おもに本州でみられる日本の水田雑草を概観してみたい。
ここでいう水田雑草の定義は「湛水した水田に侵入すること」
とする。中干し中に発芽してくるものもあるが、その後の湛水により消滅するものは含めない。
出現頻度 ★★★★★(最普通)~★(稀)
稲作への害 ★★★★★+(きわめて危険)~★(ほぼない)
識別ポイント
- オモダカ目
- ショウブ目
- キジカクシ目
- イネ目
- ツユクサ目
オモダカ目
オモダカ科
オモダカ
出現頻度 ★★★★★(きわめて普通)
稲作への害 ★★★★★(危険)
識別ポイント
やじり状の長い耳を持つ葉および、ランナーの先につく小球茎。よく似たアギナシでは株本につく小球茎をもつ点を確認するのが確実。
様々なオモダカがあり、クワイもそのひとつである。いずれも繁殖力が強く、大量の球根を作り、なにより大量の肥料を吸いあげる。日本を代表する水田雑草の一つと言えるだろう。
ウリカワ
出現頻度 ★★★★(普通)
稲作への害 ★★★★(やや危険)
識別ポイント
オモダカの幼株と酷似する。しかし幼株にみえる状態でランナーを出してチェーン状に増えていくことを確認すれば間違いない。
ウリカワは小型であるが繁殖力が強く、時に水田を埋め尽くす。肥料要求量が非常に多いことから肥料吸収量もおおいとみられる。代表的な害草であるが、オモダカと異なりイネをなぎ倒したり、イネ科のように病気をばらまいたりしないため★4にとどめた。
アギナシ(稀)
出現頻度 ★(稀)
稲作への害 ?(情報不足)
識別ポイント
オモダカに似るが、夏終わりになると株本に多数の球茎をつける。
オモダカがどこにでも現れるのと比較して水田に生じるのは稀で、あったとしても山間部の谷津田くらいである。オモダカとは葉にもやや違いがあるが、オモダカの変異があまりにも大きいので識別ポイントには含めなかった。
ヘラオモダカ
出現頻度 ★★★★(普通)
稲作への害 ★★★(場合により危険)
識別ポイント
オモダカと異なり葉は矢じり状にならない。コナギやミズアオイと異なり茎はスポンジ状にならず硬い。葉はやや白を帯びた緑色で艶消しである。花茎は分岐した枝がさらに分岐し、直立する。カスミソウのようにみえる。よく似たトウゴクヘラオモダカは葉と葉柄の区別がはっきりし、花茎の第一分岐が2でかつ葯の色が黒褐色であることにより区別される。サジオモダカは葉と葉柄の区別がはっきりし、わずかに葉耳をもち、花茎の先端は長く伸びる。ナガバオモダカは花茎の分岐に乏しく、まっすぐ伸びた花茎に直接大型の花がつき、ランナーで増殖する。葉の質感や色も異なる。
ヘラオモダカは様々な背景を持つ個体群の総称であり、各地に見られるホソバヘラオモダカやアズミノヘラオモダカといった個体群を分けて扱うことにそこまで意義はないと感じる。もしそうするならば6倍体個体群などのより異なる個体群を”狭義の”ヘラオモダカが包含してきたことに注意を払うべきだろう。
水田で大発生することは少ないが、時にたくさん生えているのを見かける。ただし増殖が種子に頼るうえに成熟に2年以上かかるので、オモダカやウリカワに比べるほどではない。
トウゴクヘラオモダカ(少)
出現頻度 ★★(少ない)
稲作への害 ★★(少ない)
識別ポイント
ヘラオモダカの項目を参照
水田よりもほりあげなどに多い。しかし水田に生じることもしばしばある。ヘラオモダカよりずっと小型で大発生することもなく、害は少ないと考えられる。
サジオモダカ(稀)
出現頻度 ★(稀)
稲作への害 ★★★★(やや危険)
識別ポイント
ヘラオモダカの項を参照。
東日本の在来系統は寒冷地と関東平野下流部に限局し、個体数も少ない。したがって水田に害を及ぼすほどの数がいない。ただし侵入した場合大型化しうることから警戒を要するだろう。西日本に帰化している外来系統は水田での害は聞かないが地域により大繁殖しており、警戒を要する。
ナガバオモダカ(未)
出現頻度 ★(いまのところは稀)
稲作への害 ★★★★★(潜在的だが危険)
識別ポイント
ヘラオモダカの項を参照。
