マヤカ,あまりに美しい水草ですがあまりに人気がないですね.最も美しい水草の一つに挙げていいと思うのですが.気泡もすごいですし.
マヤカはアクアリウムでありふれた水草のなかでも非常に独特な分類的位置にあります.マヤカ属のみでマヤカソウ科Mayacaceaeを形成し,イネ目とはされていますがどの科に近いかに関しては様々な意見がありました.現在ではホシクサ科の姉妹群ではないか?ともいわれています.というわけでホシクサファンはマヤカもやるべきだ(意味不明).花は花弁のはっきりした三弁の虫媒花なので,ホシクサというよりむしろミズオオバコの仲間に似ていますが,ミズオオバコの仲間はオモダカ目です.パイナップル科の花にも似ていますね.パイナップル科はイネ目なのでまあまあ近いです.
イネ目の変な奴らは南米に多いのですが(代表はパイナップル科やホシクサ科,トゥルニア科など),マヤカ科もそんな南米珍草を代表するものです.一種だけアフリカにもいるのですが,これはオテリアや一部のシンゴナンサス等多くの水草に同じようなパターンがみられるので恐らく渡り鳥によって比較的最近移動したのだと思います.
さて,マヤカに付きまとう問題としてその分類の混沌と同定の難しさが挙げられます.おびただしい数のシノニムがあり,どの程度を種として認めるかについては研究者によって意見が合致しないという状況が長く続いているためです.
先ほどイネ目でホシクサ科に近そうだと書きましたが,正直言うとよくわかりません.遺伝子によるアプローチの前にはトウエンソウ科(Xyrisとかの類)やツユクサ目ツユクサ科に近縁であるという説も割と根強くあり,混沌をさらに深めていました.
マヤカ属に関しては25程度の名前が使われていますが少なくともその全部が有効なわけではなく,いったい何種あるのかコンセンサスがいまいちとれていません.
そもそも,Mayacaという属名が一体どういう意味を持っているのかもわかりません(北ブラジルのMaiaca川からだとする説がありますが,タイプ標本はフレンチギアナのSinemari川から採集されている).
つまり…
「何に近いのかもわからず,何種あって互いに何が違うのかもわからず,そもそもマヤカってなんだ」という状況が長いこと続いてきたということです.
但し,以下の5種に関しては別種で良いだろうと広く認められており,今回はその5種を紹介します.
Mayaca baumii
Mayaca fluviatilis
Mayaca kunthii
Mayaca longipes
Mayaca sellowiana
1.アフリカ産マヤカ
一種だけです.
Mayaca baumii
唯一,アフリカに分布するマヤカです.熱帯アフリカのコンゴ,アンゴラ,ザイール等に分布するとされていますが,アクアリウムに導入された事例はないと思います.せめて西アフリカあたりまで分布があればあり得たかもしれないのですが.葉が長いラージマヤカ的なやつです.私はあまり資料を持ち合わせておらず,あまり語りにくいですね.M. longipesと同様,多数の花からなる花序をもちます.
2.葉が短いもの(無印マヤカ系)
この仲間は柱頭が短く,葯に目立った突起はありません.花柄も基本的には短いです.
区別は葯の形状が基本となります.
Mayaca fluviatilis
最も栄えているマヤカであり,北米南部から南米南部のラプラタ水系まで分布します.そして,おびただしい数のシノニムを抱えています.
そのシノニムは
Mayaca aubletii
Mayaca caroliniana
Mayaca madida
Mayaca michauxii
Mayaca vandellii
Mayaca wrightii
等等...まだいろいろあります.
M. vandelliiはアクアリウムで扱われるマヤカに関してもかつて充てられており,いまでも時々その名で流通することがあります.名前が違う!といっても同じように東南ファームから取り寄せていると思います.
一般的に流通する「マヤカ」はMayaca fluviatilisでよいでしょう.一回咲かせたことがあります.
本種はひときわ適応力が強いようで,陸上でもよく育ちますし,CO2添加がなくてもそう簡単に枯れはしません.南米を本拠地とする水草のくせに中性付近でも育ちます.
カボンバよりはよっぽど育てやすい水草ですし,低pH, 低硬度水槽ではアナカリス等も育たないので,そうした水槽における金魚藻適性がかなり高いと思います.魚にやエビの嗜好性は私の知る水草の中で最も高い部類に入りますし()()()()
本種は葉も花柄も短いのが特徴的です.花柄が長い個体群もいるようなので(たとえばColetia madidaとして記載された個体),過信は禁物ですが.
