水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

水草の名前に関して。

この水草は○○じゃないの?ということをやっております。

その予想が正しいこともあれ、間違っていることもあるかもしれません。先に弁明しておきます。

 

さて、水草の名前については様々な意見があるようです。かつてより海外では水草を「学名」で表記することが多く、今もなお様々な水草が「学名」で流通し、日本のような「流通名」で呼ばれることはあまりありません。

一方で日本では早期から水草は流通名で取引され、あたかも和名のように扱われてきました。今回はこれを「和名」と呼ぼうと思います。ただ取り違えや様々な原因により表記ゆれがあり、かなりの混乱を招いてきたこともまた確かです。

 

さて、私がやっていることは「和名」で呼ばれてきた水草を海外に準じて「学名」にすることではないか、と思われているかもしれませんし、そうなっていく時代の流れを加速してしまっていることも否めません。

しかし私は、日本においても学名流通が基本になることは断じて避けるべきであると思っていることをここに明記しておきます。

 

Roots配信でも何回か話題になった例として、ブセファランドラのクダガンを例に挙げてみます。

「クダガン」と言ったとき指されるのはあの、初期から流通するブセのクダガンが本物なのであって、その後クダガンで採集されたブセファランドラは決して「本物のクダガン」にはなりえないのです。

つまり、

Bucephalandra sp. from Kedagangと、「ブセファランドラsp クダガン産」はもはや違う意味になっているということです。

 

次の例を挙げてみます。

「ペルビアンホーンワート」という一語にはこれだけの情報が詰まっています。

同じ意味のラベルといえる。

つまり言いたいことは、

「たとえペルーのレケーナ地区から2022年にCeratophyllum australeが採集され入荷しても、それはもはやペルビアンホーンワートではない。シン・ペルビアンホーンワートなり、ペルビアンホーンワート2022なり呼ばれるべきである」

ということです。

 

日本の流通名はある「株」を指しており、ましてや産地のようなものがついていたとしてもそれが産地を表すとも限りません。

「南米ウィローモス」が東南アジア(マレーシアといわれる)産であるというのが確固たる事実ではありますが、「南米モス」といえば三角形に展開する「あの」モスを指し、もはや産地や名前を訂正することは困難ですし、訂正することに意義があるかどうかも疑わしく思います。

水草における流通名、すなわち「和名」は、このように一度定着してしまうと簡単には訂正できず、訂正しようとすれば混乱を生みます。

南米ウィローモスは”マレーモス”といいましょう、という運動がもし盛り上がったとしても、一斉に全国の熱帯魚屋が従うわけがありません。その運動には規則力がないし、そうすることによる実利的メリットもないし、情報の伝達にも限界があるし・・・まあ無理です。

似た例を本物の和名、標準和名の例で挙げてみれば、Nemipterus japonicusは学名の由来が標本の産地誤認によるものであり、日本には本来殆ど分布していない魚でありながら「ニホンイトヨリ」であり続けるのです。(最近ようやく日本でも見つかりましたが、長年「ニホン」を冠しながら日本では見つかっていませんでした。)

同様、Sorex minutissimus hawkeriは標本ラベルの書き間違いから「江戸」産と誤認された「蝦夷」産のトガリネズミですが、和名は今も「トウキョウトガリネズミ」です。(こちらは今も昔も東京には生息していません。)

このように、日本の水草流通における「流通名」とは非常に重いもので、重大なデータといえます。安易に書き換えられるべきではないのは言うまでもありません。

 

「では、流通名だけでよいのではないか?」

そう思われる方が多いと思います。学名がついている意味ってなくない?と。

学名のメリットは客観性です。

 

つまり、学名とは「世界中の誰が見てもこれだ」ということを表すための語なのです。

だから、個々の個体について再同定し名前を付けなおすことができます。

 

つまり、学名は

「ラベル落ち」

「流通の混乱」

「同じ名前の別物が流通した時の目安」

こんなときに真価を発揮します。

これらはまさに「今」、問題になっていることです。

 

よくあるシチュエーションをいくつか考えてみましょう。

ケース1.

「ルブラハイグロとして広く流通しているが、どうもルドウィジアっぽい」という状況を考えます。

「「○○ハイグロ」が流通名だった以上それはハイグロなんだ」は詭弁でしょう。花が咲くなり、根の出方を見るなり、詳しい人に全草を見てもらうなりしてそれがであるのが間違いないのであれば、「ルブラハイグロ Ludwigia glandulosa」なり、もっと踏み込めるならば「ルブラハイグロ Ludwigia glandulosa ssp. glandulosa」なりと呼べばよいということになります。ルドウィジアなのは学名読んでよね、ということです。

ここで実際に起きた失敗例。

「ルブラハイグロ=ルドウィジア グランドゥローサ」

これはまずい事態を生みました。なぜなら海外ファームや国内ファームの多くがLudwigia sect. Dantiaに属する幾つかの種の雑種を「ルドウィジア グランデュローサ」として出荷していたからです。

結果として、「ルブラハイグロ」を頼むと「よくわからない雑種ルドウィジア」が届くという事態になってしまったからです。

おまけに、この新参名称も定着せず混乱は結局解消しませんでした。

 

ケース2.