園芸流通が盛んな種であり、水田への侵入や定着が危惧される。ウリカワのようにランナーでよく増殖し、かつそれなりに大きくなることから害草としては★★★★★とした。
サトイモ科
サトイモ(偶発)
出現頻度 ★★(やや稀)
稲作への害 ★★★(場合により危険)
識別ポイント
耳をもち、粉を吹いたような艶消しの葉
収穫され損ねたサトイモが生える場合や、野生化した雑草系統が生える場合がある。後者は稀。野生型に近い系統ではとくに水を好み、水田程度の浅さが好適環境である。ただし問題になった例を聞かないため★★★に留めた。
オランダカイウ(偶発)
出現頻度 ★(偶発)
稲作への害 ★★★(場合により危険)
識別ポイント
耳を持ち、辺縁が波打ち、やや艶のある葉
カラーをどういうわけか水田脇に植えて、水田内に侵入してしまった例を見たことがある。そのような植栽はよくない。大きくなるので場合により危険だろうが、ふつうは起きないと信じたい。
ウキクサ
ヒメウキクサ
ミジンコウキクサ
アオウキクサ
ナンゴクアオウキクサ
コウキクサ
ムラサキコウキクサ(未)
キタグニコウキクサ(未)
イボウキクサ
ヒナウキクサ
チリウキクサ(未)
(ウキクサ類全般)
出現頻度 ★★★★★(頻発)
稲作への害 ★★(少ない)
ウキクサ属、ヒメウキクサ属、ミジンコウキクサ属、アオウキクサ属に関しては害草レベルを★★としたが、実情は異なるかもしれない。
*をつけた種は水田で見かけたことはないが、暫定的に加えた
トチカガミ科
トリゲモ(稀)
出現頻度 ★(稀)
稲作への害 ★★(少ない)
イトトリゲモ
出現頻度 ★★(やや稀)
稲作への害 ★★(少ない)
サガミトリゲモ
出現頻度 ★★(やや稀)
稲作への害 ★★(少ない)
ホッスモ
出現頻度 ★★(やや稀)
稲作への害 ★★(少ない)
ムサシモ(稀)
出現頻度 ★-(きわめて稀)
稲作への害 ★★(少ない)
スブタ
出現頻度 ★★(やや稀)*地域によりふつう
稲作への害 ★★(少ない)
マルミスブタ(少)
出現頻度 ★(稀)
稲作への害 ★★(少ない)
ヤナギスブタ
出現頻度 ★★(やや稀)*地域によりふつう
稲作への害 ★★(少ない)
セトヤナギスブタ(少)
出現頻度 ★(稀)
稲作への害 ★★(少ない)
ミカワスブタ(少)
出現頻度 ★(稀)*地域によりふつう
稲作への害 ★★(少ない)
ミズオオバコ
出現頻度 ★★(やや稀)
稲作への害 ★★(少ない)
オオカナダモ(偶発)
出現頻度 偶発
稲作への害 偶発
水田内で増殖することはほぼ無い。
コカナダモ(偶発)
出現頻度 偶発
稲作への害 偶発
水田内で増殖することはほぼ無い。
クロモ(偶発)
出現頻度 偶発
稲作への害 偶発
水田内で増殖することはほぼ無い。
アマゾントチカガミ(未)
出現頻度 偶発
稲作への害 ?
水田内で増殖した例は見ていないが要注意。
トチカガミ*
出現頻度 極めて稀
稲作への害 ?
水田内で増殖した例は見ていないが要注意。
*をつけた種は水田に侵入した例を見ていないが可能性が高いため追加
ヒルムシロ科
ヒルムシロ
出現頻度 ★★(やや稀)*地域によりふつう
稲作への害 ★★★★(やや危険)
他のヒルムシロ属は水田周囲に生育することはあるが水田内に発生するのは稀。
ホソバミズヒキモ(偶発)
フトヒルムシロ(偶発)
ササバモ(偶発)
オヒルムシロ(偶発)
センニンモ(偶発)
ヤナギモ(偶発)
ツツイトモ(偶発)
イトモ(偶発)
ショウブ目
ショウブ科
ショウブ’(偶発)
出現頻度 ★★(偶発)
稲作への害 ?
識別ポイント
葉は平面状に出て、セキショウ、キショウブに似る。芳香をもつ。*セキショウが水田に侵入した例は見たことがない。
ショウブはときに水田に侵入するが、多年草のため定着していることはすくない。畔から侵入したり、水路から流れてきたものと思われる。大型のため害は★★★としたが、普通出るものではなく難防除雑草ではない。
キジカクシ目
アヤメ科
キショウブ(偶発)
出現頻度 ★(偶発~稀発)
稲作への害 ?
