AZ便のブログを眺めていて思ったこと.
甲斐さんの仰る通り深緑系エキノの出る地域は乾燥地帯で森などない.
というかもろにパンパである.草原である.
というか,地図からみても深緑系エキノの分布とパンパの分布は合致する.
聞くところによれば,木があるにしても河畔だけのGallery forestであり,熱帯雨林とは程遠い.
Gallery forestには拠水林という訳があてられるけれど,日本でみられる拠水林は栄養分が少なすぎるために川の周囲にしか森ができない,しかしパンパは基本的に肥沃であり,樹木の生育を規定しているのは水条件と思うのでなんか違う感がある.ちなみにアメリカデイゴやパキラ・グラブラはパンパの川岸を主な生育圏としているので,深緑系エキノと分布は合致している筈です.
ここで,パキラに関してみていくと(生態からすると水草といっていい樹木です),パンパには観葉植物としておなじみのグラブラ,アマゾンにはめったに流通しないアクアティカが分布しているようです.このように樹木やエキノドルスは結構生息条件に縛られているというわけです.
AZ便で入っているものではアマゾンオテリア Ottelia brasiliensisはむしろ南寄りに多く,セラードからパンパを本拠地としています.アマゾンにもないことはないですが,GBIFで見る限りレコードは少ないです.これも深緑エキノに近いパターンでしょう.
しかし,有茎草はどうでしょうか?
たとえばボリビアンスターとして知られるSyngonanthus caulescensは南米の熱帯雨林からパンパにかけて分布しており,勿論パラグアイ川にも分布しています.
スリッシャーズアクアリウムのベネズエラ紀行にも映り込んでいましたね.こいつはなんとか冬さえ越せれば降水量はあまり関係ないのでしょう.
パラグアイ川の写真にはブラジリアンフラジャイルプラント,バコパspサンタレンなどで知られるOldenlandia salzmanniiも映っていますが,こちらはセラードからパンパを本拠地としている種です.でもまあ…サンタレンにもいたんでしょうね.
ウルグアイ川の写真には長い柄を持ったマヤカが映り込んでいますが,これはMayaca longipesとみていいでしょう.同じ種はネグロ川にもいたりするなど,南米に広域に分布するものです.ラージマヤカもこいつじゃないかという気がしていたのですが,咲いてくれないことにはわかりません.
スターレンジも分布が広いですが,こちらは熱帯雨林をメインの生息地としておりパンパには分布がありません.熱帯雨林があれば進出するので,メキシコあたりまでいます.個人的な印象としては,スターレンジの水上葉は乾燥に弱いです.かといって水没はもっと嫌い.そのため空気が乾燥する地帯は嫌い,と.あれこそジメジメ系植物だと思います.
トニナ,エグレリア,ラジアルヘアーグラス,ラージナヤスあたりも生息域はアマゾン地域の熱帯雨林です.
沈水ロゼット系ホシクサはセラードからアマゾン南部を分布の中心としているようで,パターンがいまいち読めません...ただアマゾン流域にも居はするようですが.
バコパ・ミリオフィロイデスはラプラタ水系の上の方にはいますが下の方にはいないようです.
ラージパールグラスは正直読めません.M. tweedieiを有効とするのかよくわからないし,サンパウロのラージパールグラスはノーマルやNewラージパールグラスとは似て非なるものに感じますし.まあ似たような種複合体が広域にいるんでしょうかね・・
そろそろまとめましょう.
有茎草においてはむしろ流域よりも気候が分布を左右しているのでは?という印象を受けます.分布パターンはパターン化できるように感じます.
・どこでも行けるパターン
熱帯雨林から比較的乾燥し低温になる地域まで広く分布する.
ボリビアンスター,ラージマヤカ,マヤカ,エイクホルニア,ベルテロイ,テネルス,エキノドルス・フロリブンダス,カボンバカロリニアーナなど.
→温度は10度切らなければOK.pHは6.5でいいはず.ボリスタはそもそも水生適応が低いためアマゾン低pHパターンでしか沈水しない.
・熱帯雨林パターン
新熱帯区の熱帯雨林に広く分布し,低pHには依存せず適応範囲が広い.林内の流れから開けた水域まで生える.
スターレンジ,アマゾンソード,エレオカリス・ミニマ,インクリナータ,ピンネイト,サンフランシスコイレシーヌ,バコパ・ミリオフィロイデス,ケヤリソウ,ニムファ類,スタウロギネ,アマゾンハイグロ,イエローカボンバ,パキラ・アクアティカなど
→低温には弱く15度を切るとやばい.pHは6以下めどに下げた方がいいが,アマゾンパターンほどシビアではない.水上葉は保湿した方がいいはず.スターレンジとサンフランシスコイレシーヌはそもそも水生適応が低いためアマゾンパターンでしか沈水しない.
・アマゾン低pHパターン
林内から出たブラックウォーターや,酸性土壌によりpHが下がったクリアウォーターに生える.pHが低い環境を好むのが特徴.恐らくアマゾンの低PHに合わせて沈水適応を独自に発達させたのではないか.沈水適応が低いのに水上が苦手という変な奴ら.
トニナ,エグレリア,ラジアルヘアーグラス,マットグロッソスター,ゴイアススター,ミナススター,ラージナヤス,レッドカボンバなど
→pHを下げる.5以下を目指す.所謂,南米水草の管理が必要.
・パンパ・セラードパターン
平原の流水に生える.砂底~泥底,あまりpHは低くない感じ.単に温帯パターンといえるかもしれない….多くのエキノドルスはアマゾンを避けるように北米とパンパ・セラードに分かれて分布しているし.
深緑系エキノ,ブラジリアンフラジャイル,アマゾンオテリア,ヘテランテラ,バコパ・オーストラリス,ブラジリアンコブラグラスなど.黄緑系エキノドルスの多く,パキラ・グラブラなど
→pHはあまり下げる必要はなく低温耐性がある.アマゾンオテリアに関してのみ栽培方法がいまいち未解明.どこでも行けるパターンとともに,普及種が多い.
使い方の例
パンタナル湿原イメージの水槽→どこでも行けるパターン+熱帯雨林パターン+少々のパンパ・セラードパターン
熱帯雨林パターンに合わせてpHは6まで下げる
アマゾン北部イメージの水槽→どこでも行けるパターン+熱帯雨林パターン+アマゾン低pHパターン
アマゾン低pHパターンに合わせてpH5まで下げる
ラプラタ水系イメージの水槽→どこでも行けるパターン+パンパ・セラードパターン
どこでも行けるパターンに合わせてpH6.5まで下げる
こんな感じで,だいたいあってるアトラスレイアウトが組めるはずだと思います.