水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

水生園芸向けの"イグサ状"植物

ここ2、3年ほど、イグサやカヤツリグサの類に注目しています。(以前からかなり好きなグループですが…)

地味な植物ですがよく見てみるとかなりの種数があり、しかも育てやすいものが多く、端的に言えば"鉢に土を入れて水に漬けておけばよく増える"といってもよいくらいです。光要求性はどれも非常に高いので室内栽培には不向きですが、屋外で育てるにはとても良いです。

また、水生園芸(所謂"ビオトープ")向けに市販されるイグサ状カヤツリグサが必ずしも栽培向けかと言われるとあまりそうではなく、未開拓の分野が大きいグループでもあります。

イグサ状植物とは?

イグサのような植物は世界に沢山あり、特にカヤツリグサ科において多く見られます。このような植物は

・花茎のみが発達し、草体のほぼ全てを花茎が占める

・葉が退化し鞘状に茎の下部に巻き付くのみである

と言った点で著しい類似性があります。

しかしこの特徴をもつ種は互いに近縁なわけではなく、イグサのような種を含む属は少なくとも

・イグサ科イグサ属イグサ亜属

・カヤツリグサ科アンペラソウ属

・カヤツリグサ科カヤツリグサ属

・カヤツリグサ科ハリイ属

・カヤツリグサ科フトイ属

・カヤツリグサ科テンツキ属

・カヤツリグサ科ヒメワタスゲ

…などで独自に獲得されたものと思われます。

むしろカヤツリグサ科に多い形質で、イグサは寧ろ異端かもしれません。

イグサ科Juncaceae イグサ属Juncus

イ(イグサ) Juncus effusus var. decipiens

やはり基本のイグサといえばこれです。ふつうにみられる野生種は高さ50-70cmほどになります。Juncus全般に言えることですが根が非常に頑丈で長く伸び、しばらく育った株は引っこ抜いて浮かせておくだけで数年は栽培できます。基本種ですが流通はあまりなく、また種子散布量が莫大で遺伝子汚染の可能性があることから、徒歩圏内で採集した株を株分けして栽培しています。実生も可能なのですが、実生からやるにはそれなりに時間がかかる印象です(2-3年)。

 イグサのバリエーション

コヒゲ

畳に用いるイグサはコヒゲという非常に細長く伸び花序が退化的な品種で、高さ2mほどになります。育てたいのですが苗がなかなか売っていません。

ビーグ

沖縄県で生産される大型のイグサです。シチトウイ(リュウキュウイ)やフトイガヤツリとは別で、コヒゲとも別の品種です。本州の野生イグサに似るもより強壮な、太く大型のものです。元々は在来品種が生産されていましたが現在は九州由来のものが栽培の中心になっている模様です。

沖縄にはさらに別にオキナワイ(J. decipiens f. filiformis)がいます(絶滅危惧IA、ネット上に写真はない)。

ヒメイ

北日本の山地には高さ10-20cmで結実するヒメイと呼ばれる個体群がいます。栽培下してみたところ細く、やや小型のようですがやはり30cmはいってしまいました。某社からエゾホソイの名でリリースされていたものは写真を見る限り、ヒメイであろうと思っています。

タマイ

まだ何回かしか見ていませんが見るたびにギョッとするものです。海沿いの工事現場など撹乱地で見ています。花序がほとんど伸長せずボール状にみえます。大型個体は見たことがなく、高さ40cm-50cmのようです…が育ててみると化けるかも。

Juncus effusus

おそらくJuncus effususと思われるものの、海外産の系統ではないかと疑っているものです。日本のイに酷似しますが、野外で見るイグサからすると異常に大型で高さ1mを超え、太く頑丈です。(コゴメイを太くした感じ)だいたい市販のフトイpot苗と同等の太さがあり、頑健で栽培は容易です。小学生の頃から育てていますが、最近は怖くなって花が咲く前に刈り込んだり、春に株分けして大部分を処分したりしています。

ラセンイ

古くからの定番のぐるぐる巻くイグサです。J. effususの改良なので水でもいけるはずですが、当方では栽培していません。園芸用土に植えられたものは洗ってから植え直すのが無難です。

