的に呼ばれ流通してきたものが、いったい西洋のどの品種に相当するかもはっきりしない。
こうしたカオティックな状況は研究者の間でも同様である。後述するが、温帯スイレンは原種の時点で複雑怪奇な遺伝構造をしているうえ、互いに遠縁な種でも不完全に稔性を保ったまま交雑することがしばしばある。つまり交雑種のF2以降が発生するということであり、通常の方法で遺伝子解析を行ってもその起源を探ることは困難を極める。さらに、もととなるサンプルが世界中に帰化した温帯スイレン品種によって汚染されている。たとえばN. alba var. rubraがN. odorataとN. albaの交雑である…とする文献はよく引用されているが、元となった文献の写真をみるとN. alba var. rubraにはみえない。帰化したほかの園芸スイレン品種であろうと思っている。(論文中の経緯からすると初期の園芸スイレン品種だとは思われるが、1900年代に知られていたN. alba var. rubraとは花色も葉の形も異なりN. odorataの関連を疑わせる代物である)ヨーロッパには原種温帯スイレンのN. alba(広義)が分布するが、これも園芸種の温帯スイレン(特にx marliacea)に置き換わりが進んでいる。
今回はもっとも世間一般によく知られているものの、きわめて謎めいた温帯スイレンを少しでも理解すべく、温帯スイレンを深堀りする記事を書こうと思う。
1.スイレン属のなかでの温帯スイレン
スイレン属 Nymphaeaは世界にかなりの種数があるが(雑種含めると65種【Plants of the world onlineより】)、大きく分けて4つのグループに分けられる。
グループI 心皮は互いに融合する(Nymphaea syncarpinae)。
昼咲き。花柱は舌状。外側の雄蕊は花弁と連続的に変化する。がくの脈は不明瞭。
・・・Nymphaea subg. Nymphaea
温帯から亜熱帯に数種が分布するが、分類には改善の余地が多い。昼咲き。花色は白が基本で、N. mexicanaのみ黄花である。赤花はN. odorataとN. albaにみられ、うっすら赤を帯びる個体はN. tetragona種群にもみられる。
基本的に4グループにわけられる。ヨーロッパ産のN. alba種群、北米南部で黄花、ランナーでふえるN. mexicana、北米産で根茎がひじょうに長いN. odorata種群、株別れを全くしないN. tetragonaとその近縁種群である。スイレン全般に言えるが同種内にも染色体数の違う個体群が多く、同一種内での雑種に稔性があるとは限らない反面、異種間交雑種もしばしば稔性をもつ。
夜咲き。花柱は棍棒状。外側の雄蕊は花弁と連続的に変化する。がくの脈は不明瞭。
・・・Nymphaea subg. Hydrocallis
ランナーで増殖する新世界の熱帯性小型~中型種。花はすべて白花だが、雄蕊が赤くトケイソウのような幻想的な趣をもつものが多い。厳密に夜咲きで開花時間は短いが、濃厚な香りをもつ。種数はひじょうに多く、超小型種や沈水性種(N. oxypetala)、花から殖える種(N. proliferaとN. lasiophylla)など花以外に奇抜な特徴をもつものが多い。アクアリウムで原種がよく流通するものの、改良はまだ未開拓のグループである。
不完全な夜咲き。花柱は線形でがくは明瞭に脈が入り、葉は明瞭に切れ込む。花弁と雄蕊の区分はふつう、明瞭。葉は鋭く鋸歯状。
・・・Nymphaea subg. lotos
ランナーで増殖する熱帯性大型種。花は白花もしくは赤花、ピンク花。アフリカとアジアにだいたい3種があるが分類には検討の余地がある。基本的に夜咲きだが咲く時間は適当で、夕方に開いていたり朝に開いていたりすることもよくある。葉は直径30㎝を超えることが多く、かつ冬場の加温を必要とするため園芸的には扱いづらい。戸外で育てられるのは八重山以南である。すべて浮葉性であるが沈水葉が他の種に比べると立派なので、アクアリウムではN. rubraとN. lotusがよく扱われる。N. pubescensはほとんど流通しない。
グループII 心皮は癒合しない(Nymphaea apocarpinae)
