水草オタクの水草がたり.

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ハナイに関して

ハナイ Butomus umbellatusはユーラシアに広く分布するオモダカ科ハナイ属の植物である。オモダカ科に類似しており、また従来ハナイ科とされてきたキバナオモダカ属やミズヒナゲシ属もオモダカ科に移行している。しかしながら、ハナイはオモダカ科ではなく、一科一属一種のハナイ科を構成する(Yang & Liu., 2019)*1

ハナイはユーラシアの温帯に広く分布しているものの、朝鮮半島および日本列島にはみられない。北米には本来分布していないが、水生園芸用に植えられたものが逸出し、深刻な問題となっている。分類的に興味深いだけでなく高温から低温まで幅広い温度域や水位に適応し、栽培は容易で花も美しい植物であるが、入手された方は絶対に外に逃がさないようにしてほしい。

 

ハナイは非常に葉の細長いオモダカ科植物…ではないのだがそう考えると理解しやすい。葉は根生し、線形でごく短い、横行する根茎をもつ。長さは大きく可変し、20㎝ほどからときに1.5mほどにまでなる。沈水葉と抽水葉があり、沈水葉のみの個体はvar. vallisnerioidesと呼ばれることもあるが実質的な違いはない。抽水葉はしばしばねじれ、印象的である。一見しただけでは何科なのか見当がつかない感じもまたおもしろい。

野生では幅広い水深に適応し、湿地条件から水深2mほどの場所にまで生育する。水位変動や氾濫によって分布域を広げることが多いとされる。水が引いて高温になると発芽するものの栄養増殖によって生じた株の方が成長が速いため、野外における増殖は主に栄養増殖により行われる。

栄養増殖は2つの手段によって行われる。ひとつはオモダカ科において広く見られるような、花序に子株ができるものである。ただしハナイにおいては子株ではなく、球根のようなもの(Bulbil)ができる。

もうひとつは根茎に分離しやすい部分(Rhizome bud)ができ、それが外れて漂流し、流れ着いた先で発根して増殖するものである。この小塊は越冬器官を兼ね、成長がかなり悪い株であっても盛んに産生する。

ハナイは2倍体と3倍体があることが知られており、栄養増殖の頻度は2倍体の方が多いとされるが、地域により一定しない可能性もある。3倍体であるにもかかわらず花粉が生存し稔性を持つ個体が知られる一方で、そうでないものもみられる。2倍体と3倍体の雑種は様々な核型を示す。北米に帰化している系統では、花序に子株をつけるのは2倍体系統である。日本でわずかに栽培されているものがどちらなのかはわからないが、形質により区別可能であるかもしれない。

花序は長い花茎の先に長い花柄をもつ3弁花が多数つく散形花序であり、ラッキョウの花に似ている。3弁であるが、ガクも白いために一見すると6弁のように見える。ただ、かなり株が充実しないと開花してくれない。

 

栽培に関して

栽培は容易であり、分布が広いこともあって酷暑にも極寒にもよく耐える。ただしかなり日照がないと成長が鈍ることや、小さな鱗片からの成長初期は調子を崩すと枯れることがあること、またアブラムシに弱いなど、やや脆い部分もみられる。

前述したように帰化リスクが非常に高い種であり、取り扱いには注意が必要である。さいわい果実および種子は比較的大型で付着移動手段を欠くことから、スイレン鉢など外界に接続しない水域で適切に管理している分には問題は起きないだろう。