水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

「AQUA PLANTSショック」から見る水草と園芸,そして2020年代におけるアクア雑誌の立ち位置

はじめに

なんとも背後から撃たれるような感触を味わいましたが,悲しんでばかりもいられないので色々書いてみました.

 

 

発信力を失い,既存のバブルに便乗するだけのアクア業界

さて皆さん話題沸騰の「2022年号のアクアプランツが水草を扱わなかった事件」についてです.

事件の概要については,2022年号の「アクアプランツ」という水草に関する現状唯一の専門誌が,水草を一種も特集・解説せずかわりにアガベ塊根植物について特集したというものです.レイアウトと水槽については書いてあり,作例は素晴らしかったのですが紙面全体の構成として,

水草雑誌なのに,水草で勝負してない」

と感じました.

この事件に関しては,私が生まれる前から水草をやっていらっしゃる大先輩,アクア日記のまささんが非常にごもっともな意見を寄せており,私の感想と90%くらい被るので,このリンクから読んで欲しいと思います.

aquanikki2.blog66.fc2.com

 

 

さて,皆さん激怒していらっしゃるとは思うのですが私の残り10%の感想をいうと

「もう新しいことを始める気などさらさらないことを隠す気もなくなったんだな」

といったところです.

アガベ塊根植物というのがもう呆れポイントで,周回遅れもいいところです.

「目の前のバブルに便乗する」ほど馬鹿らしいことはありません.

バブルとは弾けるからバブルなのであって,現在バブルになっているということは遠からずそれが弾けるということだからです.

もう流行がヒートアップし,ヤフオクで怪しい商品に法外な値段がついてバブルになっている状況から,全く園芸経験がないアクアリウム業界の人が乾燥地植物を始めるメリットとは何でしょうか?

アガベ塊根植物アクアリストが今から始めたところで,

せいぜい財力をむしられて素性のしれない草を手に入れ,その草が成長する前には価値が暴落するか,そもそも不慣れで枯らしてしまうというのが関の山でしょう.

そしてその頃にはもうすっかりアクアリウムのことなど忘れて,アクアプランツなんて陳腐化した情報をくるくる回すだけの雑誌を手に取ることは二度とないことでしょう.

アクアプランツという名前を冠している以上,水草以外の話を話題にすること自体が読者を遠ざけ,業界を衰退させ,自殺行為となるのです.

 

 

ペット業界が総出でかかっても園芸には全く歯が立たない

日本における園芸の経済規模をご存じでしょうか?

ペット・園芸用品店業界 市場規模・動向や企業情報 | 日経テレコン

ホームセンターだけで年間5372億円が園芸・エクステリアにつぎ込まれています.これが売り上げの8割を占めますから,日本人は年間6715億円を園芸につぎ込んでいると計算できます.日本人の人口が1.258億ですから,日本人は誰でも年間5338円は園芸に投資している計算になるようです((笑))

勝てるかこんなのに.ちなみにペット・ペット関連用品はホームセンターで2846億円.これは犬と猫という二大巨頭を入れた額です.

園芸にもまあ野菜とかが入ってくるので,花卉の鉢物だけの国内供給額に絞り込んでみましょう.

https://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/pdf/kakimeguji1404_1.pdf

955億円…やはり日本人は老若男女みんな年間1000円くらいは植物につぎ込んでいるという計算です.

つまり,裾野の広さが全然違うのです.水草の市場規模?計算する気すら起きませんね.

この経済規模を見ただけで,アクアリストが園芸に参入(上陸)したところで勝負するまでもなく飲み込まれるのはまあ必至のことだと予想できます.

このことに関してはこれまた大先輩,Rootsの仲里さんが書いていらっしゃいます.

roots-aquatic.blogspot.com

roots-aquatic.blogspot.com

 

裾野が違うということは,トップ層の人数も全然違ってきます.なので...

園芸ではコアなジャンルになるとたいてい,各個人が数十年単位の栽培経験を持つことが前提となっています.ポッと出のアクアリストが参入しても,金づるにされたあげく下っ端からはじめなおすだけでろくなことがありません.

 

奥が深すぎる一方で,園芸の入り口はお手軽です.ポットを買って置いておけばいいだけですから.

でもRootsさんがおっしゃっているように,ポッと置いておしまいだから園芸が栄えているのでしょうか??

そうなのかもしれないし,結果は同じ事なのですが私はこの点に少し追記したいと思っています.

ホームセンターや花屋の店頭に,ポッと置いて飾りたくなるほど状態がよい苗が常にリーズナブルに並ぶということは物凄いことです.

水草では?考えようがありませんね.そもそも枯れかけの切り花しか売ってないのでは...