識別ポイント
葉は平面状に出て、セキショウ、ショウブに似る。芳香を欠き葉は白い粉を吹く。*セキショウが水田に侵入した例は見たことがない。
キショウブは重要な外来植物であるが、水田に侵入することは稀。
イネ目
イネ科:稲と稗
雑草イネ
出現頻度 ★★★(やや珍しい)
稲作への害 ★★★★★+(きわめて危険)
識別ポイント
イネに似るが出穂は早いものが多く、脱粒性が強く稲刈り前に種子をばらまく。わかりやすいものでは禾が長かったり、禾が赤かったりする。しかし大抵はもみの先端がほんの少し赤いくらい。
ケイヌビエ
出現頻度 ★★★★(よく見かける)
稲作への害 ★★★★★+(きわめて危険)
識別ポイント
紫色の禾が長い穂。他のヒエ類より大型、開帳性が強い
しばしば大発生して水田を覆いつくす。ヒエ類のなかでも最も深刻な被害状況をみかける種。抽水条件で良く育つものの、水中での発芽は得意ではないようだ。
イヌビエ
出現頻度 ★★★★★(きわめてよく見かける)
稲作への害 ★★★★★+(きわめて危険)
識別ポイント
穂と葉が先端に向け垂れる。他のヒエ類よりやや大型、開帳性が強い。
ケイヌビエに比べれば小さめだがやはり大暴れする。抽水ではなく湿った土を好む種で、湛水条件では発芽率が著しく落ちる。
タイヌビエ
出現頻度 ★★★★★(きわめてよく見かける)
稲作への害 ★★★★★+(きわめて危険)
識別ポイント
穂と葉は直立する。種子は作物ヒエに近いほど大きくなる。穂につく果実数は少ない。イヌビエよりやや小型で開帳性が低い。
イネに擬態する雑草。他のイヌビエ類とは異なり浅い湛水条件でもよく発芽し生育できる。但しあまり深い水深では発芽も生育困難。乾田化と擬態のメリットが失われたことにより、今ではイヌビエやケイヌビエの方がよく見る。
ヒメタイヌビエ
出現頻度 ★★★(時々見かける)
稲作への害 分布域を外れるため、判定困難
識別ポイント
タイヌビエに酷似しより小型。当方では少ないが時々見かける。
イネ科:主に畔から侵入するもの
チゴザサ
ギョウギシバ
アシカキ
サヤヌカグサ(少)
エゾノサヤヌカグサ
キシュウスズメノヒエ
チクゴスズメノヒエ
イネ科:大型の多年草
マコモ
ヨシ
イネ科:低水温を好み東北などの寒冷地や湧水の影響が強い水田のみでみられるもの
ハイコヌカグサ(局地)
ウキガヤ
ドジョウツナギ
イネ科:主に冬の湛水条件で出現する種
ムツオレグサ(少)
ミズタカモジ(少)
カズノコグサ
スズメノテッポウ
セトガヤ
イネ科:その他のイネ科
オオクサキビ
オオニワホコリ
アゼガヤ
ガマ科
ガマ
コガマ
ヒメガマ
ナガエミクリ(偶発)
ホシクサ科
ホシクサ
クロホシクサ(少)
ヒロハイヌノヒゲ
イヌノヒゲ(少)
ニッポンイヌノヒゲ(少)
イトイヌノヒゲ(偶発)
イグサ科
イ
コウガイゼキショウ
アオコウガイゼキショウ(偶発)
カヤツリグサ科
カヤツリグサ科:葉を持つ種
タマガヤツリ
ヒナガヤツリ
キハマスゲ
ホソミキンガヤツリ
アオガヤツリ(少)
コアゼガヤツリ(少)
ツルナシコアゼガヤツリ(少)
ヒメガヤツリ(少)
ミズガヤツリ(稀)
ヒデリコ
クロテンツキ
テンツキ
ウキヤガラ
コウキヤガラ(局地)
カヤツリグサ科:葉が目立たないイグサ状の種
シズイ(局地)
イヌホタルイ
タイワンヤマイ(局地)
コホタルイ(局地)
マツバイ
ハリイ
オオハリイ(少)
エゾハリイ(少)
スジヌマハリイ(稀)
ツユクサ目
ツユクサ科
イボクサ
カロライナツユクサ(局地)
シマツユクサ(局地)
ミズアオイ科
コナギ
ミズアオイ(局地)
ホテイアオイ(偶発)
アメリカコナギ(局地)
ヒメホテイアオイ(局地)