水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

ピノキオシュリンプ繁殖情報

ピノキオシュリンプ/レッドノーズシュリンプ/アローシュリンプの 繁殖情報が載っている論文を見つけたのでリンクを貼っておく.

https://doi.org/10.1111%2Fj.1749-7345.2006.00025.x

 

今回はこのブログで初めての「コケ取りの話」.

水草水槽の作り方,で調べて一番出てくるのが「コケ取りの話」なのだが,そういやこのブログでは一切やっていなかった.

でいきなり両側回遊性エビの繁殖情報をやるってのはだいぶクレイジーだが….やるよやる.コケ取りの話をこのブログでやるんだったらそのくらいのマニアックさが求められているんじゃないだろうか.誰も仕入れない海外情報の発掘はやるしかない.そもそも持続可能性の低いワイルド品にコケ取りを頼っている現状はかなりまずい.

ということで,まとめてみた.

 

 

Caridina gracilirostrisは(いちおう)日本にも分布する種なのだが(和名はナガツノヌマエビ),個体群は非常に小さく絶滅が心配されるエビである.両側回遊性のエビは基本的に分布が広いのが常であるが,本種に関しては(日本では)局所的に分布する.そのためマングローブヌマエビのようにゾエア幼生の塩分耐性が低いのではないか???とか,勝手に予想を立ててみたこともあった.まあこれは予想に過ぎないのだが….

日本において本種は人気がありながらも消費的な利用のみが続けられ,繁殖に関しては「汽水を要すると思われる」の1文が15年以上は徘徊し続けるだけである.しかし本研究を読んだ感想からすれば,十分繁殖可能なエビではないだろうか?

本研究で用いられているエビはスリランカおよびインド産であり,現在流通しているものと同じとみなせるだろう.

 

さて僕がかってにとってつけた前フリはさておき.ザックリと本文の内容をまとめてみる.実際にやってみる方ができればいてほしいので,実際にやることを視野に入れた順序にしている.

繁殖方法の要約

・成体の飼育とゾエアの回収

成体の飼育には14時間照明,24-27度,pH7,淡水を用いた.成体雌は頭長4.9㎜で成熟し,交尾から10日で抱卵し,14日でゾエアを放出した.ゾエアの回収は淡水を入れた500mlビーカーに抱卵した雌を隔離して行った.ゾエアを目標の塩分濃度に慣らすには1時間かけた.

なお,淡水に戻さずとも成体の飼育及び交尾,産卵も15pptで可能であった.そのため,1水槽内での終生飼育も可能かもしれない.

・幼生の飼育温度と塩分濃度,飼育密度

日長は14時間照明で行った.幼生の飼育温度は27度,塩分濃度は15pptが最適とのことである.なお10pptでは全個体が死亡し,20pptでは生存率は低いものとなった.

飼育密度に関しては1Lあたり50匹,100匹での飼育は25匹での飼育に比べ生存率に劣り,ポストラーバへの変態に時間を要した.

・幼生の餌

餌にはAlgaGenから発売されているPhycopure(Chaetoceros, Isochrysis, Nannochloris, Rhodomonas, Tetraselmisのミックス),Chaetoceros単用,Nannochloris単用が試されたが,着底に成功したものはPhycopureおよびChaetoceros単用であり,Phycopureで9割の幼生を着底まで育てることができた.

・幼生期間・二世代目以降にむけて

ゾエアは1日でII期,3日でIII期,6日でIV期,8~9日でV期,12~14日でVI期,15~16日でポストラーバとなり,着底した.ポストラーバは孵化後69日,頭長2.5㎜になった時点で淡水に順応させた.全長20㎜ほどの販売されるサイズになるまでは6か月を要した.

 

感想・実際やってみるには?

おや?これハードルが低いぞ?というのが率直な感想.ヤマトヌマエビやトゲナシヌマエビやヒメヌマエビに対して,ではあるが….

水温27度,塩分濃度15pptをかなりきっちり守る必要があるのが一番大きなハードルだろうか.

餌がPhycopureでいける,というかそれが最適で生存率9割を見込めるというのが読んでいて最大のポイントである.

PhycopureはじめAlgaGen社の商品は(数年前にcharmでも取り扱いがあったが)現在は比較的入手が難しい.とはいえLSS研究所(リンク : LSS Laboratory

が輸入代理をしているため,問い合わせれば入手は不可能ではないだろう.本製品は4か月の日持ちがするため,1回の購入で1サイクル以上に対応できる.

 

さてPhycopureに含まれるChaetoceros, Isochrysis, Nannochloris, Rhodomonas, Tetraselmisのうち,Chaetocerosでは15日での生存率が半数ほど,およびNanochlorisでは10日ほどで全滅している.となるとまた(ミゾレヌマエビなどで成績の良い)テトラセルミスが効いているのだろうか.Phycopureが入手できない場合にはテトラセルミス単用も試してみる価値がありそうである.

テトラセルミスはまあ入手は不可能ではない.わむし屋(リンク:中密度餌料藻類液 Tetraselmis Light Green Water )で購入できるし,ものすごい量が必要ならば太平洋貿易株式会社(リンク:https://www.pacific-trading.co.jp/product/reed-mariculture/))で輸入代理をしている.それでもだめならヤマトヌマエビやトゲナシヌマエビで効果のあるワムシの投与も検討されるだろう..

(余談だがよく売られているナンノクロロプシス,キートセロスあたりは他の植物プランクトン食の甲殻類でそこまで成績がよくなく,テトラセルミスこそ有効…という印象を受けるのは論文をチラ見する分野が偏っているためだろうか???)

 

 

Heerbrandt, T. C., & Lin, J. (2006). Larviculture of red front shrimp, Caridina gracilirostris (Atyidae, Decapoda). Journal of the World Aquaculture Society37(2), 186-190.