リーズナブルなポットが常に大量にサプライされるというのは,園芸のバックグラウンドに巨大な生産農場があるからです.

たまたまそこに綺麗なものがあるから買うのであって,わざわざ遠くまで探しに行くものですらない.

それに比べて水草は…(笑)

普及化したら売れなくなるとか言っている時点でもう終わっています.

戦う云々以前に,供給側の兵站パワーが全く違いすぎるのです.

 

初心者を拒絶し,騙し,絶望させるアクア業界

アクア業界は現状とても狭いです.

狭いのは日本の住宅事情が狭いからとよく言われますが,観葉植物ってでかくね?

園芸は結構場所をとるし,アガベや洋ランなんて((笑)).

つまり,サイズ自体はあまり問題になっていないのです.

それ以前に「必要なものが無い」のが問題です.

問題を一言でまずまとめましょう.

売っているものがちぐはぐで,組み合わせようがありません.

初心者がメーカーの説明通りにやろうとすると,必ずつまづいて大量の用品を買い集めないといけないかのように商品展開がされています.

たとえば,

「水槽は売っていても,そのサイズの水槽台がない」

というのがよくある事態.60㎝水槽,45㎝水槽以外の水槽台はどこに売っているのか?などよく困るのは私だけでしょうか.サイズの合わない水槽台やメタルラックに無理やり水槽を載せるのがよくある姿ですが,

最悪にユーザーフレンドリーではないです.

しかもこういう企画外水槽に限って初心者向けを謳っています.買ったところでどこに置いているのやら.

「水槽台に置きましょう」と書いてあるのにサイズに合う水槽台がないの,これはもう詐欺商法といっても差し支えないと思います.新しい変なサイズの水槽を売るのであれば,それに見合った価格の変なサイズの水槽台を売ることを義務にしてもらいたい.

さて,水槽の壁の次はフィルターの壁です.

よく「フィルターは週1で交換しましょう」などと書いてあるのですが,はたして濾過バクテリアはいずこへ….替えフィルターを大量に売りたいのはわかるかもしれませんが…本来アクアショップ側で説明してもらうべきことなのだと思いますが,そもそもそのあたりでつまづく人はアクアショップではなくホームセンターで水槽やフィルターを買っていると思いますし,アクアショップ側としてもフィルターをたくさん買って儲けたい店もあるかもしれません.

水槽,フィルターの次に初心者を待ち構えるのは大量の怪しい液体群.

これもまあ,必須かはともかくあるとちょっと便利,でも法外に高いというものが多いです.これらに関して,使って純粋によかったものに関する情報源が不足しています.よさげなこと書いてあるけど本当に必要だったのかよくわからない,ではちょっとねぇ...私も色々買って愛用しているものもありますが(テトラのpH/KHマイナスとか,ADAのECAとかGEXのサイクルとか),意外なものが実は要らない可能性があったりもします.

これじゃあ裾野は広がるわけがないですよ.だって,商品開発側が顧客を搾取する対象としかとらえていないかのように消費者側には見えるから.そんな業界にわざわざ突っ込んでいかないですよ.

そんな混沌の中ですから,道しるべが必要です.

「私の中ではこれがゴールデンスタンダード」

みたいなものを「誰か」が教えてくれればありがたいのですが….

その「誰か」を担うのに一番向いているのが雑誌だとおもうのです.

 

ニッチだからこそ水草は面白い

アクアリウム」という業界だけでもひどく狭いということを書きましたが,その中でも最弱に近く,だれも声を上げないに等しい水草は,ニッチでしかいられない業界と言えます.

しかし同業者が少ないということは,あっという間にトップレベルに上り詰めることが可能だということです.だからこそ水草は面白い.

レイアウトに関してはニッチという立場を逸脱しつつあるようにも感じますが,それでもまだ全然伸びしろがあります.

ましてやもはや数人しか興味を持っていないようにすら見える大多数の水草それ自身はといったら…伸びしろしかないです.

70年代,80年代,90年代,ゼロ年代から手垢にまみれた…とよく聞きますが,それでは誰でもできる栽培方法はどこにまとまっているのでしょうか?その姿の全容は明らかになっているのでしょうか?どういう条件にしたらどういう形に変形するのか知りつくされているのでしょうか?そんなものないですよね.

育ててみれば水草はすごいフロンティアであることがわかると思います.

ホムセンの鉛巻きでもさんざん遊べるし,それが「知り尽くされた」「もう書くことなどない」となる日はそうそう来ないように思います.育て方にしたってソイルで攻略するのと砂で攻略するのと田土系で攻略するのでは全く異なりますし,栽培理論だって全く統一されていません.

