イガガヤツリは沖縄の水辺でもっともよく見かけるカヤツリグサ科の一つでありながら、非常に謎めいていてかつ観察者を悩ませる存在である。
イガガヤツリは海浜性~海浜の影響を受ける地域によくみられる、とされる。要するに石灰質を好むのではないか、と思っている。本州では一年草~二年草のようにふるまっているが、沖縄では環境的にあっているために多年草となる。乾燥にも湿潤にも強いため、沖縄の在来カヤツリグサ科カヤツリグサ属では最も遭遇頻度が高いものの一つと言える。沖縄で最もよく見かけるテンツキ属がシオカゼテンツキ、最も暴れている水田雑草がコウキヤガラだったりするように、島ではどこでも海浜なのである。
花のない状態のイガガヤツリ。分厚く光沢があり、幅広の葉が印象的である。こういうものを見たらだいたいイガガヤツリと考えていいかもしれない。
しかしながら、沖縄には「変なイガガヤツリに似た植物」が実に多い。便宜上ここではイガガヤツリとして扱うけれども、正直いうと、まったく自信がない。そしてこの「変なイガガヤツリっぽいもの」こそ、沖縄で最も目立つカヤツリグサ属である。
草体はイガガヤツリのように見えるし大きさも普通だが、花序枝がやや伸びている。
このような個体は本州でも時々みかけるので、変異の範疇とみていいように思う。
しかし…
このようにひじょうに大型で長い花序枝を持ち、その先端に小穂を密生するものに関しては、さすがに別種のように感じてならない。高さ50㎝ほどの個体もあり、葉は硬く長い。
このような個体を見ると、イヌクグやシマクグすら連想させられるため、毎回見るたび非常に悩まされる。国内の図鑑にも似たようなカヤツリグサの記述が見当たらず、海外のCyperus polystachyosにはこのような写真も多数あり、こうした植物をイガガヤツリとしているサイトもあることから暫定的にイガガヤツリ様植物と呼んでいるが…。沖縄の植物は未だに謎だらけだと感じる。