 

Juncus inflexus 

ヨーロッパにおもに分布する、やや大型のイグサ属です。J. effususおよびJ. effusus ssp. decipiensに比べると茎が非常に硬い印象を受け、粉を吹いた質感で花序は長いです。(巨大なホソイという感じ。)本種と思しきものの河川敷での帰化も見ていますが、本当にそうなのかは未検証です。(乾燥した河川敷にシナダレスズメガヤなどと共に生えているのを見かける)当方では栽培していませんが、園芸では定番です。他のイグサ属イグサ亜属に比べて乾燥に強く、カリカリに乾いた条件から抽水まで適応可能です。

Juncus inflexusのバリエーション

ブルーイグサ 

鉢ものでよく流通しますが、どうもJ. inflexusの改良品種のようです。J. inflexusの改良品種にはBlueを冠するものが'Blue arrows'と'Blue dart'がある…ようですが(海外ではJ. tenuisやJ. tenuissimaと書かれがちだが、これは明らかに誤り。J. tenuisはイグサ亜属ですらない)、そのどちらが日本でブルーイグサと呼ばれているのかは把握できていません。

 

ホソイ Juncus setchuensis

高さ30cmほどの小型のイグサ類です。イグサに似るが茎は艶消しで花序は細長く、J. inflexusを小さくしたような外見をしています。

小型種で強健なので園芸用にも時々ながら流通します。栽培用のイグサ類としてはかなりおすすめで、小さいながらも水深10㎝近くまで対応します。しかし、野外で探すとびっくりするぐらい見つからず、隠れた希少種なのではないだろうかと思っています。実は数えるほどしか見たことがないかもしれない。

コゴメイ Juncus polyanthemus

水を好む大型の外来イグサ属です。茎は開帳し、株の直径2-3mにもなります。関東平野では下流域の安定した水域のイグサ類はほとんどコゴメイになってしまっており、イグサは撹乱直後の湿地にのみ見られます。乾燥した礫質の河原にもコゴメイに類似した植物がみられますが、1mほどと比較的小型で粉を吹いたような独特の質感があり、直立傾向でむしろ水を好まない挙動をするなど様子が異なります。個人的にはこれはJ. inflexusかもしくはほかの外来Juncusではないかと考えていますが、未検証なので注意が必要です。極めて侵略的な外来種かつ、人に扱えるサイズではない大きさになるため栽培は推奨しません。一株の占有スペースではイグサ状植物でも最大級です。

イヌイ Juncus fauriei

流通はありませんが、栽培増殖が割とうまくいっており、かつ園芸植物としてのポテンシャルを感じるので掲載します。

小型の海岸湿地性イグサ属で、やや北日本に多いものの全国の沿岸域に分布します。汽水性というわけではなく、海岸沿いの湿地に生えます。ホシクサ科と混生することがあるくらいなので、塩分が必要というわけではなさそうです。水生植物というより湿生植物と言った方が的確で、通常は冠水しない部分に太く横走する根茎を伸ばし繁茂します。茎の断面はレンズ型ないし扁平で、日本産の他のイグサ亜属からすると異質です。一見すると小さなアンペライのような植物…といえるでしょう(まったくことなりますが)。海岸性ということもあり若干の汽水には耐えそうではありますが、そのあたりは未知数です。当方では施肥した園芸培土の川砂+ボレー粉被覆でよく増殖しています(ほかのイグサ類の栽培環境にボレー粉を足しただけ)が、赤玉系の用土単用などでも行けるのかどうかに関しては未検証です。

その他日本産のイグサ属イグサ亜属はハマイ、ミヤマイ、エゾホソイの3種ですが、どれも北方系種であり栽培がどの程度できるかは不明です。

 

カヤツリグサ科 アンペラソウ属

アンペラソウ Lepironia articulata*アンペライとは全く別の植物です!