Nymphaea subg. Brachycerasとsubg. Anecphya
熱帯から亜熱帯に分布する数種~十数種。昼咲きで球根性。従来分けられてきたが互いにかなり近縁らしく交配も容易であり、園芸的にも球根性でランナーを基本的に持たないこと、青花がふつうにみられること、熱帯性で昼に開花することなどの共通点が多く、海外ではともにTropical day bloomerと呼ばれる。
種数はひじょうに多いが、BrachycerasではN. nouchaliとその近縁種、葉の中心にムカゴを作るN. micrantha、水中でも開花結実する小型種のN. dimorpha、湿生に近いN. thermarum、AnecphyaではN. giganteaやN. immutabilisが交配によく使われる。沈水性種も2種ある(N. purpureaとN. divaricata)。
今回は、A. のNymphaea subg. Nymphaeaについて扱う。
2.温帯スイレンが属するNymphaea subg. Nymphaeaの同定形質
さきほどスイレン属を4つに分けた。つぎはN. subg. Nymphaeaをもっと深堀りしてみよう。
これらの種群は以下の特徴を併せ持つことによりほかのスイレン属から区別される。
・花はすべて昼咲きである
・萼の脈ははっきりしない。
・雄蕊は最外側が花弁状で、中心に向けて緩やかに雄蕊状に変化する。花弁と雄蕊の境界をつけることは難しい。
・最内側の雄蕊は細い花糸をもつ。花柱は線形で舌状である。
・葉は全縁から緩く切れ込み、鋭く鋸歯状となることはない。
・根茎は乾燥に耐えないが寒さに耐える。
・草体は根茎、葉柄と花柄の基部を除いて無毛。
・種子は平滑(あと基本的に乾燥に耐えない。)
但し、他の亜属のスイレンは見た目上あきらかに温帯スイレンの特徴から外れているので、ふつうはわざわざこれらの特徴を確認するには及ばないとは思う。ただし亜属間交配が疑われる品種(例えば黄色系の熱帯スイレンとか)に関して、チェックしてみると楽しいかもしれない。
Nymphaea subg. Nymphaeaにおいて、N. mexicanaが他の種からあきらかに異質であることは疑いようがないだろう。この種は黄花であるだけでなく、亜熱帯性で耐寒性が弱く、斑入りの葉や長いランナーを持つなど、subg. Hydrocallisにやや似た性質をいくらかそなえている。N. mexicanaが最も早期に分岐した温帯スイレンであることは分子系統的にも裏付けられている。では、N. mexicanaの特徴を見ていこう。
Nymphaea mexicana
・花は黄色、直径6~13㎝、水面で咲くこともあるが高さ5~12㎝で咲くこともある
・正午に開き夕方に閉じる(11時~4時)
・芳香は弱い
・葉柄は直径3~6㎜
・がくは4枚
・花弁は12~23枚
・雄蕊は最外側が最初に裂開し、およそ50本、花粉は平滑
・花托には4稜あり、うち2つがより明瞭
・種子は非常に大型、4~5㎜
・水位が減少すると抽水形になる
・葉の縁は波状、赤褐色の斑紋をもつ。裏側は紫色、抽水葉で緑色
・花柄の気室は4、葉柄の気室は2
・葉柄および花柄の異型細胞は星状のみ
・根茎は直立型で短く、多数のストロンをのばして夏季に増殖する
・秋になるとストロンの先に短い根と葉からなる、バナナプラント様の殖芽を形成する
・フロリダ~テキサス南部、メキシコに分布
つぎに特徴的なのはヒツジグサとその近縁種である。
Nymphaea subg. Nymphaea sect. Chamaenymphaea
・花は白、時に薄いピンク色、正午に割き午後に閉じる。
・最内側の雄蕊が最初に裂開する
・種子は中程度の大きさ、2~3㎜
・花柄の気室は4、葉柄の気室は2
・葉柄および花柄の異型細胞は星状のみ
・根茎は直立型で短く、子株を作らない
所謂ヒツジグサ類であるが、ふつう園芸の原種につかわれているのは(東アジアの)ヒツジグサだろう。1805年に東インド会社がイギリスに中国から持ち込んだとされている。
この仲間は葉の裂片が外側に反る傾向が強く、野外で見かけた際やその血を引く品種の参考になる。N. candidaにもこの性質がやや受け継がれる。
