ワイルド品、というものに関する印象が気になっている。
先日も南西諸島での野生生物の採集・販売行為や、南アフリカの生育に何百年も要する砂漠性植物の乱獲が話題になったところであるが、日本において「ワイルド品」はどのように認知されているのだろうか?
大衆のまえで「採集・販売行為を悪いことと思う人は手を挙げてください」といえば、わりと多くの人が手を挙げるだろう。
しかし、アクアリストや生き物飼育者、熱帯植物の方々に「ワイルド品を店で買うことは悪いことと思う人は手を挙げてください」ということに関しては、どうだろうか。どのくらいの人が手を挙げるだろうか?
人は矛盾した生き物だと思う。思っていることをすべて実行できる人は稀であるし、自分のポリシーに反することをつい何かの拍子にしてしまう、過ちの多い生き物だと思う。
私もワイルド品を買ったことがたびたびあるし、ほとんどのアクアリストが一度は手に取ったことがあると思う。そのため、ワイルド品を一概に否定するのは自身の存在基盤を脅かすことになりかねないし、ワイルド品は絶対買うなと私のような変な水草を愛好するものが言おうものなら、矛盾した偽善者と人の目には映って槍玉にあげられても仕方がないことなのかもしれない。
しかしながら、あえて汚れ切った手を挙げたいのが本音である。
私は、基本的にワイルド品は買うべきではないと思っている。
理由を述べていきたい。
その価格は適正か?
まず、ワイルド品の価格からみていこう。
海外から生き物を持ってくるには、たいへんな手間がかかる。そもそも輸送費がすごいし、現地においてもおいそれと見つかって採集できるものではない。
家の中からネットでワイルド品をポチる前に、外に一歩出てみて、自分でその生き物を探すためにはどのくらい大変かを想像してみよう。
どこどこまで遠征して、ガソリン代はどのくらいかかって、場合によっては飛行機も必要で、ポイントを探すのには少なくとも数日はかかるか、、、などなど。そうして気付くことは、それがたとえ日本の身近な生き物であったとしても、とんでもなく手間と時間とお金がかかるのである。
それと目の前の価格は、釣り合うだろうか?
どのくらい採ってくればペイするだろうか? まずはそこから考えてほしい。すぐにとんでもない数字が浮かんでくるはずだ。何百匹のカエル、何千匹の熱帯魚、何百株の植物…。
そしてもういちど目をつぶって考えてほしい。
その量を採ってくる人を、あなたはどう思うだろうか?
まあ現実を言えば、”安い”ものはより市場価値の高いものを採集する際のオマケのように採られているものもあるだろう。しかしながら、目を覆いたくなるほどの乱獲がいまも、世界のどこかで行われていることは理解できると思う。
日本においてはまだ今のところは環境意識も比較的高く、「採りすぎはいけないことだ」「こんな取り方はだめだ」と思う良心を持つ人が大多数だと信じたいが、発展途上国においてこの生き物は金になる、とわかったら何が起きるだろうか。誰の目にも触れない場所で壮絶な乱獲と環境破壊が行われているであろうことは、想像に難くない。ビカクシダやオオヒラタクワガタの採集において、大木を切り倒すのが日常茶飯事であるという話を聞くと、げんなりする。業界それぞれでエグい話があるだろうから、あとは任せた。
繁殖品と比較してどうか?
ブリード品とワイルド品。名前がカッコいいとかそういうことではなく、純粋に買い手として、どちらの方がよいだろうか?
状態が安定しており飼育/栽培しやすい繁殖品のほうが、飼育・栽培ということを考える上では有利である。そもそもブリードできているということは、飼育/栽培が可能であるということを意味しているし、野外からの輸送時間を考えてみても納得だ。
しかしながら、ワイルド品にはバリエーションが多かったり、違うかどうかわからなくても違う産地と聞くと集めたくなってしまったり、といった魅力があることも否定しがたいし、私もその欲求に負けたことが何度もあることを認める。
しかしそのうえで、ワイルド品は買い手より売り手と相性がいいことを指摘しておきたい。
まず、大量に入手できるうえに安くできる。飼育といっても量に関してはたかが知れているし、エサやりや飼育にかかる費用が莫大なものも多い。しかし野外では採り方を分かっている人が採集すればとんでもない量が採れてしまうのは、イモリなどの流通状況をみれば明らかだろう。要するに、「いけば山ほどいる生き物をわざわざ殖やして売る」ことに、売る側のメリットが見当たらないのである。
さらに、ワイルド品は次々に新しいものが出てくる。新しいものがあると聞いたらほしくなってしまうのが人というものだし、広告の面でも「ワイルド!レア!新産地!新種!」と言っておけば人が釣れるというものである。
そういったものを集めている人やショップと話をしていると、そもそも新種とはどういうものなのか理解していないことすらあることが、何だか悲しくなってくる。それに対して増殖品はどうか。増殖品は絶対に過去に一度入ったものであるので、新規性に乏しい。そうなると、新しいもの好きを相手にする商売は増殖品ではやりづらい。
要するに、大量に乱獲することを前提にした場合、ワイルド品はビジネスとの相性が非常によいのである。逆に、増殖品はビジネスにしがたい。
歪で時代錯誤な「採集品ブーム」
非常に成長や増殖が遅い生物ばかりがトレンドやブームになるのは、奇妙なことである。
不景気が慢性的に続き、趣味投資がしにくい世の中であるにもかかわらず単価が高く、殖やせないものばかりがちやほやされるのが現状である。
ビジネスという面で生き物を見たとき、増殖が可能であったり、よく増えるものは非常にやりづらい。すぐに増殖品が世の中にあふれてしまう。それこそ「1ペア/1本売ったらおしまい」である。それでは商売にならない。
「増えて供給過多になったら値段が下がってしまうだろうが」
ということをよく聞くが、本音だろうし切実な問題であるのはよくわかる。
飼育/栽培下で増やせないもの、成長が遅いものであれば、そうなる心配は非常に低い。採集者やショップは利益をなかば独占できる。少なくとも、市場価値が喪失するまでにある程度の時間が稼げる。増えないから高額でも買う人がいるし、殖やすにも元数がないといけない。
「増えて供給過多になったら値段が下がってしまうだろうが」
たしかにそうであるが、それはすなわち
「自然から搾取し続けることによってビジネスが成り立っている」
ことを意味する。
乱獲や自然環境の破壊が騒がれ、世間的にも非常に問題視され、趣味投資も縮小している昨今。
そのような自然の搾取が「ブーム」としてちやほやされ、業界全体としてそれを推していくという状況が、歪で時代錯誤なものに思えてならない。