水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

沈水性水草の越冬

春が近づいてきた。しかし関東の冬はまだまだ、水草に厳しい。

雨がほとんど降らない。水位がどんどん下がる。小さな水域はどんどん干上がる。

大型の水域の多くは水質が汚染されており、もはや浮葉植物すら生存を許されない。川や池など外部に繋がっていたり、面積の広い場所はコイとカモに徹底的に食い尽くされる。春になると何とか生き残った断片から再生することが多いが、ともあれ冬場に水草を見ることは困難だ。

常に水がある水域は限られ、湧水水路も多くが干上がってしまう。扇状地で水はけがいい上に、冬場は雨が降らないので地下水位が下がるためだ。そんな中でも、深く掘られた水路の隅に数センチほど水が溜まった場所でなんとか冬を越している姿を見かける。

 

私の行動範囲に生育する沈水植物とその越冬形態を知る範囲で記してみようと思う。

オオカナダモ

冬も水が安定している場所で見かける。成長は殆ど止まり、ボロボロになりながら常緑越冬する。冬場も切れ藻がぽつぽつ流れてくるので、弱ってばらばらになりながら緩やかに移動しているのだろう。水が極端に減るような場所ではほとんど見かけないが、センニンモなどとともにごく僅かな水場で越冬していることもある。

コカナダモ

コカナダモは中栄養で常に水がある場所でも越冬しているが、そうした場所ではオオカナダモに負けてあまり勢力を伸ばせていないことが多い。貧栄養でオオカナダモやコイ、カモ類が少ない場所では常緑で越冬している。干上がった水路の隅のごく僅かな水場で越冬していることもある。冬場は草体が縮み、まるで別の植物のように見えることがある。

コウガイモ

夏場パッチがある場所では地下に芋を作って越冬している。冬場水がなくなるところでは見かけない。水質汚濁が激しい場所にも生えるが、ふつう冬でも水がある程度澄んでいる場所で見かける。

クロモ

関東平野からはほぼ絶滅状態のため、もはや確かめることは困難。殖芽越冬のため、ある程度水が必要。殖芽は大型のため、拡散能力に乏しい。

セキショウ

関東平野からはほぼ絶滅状態のため、もはや確かめることは困難。地下茎で越冬のため、冬も水が必要だろう。

ササバモ

夏場パッチがある場所の殆どすべてで冬場はみられない。地下茎で越冬しているようだが、そのまま乾いて枯れてしまっているのではないか?という産地も多い。毎年みられるパッチもあるが、毎年位置が移動するパッチも多いのはそのためだろう。

本種は南方系の水草で、極地には分布しない。そのため分布はアジアに限られ、北米やヨーロッパにはみられない。形態が類似するものの極地まで分布し、ユーラシアの各地に分布するガシャモクや、北半球の亜寒帯全域に分布するエゾヒルムシロなどが肥厚した越冬用の地下茎を作ることを考えると、このあたりの越冬形態の差が命運を分けているのではないかと思ったりする。

概して、夏場に切れ藻で拡散し、冬場は不完全な地下茎越冬、もしくは死滅を繰り返しているものと思われる。

ガシャモク

関東平野からはほぼ絶滅状態のため、もはや確かめることは困難。地下茎で越冬するが、肥大する。どの程度土壌乾燥に耐えるのか興味深い。

ヒロハノエビモ

関東平野からはほぼ絶滅状態のため、もはや確かめることは困難。地下茎で越冬するため、水を必要とするだろう。

エビモ

パッチにより越冬形態が異なる。冬場でも常緑でみられるものと、冬場はほとんど地下茎だけになるもの、殖芽だけになるものがあるように思っている。殖芽の形に二型あるような気がしているが、越冬生態との関連はまだ把握できていない。生態に関しては温度によるものなのかモノが違うのかは不明。そもそも日本のエビモは結実能をほとんど欠いているなど謎が多い。

ヤナギモ

常緑で越冬する。冬も青々とした葉を出し、冬場でも成長を続けていることが多い。一年中水があるところで越冬しているが、水が多い場所ではオオカナダモなどに負けたり、みんな食い尽くされてしまっていることが多い。センニンモと同様にほとんど水がないような場所でギリギリ越冬している姿も見かけるが、センニンモほど拡散能力が高くないのか、常に水があるような場所の方がよく見かける気がする。