また、葉は薄くしばしば葉脈が白く抜けて非常に目立つ。
N. albaとN. odorata
ヨーロッパのN. alba とN. candida(同種とする意見も多い)、北米のN. odorataとN. tuberosa(同種とする意見も多い)は一見きわめてよく似ている。
あくまで基本はヨーロッパのN. alba、北米のN. odorataであって、N. candidaはN. tetragona(ヨーロッパのものはN. fennicaとも)、N. tuberosaはN. mexicanaの関与があるとする説が有力である。
さて、N. albaとN. odorataには花弁数がN. odorataの方が多いこと以外、花に殆ど特徴がみあたらない。根茎の長さと葉の密度、および葉の切れ込みの深さがN. albaの方が深く薄く大型な傾向があり、N. odorataの葉は厚くより革質で比較的小型、横長で切れ込みが浅い…などの形質で区別ができる。
但し、園芸品種が極めてカオスな状況にあるので両者の区別はかなり困難である。
N. odorata
・花は白、時にピンク色, 直径7~12(15)㎝(odorata)、白、10~23cm(tuberosa)
・3~4日にかけて朝6時~12時に開花する(odorata)8時~1時に開花(tuberosa)
・強い甘い芳香をもつ(odorata)弱い芳香をもつ(tuberosa)
・最内側の雄蕊が最初に裂開する
・がくは4、開花後は腐る
・花弁は楕円形で23~32枚(平均27)(ssp. odorata)、さじ状(tuberosa)
・雄蕊は55~106(平均79)、花粉は有棘~結節に覆われる
・雌蕊は13~25、平均17
・種子は中程度の大きさ、2~3㎜
・花柄の気室は4、葉柄の気室は4
・葉は根茎に疎らにつく。葉は円形、革質で全縁で切れ込みは他種に比べて浅い。葉裏は紫(odorata)、緑(tuberosa)
・浮葉の葉柄は直径3~5㎜で弱弱しいが水位が低くなると抽水形をとる。葉柄は緑(odorata)、縞模様を持つ(tuberosa)
・葉柄および花柄の異型細胞は二放射状のものが多く含まれる
・根茎は直径2~3㎝、長さ30㎝~1m、横走し匍匐し、分岐する。
・分岐は少ない(ssp. odorata),多数分岐し容易に分離する(ssp. tuberosa)
ぱっと見て最も特徴的なのは革質で先端が凹むことが多く、切れ込みが浅く横長に近い葉である。しかし典型的な個体ばかりでもないようだ。次に特徴的なのは細長い根茎である。
N. alba(およびN. candida)
・花は白、時に中心部にかけて赤。直径10~12㎝ 朝7時~夕4時に4日間開花。1日目のみ僅かに香りあり
・がくは4、結実期は腐る
・花弁は楕円形で12~24枚
・最内側の雄蕊が最初に裂開する
・雄蕊は64~100~、花粉は有棘~結節に覆われる
・雌蕊は8~24
・種子は中程度の大きさ、2~3㎜
・花柄の気室は4、葉柄の気室は4
・葉は円形、切れ込みは深い。葉は根茎に密につく
・葉柄および花柄の異型細胞は二放射状のものが多く含まれる
・根茎は横走し匍匐し、太く短く分岐する。
*上記はN. albaの特徴である。N. candidaはN. albaに酷似するが、花弁の基部の形状および葉脈の入り方で区別される。但し、その特徴の殆どはヒツジグサ類(ヨーロッパなので”N. fennica”とよばれるもの)とN. albaの中間形といった様子。
3.始祖のパレット
さて、園芸スイレンの開祖はLatour Marliac(以下マルリアックと呼称)であり、有名なモネの「睡蓮」シリーズを描かしめたモデルを提供したのも彼である。(モネの睡蓮シリーズは当時としては流行の最先端、最新鋭の品種を描いたものである)
さて、マルリアックが何と何を掛け合わせて最初期のスイレン品種群を作ったかに関しては、謎が多い。
しかしながら、マルリアックが最初期に作ったF1品種群から両親種の特徴を読み取ることで、だいたいの予想はできてくる。
例えば、‘ヘルボラ‘は非常に小型で根茎が伸びない点でヒツジグサ、花弁の先端が少し突出し黄色味を帯び、葉に模様を持つ点でメキシカーナの特徴を併せ持つ。
