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バルデリア Baldelliaについて

Baldelliaはヨーロッパ南部を中心に分布する、比較的小型のオモダカ科植物である。Cook (1990) はこの属をEchinodorusに含めたが、のちの研究ではLuroniumおよびAlismaとの関連が示唆され (Arrigo et al., 2011)、Echinodorus(およびAquarius)との関連は現在では否定的である。

Baldelliaには2種2亜種(Vuille, 1988)ないし3種(Arrigo et al., 2011)が知られてきたが、さらに1変種を追加する説もある(Rocha et al., 2012.)

これらの種は花や葉の外部形態がきわめてよく似ており、すべて水生園芸で時々扱われるバルデリア・ラヌンクロイデスを想像しておけば大丈夫である。したがってとりわけ奇妙な種がいるわけではない。

違いは育ち方で、花茎が倒伏して匍匐しランナー状になるB. repens, 同じくランナー状になるが花は1節あたり1輪か2輪ずつしかつけないB. alpestris、花茎が細く直立するB. ranunculoidesの3つに分け(Vuille, 1988)、これに大型で20㎝を超え、花茎が直立し1節に20輪以上つくB. ranunculoides var. tangerinaを加える場合もある(Rocha et al., 2012.)。但し、これらの形態分類は必ずしも遺伝的証拠と合致しているわけではない。Arrigo et al., 2011の結果からすると、ヨーロッパおよび北アフリカBaldelliaはイタリア~北アフリカで氷河期を越したと思われる群、すなわちイベリア半島以外のB. ranunculoidesおよび、北アフリカB. repensイベリア半島で越したと思われるイベリア半島B. alpestrisおよび、イベリア半島B. repensに分けられ、それらが北上しながら交雑したようである。

 

Baldellia ranunculoidesは西ヨーロッパおよび地中海沿岸付近の貧栄養水域に生育し、生息域の全域で減少傾向にある。(Kozlowsku and Valleian, 2009)有機物堆積の少ない水位上下がある貧栄養~中栄養水域を好むとされる(Schamine´e and Arts, 1992)。Kozlowsku and Valleian, 2009は富栄養条件下で成長が阻害されることを示している。但し、ある程度肥料がないと育たないし有機質を足すとやっぱりよく育つのは栽培経験上そうなので、わざわざ肥料を切らしすぎる必要は全くない。B. ranunculoidesはまた、交雑によっても減少している可能性がある。Arrigo et al., 2011はBaldelliaAlismaとの交雑の痕跡を多数発見したとしており、またA. lanceolatumA. plantago-aquaticaとの交雑個体も確認されており、交雑による絶滅リスクの評価が必要である。

また、バルデリアを栽培している方は万が一逸出した場合ヘラオモダカやサジオモダカとの交雑リスクがあることに留意すべきだろう。

(栽培下においてはAlismaに比べてBaldelliaは貧栄養に強く強健で病気にかかりにくく小型で株別れ盛んなのではるかに栽培しやすく、交配種をつくる親としては有望かもしれないが…。)

最後に水生園芸および水草としての利用についてである。

バルデリアはオモダカ科の中でもかなり育てやすい部類に入り、家庭で育てる上で最もおすすめできるオモダカ科といえるだろう。

大きさはナガバオモダカの半分以下で、20㎝を超えることは滅多にない。かつ花上がりが良く、ピンク色の花は小型の草体のわりには大輪で見栄えがする。温帯の植物で寒さにはかなり強いので、東北以南なら栽培下で越冬が可能である。さらにアクアリウムプラントとしてもかなりいい線をいっている。

他のオモダカ科に比べて燃費が良く、肥料をものすごい量突っ込む必要はない。荒木田土や赤玉土ベースの用土で、常識の範囲内の施肥量で栽培でき、植え替えを多少サボった程度では肥料切れで枯れることは無い。病気にも強く、ヘラオモダカやサジオモダカがしょっちゅう罹患する葉の黒いブツブツも出にくい。ヘラオモダカやサジオモダカは肥料で元気をブーストしてやらないとすぐに病気になってしまうので、これは非常にありがたい。

増殖は倒伏させた花茎から子株が出るか、株別れを待つ。ナガバオモダカのような、ランナーで下品な増え方はしない。実生もできるはずだがまだ試していない。

水位上下がある水域に生育する植物なので、沈水でも生育可能である。沈水葉はブリクサに酷似しており、同様に水槽で用いることができる。線形の葉をもつオモダカ科の中では最も美しいと思う。この種は流通があまり多くなく、いつでも手に入るものではない。屋外スイレン鉢で栽培が容易な植物なので、いったん自前で増やして維持しながら、ぼちぼち余った分を水槽に導入するのが良いだろう。

最後にもう一回。Alismaと交雑するので絶対に外に逃がさないこと。

 

C.D.K. Cook. 1990. Aquatic Plant Book. SPB Academic Publishing, The Hague.

Arrigo, N., Buerki, S., Sarr, A., Guadagnuolo, R., & Kozlowski, G. 2011. Phylogenetics and phylogeography of the monocot genus Baldellia (Alismataceae): Mediterranean refugia, suture zones and implications for conservation. Molecular Phylogenetics and Evolution, 58(1), 33-42.

Vuille, F. L. (1988). The reproductive biology of the genus Baldellia (Alismataceae). Plant Systematics and Evolution, 159, 173-183.

Rocha, J., Crespí, A. L., García-Barriuso, M., Kozlowski, G., Almeida, R., Honrado, J., ... & Amich, F. (2012). Morpho-environmental characterization of the genus Baldellia Parl.(Alismataceae) in the Iberian Peninsula, Balearic islands and North Morocco. Plant Biosystems-An International Journal Dealing with all Aspects of Plant Biology, 146(2), 334-344.

Schamine´e, J. H. J. & G. H. P. Arts, 1992. Die Strandlinggesellschaften (Littorelletea Br.-Bl. et Tx. 43) der Niederlande, in europa¨ischem Rahmen gefasst. Phytocoenologia
20: 529–558.

Kozlowski, G., & Vallelian, S. (2009). Eutrophication and endangered aquatic plants: an experimental study on Baldellia ranunculoides (L.) Parl.(Alismataceae). Hydrobiologia, 635, 181-187.