水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

アンブリア,西洋キクモの話

アンブリアってなんだ?

これは水草に注目し始めてすぐ,だれもが遭遇する事態であろう(断言).

しかしながら,その答えにたどり着いたものはどうも殆どいない.

今回は,ありふれていて,かつなお謎に満ちたこの水草について話していきたい.

 

本稿で扱う「アンブリア」とは,現在鉛巻きで良く流通する,全草が緑色で水上葉は細裂~中軸がやや肥厚,水上茎は無毛,花はほぼ無柄,苞葉はもたず水中葉は裂辺があまり細くならず,先端は円頭,水中葉は若干下に向けてカールし,現在北米を中心に帰化して問題となっている個体群を指す.

このようなアンブリアは流通史が非常に古く,1961年〔1〕には帰化が確認されているほか,Philcox, (1970)にも記述がある〔2〕.

しかしながら,Philcoxは本種を正体不明の植物として扱ったことは特筆すべきあろう.概要すると,”Limnophilaにおける交雑種は未だ知られていないものの,ルイジアナ州で得られた株はL. indica及びL. sessilifloraの中間形をとり,雑種とみられる.両親とも染色体数は2n=68の個体があるため,この雑種にも稔性がある.両種ともよく似た旧世界の種であり,両種ともアクアリウムで育てられているため栽培下で出現しルイジアナ帰化していると思われる”

Philcox, 1970よりL. sessiliflora及びL. indicaの比較,その推定交雑種

尚,文中にはルイジアナ採集個体がアクアリウムで量産されるアンブリアであると明言はされていないものの,上に示した表の形質からは現行流通型のアンブリアはこの交雑種(?)ではないかと思われる.(花柄の有無に関しては微妙だが)

さて,似たようなリムノフィラとしては台湾からのL. taoyuanensisも思い当たる.これも無毛の茎にほぼ無柄の花をつけるものであり,これも葉が細裂する.

Yang & Yen (1997)は東南アジアのL. sessilifloraが台湾に帰化していると報告しているが,これは在来のものより大型で花の色が淡く不稔であるとしている.

ちなみに日本のコキクモも典型的なL. indicaとはかなり乖離しているが,これは無毛の茎に有柄の花をつけ,葉は水上でも細かく細裂する.

一般的なL. indicaは水上葉が基本的には輪生だが裂け具合は様々で,茎の上部では全縁の対性になったりするようなものである.

 

 

 

 

 

 

〔1〕https://plants.ifas.ufl.edu/plant-directory/limnophila-sessiliflora/ 2022/10/22閲覧

〔2〕Philcox, D. (1970). A taxonomic revision of the genus Limnophila R. Br.(Scrophulariaceae). Kew Bulletin, 24(1), 101-iii.

 

 

湖沼の濁りと水草

水草を観察していると,疑問に思うことがある.

果たしてこの透明度で光合成できているのか?ということである.

水中の濁りが激しく,何も目視できないようなところでも水草が生えていることがあるし,アオミドロやウキクサ類をどけてみると下に茂っていたりもする.

こういう育ち方をする/できるのはエビモやイトモ,ツツイトモ,スブタ,ミズオオバコ,コウガイモといった沈水植物が多いが,これらは相当な低光量でも生育できるはずである.

したがって,これらの沈水植物が激減した要因を単に「透明度の低下」で片づけてよいかどうかは疑問がある.

個人的には以下のような説を考えている.

水草自体は低光量に耐性があるが,実生苗はそうではない.つまり発芽初期にはある程度の光が必要であって,深くて暗い水域に茂っているものはそこからランナーや切れ藻で伸びていったか,もしくは水位の方が上がったためではないか.つまり遠浅な水底と季節による水位の変動が”沈水”植物においても重要なのではないかなと思ったりする.

 

ところでガシャモクなどが栽培下で調子がいいのも,もしかするとたんに明るくて栄養豊富だからかもしれない.LEDライト下であってもなお,そこらの濁った池の底よりは明るい可能性もあるように思う.要検証である.

さて,ガシャモクに関する考察は長くなるので別稿にまとめるとして,そもそも濁りを水草は抑えるのだろうか?

私の感想では,否である.水草アレロパシー効果を持っており,植物プランクトンや付着藻類に対してある程度成長を抑制することができる.しかし水草がいくら茂っていようが栽培容器が濁るときは濁る.濁らないのは単に”水が立ち上がった状態”で,水草が水中の肥料をだいたい吸いつくして,かつアレロパシー効果が発揮されたときである.(まあ水草はそういう条件になるまで肥料を吸いつくしてもなお根から肥料吸収してまだ茂れるのが藻類に対する強みだろう)

濁りの決定要因は水草ではなく,動物プランクトンとバクテリアだろう.”水が立ち上がった”フィルターを付けた水槽ではフィルター内の暗い条件下でバクテリアによって植物プランクトンが成長阻害もしくは活発に分解されるのではないかと思う(でないと説明がつかなそうな気がする)フィルターのない野外水塊でも水草の森に付着したバクテリア植物プランクトンの分解に一躍買っていそうな気はするが,(これを,水草のろ材説と呼んでみよう)正直どこまで影響があるかは未知数だ.屋外栽培容器を見る限りではある程度はありそうだけども.