日本では園芸流通していない熱帯性のカヤツリグサ科で、Mapaniaなどと同じカヤツリグサ科でも早期に分岐したグループに入る種です。ほかには、ストローとして利用されます。アンペラソウのストローは国内でもいちおう購入可能です。国内では西表島に数パッチの野生群落があるそうですが、現状を見に行けていません。国内での流通はありませんし私も栽培していませんが、海外では園芸流通しているため掲載しました。

アンペラソウの品種

Lepironia articulata ‘Twizzler`

本種は園芸流通は国内ではしていませんが、海外では園芸流通しています。海外ではラセンイのように茎が捻じれるTwizzlerという品種があります。

カヤツリグサ科 カヤツリグサ属

シチトウ(リュウキュウイ)(シーグラス)Cyperus malaccensis

南方系のカヤツリグサで、葉は退化し三角柱状の茎の先端に短い苞と花をつけます。やや汽水性で、琉球諸島下流域から汽水域にみられますが、西日本の沿岸域にもかつて栽培されていた個体が帰化して残存しています。かつては日本各地で生産されていましたが、現在作っているのは大分県および沖縄県(稀)程度です。イグサより頑丈なため、琉球畳や草履などに用いられます。

ベトナムではシーグラスとして生産され、カゴなどの原料として利用されます。最近では無印良品などで輸入されたものが手に入ります。

フトイガヤツリ(艶フトイ)(シーグラス)Cyperus articulatus

南方系のカヤツリグサ科で、円柱状で多数の隔壁を持つ茎を伸ばし、その先端に花序をつけます。苞はほとんど退化しており目立ちません。日本では沖縄本島にのみみられ、生花などのために生産されます。沖縄では単にフトイとして生産されているようですが、生花としては艶フトイとして区別されるようです。東南アジアではシチトウイとともに編み物などの原料としてよく用いられ、これもシーグラスとして用いられます。

Cyperus corymbosus

熱帯性のカヤツリグサ科で、円柱状の茎の先端に花序をつけます。海外では種子の流通があります。

カヤツリグサ科 ビャッコイ属

ビャッコイ(参考)(あらゆる面で栽培不適)Isolepis crassiuscula

日本では1ヶ所だけになぜか生育する、南半球の沈水性カヤツリグサ科です。採集は法律で禁じられているうえに極度の低温系で、施設でも栽培は困難と聞きます。全くもって栽培不適な植物です。

Isolepis prolifera

南半球の温帯域に分布する中型のイグサ状植物で、高さ40㎝程度になり茎の先端から子株を伸ばして盛んに増殖します。湿生植物であり、株元がある程度水に漬かる程度には耐えますが抽水栽培には向きません。極めて増殖率が高いので逸出には注意が必要です。

フサハリイ Isolepis cernua

かつて国内でも園芸用に生産されていたのですが、最近見ません。海外では今も生産されています。花序が1個で、見た目は殆どハリイ属に見えます。当方でも栽培していません。

カヤツリグサ科 Ficinia属

Ficinia nodosa 

Ficinia属はビャッコイ属に近縁な属です。花序や全体の姿は一見するとイグサ属イグサ亜属のタマイそっくりで、小穂は密集し半球状になります。(フィールドでも何度か本種が帰化した⁉と思ったらタマイ、ということが…)海外ではそれなりに種子や苗が流通しています。

カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属

ヒメホタルイ Schoenoplectiella lineolata 

水位上下があり透明度が高い池や湖の、減水した際に露出する水中に主に生育する多年草です。園芸用として多く市販されていますが、本当に環境の良いところにいかないとあまり見かけない印象があります。野外ではもっぱら水中に生えていますが、栽培下においては水上の方が得意です。

高さ10cmほどにしかならず、軟弱なランナーで盛んに増殖しマット状になります。しかしながら移植はやや難しく、ランナーや根が軟弱なため植え付けても浮いてしまい、それを繰り返すうちに根茎がダメになって枯れがちです。そのため植え付ける際は土を落とさず根鉢を割るか、もしくは冬〜春先に形成される越冬芽を植え付けるのがおすすめです。水槽でも栽培できますが、なかなか野外のように繁茂させるのが難しいです。水中では茎が膨れた角のような形になり面白いので、うまく育てる方法がわかればおもしろ水景ができるでしょう。身近な水草にもフロンティアがあります。