水中から開花することは少なく,水上栽培するとよく咲きます(開花時間は短いですが,ピンクの小さな三弁花で綺麗ですよ).
Mayaca kunthiiiとの主な違いは雄蕊の形態で,M. fluviatilisの方が短いです.
これだけもめにもめた種ですので,たぶんいくつか隠ぺい種がいると個人的には思います.
Mayaca kunthii
これもM. fluviatilisのシノニムとされていましたが,花の構造が違う(雄蕊の葯が長い)などの理由で再度分けられた経緯があります.花柄は1㎝ほどとやや長く一輪ずつ咲きます.M. fluviatilisよりやや小型のようです.ドワーフマヤカとして流通するいくつかの種に紛れているのではと思って注目しています.とにかく咲かせてみないことにはわかりません.
基本的には葯がM. fluviatilisに比べて長いこと,花粉の形状で区別されます.
柱頭もやや長いようで,柱頭が葯より先に飛び出している図もよくみられます.
3.葉が細長く大型のもの(ラージマヤカ系)
このグループは柱頭も長く,葯の先端にボコッとした突起があります.
花の付き方で判別します.
Mayaca sellowiana
大型のマヤカで,ラージマヤカにしばしばこの学名が当てられていますが未確認です.M. longipesともよく似ていますが花は一輪ずつ咲きます.
ラージマヤカに関しては咲かせるどころか水上化にすら大苦戦しているので,ちょっとどうしたものか….育てるだけならプラケに水道水入れてピートの袋詰めと一緒に浮かべておくだけで育つっちゃ育つのですが.水質の急変に弱いのが問題ですね.水草のくせにpHショックを起こすので,「水草その前に」などを使うと爆死するのではないかと思います.慣れてしまえば低pHでよく育ちます.「水草の楽しみ方」では高硬度を必要とすると書いてありますが,なぜそのような結論に至ったのか不思議でなりません.
Mayaca longipes
姿はM. sellowianaに似ていますが,南北アメリカ産マヤカとしては唯一,散形花序でいくつかの長い柄をもった花が一か所から出ます.大型かつ,かなり細葉のマヤカです.
アクアリウムでは見たことがないのですが,もしかしたらラージマヤカはこっちなのではないか?という疑いもあるのでラージマヤカ開花計画を続けています(そもそも流通するラージマヤカが単系統かもわからないし).
咲かせてみて散形花序だったらこいつです.AZ1110-20RS collected 14/12/2010 Mayaca sp "インピュデント マヤカ"from Joia Rio UruguayはM. longipesですね.Flora do Brasil 2020にはM. longipesは完全沈水性と書いてありますが誤りです.
え?スレンダーマヤカがないって?そうなんですよ,ないんですよ...
何なんでしょうねあいつ.
最後に,流通に乗ったマヤカと学名の対応です.
マヤカ→Mayaca fluviatilis
パンタナルドワーフマヤカ→Mayaca fluviatilisかM. kunthii
パラグアイレッドマヤカ→Mayaca fluviatilisかM. kunthii
(一応確認までに.パラグアイレッドマヤカ=AZ1110-12 collected 25/11/2010
from Paraguari-1 Rio Paraguayでいいですよね?)
ラージマヤカ→Mayaca longipesもしくはMayaca sellowiana 咲かせるまでわからない.
Mayaca sp "インピュデント マヤカ"from Joia Rio UruguayAZ1110-20RS collected 14/12/2010→Mayaca longipesで確定です.持っている方いるのだろうか.いてほしい.
ベレンカールリーフマヤカ→Mayaca longipesもしくはMayaca sellowiana 咲かせるまでわからない.
マヤカspイキトス→Mayaca fluviatilisかM. kunthii 訂正:現在流通している個体群にかんしてはM. fluviatilisかM. kunthiiのようなので、元々”Mayaca longipesもしくはMayaca sellowiana ”と書いていたところを修正。2024/1/8
スレンダーマヤカ・ボリビア産→多分Mayaca longipesだと思う.
ロライマ・ニードルリーフマヤカ
インピュデントマヤカ(1996)これはマヤカではなく多分ヒカゲノカズラかなにか.
以下,不明種.
スレンダーマヤカ・サンフランシスコ→??????何なんだあれは.
サンタレンレッドリーフマヤカ→不明.咲かせてみないとわかりません.咲いてもわからないかもしれない.
まだよくわからない
ではでは.