たとえば,

pHは下げた方がいいとはよく言いますが,なぜ下げた方がいいのでしょうか?pHが高いにもかかわらず水草がよく育つ環境も普通にありますが,なんなのでしょうか?

KHやGHに関してはどうなのでしょうか?たとえば硬度の親玉たるカルシウムやマグネシウムは園芸ではなくてはならないといわれるくらい重要なものです.なぜ水草では敵視されるのでしょうか?

水温は低くした方がいいとは言われがちですが,日向の田んぼで水草は元気に育っています.水温は40度を優に超しますが,なぜ水槽では30度くらいで調子が狂うのでしょうか?

「ソイルには通水性が」といいますしパワーサンドは通水性を確保するために…とはよく言いますが,ではなぜ水草は田んぼで生きられるのでしょうか?寧ろ通水性のある土壌で水草を見ることは無いような気が.大磯砂で攻略するときは,砂の間が浮泥で埋まったころに育てやすくなるといわれたりします.

整合性はどこにあるのでしょう.謎だらけです.ネタ切れだとか,記事を書くまでの内容がないとは言わせません.

 

現在のアクアライフに求められているもの

現在のアクア生活…アクアライフには,情報が壊滅的に不足,ないし散逸しています.

 

「フィッシュマガジン」もなくなり,「楽しい熱帯魚」もなくなり,アクアスタイルはミニ冊子になり,アクアジャーナルもパンフレット程度になりました.

ネット情報は広告費を稼ぐためのコピペ定型文に駆逐され,

いまや「アクアライフ」しかアクアリウム業界に関する「正当かつ一般的な」情報源になりえないという状況になっています.

しかしそんな同誌が新しい情報や新しい角度からの情報発信をやめ,既存ですでにヤフオクなどでバブルになっているものに便乗して目先の売れ行きに振り回され,アクア業界離れを結局加速させているというのはあまりにも悲しい事態です.

「アクアライフ」はアクアライフにとっての最後の希望なのです.

だから,そんなやすっちいことはしないでほしいです.正当にアクアリウムを「もっと」楽しむことに注力してほしいのです.

情報「発信」とは,ないところから情報を創生ないし再解釈して出すことであって,情報を転送することではありません.

そして,1000円以上する雑誌である以上,購入させる動機が必要です.

なので,ネットで起きたブームの後追いになってしまっては買う価値がもはや見出せません.タダで手に入る情報のほうが価値があるということになってしまいますから.

2020年代のネットでは誰かが(それこそ私のように)コアな情報を発信してもそれは大量のコピペ定型文に埋もれてしまい,もはや発見不能です.

しかし雑誌は違います.

雑誌はとりあえず買ってみるものであって,もはや同業者がいなくなってしまったアクアライフに至ってはアクアリストなら基本的に読んでみる一般教養になっています.

ネットは一つのことを調べるにはまだ向いているかもしれませんが,他のジャンルを含めて俯瞰したり,「新しいナニカ」に気づくには向いていないものと言えます.

なので雑誌こそ,ついついニッチな分野にハマらせるということには最も向いた媒体と言えるでしょう.また,ネットが混沌と化したいまだからこそ発信力と雑誌情報の価値は相対的に上がっています.

つまり,出版側からすればリスキーなのかもしれませんが

「裾野を広げる」

「スタンダードの座標軸」

この2点こそ,ネット社会における雑誌の立ちまわり方になるはずです.その方法には何通りか思い当たります.

「基本の基本を丁寧におさらいする」

これが一つ目の無難なコンセプトで,30キューブ水槽特集や60㎝水槽特集もこういうコンセプトでしょう.「基本の基本過ぎて意外に知らなかった」が最高ですね.

そしてもうひとつ

「それまで注目が集まらなかったコアでニッチなところに光を当てていく」

これも大事です.一極集中は何かの拍子に壊滅しますから(それこそグッピーエイズとか,ブセの禁輸とか…),多くの枝を出しておいた方が良いです.

先にも述べましたが,

「基本的な熱帯魚や水草の飼い方・育て方」

も人それぞれのやり方を記事にしていけばいい連載になりそうです.結局収束して,金太郎飴みたいな連載になるかもしれませんが…それはそれで正解が確立されているということで,同じようなことを色々な人がいろいろに解説するのも読んでみたいです.

 

最後に

火のないところに着火するのが雑誌に今求められていることであって,もしネットの混沌に引火すれば爆発的に大きな炎となることでしょう.

それがアクア雑誌という,小さな小さな火種の一番効率的な使い方です.既存の火にさらに火を足すのは無駄撃ちもいいところなのです.

とりあえず出ていて他に読むものもないから買ってはみる…ではなく,この面白そうな記事を読みたいから大枚はたいて買う!雑誌になってほしいものです.