カンガレイ Schoenoplectiella triangulata

湿地やため池の岸に見られることが多い多年草です。茎の断面は三角形でよくサンカクイと比較されますが、近縁ではありません。慣れればすぐ分かりますが、根茎は短く株立ち状であること、かつ小穂に柄がないことを確認するのが無難です。ただランナー状に根茎が伸びるツクシカンガレイや、小穂に柄がつく変異などもあるので注意が必要です。近縁種や個体変異、交雑種などが意外に面白い植物なので、野外で見かけた時は気にしてみると良いでしょう。

栽培は簡単で、株分けした個体であれば用度を選ばず活着し、しばらくするとさらに株分け可能なほど充実します。タネでも増やせますが、株分けの方が早いです。

沖縄にはリュウキュウカンガレイと呼ばれる(た)個体群があります。事実沖縄にあるものを含め、全国のあちこちに"何か変なカンガレイ"がいます。その辺りを含めた分類の再検討は今後要されるでしょう。

ハタベカンガレイ Schoenoplectiella gemmifera(幼株は水槽推奨)

湧水の影響を強く受ける場所や透明度の高い池の付近などに生育する沈水〜抽水性植物です。カンガレイに比べて小型で茎が硬い印象を受け、常緑性(水に浸かった部分は常緑)です。成熟した株は屋外の鉢でよく育ち、穂を切り取って水に浮かべると多数の子株を取ることができます。しかし幼株は高水温や水質悪化を嫌うのか、屋外鉢では育てにくいです。沈水葉のみの幼株を入手した場合、水槽で抽水茎がでるまで育て、抽水化してから外に出すのがおすすめです。

イヌホタルイ Schoenoplectiella juncoides

最もありふれたイグサ様植物です。沖縄を含めた全国の水田にごくふつうにみられ、雑草防除の対象になっています。なお、真の「ホタルイ」は雑草防除の対象にはなっていないので注意が必要です。野外での同定の際には痩果が大型で刺針状花被片が痩果に比べて著しく短い点を確認します。(柱頭数は変異がある)また、水田環境に出るホタルイ類は東北と北海道以外ではイヌホタルイのみです。(東北ではタイワンヤマイ、北海道ではコホタルイが加わる…らしい。)

栽培は多肥を好みます。ホタルイ類の中では最も適応範囲が広く水を好みますが、水深10cmまでの浅い抽水条件で育てます。越冬させると50cmを超えなかなか格好いいですが、種子での増殖率が高いため増えすぎに注意です。

ホタルイ Schoenoplectiella hotarui

名前からすると普通種の様ですが、めったに見かけません。湿地に生育することが多く、冠水していたとしても株元5cm以下、撹乱を受けるものの毎年は撹乱されない場所に生育します。(発芽から開花までに2-3年を要するため)イヌホタルイに比べると穂が丸っこくネジの様に旋条が入って見える個体群(マルホホタルイ)が当方ではよくみられます。ただし、そうでない狭義ホタルイもいるようです。刺針状花被片はイヌホタルイより長く、果実自体も日本産ホソガタホタルイ属で最大です。

ホタルイは栽培が容易です。厳密な水草とは言い難く水中発芽能力を欠いていたり、株元の水位は5cm未満にした方が無難だったりします。ただし、耐寒性が高く、湿生条件で凍結しても冬越しします。

ミチノクホタルイ Schoenoplectiella orthorhizomata 

関東から東北、北海道の山間部の水田や池畔、水路などにいますが、他のホタルイ類より大型で水を好み、小穂の数が著しく多い事が印象的です。この種は栽培していません(種を蒔きましたが失敗)。カンガレイとの間に雑種オソレヤマオトコイを作ります。

コホタルイ Schoenoplectiella komarovii

少なくとも本州では稀な種です。草体の半分ほどを占める長い苞と、多数の小穂が密集した半球形に近い穂、極端に小さな痩果が印象的です。北方系種ですが寒さに弱い様で、湿性条件で栽培した個体は冬に全滅しました。むしろ越冬のため冬は抽水条件にして沈めた方がよさそうです。日本産の他のホタルイ類からすると半分以下のサイズの小さな種を、他種の倍以上の量ばら撒く戦略はむしろ、一年草的な挙動をするためかもしれません。種子の寿命が短いことも知られており、生存戦略が興味深いです。地味なため注目されていませんが、本州ではレッドデータに指定されるべき種だと思います。北海道では水田雑草らしいですが…。

