水草オタクの水草がたり.

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ヒルムシロについて

朝ドラ「らんまん」にヒルムシロが登場したためか、空前のヒルムシロブームである。

ヒルムシロ。これほど「名前を聞くが実物は見かけない」水草もなかなかないかもしれない。栽培は非常にしやすく、とくに屋外では簡単である。水鉢になにか浮葉植物を浮かべたいという方にはお勧めしたい水草である。

ヒルムシロ、オヒルムシロ、フトヒルムシロは浮葉をおもにつけるポタモゲトンということで日本ではひとくくりにされているが、よく見ると全く違った生態を持つ種であることがわかる。しばしばこれにコバノヒルムシロも加えられるが、コバノヒルムシロは素人目に見ても狭葉性ポタモゲトンの一種であることに疑問はなかろう。

ヒルムシロは平地性、オヒルムシロは湧水性、フトヒルムシロは腐植質な水域を好むというのが原則である。ヒルムシロが水田に現れることはふつうで、基本的にヒルムシロは水田もしくはその排水路にみられる。それに対してオヒルムシロは流入水路にはよくみられるが、水田自体に生えることは非常に少ない。池などで見かけることもあるが、やや貧栄養を好むのか山地の池に出現することはあれ平地の池に現れることはまれである。フトヒルムシロは基本的にブラックウォーターに生じる。ジュンサイがあるような腐植質で水が茶色い、山間部の貧栄養~中栄養なため池や水路には大抵の場合ある。

これらの種の区別はわりかし困難で、通常の生育状態でみられる浮葉と地下茎のみの姿では同定できない。同定には水中葉と花、殖芽を確認する必要がある。

ヒルムシロ属の花は基本的には4数性で、花を確認して一個一個みればすぐわかる。この4数性は花序の先端部では崩れることがあるので注意が必要であるが、花序の目立つ大部分に関しては保たれている。フトヒルムシロやオヒルムシロに関しても4数性であるが、ヒルムシロだけは2数性である。それが学名のdistinctusの由来となっているとみられる(ヒルムシロ属のなかではかなり変わっている)。しかしかなり高い割合で1~4数性がごちゃごちゃに入り乱れ、結実率も低いという非常に怪しい表現をとる個体がみられるため、日本のヒルムシロに関しても交雑がかなりあるのではないかとにらんでいる。そもそも日本からは知られていなかった種が隠蔽されている可能性も否定できない。

もうひとつ重要なポイントが、水中葉である。しばしば「ヒルムシロの葉は有柄だがフトヒルムシロの葉は無柄である」と言ったことが書いてあるが、これはあくまで標本をもとに同定するための記述であり、とてもわかりにくい。ヒルムシロの水中葉は網目状の模様が発達し、一見したところガシャモクやササバモに似ていることこそが重要である。この特徴を押さえれば、ヒルムシロなのかフトヒルムシロなのかフィールドで悩むことは減る。オヒルムシロは棒状の水中葉で特徴的と思いきや、ヒルムシロの第一葉はしばしば棒状であるため、こちらの方が案外わかりにくい。フトヒルムシロやオヒルムシロはたいていヒルムシロよりかなり大きく硬い質感であるが、それも必ずしも当てはまらない。しかもオヒルムシロは稀ながら、全草が沈水状態で育っていることすらある。このような場合、葉長さ20㎝近い巨大な細葉系ポタモゲトンのようにみえることがあって非常に困らされる。しばらくしていってみるとなんのことはない普通のオヒルムシロになっていることもある。オヒルムシロの水中葉はとにかく棒状で硬いことなので、そのようなものを見かけたときは考慮すべきだろう。

ヒルムシロは冬になると特徴的なバナナ状の殖芽を地下茎の先端に作るためわかりやすい。オヒルムシロはそのような地下茎をもたないが、個体群により葉腋にミズヒキモ類の殖芽を巨大にしたような殖芽をつける個体があるらしい。但し私が知っている個体群は地下茎でそのまま越冬している。オヒルムシロは沈水葉の長さや幅にもやや変異があり、個体変異に関しては再検討される必要があるだろう。フトヒルムシロは地下茎および水中葉で越冬する。

平野部で浮葉を作るヒルムシロ類を見かけたら大抵ヒルムシロであるが、激減している。農薬に著しく弱いようで、殆どの地域で姿を消した印象すらある。ヒルムシロだと思ってもじつはササバモであったり、ササバモとの雑種のアイノコヒルムシロであることも多い。この雑種は不稔で、浮葉が波打ったり水中葉がササバモに比べて柔らかく先端が尖らないなどの特徴がある。関西に広く分布するといわれてきたが、よく見てみるとあちこちにそれらしき雑種が存在する。

フトヒルムシロおよびオヒルムシロは生息地の条件が比較的安定しているが、これらが生えるような湿地や周囲の森林はメガソーラーの格好の餌食であり、今後も安泰であるとは言えない。フトヒルムシロの生息するような水域は普通他の水草はあまり見られないのだが、オオフサモやコカナダモなどは侵入・駆逐しうる。このように、浮葉性ヒルムシロ類の未来もとても安泰とはいえない。

浮葉性ヒルムシロ類の栽培はオヒルムシロが最も簡単であり、庭先に鉢を置いて植えておけば用土をあまり選ばず何ら問題なく育つ。用土は芝の目土に若干川砂を足して化成肥料を足して用いる、また使用済みのソイルなどが使える。自生地の環境からすると意外であるが、栽培において湧水を必要とするような挙動はみせない。フトヒルムシロは栽培が困難でありうまくいっていない。ヒルムシロはオヒルムシロと並んで栽培が容易だが、かなり肥料をやらないとジリ貧になることがあり注意である。とはいえジリ貧になっても全滅はそうそうしないので、やはり栽培しやすいという評価だろう。