コナギとその近縁種は染色体数に極めてバリエーションが多く、さらにそうした個体群の間に形態的な差異もあるために厄介である。
今回はアジアのコナギ近縁種を概観してみようと思う。
アジアのコナギ近縁種はざっくり見てみれば
・小型で背の低いもの・・・コナギ、ホソバコナギ
・大型で背が高いもの・・・ナンヨウミズアオイ、ホソバミズアオイ、カイナンミズアオイ
・中型でコナギに似るもの・・・ミズアオイ
とわかれるように見えるが、色素体の分子系統からはミズアオイがもっとも早期に分岐し、(コナギ+ホソバミズアオイ+カイナンミズアオイ)、(ホソバコナギ+ナンヨウミズアオイ)のようになっているようだ。
Li, Z. Z., Gichira, A. W., Muchuku, J. K., Li, W., Wang, G. X., & Chen, J. M. (2021). Plastid phylogenomics and biogeography of the genus Monochoria (Pontederiaceae). Journal of Systematics and Evolution, 59(5), 1027-1039.をベースに作成。
染色体数からは別の意見が出ていて、カイナンミズアオイとホソバコナギを母種として、その雑種起源のコナギ、コナギとカイナンミズアオイの雑種起源のナンヨウミズアオイ、とする説もある。
色素体及び染色体数からするとこういう関係ではないかと思っているが自信はない。
葉の形や花序の形質からしてもやや納得がいくものがある。コナギは短い花茎に小型で球状に近い花序をもち、カイナンミズアオイはやや長い花序に多数の花をつける。ナンヨウミズアオイは球形の花序にやや多い花をつけるから、中間的と言えるかもしれない。ホソバコナギは花数が著しく少ないが、これに花が多い性質を載せるとコナギの球状の花序ができるのだろうか。
頭が痛くなってくるグループだが形態的な違いははっきりしていて、眺める分には楽しいグループだと思う。
なおMonochoriaをPontederiaに含める見解があるが、Monochoriaは単系統をなすのでここではPontederia とは表記しなかった。
ディープなコナギの世界に興味を持つ人があと二、三人出てきてくれれば…と思っている。
コナギ Monochoris vaginalis var. vaginalis
2n=52。但し2n=26, 80, 87など様々な報告がある。暫定的に、ふつうのコナギはM. vaginalis var. vaginalisと呼んでおく。これはM. vaginalis var. plantagineaとされる個体がホソバコナギであったり、原記載からはコナギとホソバコナギなのかいまいちわかりにくかったりするためである。日本では伝統的にコナギの学名をM. vaginalis var. plantagineaとしてきたが、Christopher (1983)や 汪ら(1996)をみる限り日本のコナギはM. vaginalis var. vaginalisとよばれるべきだろう。日本にホソバコナギは確認できていないし、成長不良で小型なものが多く花数が増え切らないほかに日本のコナギをあえてvar. plantagineaとする根拠は見当たらない。なぜ日本のコナギにplantagineaがついてしまったのかに関しては今後調べる課題である。
コナギの形態に関しては様々なところに書いてあるので保留する。
日本にも分布する、”ふつうのコナギ”(2n=52)はカイナンミズアオイ Monochoria vallida(2n=28)とホソバコナギ Monochoria vaginalis var. angustifolia(2n=24)の交雑を起源とするという説がある。(汪、 草薙、1996)
Christopher, J. (1983). Cytology of Monochoria vaginalis complex Presl. Cytologia, 48(3), 627-631.
ミズアオイ Monochoria korsakowii
2n=52。Monochoriaの中で最も北方系で、同属の殆どの種が熱帯性なのに対し亜寒帯から温帯に分布する。コナギに酷似することや染色体数が同じことから極めて近縁な種とする説があったが、Monochoriaの中ではM. australasicaに次いで早期に分岐した種であるらしい。ミズアオイに関しては省略する。
ホソバコナギ Monochoria angustifolia
2n=48。コナギより細い幅0.3~2㎝の披針形の葉をもち、葉耳は殆ど発達しない。花は葉より上に少数着く。
このタイプは主にタイやインドから報告されているが、韓国からも報告がある(Ohら、2011)。但し韓国の標本は成長の悪いものである。日本からはいまのところ確認されていないが、今後どこかで見つかる可能性はあるので注意は必要だろう。形態に関してはTungmunnithumら(2016)が参考になるのではないかと思っているのだが本文を入手できていない。Tungmunnithumら(2020)で種に昇格した。
汪光煕, & 草薙得一. (1996). アジア産ミズアオイ属植物の細胞分類学的解析. 植物分類, 地理, 47(1), 105-111.
