"オクラレルカ"は、沖縄県では重要な水生花卉である。大宜味村で栽培されるのが有名であるが、うるま市や恩納村でも育てられているようだ。沖縄産とみられるものは生花として全国に出荷されている。
流通はおもに葉が全国に出荷されるほか、主に沖縄島内向けに(だと思うが)蕾が出荷されて、翌日開くものがある。
大宜味村のホームページによれば有名なターブクでのオクラレルカ栽培はイグサ栽培地を転作したものだというが、もとの「イグサ」が沖縄在来品種、シチトウイ、九州系のビーグのどれであったかははっきりしない。沿海湿地であることから一時はシチトウが栽培されたのではないかと期待して探してみたが、発見することはできなかった。沖縄本島でのシチトウはかなり発見困難な部類かもしれない。九州系のビーグはうるま市のほかに国頭村でも盛んに栽培されるので納得ではあるが、現在でも商業的価値の高いこれらの植物をわざわざ転作するかには疑問がある。個人的にはシチトウ説を推したいが…現時点では物証も情報も得られていない。
なお、いま他に大々的に育てられている植物はフトイガヤツリであり、これも花卉用である。
名前に関してはやや問題がある。そもそも「オクラレルカ」という植物がほかにない。元々はオクロレウカIris ochroleucaの訛りとみられるが、ochro-が淡黄色、leucaが白色、であるように、淡黄色に白色の模様が入る陸生植物である。沖縄の"オクラレルカ"は淡青色の花弁に黄色い模様が入る水生種であり、オクロレウカではない。したがって、謎植物である。
沖縄でオクラレルカが栽培されるようになる以前に同様な植物がどこか…おそらく本土でオクラレウカとして流通し、それが入ったと考えるのが自然だろうとは思うがはっきりしない(あてはあるかもなので後であたってみる)。
なお、杜若園芸でオクロレウカとして売られているものもオクラレルカと同様であり、なんかしらのヒントになるかもしれないし、単にオクラレルカを誤植とみて直したのかもしれない。
オクラレルカはルイジアナアイリス、特に原種のIris giganticaeruleaに酷似していることを指摘するネット記事がいくつか見当たる。非常に大型で水生傾向がカキツバタ並みかそれ以上に強く、花の色も合致する。おそらくただしいのではないかと私も思うが、この類に関しては明るくないので断言は避ける。
ただ、少し言葉遊び的ではあるが、ひとつ可能性は思い当たるように思う。
Iris ochroleucaのシノニムとして、Iris giganteaがある。これとIris giganticaeruleaが混同されたのではないか、と。
となると、オクロレウカと呼ばれるようになる前段階でギガンティアとかギガンティケルレア、というIrisが流通していたのではないかと推測してみる。そういった情報がないか、今後アンテナを張ってみるつもりでいる。
オクラレルカはいまのところめだった疫病などもないのか、栽培放棄はあまり見当たらなかった。水田は比較的長い期間湛水されるようで、ヒメクグとオオハリイ、シマヒメタデ、シマウリクサ、アカウキクサ類などの短命な多年草が目立つ印象を受けた。ここ数年毎年渇水が続くようになり、沖縄の湿地環境が極めて悪化している。その中で湛水期間の長いオクラレルカ田は水草以外にも水鳥や水生昆虫などの多様性保全に大きく役立つのではないかと思った。もし今後生花店で見かけたら飾っておこうかと思う。