ポタモゲトン ガイーとして流通している水草がある。
しかしながら、流通する水草は真のPotamogeton gayiとは大きく異なるものである。
真のP. gayiはFlora neotropicaの図を見る限りヤナギモというよりもセンニンモに似た植物で、葉は3.2~6.5㎝×2.5~4.5㎜でややふと短い。茎は平たく、托葉も特に変わっているわけではない。種子が独特で、しばしば著明な翼をもつ。
南米のポタモゲトンの中では、浮葉をもたない、種子に側方のキールがありかつ種子に翼もしくは正中のキールがある(3本のキールのうちしばしば背側が翼状になる)、葉脈のラクナ(中脈左右にある柔組織の束で、しばしば白っぽく見える)が発達しない、の3点で同定できるはずである。
しかしながら、市販の「ガイー」は文字で見る限りはP. gayiに似てはいるものの葉の縦横比はP. gayiよりかなり長いし、アクアリウムで流通しているものは2n=26の不稔雑種である。(Kaplan &Fahrer, 2013)
Potamogeton研究ではかなり有名なKaplanらであるが、本物のP. gayiとの比較は調べられておらず、アクアリウムで流通する”Potamogeton gayi"は未だに謎の植物である。
そもそも、南米のPotamogeton gayiの生体写真は皆無であり、このこともこの水草を理解することを難しくさせてきた。
そんな中偶々、W. Luis Maldonado氏に、アルゼンチンで採集されたPotamogetonについて尋ねられたことでP. gayiがどのような植物であるかを知ることができた。
— W. Luis Maldonado (@wluismaldonadou) 2023年3月17日
— W. Luis Maldonado (@wluismaldonadou) 2023年3月17日
— W. Luis Maldonado (@wluismaldonadou) 2023年4月14日
— W. Luis Maldonado (@wluismaldonadou) 2023年4月14日
アルゼンチンおよび南米から記録があるPotamogetonの他の種と比較する限りでは、これらの水草は本物のPotamogeton gayiである。不完全ながらも殖芽の写真(滅多に作らないが作ることもあるらしい)まであることは非常に参考になる。
ここで個人的なPotamogeton gayiの印象について。
葉脈の入り方と葉の密度が非常に印象的で、センニンモPotamogeton maackianusやPotamogeton robbinsiiに非常に近い印象を受ける。中脈と側脈の距離が遠く、その間に多数の脈が出るのは2n=26の狭葉性Potamogeton ではあまり見ない特徴であるように感じる。葉の間隔が狭く節が詰まっていること、どうも茎がかなり硬質であるように見えることもこれらとの類似を感じさせるが、葉鞘が決定的に異なっているほか、殖芽はむしろ北米の狭葉性Potamogeton、たとえばP. srictifoliusなどに近いものを感じる。また、葉の先端部の形態も尖るでもなく丸くなるわけでもなく、かなり特異であると思う。
写真や形態記載を見る限りでは、いったい何に近いのか非常に不思議な種であると感じた。
なお、市販の”Potamogeton gayi"は不稔であり、草体も花序もヤナギモP. oxyphyllusに極めてよく似ているが、決定的な同定方法がないのが現状である。そもそも日本の川には不稔の正体不明な雑種がおびただしい数いるため、それにさらに外来雑種まで加わるのはなんとしてでも避けたい。アクアリウムプラントの”P. gayi"が帰化したらしき事例は台湾では知られているようであり、非常に赤みの強い色彩は参考程度にはなるようである。
Haynes, R. R., & Holm-Nielsen, L. B. (2003). Potamogetonaceae. Flora Neotropica, iii-52.
Kaplan, Z., Jarolimova, V., & Fehrer, J. (2013). Revision of chromosome numbers of Potamogetonaceae: a new basis for taxonomic and evolutionary implications. Preslia, 85(4), 421-482.