Guang‐Xi, WANG., Wei, L. I., Xiao‐Chun, W. A. N., & ITO, M. (2003). Monochoria vaginalis var. angustifolia, a new variety of the Pontederiaceae from Thailand. Journal of Systematics and Evolution, 41(6), 569.
Tungmunnithum, D., Boonkerd, T., Zungsontiporn, S., & Tanaka, N. (2016). Morphological variations among populations of Monochoria vaginalis sl (Pontederiaceae) in Thailand. Phytotaxa, 268(1), 57-68.
Oh, Y. C., Kim, S. M., & Lee, C. S. (2011). Monochoria vaginalis var. angustifolia (Pontederiaceae): First report for Korea. Korean Journal of Plant Taxonomy, 41(1), 47-50.
Li, Z. Z., Gichira, A. W., Muchuku, J. K., Li, W., Wang, G. X., & Chen, J. M. (2021). Plastid phylogenomics and biogeography of the genus Monochoria (Pontederiaceae). Journal of Systematics and Evolution, 59(5), 1027-1039.
Tungmunnithum, D., Tanaka, N., & Boonkerd, T. (2020). Monochoria angustifolia (GX Wang) Boonkerd & Tungmunnithum, the new species of the genus Monochoria from Thailand. Songklanakarin Journal of Science & Technology, 42(4).
Monochoria plantaginea =Monochoria vaginalis var. plantaginea
インドに分布する2n=24の型に関しては、M. angustifoliaおよびM. vaginalis var. angustifoliaの記載に述べられていない。この個体群について、Christopher (1983)はM. vaginalis var. plantagineaとしている。形態的にはホソバコナギに極めて近いが、表記の混乱により現在ではそもそも何を指しているのかよくわからないのが現状である。たとえばGBIFで検索して出てくる写真の過半数がM. vaginalisと思われる。そもそもChristopherがM. plantagineaとしたものが本当に原記載に合致するものなのかも確認する必要があるだろう。なので原記載をそのまま書き写しておこう。
M. plantaginea. Diffusa; follis angustis, cordats; racemis pedunculatis, trifolis。Roxb. Pontederia plantaginea Roxb. Flor. Ind, 2. 123. Wall. Cat. 5096. -Bengalia, in paludosis, aquosis.-caulis repens. folia petiolata, angustecordata, obtuse acuminata, obsolete 5-nervia, lobis basilaribus rotundatis, subbipollicaria, pollicem lata. Petioli 3-4-pollicares, teretesm versus medium intus pro racemo fissi, ligulati. Racemi pedunculati, 2-4-flori, erecti, tardius recurvati , versus basim spatha instructi. Flores magni, breviter pedicellati, intensc caerulei. Calyx corollaceus, profunde 6-partitus; laciniis lanceolatis, tribus interioribus angustioribus. Filamenta 6; uno majore corniculato ut in M. vaginali et hastata. Antherae staminum minorum subrotundae, longioris major, sagittato-oblonga.
Ovariuni ovale, 3-loculare; ovula in loculis crebra, placentis non valde a ccntro remotis affixa. Stylus staminibus brevior. Capsula oblonga, 3-IocuIaris, trivalvis, polysperma. Semina subrotunda. (Roxb.) Plantaginis stellafac foliis caet. Flukn. t. 215.f. 4. potius huc, quam ad M. vaginalem pertinet. (Roxb.) An huc Pontederia lanceolata Wall. in herh. reg. Berol. ?
私が読む限り、どちらかといえばホソバコナギに近いものなのだろうか。だとすれば、M. plantagineaおよびその倍数体(angustifolia)はホソバコナギ的なもの、M. vaginalisはコナギと綺麗に分けられるのだが、この混乱についてはっきり書いている文献を見かけていないのであくまで保留する。
ホソバコナギの学名をM. plantagineaとする見解があるが、原記載からしても本当にそうなのか少々疑問があるし、日本においてはM. vaginalis var. plantagineaが長らくにわたって別種(M. vaginalis var. vaginalis)の学名として扱われてきたことからここでは敢えて従わない。
Christopher, J. (1983). Cytology of Monochoria vaginalis complex Presl. Cytologia, 48(3), 627-631.
