日本のハリイは3種だといわれている。
ザックリというと、
・穂が黒っぽくて、大型で、根本の赤い部分が長い多年草・・・オオハリイ
・穂が白っぽくて、中型で、根本の赤い部分が短い一年草・・・ハリイ
・穂が黒っぽくて、小型で、根本の赤い部分が殆どない一年草・・・エゾハリイ
の3種である。
詳しくは小山(1961)*1
および、西宮の水生・湿生植物*2
を参照のこと。
しかしながら、琉球列島を訪れた際には大型で赤い部分が典型的なオオハリイに比べて著しく短く(それこそハリイのように)、穂も緑白色であるにもかかわらずオオハリイ並みかそれ以上に大型の植物を確認しているし、エゾハリイもしくはハリイとみられる同じ産地の株でも生育条件によって根本の赤みが皆無であったり出たりするものもいるので非常に紛らわしい。ハリイだろう、と思って観察していたらまったく株の赤みが出ずそうこうするうちに黒紫色の花穂を出したり、エゾハリイだろうと観察していたらいつの間にかハリイに化けることもしばしば。
オオハリイは野外でも多年草であり、分布の北限付近とみられる北関東においても越冬した株が春早々に開花を始める様子が見られる。
ただしエゾハリイやハリイが一年草なのか?といわれるとかなり微妙なところがあって、やはり越冬した株を見かけるし、栽培中の株も越冬することがある。さらに、本当に肥料をカツカツにしてみると春に発芽した株が7月にはタネをつけ切って枯れる(あっという間に種子に逃避する)現象がみられたりもする。
したがって本質的にはどちらも多年草で、冬場に残る地上部の量がどのくらいか…そんなところで分かれているような気がしてならない。
このような状況なのでこの4種は同じようなもの…と思っていたら、Yanoら(2004)*3
の結果を見て困惑する。{(マシカクイ、シカクイ、ハリイ、エゾハリイ、ヤリハリイ)とオオハリイが姉妹群をなすようにみえる。}
名前の通りエゾハリイはやや北方系、らしい。しかし本当にそうなのか?成長条件の悪いハリイとどの程度混同されているのか?に関しては注意が必要と思われる。ホシクサなどでもそうだが、ストレス条件で穂が黒っぽくなる現象はイネ目で結構起きうるのかもしれないという疑惑を最近抱いているからだ(このあたりも要検証である)。
小山(1961)ではオオハリイは駿遠より東にないようである、としているが、関東地方でもポツポツと分布がみられる。但し相当に稀な種である。茨城にはいるが栃木では見たことがないあたり、分布の印象はミズユキノシタやミズタガラシに近いものを感じる。小山(1961)ではヒマラヤとの共通性に着目しているが、むしろ耐寒性がいまいち完全ではないために凍結を免れる地域に生育しているのだろうと思っている。
沖縄にはハリイがいないといわれているようだが、ではハリイ類らしきものが皆オオハリイといっていいのかはまた別問題だろう。台湾や中国にとくべつ似た近似種がいるかといわれればそうではないので、そこまで気にする必要はないとは思われるもののオオハリイとハリイ、また”オキナワハリイ(オオハリイ×マシカクイ)”などの区別には注意が必要だろうと思っている。ただ沖縄にはなかなか足を運ぶ機会がないし、沖縄の湿地は撹乱とそこからの変化がきわめて激しく、ハリイ属が好む環境が少ない。湿地の破壊も著しい。もし沖縄に行く機会がある方がいれば、どんなハリイがいたのか気にしていただけると助かる人がいるかもしれない。また、日本では謎の存在に近いカヤツリマツバイはハリイにかなり似た植物であるため、ハリイで片づけられてしまっていそうだ。(これに関してもそのうち記事を書きたい。というかそもそも日本に実在するのか?)
さいごに、ハリイ類(上記3種)はあんがい、シカクイやイヌシカクイとの誤認が後を絶たない。
シカクイの実生はしばしばハリイと全く区別がつかない。普段見かけない場所でエゾハリイらしきものが多数発生したので気になって持ち帰って育ててみたら「2年目で」シカクイと判明したことすらある。まったく修行不足で恥ずかしい限りである。というのもシカクイは冬になると根元にトゲトゲした越冬芽をつけるので、そこで気付けという話なのである…。
シカクイやイヌシカクイは穂をみればわかりやすい。鱗片が明瞭で太い茶褐色の帯で縁取られ、全体に麦わら色である。またシカクイやイヌシカクイは綺麗な叢状であって、ハリイのような倒伏性は強くない。子株が出ることもない。
ヤリハリイに関しては観察数が少なすぎて何とも言えないが、私は雑種説に一票としておく…
*1:
小山鐵夫. 1961.ハリイー特に種類と類縁についてーScience report of Yokosuka city museum, 6
https://www.museum.yokosuka.kanagawa.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/s6-1_Koyama_1961.pdf
*2:
*3:Yano, O., Katsuyama, T., Tsubota, H. et al. Molecular phylogeny of Japanese Eleocharis (Cyperaceae) based on ITS sequence data, and chromosomal evolution. J Plant Res 117, 409–419 (2004). https://doi.org/10.1007/s10265-004-0173-3