「買ってみたら全く違う水草が届いた」

よくありますよね。例えば「マヤカsp〇〇として買ったけどなんか違う。ロタラsp××っぽい」

マヤカsp○○とロタラsp××が表面的にもしよく似ていたとしても、マヤカとロタラの違いであったら花を見るまでもなく、マヤカは互生、ロタラは輪生~対性、マヤカの根は細い縞模様、ロタラの根は分岐する白くて細いもの、といったようにあからさまに違います。種およびもっと上位のレベルで明らかに異なれば「こりゃマヤカsp○○じゃない!」と堂々と言えるわけです。表記するならば「 Rotala? sp. (マヤカsp○○ ロタラsp××?)」あたりになるでしょうか。

 

ケース3.

むか~しに植え込んだ謎のニムファが水槽から出現した時を考えてみます。

「これは浮葉を形成しない性質で、深く切れ込んだ葉を持ち、強く湾曲した花弁とガクをもつことを確認できたNymphaeaではあるが、まったくわからない。ラビットイヤーっぽいけどちょっと変な気もする」

パンタナルのラビットイヤー」と売るのは非常にまずいですし、「幻のなんとかニムファ」とかってにつけるのはものすごくまずい。「ラビットイヤー」として出したとしても混乱が生じます。

それがどんなに美しいものであって、もしもたった1回だけ入荷してすぐに休眠に入ってしまい何年もたって忘れ去られたころに発芽したものだとしても、それはゴミです。流通名ベースで扱う限り、そんなニムファが流通に乗っていいことなど一つもありません。

これはゴミとして処分するしかないし、処分されるべきものでしょう。はるばる地球の裏側から運ばれてきて、ようやく発芽したというのに生まれてきただけ不幸なニムファだった、ということです。

でもしかしこんなとき、

Nymphaea cf. oxypetala 産地・由来不明 」

と書いておけば何ら問題は生じません。「まともな浮葉を形成しない性質で、深く切れ込んだ葉を持ち、強く湾曲した花弁とガクをもったNymphaea 」といったらN. oxypetalaとしてよいでしょう(保身のためcf. を付けてたぶんね…ということを表しておく)。さらに、もし実は成長の悪いNymphaea amazonumでしたと後からわかっても、もとから「産地・由来不明」と宣言しているわけですから名前自体にネームバリューも価値もなく、もし同定が違った場合はあとから訂正すればいいということです。

 

例示はこんなもので十分でしょう。

私の提案する名前の付け方はこのようなものです。

 

・流通名が信頼可能な場合

通名 学名

できれば、流通名=~~~~産地・由来を付記もしくはアクセシビリティを担保。

例: ペルビアンホーンワート Ceratophyllum australe

ペルビアンホーンワート=ペルー、レケーナ地区産、2002年3月採集

 

・流通名がすこし怪しい場合

通名(?) 学名

例: グリーンロタラ(?) Rotala rotundifolia

グリーンとしてきましたが、なんかそうじゃない気がします。

 

・流通名があからさまに怪しい場合

学名 (通名 疑われる流通名?)

例: Eriocaulon sp. (ゴイアス クチ? ベトナム?)

例: Rotala sp.(ラージマヤカ ロタラ・ナンセアン?)

 

・流通名が(海外ファームがよくやるような)学名モドキだった場合

カタカナ流通名(由来) 学名

例: ロタラ・インディカ(オリエンタル) Rotala rotundifolia

例2: ロタラ・インディカ(海外便 かねだい××店 2022年5月21日購入)Rotala rotundifolia

いまロタラ・インディカにオリエンタル便があるか知りませんが。

 

・ラベル落ち

cfつき学名 産地由来不明

例: Nymphaea cf. oxypetala 産地由来不明

 

ということで、だいたいこんな感じで考えています。

海外ファームの「学名」での流通はろくな仕事をしないどころか様々な混乱を生んでばかりなのであれに倣うのは個人的には避けたいし、学名「だけ」で流通するのは本当に産地・由来不明なものだけにしてほしいと思っています。

 

将来的に求められる水草図鑑の案について。

学名ORグループ名

ザックリとした特徴

流通するタイプ・産地のリスト

近似種・混同されやすい種

 

例:ゴイアススターに似たものたち

学名 Eriocaulon modestum (広義) ?

ブラジル東部に分布する多年生、中~大型の水生ホシクサ。淡い黄緑色で先端が鋭く尖り、下に向けてカールする葉をもち、水中では大型化、水上では小型化しやすい。茎はスポンジ状で太く、やや硬く、成長につれ伸長して根茎となる。

ゴイアススタープラント(1999)(1999年 ゴイアス州より)

・ホシクサspイタウス(2013) (2013年7月 ゴイアス州 Itauceより)

ゴイアスヴェリオ (情報求。語源はGoias Velhoと思われるが不明。)

・・・その他多数の産地があるようだ(情報求。)

近似種 バイヤスター、ホシクサspベトナムに似たものたち(リンク)、ミナススター、…

 

以上長々と名前についての話をしてみました。では。