Enumeratio Plantarum Omnium Hucusque Cognitarum, Secundum Familias Naturales Disposita, Adjectis Characteribus, Differntiis et Synonymis. Stutgardiae et Tubingae [Stuttgart and Tübingen] 4: 135
カイナンミズアオイ Monochoria valida
2n=28である。大型の種で花茎は2mに達し、花序あたりの花数は50~110個である。
葉は幅広の矢じり状であり、20~35×10~15㎝、基部の裂片は7~11㎝である。下仏炎苞の葉身は12~28×4~10㎝、花序の有花部分の長さ10~20㎝、花序あたりの花数は50~110個、花茎の長さ110~200㎝。
いまのところ、海南島から報告されているが、東南アジアの他地域からも報告される可能性があるのではないかと思っている。また、2n=28と報告されたインドや中国、台湾の個体もこの種に属するとする見解があり、今後の同定には注意が必要だろう。なお、大型で目立つ種なので日本からの発見はないだろう。
形態的にはコナギと似ても似つかないが、分子系統的には近縁である。
汪光煕, & 草薙得一. (1996). アジア産ミズアオイ属植物の細胞分類学的解析. 植物分類, 地理, 47(1), 105-111.
WANG, G., & NAGAMASU, H. (1994). A new species of Monochoria (Pontederiaceae) from Hainan, China. Acta phytotaxonomica et geobotanica, 45(1), 41-44.
Li, Z. Z., Gichira, A. W., Muchuku, J. K., Li, W., Wang, G. X., & Chen, J. M. (2021). Plastid phylogenomics and biogeography of the genus Monochoria (Pontederiaceae). Journal of Systematics and Evolution, 59(5), 1027-1039.
ホソバミズアオイ Monochoria elata
Tomoki SANDO on X: "こんな子もいた。 https://t.co/JIyOFfuGPQ" / X
Tomoki SANDO on X: "花は直径3㎝ぐらいで青紫色。 https://t.co/znZr3JRdHJ" / X
染色体数は不詳。やや大型で花茎は90~160㎝に達し、花序あたりの花数は15~40個。葉は細い鉾型から矢じり状で15~30×0.8~2.5㎝、基部の裂片は短く約2㎝である。下仏炎苞の葉身は8~15×0.8~2.0㎝、花序の有花部分の長さ10~15㎝、花序あたりの花数は15~40個、花茎の長さ90~160㎝。
大型の種であり、かつてはM. hastataの変種とされていた。しかしM. hastataよりもM. validaやコナギに近縁であるらしい。
汪光煕, & 草薙得一. (1996). アジア産ミズアオイ属植物の細胞分類学的解析. 植物分類, 地理, 47(1), 105-111.
WANG, G., & NAGAMASU, H. (1994). A new species of Monochoria (Pontederiaceae) from Hainan, China. Acta phytotaxonomica et geobotanica, 45(1), 41-44.
Li, Z. Z., Gichira, A. W., Muchuku, J. K., Li, W., Wang, G. X., & Chen, J. M. (2021). Plastid phylogenomics and biogeography of the genus Monochoria (Pontederiaceae). Journal of Systematics and Evolution, 59(5), 1027-1039.
ナンヨウミズアオイ Monochoria hasata
染色体数は2n=80。亜散形花序で球状に咲き、草丈は130㎝以内である。葉身は広い矛形で10~19×8~12㎝、基部の裂片の長さ2~5㎝、下仏炎苞の葉身は10~18×6~10㎝、花序の有花部分の長さ4~6㎝、花序あたりの花数は30~50個、花茎の長さ45~60㎝。
やや大型の種であり、ホソバミズアオイやカイナンミズアオイに比べると一回り小さい。カイナンミズアオイとコナギの交雑を起源とする説がある(汪、 草薙、1996)。しかしながら、Li ら(2021)はM. africanaやM. plantagineaとの関連を指摘している。
汪光煕, & 草薙得一. (1996). アジア産ミズアオイ属植物の細胞分類学的解析. 植物分類, 地理, 47(1), 105-111.
WANG, G., & NAGAMASU, H. (1994). A new species of Monochoria (Pontederiaceae) from Hainan, China. Acta phytotaxonomica et geobotanica, 45(1), 41-44.
Li, Z. Z., Gichira, A. W., Muchuku, J. K., Li, W., Wang, G. X., & Chen, J. M. (2021). Plastid phylogenomics and biogeography of the genus Monochoria (Pontederiaceae). Journal of Systematics and Evolution, 59(5), 1027-1039.
アジア以外のMonochoria
Monochoria australasicaおよび、Monochoria africanaに関しては後で加筆する(と書くと書かなくても怒られないということを学んでしまっている怠惰。)