ホソガタホタルイ属の交雑種

ホソガタホタルイ属の雑種は多いのですが、園芸的な観点から価値が高いと思われるものは限られます。カンガレイとイヌホタルイの雑種であるイヌシカクホタルイや、カンガレイとホタルイの雑種であるシカクホタルイは遭遇頻度が高いのですが、鑑賞価値という面からして珍しさ以外のものがあるかといわれると疑問符がつきます。カンガレイ類間の雑種もまた同様です。(そもそも外見に大きな差がない)

ヒメホタルイとホタルイの雑種であるイガホタルイは未見ですが、穂が歪な奇形になる様で写真を見る限り美しさはなさそうです。

その中でカンガレイとヒメホタルイの雑種であるアイノコカンガレイは両種の問題点を打ち消しあっており秀逸な交配なので、この雑種のみ紹介します。

アイノコカンガレイ(カンガレイ×ヒメホタルイ)Schoenoplectiella x uzenensis

カンガレイとヒメホタルイの雑種です。高さ30-40cmほどとホタルイ程度の大きさで、盛んに分岐するショウガ状の根茎により増殖します。穂はヒメホタルイに似て1-2小穂ですが、完全に不稔です。カヤツリグサ科の不稔雑種は小穂がみすぼらしく間延びすることが多く美観を損ねるのですが、不稔にもかかわらずそれがないのがとても良いポイントだと感じます。

カンガレイほど大きくなく、ヒメホタルイと違って移植や植え替えに強く、旺盛に増殖するもののランナーではないので制御しやすい、ヒメホタルイから沈水耐性を受け継いでいるので幅広い水深で生育可能、などなど、様々な面で栽培向きです。

野外ではかなり珍しい雑種ですが、栽培下での増殖は速く扱いやすいので、なんとか増やして普及化したいと思っています。

両親種及びハタベカンガレイ、ヒメカンガレイ等が手元にあるので、ハタベ×ヒメホタルイ、ヒメカンガレイ×ヒメホタルイなどの交配実験も今後行いたいところです。

カヤツリグサ科 フトイ属

フトイとその酷似種

名前の通り太くて大きなカヤツリグサ科植物です。長い円柱状の茎の先端に柄のついた幾つかの小穂がつき、高さ2mほどになります。シンプルな見た目かつよく知られた種ながらかなり謎めいており、変種(キタフトイやナガボフトイ等)や酷似した種(イヌフトイおよびオオフトイ)など、一言にフトイとは言えない状況です。園芸流通する改良品種もいくつかありますが、これらがどのフトイ類を元とするのかも私は追いかけられていません。

フトイは基本的に、イグサ亜属やホソガタホタルイ属に比べるとかなり栽培が難しいと感じています。根をちゃんとつけた状態で移植すべきですし、根が伸びてスイッチが入るまで時間がかかります。また肥料要求性が高く、足りないと露骨に弱って、しばしば病気になります。そもそも病弱…というのもあって、栽培苗がよく売られる割にはハードルが高い抽水植物と言えるでしょう。逆にフトイを枯らしても、「フトイですら枯らす」と落ち込まずに他のイグサ系にチャレンジすべきです。もっと簡単なものはたくさんあります。

フトイ Schoenoplectus tabernaemontani

名前の通りイグサに比べればフトイですが、オオフトイをみたあとだと「細いフトイ」の印象です。但しあくまで参考レベルで、オオフトイとの識別はかなり困難です。

オオフトイ Schoenoplectus lacustris

当方の近所ではオオフトイが一番多い気がします。フトイより早咲きで、2mを超える株をよく見かけます。とある事由から本種を株ごと採集したことがあるのですが、3m近くなることもあり、株元も巨大な本種を採集するとなるとかなりの大騒ぎになってしまいます…。。。