レイディケリ・ロゼアもヒツジグサを片親としているが、花の中心部にいくにつれ濃い赤になり、黄色い葯が目立つようになる点や、葉に強い赤みを帯びる点はスウェーデン原産であるN. alba var. rubraの特徴をよく表している。
オドラータ・ルブラ(正式にはN. odorata var. roseaだがマルリアックはそう呼称した)は1890年代にCape Codで採集されたもので、これはマルリアック農園に原種のまま生存している。全体にピンク色の睡蓮であり、同じく赤いN. alba var. rubraが花の中央部にかけて赤に染まっていく様子とはかなり異なる。
ツベローサ・ロゼアはオドラータ・ルブラとN. tuberosaを交配したものであると伝わっている。ほんのり黄色っぽいのはN. tuberosaに潜むN. mexicanaの血ゆえだろうか。
さて、特徴がハッキリするものだけでも、マルリアックが持っていた園芸スイレンは以下のとおりである。
- alba var. rubra
- tuberosa
- odorata rosea
- tetragona (pygmaea)
- mexicana
また、マルリアックが作った白花品種群はN. odorataやN. albaが絡んでいるのは間違いないが、これらは同定が難しいので一旦保留する。但し普通のN. odorataやN. albaを持っていなかったわけがないのは、それはそうだろう。また、N. odorataの小型変種であるN. odorata minorなども早期から知られていた変種であり活用されたことだろう。N. candidaも絡んでいる可能性は高いが、これも痕跡から同定が難しく保留する。
マルリアックが登場するまで、スイレンと言えば白しかなかった。しかしそこに赤と黄色を持ち込んだことがマルリアック最大の功績である…と思われる。
しかしながら。マルリアックの交配種は一部系統において、きわめて侵略性が高い種も生み出してしまっている。
野外や野池でよくみられる園芸スイレンはたいてい、短めの根茎から葉が密に出ながら複雑に分岐し、折り重なるように増えていき、葉は非常に大型で深く切れ込み、少しだけ斑が入って花は大抵白かサーモンピンクで、池の水を干上がらせるまで増殖を繰り返し、水がなくなるとコウホネのように葉を立ち上げて上に積み重なっていく…といったものだろう。
こうした品種群はN. x marliaceaと呼ばれることが多いが、その由来ははっきりしない。
どうやら葉が大型で密につくN. albaをベースに、繁殖力旺盛で他の種にかけると盛んに分球する性質となるN. mexicanaがかかったものらしい。また、N. odorataとN. albaの中間的な品種もあるし、どうも3種全て混じっているくさいものもある。
スイレンの遺伝は複雑怪奇である。
種内において染色体数が大きく異なり、同種間でもしばしば生殖隔離が発生しているわりには、全くの別種と交雑してその子も雄蕊なり雌蕊なりに不完全な稔性を残すケースが多い。したがって、初期の交配品種をベースにして、さらに上に積み重ねるように交配が進んでいる場合が多いようだ。これが園芸スイレンを必要以上にカオスにしている原因とみられる。また、殆ど同一の交配でも違いが出たり、交配種と原種をかける、種親が別個体・・・などで生み出された品種も多いと思われる。またほかの園芸植物に比べ、狙って交配しにくいという面もカオスの一因となっているのだろう。
4.原種の残り香
次に、各原種の血が入るとどのような性質になるか…について、ザックリではあれば述べてみようと思う。
N. mexicana
mexicanaが入ると出る特徴は
・花が黄色っぽくなる
・花弁の先端が少し突出し鈍頭
・葉に模様が入る
・よく分球する
に集約できると思っている。
mexicana x odorata
mexicanaは野外でもN. odorataやN. tuberosaと交雑する。こうした自然交配種はN. x sulphurea `Okeechobee`などが流通しており、N. mexicanaの色合いを強く残しつつも葉色が淡く根茎が盛んに分岐して増える…といったものになる。
