水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

他人の空似、似ない兄弟

オモダカSagittariaに関しては以前もこのブログで取り上げているのだが、今回はマメ知識的に、Sagittariaのザックリとした系統に関して書いてみようと思う。

水生園芸、および野外において目にする機会があるオモダカ属を列記してみよう。

オモダカ Sagittaria trifolia 

クワイ Sagittaria trifolia 

アギナシ Sagittaria aginashi

ウリカワ Sagittaria pygmaea

カラフトグワイ Sagittaria natans

タイリンオモダカ Sagittaria montevidensis

サジタリア ラティフォリア Sagittaria latifolia

サジタリア オーストラリス Sagittaria australis

ピグミーチェーンサジタリア Sagittaria subulata 

サジタリア ”ナタンス” Sagittaria cf. filiformis

サジタリア ランキフォリア Sagittaria lancifolia

ナガバオモダカ Sagittaria weatherbiana

ヒロハオモダカ Sagittaria platyphylla

 

こんなところだろうか。

ぱっと見の見た目で分けてみよう。

 

やじり状の葉をもつもの

オモダカクワイ、アギナシ、カラフトグワイ、タイリンオモダカ、ラティフォリア、オーストラリス

柔らかいやじり状の葉をもち、ランナーで殖える

アギナシだけ、塊茎のつけ方が異質である。

オモダカクワイとカラフトグワイは基本的に、夏の間は栄養増殖しない(球根のみ作る)のに対し、タイリンオモダカ、ラティフォリア、オーストラリスは夏の間もどんどん増える。葉の形はタイリンオモダカとオーストラリスがそっくりである。

 

細い葉をもつもの

ウリカワ、ピグミーチェーンサジタリア、”ナタンス”、(ランキフォリア)、ナガバオモダカ、ヒロハオモダカ

やや硬い矢じり状の葉をもち、ランナーでものすごく殖える

 

ランナーをもたないもの

ランキフォリア

ランキフォリアは見るからに異質で、ガチガチの葉でまったくサジタリアらしくない。

 

花柄が太く曲がるもの

ヒロハオモダカ、タイリンオモダカ

 

花柄が細くまっすぐなもの

ヒロハオモダカ、タイリンオモダカ以外のすべて

 

しかしながら、系統的には

・ タイリンオモダカ

・ (ピグミーチェーンサジタリア、”ナタンス”、ナガバオモダカ、ヒロハオモダカ、ランキフォリア)

オモダカクワイ、アギナシ、カラフトグワイ、ラティフォリア、オーストラリス、ウリカワ)

となるという(Ito et al., 2020)

さらにウリカワに至っては、アギナシや東アジアのアギナシ似の植物と姉妹群(Ito et al., 2020; Tsubota et al., 2019)であり、分布のイメージが全く違うオモダカ/クワイとカラフトグワイが姉妹群である。

 

ただ、言われてみれば納得するような気もする。

一見よく似たウリカワとピグミーチェーンサジタリアやナガバオモダカだが、ウリカワの葉はオモダカ類に広く見られる線状の幼形葉そのものであって、ほかの一見細い葉をもつ植物の「へら状の有柄の葉身をもつ」のとは大きく異なることに気づく。

タイリンオモダカは花がSagittariaの異端児で系統解析上も最も早期に分岐するオモダカモドキ S. guayanensisとよく似ているし、ラティフォリアとプラティフィラはともに北米産だ。ウリカワ、アギナシとその類縁はアジアにしかいない。

 

類縁関係を気にしながら観察してみると他にも色々な共通点があるかもしれない。

サジタリアは肥料をドカ食いするし場所をとるものも多い。

個人的に一番カッコいいと思うのは細葉型のオモダカだが、これは病弱だし肥料の要求量も多い。タイリンオモダカは丈夫で花が綺麗だが耐寒性が低く葉の形があまり好みではない。栽培植物としてはかなり一長一短があり、どれが一番というものではないから、比較しながらやるのが楽しいと思う。

 

Ito, Y., Tanaka, N., Keener, B. R., & Lehtonen, S. (2020). Phylogeny and biogeography of Sagittaria (Alismataceae) revisited: evidence for cryptic diversity and colonization out of South America. Journal of plant research, 133, 827-839.

Tsubota, K., Shutoh, K., Kato, S., Choi, H. J., & Shiga, T. (2019). Molecular phylogenetic relationships among populations of Sagittaria aginashi Makino (Alismataceae) and endemic Chinese species. Journal of Asia-Pacific Biodiversity, 12(1), 106-114.