イヌフトイ Schoenoplectus littoralis

南西諸島の海岸部に分布し、西南日本の海岸部にもある可能性が高いです。フトイの類似種のなかでは最もわかりやすく、痩果の花被片が羽毛状なのですぐわかります。高さ1.5mほどと扱いやすいサイズ感ですが、海岸に分布が局限するのが何か引っかかるところです。採種だけしているので、成株まで栽培できるかは今後の課題です。

フトイの品種

シマフトイ Scirpus tabernaemontani 'Zebrinus'
タテジマフトイ

フトイの斑入り品種はタテとヨコの2種あり、発生的にも興味深いものがあると思っています。生産量もある程度あることから、店頭で見る機会も多いでしょう。生花としての流通もあります。

 

サンカクイ Schoenoplectus triqueter

フィールドで見かける機会が多い、茎の断面が三角形のカヤツリグサです。背は低いものの茎は太く、かなり大型のイグサ状カヤツリグサ科と言えるでしょう。適応範囲は広く、薄い汽水域まで適応します。山間部で見ることは少ないですが、なくもないです。カンガレイと混同されがちですが、サンカクイはランナーを伸ばして大きな群落を作るのに対しカンガレイはあくまで株立ちです。小穂や茎の硬さも気にしてみるとだいぶ違います。

栽培自体は難しくないのですが、大きい上にランナーの感覚が広くて疎に茎が出るため、施肥や容器サイズがかなり必要です。

Schoenoplectus americanus

アメリカ版サンカクイと言った植物で、汽水性です。ごく一部で少数が栽培されています。

シズイ(厳密にはイグサ状植物とはいいがたい)Schoenoplectus nipponicus

北方系の水生傾向が高いカヤツリグサ科です。水深1m以上あるところから生えてくることもあり、全て沈水葉でも何年も生育が可能です。ただ水槽栽培に関しては必要な条件がいまいち不明瞭で、野外で確かに藻場を作るほど繁茂するにもかかわらず水槽で草原を作ることはできていない…という水草です。まだこういうフロンティアがたくさんあるのがカヤツリグサ科の面白いところです。本種は水上でも根出葉が発達する時期が長く、花茎だけが発達するわけではないのでイグサ状植物ではないのですが、フトイ属ということで入れてみました。

栽培はフトイ属ではもっとも容易で、春先に芽さえ出てしまえば用土も水深も選ばず抽水条件でよく増えます。冬場、越冬芽は鉢の最深部および鉢から出た外側にのみ作るので、春の管理時に鉢底石などと一緒に捨てない様注意してください。

フトイ属の雑種

コサンカクイ(フトイ×サンカクイ、便宜上オオフトイ×サンカクイも含める)Schoenoplectus x kuekenthalianus

小型のフトイのように見えますが抜いてみると根茎はサンカクイのように長く伸び、断面は角の取れた三角柱状です。中途半端に背が高くしかも場所をとるので、園芸には向かないと思います。

 

カヤツリグサ科 ヒメワタスゲ

ヒメワタスゲ Trichophorum alpinum

寒帯~亜寒帯の高層湿原に周極分布する湿生のカヤツリグサ科です。ワタスゲの名を冠するものの別のグループで、葉が退化し花茎だけの姿をしています。あまりそう扱われることは無いのですが、イグサ状植物の一員です。極めて北方系の植物でありながら案外栽培は簡単で、株分けでよく増えます。しかし実生には数年を要するようです。当方では株分けしかしていませんが、実生を行った方の記事もいくつか見当たります。

あくまでも湿生植物であり、抽水条件では厳しいと思います。

ミネハリイ (参考)Trichophorum cespitosum

園芸流通例は聞きませんが、ハリイ属と紛らわしい和名なので掲載しました。こんな名前ですが、ヒメワタスゲ属です。

 

カヤツリグサ科 テンツキ属

ウナズキテンツキ (参考)Fimbristylis nutans

国内に生育していたテンツキ属の中では本種だけ、ほぼイグサ状植物といってもいい姿をしています。葉は退化しており、小穂は先端に1個だけ…と、一見したところハリイ属そっくりです。本種は八重山の湿地に生育していたようですが近年は確認されず、環境の悪化もあってすでに国内からは絶滅した可能性があると聞いたことがあります。東南アジアの広域分布種ですが、日本唯一といっていいイグサ状テンツキ属が絶滅した可能性があるというのはとても悲しいことです。

