水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

ミチノクホタルイ

ミチノクホタルイ

見慣れないホタルイ類を見かけた。

ホタルイに似るがより大型で、小穂は6~12個とかなり多く、白色調である。

小穂が多く卵形である点でコホタルイとよく似ているが、桿は太く約2㎜、潰すと4㎜ほどもあり、イヌホタルイ並みに太い。触ってみると異常に柔らかくすぐ潰れる。オオヌマハリイに匹敵する柔らかさである。柱頭数は3のようだが、現場では確証をもてなかった。白っぽい穂はミヤマホタルイによく似ているが、ミヤマホタルイと違って株立ちであり、一見したところホタルイやイヌホタルイと株の概形に何ら違いは見当たらない。だいいち、みられたのはミヤマホタルイがみられるような高層湿原ではなく、標高こそあれ人為撹乱のある人里である。いくつかの場所でかなりの数がみられ、近似した種がホタルイが数株みられたほかには周辺に見られないことから雑種の可能性も否定的である。

日本のSchoenoplectiella(雑種のぞく)を列挙してみる。

A. 茎の断面は円系もしくは多角形、ランナーを欠くもの

S. juncoides イヌホタルイ

S. hotarui ホタルイ(変種マルホホタルイ)

S. hondoensis ミヤマホタルイ

S. orthorhizomata ミチノクホタルイ

S. komarovii コホタルイ

S. wallichii タイワンヤマイ

 

B. 茎の断面は円系、ランナーをもつもの

S. lineolata ヒメホタルイ(変種コツブヒメホタルイ)

 

C. 茎の断面は三角形、ランナーを欠くもの

S. triangulata カンガレイ

S. multiseta ツクシカンガレイ

S. gemmifera ハタベカンガレイ

S. mucronata ヒメカンガレイ(変種ロッカクイ, タタラカンガレイ、チョビヒゲタタラカンガレイ)

 

BおよCは明らかに違うので、A.に限ってみる。前述したようにホタルイより小穂が多く穂が白っぽく桿が太く柔らかく、ミヤマホタルイより小穂が多く地下茎は匍匐せず生育環境が異なり、コホタルイより桿が太く穂は白色調であり、タイワンヤマイより穂は短く苞は短い。柱頭数が3であることに自信を持つのならばコホタルイ、イヌホタルイも除外できる。

上記から現場判断ではあるがミチノクホタルイであろうとした。

但しミチノクホタルイに特徴的とされる小穂の付け根で苞が折れ曲がる様子や、根茎の伸びる向きは確認できなかったのが残念である。ただし調べてみると付近からミチノクホタルイの記録があり、その判断として合っているようだ。

 

ミチノクホタルイについて

ミチノクホタルイは北海道から本州中部の多雪地帯に分布する種である。形態的に類似し分布が被るミヤマホタルイとは総苞片が開出することおよび地下茎の伸長する向きが異なるとされる*1が, ミチノクホタルイもミヤマホタルイも地下茎が斜上することが多く、比較は難しい。そのため総苞片が開出すること、花序あたりの小穂の数が多い(1~5に対し6~13)こと、総苞片が長い(2.5~9cmに対し5~13㎝)点が区別点とされる。*2。交雑種としてカンガレイとの雑種であるオソレヤマオトコイ Schoenoplectiella × osoreyamaensisが知られる。これはホタルイ×カンガレイと比較して桿が柔らかく小穂が多く、刺針状花被片が長いことで区別される*3

ミヤマホタルイが高層湿原の池塘に出現するのに対し、ミチノクホタルイは低層湿原の撹乱地に生育する植物であり、生態的にすみわけがみられる。*4 尾瀬ヶ原でミチノクホタルイが知られるようになったのは最近であるが、シカにより植生が破壊され泥炭が露出した場所に生息地の拡大がみられるとされる。いっぽうミヤマホタルイ群集は現状、シカの撹乱を受けないKolke(小池塘)にみられるとされる*5