N. mexicana x N. pygmaea
両種は分布が被らないので自然交配はないが、両種の雑種であるヘルボラは極めてよく流通する(姫スイレンといえばヘルボラである)。小型の葉にN. mexicana由来の赤褐色の斑が入り、根茎が伸びないのに盛んに分球する。分ケツの性質がひじょうに強いのはN. mexicanaの血が入った特徴なのだろう。
N. mexicana x N. alba
マルリアック型とよばれるような短い根茎でよく分岐するスイレンになるようだ。多く分岐し殖やしやすく扱いやすいので、花色よりも扱いやすさ目的にメキシカーナの血を入れていたのかもしれない。
N. tetragonaとその近縁
N. tetragonaとその近縁種は花にはあまりはっきりした特徴がないが、葉の切れ込みが外側によく開くことはかなり印象的である。また、根茎が伸びにくく分球しにくいものが多い。小さくする目的で交配されていることが殆どで、小型品種でその面影があることがある。
N. alba
N. alba自体に特徴はあまりないが、N. alba var. rubraはひじょうに特徴的で花の中央部が赤くなっていくパターンは多くの古典的な赤系園芸スイレンにみられる。根茎が黒く太短く、コンパクトである性質はN. albaから来ているものが多いと思われる。また、正円に近い葉(N. odorataのように型崩れしない)も特徴的である。
N. albaはそもそもが鑑賞に適したスイレンなので、原種も時々流通する。
N. odorata
花上がりが悪いが、弁数の多い花が咲き性質的に頑丈である。ロングリゾーム型とよばれるような、根茎の長い品種はN. odorataの影響が強い。現在、花の全体がピンク~赤に染まり、花弁数が多い睡蓮の大部分はN. odorata var. roseaをもととしているように思えてならない。いっぽうで栽培に適さない性質をいかに抑え込むかが育種のカギになりそうである。またN. odorataは葉がとても特徴的で、分厚く横長で切れ込みが浅い。
5.スイレンの栽培について
スイレンはよく売られる割に咲かせている人が少ない。
理由は2点に集約される。
①スイレンは異常なまでに肥料食いであるが、肥料がなくても葉と株だけは増える
②葉が茂って株元に光が当たらないと咲かないが、その状態でも積み重なって増える
つまり、大きい容器で肥料を大量にやって葉をむしれば咲く、といったところである。
②に関して、市販の睡蓮鉢は根茎の伸長しない小型熱帯スイレンの栽培や、最小クラスの温帯スイレンであるヘルボラ等ヒツジグサF1交配品種の栽培には使えるが、一般的な園芸スイレンの栽培には最低でも直径40㎝はほしい。アルバやマルリアック型(アルバに少しメキシカーナが入る)に関しては30~40㎝からといったところで、オドラータ系に関してはとにかく面積が広い容器が必要である。さらに広ければいいというだけではなくて、スイレンはどんなに広くてもそのうち制圧してしまうので、間引いて葉の数を少なく保つことが重要である。植え替えを行い芽数を減らし、施肥もやり直し…とするとよい。
ここまで書くと、従来園芸書などで推奨されてきた「池に植える」がいかに非合理的かわかるだろう。たしかに水面の面積は確保できるが、どんなに広くても年々地道に広がっていずれ制圧する植物であるだけに、いずれ池が干上がって花も咲かなくなる。そうなった時、池ではリセットも植え替えもできない。
スイレン鉢で育てる際も、できれば大きな中鉢を用意することをお勧めしたい。また、中鉢はできるだけ開口面積が広いほうがよい。スイレンに水深はあまりいらないので、発泡スチロール容器やトロ船も良い栽培容器になるし、そうした環境でオドラータ系をよく咲かせている人もみかけることがある。
用土に関しては、肥料さえあれば簡単だが黒土は腐りやすく、そこまでお勧めしない。嫌気層ができた方がいいが、赤玉系がシンプルだが悪くない。市販の水生植物の土は無難だがやや割高な印象がある。肥料はマグァンプKなどを多めに使い、水中に溶けださせずに用土で蓋をするのがポイントである。
成株の育て方や土づくりに関しては様々な情報源があるので割愛するが、面積さえあれば簡単な植物なので、是非咲かせてみてほしい。