イトモ

殖芽で越冬する。前年度や同時に産生された殖芽が降り積もっているような、緩い流れで浅い水路で越冬している。ほとんど移動能力を持たないように感じており、局所的。

ヤナギモの雑種

常緑で越冬するものが多いが、殖芽で越冬するものもある。常緑で越冬するものも悪条件にさらすと大型で不完全な殖芽を作るが、形態は殖芽越冬型とは異なっている。形態的にも生態的にも、様々な雑種がいる。常に水のある水路では、流れのはやい部分に生えることで生き永らえていることが多い。

ツツイトモ

秋から殖芽だけになる。殖芽は拡散能力が高いと思われるが、あまりパッチの位置が転々としている印象はない。イトモや殖芽越冬型のアイノコイトモほどパッチの周囲に殖芽がゴロゴロ転がっている印象はないため、多くの殖芽はどこかに流されているのではないかと思う。

ミズヒキモ類

殖芽で越冬する。場所によっては春だけ生育し、一年の殆どを殖芽で過ごす。低水温を好む種だが、冬場常緑でみられることはない。冬場、殖芽を見かけることがあるがパッチの位置はしばしば変わるため、殖芽が広く分散して僅かに生き残ったところで生えているのだろう。

 

リュウノヒゲ

地下茎の先端の殖芽で越冬している。そこまで干からびる場所では見かけていないが、殖芽は地下にあるためある程度乾燥には耐えうると思う。

 

センニンモとその雑種

センニンモの雑種はすべて、常緑で越冬する。はっきりとした殖芽は作らない。環境が比較的良い場合は冬場も成長を続けるが、環境が著しく悪くなると茎の先端部や節から生えた短い茎のみで耐えしのぎ、その後復活する。生息している地域でもほとんどの水路で越冬できず、ごく僅かな”越冬地”で越冬し、夏になると広く拡散して冬には多くが死滅する。

 

ホザキノフサモ

周年水があるところでボロボロになりながら越冬する。わりとパッチは移動するようである。浅い水深で越冬する様子は見たことがなく、比較的深い水深を必要とするのではないかと思っている。

コウホネ・ナガレコウホネ

沈水葉でボロボロになりながら常緑越冬する。毎年同じところに生え、移動しない。

 

以上が個人的な観察による越冬生態だ。水草は一か所に生えているとみせかけて、かなりの距離を毎年移動して分散と全滅を毎年繰り返している。センニンモなどは少しの水位変化で全滅してしまうようなところで越冬しているし、ギリギリ生き残れるような場所でないとオオカナダモに負けてしまう。水がある場所ばかりなのもアメリカザリガニの大繁殖を招くため、よくない。

広い水域は冬になると水鳥が来て食い荒らす。大きな湖沼では水草バイオマスも、根を張る深さも、水鳥が採食するために要する労力も大きいため食い尽くされることがないことは数々の先行研究で明らかになっている。しかしながら、現状では水草に対して水鳥があまりにも多すぎるアンバランスな状況になっているのは留意すべきと思う。

関東平野における現状では冬場水草が生き残っているところは本当にごく僅かである上に、ごく浅い水深に、U字溝の底に溜まった僅か数センチの泥で越冬している。そうした越冬地では、水鳥が一羽でも飛来するだけで一日持たずに壊滅するだろう。

また、河川と障壁がなくつながっているところではコイが植生を食い荒らすため、カナダモ類ですら定着した姿を見ることは珍しい。

 

水が周年あることは一見よいことのように思えるし、そうした環境を必要とする種もあるにはあるのだが、イケノミズハコベオランダガラシオオカナダモ、オオカワヂシャといった外来種の巣窟になったり、アメリカザリガニミシシッピアカミミガメが大繁殖したりと案外、あまりよくない。そもそも周年水があって、そこに定住し続けなければいけないような種は多くの地点ですでに絶滅している(コウホネ類、クロモ、セキショウモ、ヒロハノエビモなど)。ヤナギモやホザキノフサモ、センニンモやその雑種が生き残れているのは切れ藻による拡散能力の高さゆえなのだろう。要するにU字溝でも最低限いいので、わずかに水が残る程度の細い水路が点在し、ネットワーク的に小さな越冬地が多数ある環境が今生き残っている水草を絶滅させないためには重要なのだろうと思う。さもなければ、近い将来関東平野で多年生の在来沈水植物は一種残らず絶滅するだろう。