 

カヤツリグサ科 ハリイ属

マツバイとその近縁

マツバイ
アクアリウムで流通する様々なヘアーグラス

チャボイ

ヌマハリイ類とその近縁

オオヌマハリイ
クロヌマハリイ
コツブヌマハリイ
スジヌマハリイ
ヒメハリイ

クログワイとその近縁

この仲間は糸状の沈水茎(花茎が変化したもの)と花をつけない茎、花をつける花茎の3段階の茎をもちランナーで盛んに増殖することが印象的な、熱帯性~亜熱帯性の種群です。栽培したことがある種は抽水条件では日光の要求性が極めて高く、室内での栽培はエグレリアを除いて困難です。エグレリアは異常な形態をもち、ランナーが立ち上がってその各節に糸状の沈水茎がつきます。

クログワイ

東日本では水田の主要な雑草です。中空で柔らかく多くの節をもつ茎をもち、強く触るとパチパチ音がします。クログワイの名の通り冬場には多数のクワイ状の塊茎を作り、一応食用にならないこともないようです。

オオクログワイ

東南アジアで現在は広く栽培されていますが、かつては日本でも栽培されていました。苗が若干の流通があります。夏場の栽培は容易で高さ1.5mほどになり強壮な姿を見せてくれますが、冬場に球根が腐りやすいので初冬に堀上げて室内で保存することをお勧めします。ヒビのない球根を少数取っておいて洗い、バケツの水につけておけばOK。

イヌクログワイ
ミスミイ
ギニア産カヤツリグサ科の一種(当方ではギニアンミスミイと呼称)
エグレリア(水槽推奨)

マルホハリイとその近縁

マルホハリイ

タマハリイとその近縁

タマハリイ
サルバドールカールラッシュ

ハリイ・シカクイとその近縁

ハリイ
エゾハリイ
オオハリイ
シカクイ
マシカクイ
ミツカドシカクイ

カヤツリマツバイとその近縁→以前の記事参照。

エレオカリス ビビパラ
エレオカリス ”ビビパラ”
エレオカリス”ビビパラ”(その2)
エレオカリス”ミニマ”
アラグアイアヘアーグラス
ラジアルヘアーグラス
 

その他

エレオカリス”クシングア”

 

 

 

*構造的にイグサ状植物ではないがよくイグサ状と誤解されるもの

カヤツリグサ科 アンペライ属

アンペライ Machaerina rubiginosa

アンペライ属は一見イグサのような姿に見えるものの、棒状の部分は葉身であって、葉が非常に硬く細く伸びたためイグサのような姿になっています。イグサ状植物のイグサ状たるゆえんは草体の殆どの部分を花茎のみが占めるという異端さにあると思っているので、これはもはやイグサ状ではない、と判断します。さもないとサンスベリアなどもイグサ状植物に含めざるを得ないからです…。

アンペライは実をいうとそうとう珍しい植物です。

東日本には一切分布しておらず、野生個体を見ることが全くない幻の植物と言っていいでしょう。分布は西日本の沿岸域に点在しており、非連続的です。極めて興味深いことに点在する自生地の付近ではかなりの地域で本種を何かしらの材料に用いる文化があり興味深いです。

アンペライの品種

斑入りアンペライ Machaerina rubiginosa 'Variegata'

斑入り系統があります。

 

カヤツリグサ科 オオサンカクイ属

オオサンカクイ Actinoscirpus grossus

本種もまた、イという名を冠していながらイグサ状植物ではありません。というのも本種には草体の半分近くを占める長大な根出葉があり、ランナーから出た株は花茎が出るまで長い間、根出葉だけで生育します。つまり、花茎が異常に太くて長いだけで基本的にはカヤツリグサ科の体制を崩しておらず、イグサ状とは言い切れないのです。日本では小笠原諸島の母島の一か所にのみ生育します。海外では種子が園芸流通しているので、どこかしらで株も園芸流通されていそうです。