水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

水草の実生について・・・

毎年屋外で数十種の湿生・水生植物を育てています。

屋外管理しているのは基本的には日本産で、できるだけ地元のものを育てているのですが、遠方のものもあります。

一年草や非耐寒性多年草が多いので、毎年春になると種まきでてんやわんや・・・ということになります。放任しても勝手に増えてくれるしタネの回収もし易いホシクサ科温帯種などは非常に楽でよいのですが・・・。

葉腋に地味にタネがついて種の回収が難しかったり、随時タネが弾けて飛んで行ってしまう種などは大変困ります。そうしたものは放任してこぼれ種を発芽させ、暫く育つまで待ってから栽培用土に移植して育てる、という感じでやっています。

この方法のメリットとしては、春化が必要な種でも勝手に生えてきてくれることが挙げられます。現在育てている水草だと、ホシクサ科合生萼節(イヌノヒゲ、シラタマホシクサ、オオホシクサなど)が挙げられます。こうした種は室内で播種するためには2週間は冷蔵庫で保管する必要があり、また播種期に遅れるとさらに2週間春化させて・・・と、たいへんなことになります。ポットで出荷するのでなければ、こぼれ種に期待した方がいいです。

いっぽうで、放置してこぼれ種で発芽させると、早すぎる時期に一斉に発芽してその後の冷え込みで全滅するものもいるので、本当に放置するのは考えものです。たとえばミズキカシグサはそれでほとんどの株を失ったので、ダメもとで採種しておいたタネを蒔きなおす羽目になりました。気候が悪い年だと他の種も似たようなことが起こりうります。

亜熱帯~熱帯性の種に関しては非常に厄介で、というのも開花スイッチがわからなかったり、開花してから結実するまで時間がかかったり(恐らく本来ならすぐ結実するのが、冷え込みのため大幅に遅れるためと思われる)することがしばしばあります。

そもそも水草は分布拡大能力が極めて大きいので、西日本や沖縄に分布する一年草にもかかわらず関東に生息していない・・・ということは本州ではそもそも生育できない、もしくは何かしらのリスク要因を抱えている、ということのようです。そういうものの場合、秋には衣装ケースなどに取り込んだり、室内水槽に取り込んだり・・・ということになります。(水槽取り込みからの水槽維持はリスキーかつ面倒なので、最もやりたくないことですが・・・)当方は冬場マイナス10度まで冷え込みますが、日なたの衣装ケースに入れておいた場合にはホシクサ類が越冬することもあり、驚かされました。

交雑に関して・・・

実生維持するにあたってやはり一番警戒すべきは交雑の問題で、ほぼ放任栽培せざるを得ない面があることから同種の産地違い、変種、ほぼ区別不可能な種などは入れないようにせねばなりません。たとえばクロホシクサとアマノホシクサを両方育てるようなことはできないし、混じって生えてきたらすぐわかるような組み合わせを考えて植えなければならない・・・ということです。さいわい、当方で実生でやるのはおもに一年草で、そうでなかったとしてもマイナス10度の洗礼を耐え抜く実生はあまりありません(かりに多年草だったとしても・・・越冬には体力が必要、後述。)。なので、不稔雑種は淘汰されるはずです。

しかしながら、温室栽培では交雑は深刻な問題の筈です。

多年草水草もあまり実生が越冬できない・・・と書きましたが、当方で越冬可能な水草は基本的に成株のみです。幼株はだいたいだめです。春に実生が出て、夏に成株になって、ようやく越冬・・・という感じのようです。案外北方種もそういうものが多いです。夏のうちにガンガン施肥して体力をつけてから越冬!という感じがあります。というか本当に北方系の湿生・水生植物は実は寒さに弱いものが多いです・・・これも後述。

さて、そういう前フリをしたうえで、一般に水草は種子から成熟するまでに「全日照条件下で最低気温15度以上が3か月」必要だと私は考えています。当方の気候では最低気温が15度を超えるのは6,7,8,9の4か月のみです。4か月あれば一年生水草は結実までいきますが、多年生水草は微妙に間に合わない・・・ものが多いです。なぜなら、多年生水草は地上部だけでなく越冬に必要な地下部を充実させる必要があり、さらに越冬時は草体の大部分を腐敗・枯死させながら生存可能な部位が何とかぎりぎり耐え抜く・・・という感じだからです。(外気温マイナス10度となると草体内外の水も凍ってしまい、抽水性植物は枯れ、水温は底までゼロ~5度になる…のです。)また、熱帯性や亜熱帯性の水草は播種したとしても1か月以上かかって発芽するものが多く(積算温度の関係でしょうか?)、間に合わない!というトラブルのもとになります。

回りくどくなりました。

温室内において、全日照で最低気温が15度を超えるのは12か月あります。つまり、温室の1年は屋外の3~4年分なのです。一年生水草の場合、一年で3~6サイクル可能です。(私がかかわった種でも、私が1サイクルまわしている間に温室組は4サイクルまわしていた前例があります…。生産業者なら温室での成長速度はさらに速いはずです。)多年生水草にしても有茎なら2サイクルは可能だと思います。ロゼットでもいけそうです。そういう中において交雑問題が発生するのは必至で、それを避けるには似たものはすべて別ハウスで育てるか、徹底的に実生を排除するか…ということになるでしょう。どちらにしても非現実的です。さらに、同種間であっても、時に異種間においてもF1は雑種強勢により成長が著しい時があり、雑種の実生が元植えてあった種を圧倒するのはすぐ起きそうなことだと思います。

というわけで、温室で生産するものに関しては屋外管理のもの以上に一か所で栽培する生物学的種を少なく抑え、交雑をできるだけ防ぐ必要があるように私は思います。また、温室で生産された後に出荷される株が全くの別物になっていたり、違うタイプが1ポットに混じっているということも、また仕方がないことなのだと思います。ということで、結局のところ「水槽で自分の好みの姿に育っている水草を買う」のが一番だと思います。水草は一期一会、もしかしたらショップで目撃したそれは偶然ファームで発生した奇跡の雑種かもしれませんし、定番種でも次の入荷時にはもう不明な雑種に置き換わってしまっているかもしれない、ので…。

さらに言えば、趣味として栽培する水草はできる限り広範囲の種や科、属にまたがるようにした方が良いように思われます。特定の属や種に人気が集中し、ファームもそればかり作る…という状況ではいつか交雑で崩壊するように思うからです。そういう点において、私は組織培養水草には一定の評価と信頼を置いていますが…

組織培養はなんといっても味気ないですからね。