(水槽ではなく)屋外の止水域において,濁度を決定する最大の要因は動物プランクトンだと思っている.

透明度の高い水域はほぼ,水深の深い湖に限られている.逆もだいたい然りである.こうした水域ではミジンコ類やヒゲナガケンミジンコといった多くの動物プランクトンが魚の活性が上がる昼間は光の届かない深い水深まで鉛直移動していることが知られている.こうした鉛直移動による魚の捕食からの回避が深い貧栄養湖の透明度を支えていると思われる.

富栄養水域においては動物プランクトンも多く見られるが,透明度を下げるほど大繁殖すれば魚の餌食となってしまう.さらに,いったん富栄養化が進んだ水域では底に堆積した植物プランクトンによって貧酸素水塊ができ,このことによって鉛直移動も障害される.植物プランクトンによる濁りは餌であるとともに隠れ蓑でもあるため,魚が過剰量いる限り水を澄ませることは不可能に近い.しかし魚の少ない富栄養な水域,たとえば水田や一時的な水塊では濁りはさほどひどくないことが多い(魚を入れていない水鉢も然り).

さて,水草が動物プランクトンの隠れ蓑に果たしてなりうるのか?正直言ってそこまでではないように思う.ミジンコ類はむしろ開けた水域の方を好むし,水草を入れるとあまり飼育が上手くいかない(あくまで経験則上だが).オカメミジンコやシダ,シカクミジンコはじめ水草にくっつくミジンコ類も多いが,開けた水域でみられるミジンコ属などの圧倒的なバイオマスはあまり見たことがない.もっと目立たない,ラッパムシやツリガネムシといった繊毛虫,またヒルガタワムシ類などといった水草に固着する生物の影響も大きいかもしれない.これらの生物も莫大な増殖率をもち,水草の表面に”生える”ことによって水中の植物プランクトン濃度を下げている可能性はあるだろう.魚類の進出を阻むものとしての水草の水質浄化効果はかなり期待できそうかなと思う.

うーん,それでもやはり水草が水を澄ませているかどうかに関しては自信がない.

水底に単に堆積した植物プランクトンは容易にヘドロと化する.これは水草の生育にはあまりよくないと思われる(経験則だが).しかし植物プランクトンが片っ端から動物プランクトンに採食され,分解が進んだ状態で堆積すれば,よい底床肥料となるだろう(要検証だが).となると水草が貧栄養湖の砂底で(いまも)良く茂っているのは,原因ではなくむしろ結果ではないか?ということも考えられる.まあ双方向的な面はあるだろうけれども….

 

色々考えてみても,実際の状況を見ての感想でも「水が澄んでいると水草はより良く育つ」が,「水草がよく育つと水が澄む」かどうかはいまいち微妙である.ただ水草の群落がある環境下では魚による捕食圧が下げられ,多くのグループの生物が生息できることに関しては疑いようがないだろう.

そして,一旦水草が消失し,ヘドロが堆積して魚と植物プランクトンの世界となってしまった水域の透明度改善や生物多様性の回復は非常に難しいと思われる.少なくとも飼育下での小水域をみるかぎりでは植物プランクトンによる水の濁りの根本原因は動物プランクトンを食べる魚が過剰にいることであろう.稚魚が育たなくなって個体数が減っても「なんてこった減ってしまった,放流しないと」というのが魚に対する人間の扱い方なので,環境悪化が個体数にフィードバックされることがほぼない.これではいつまでたっても崩れたバランスが改善するわけがない.

しかしながら,透明度の改善のために水域の魚を減らすことに地域の共感を得られるとはとても思えない(そもそも減らせるか?).水質改善のスローガンが「鯉の泳ぐ...」だったりすることからしても,なかなかに絶望的だろう.

 

 

 

 

 

 

 

消えゆく水草

関東平野は1980年くらいまで,水草の宝庫でした.多種多様な水草が湖や沼ごとに群落を作り,その中には奇妙な姿をしたものも多くありました.

しかしながらその後,水質汚濁やアメリカザリガニの急増により平野部の水草は片っ端から壊滅し,現在では平地で水草が見られるところはほとんどなくなりつつあります.

かつて普通種といわれたエビモやヤナギモ,ササバモはいまや見つければ小躍りするレベルとなり,クロモやセキショウモは平地からはほぼ絶滅し,高山の清浄でアメリカザリガニがまだ進出していない地域でしか見られなくなっています.

例を挙げてみましょう.つくば市では1980年代にはジュンサイの大群落などがみられましたが90年代には全滅し,2000年代には市内の複数の公園でクロモ,ササバモ,サンショウモ,トチカガミなどがありましたが2010年代にはすべて壊滅しました.現在では沈水性の水草といえばイヌタヌキモが数か所,エビモが1か所,ヤナギモが1か所といったくらいでしょう.そして,そのすべてがいつ滅んでもおかしくない状況にあります.

普通種とかつて言われたものですらこの状況ですから,元から珍しいといわれていた植物に関しては絶望的と言えます.たとえばムジナモは数か所に局地的に分布していましたが,野生からは絶滅し今では栽培保存された個体のみです.自生地への再移植が試みられていますが,いまだうまく行っていません.タカノホシクサは1か所のみで知られていましたが,絶滅しました.ミズスギナは数か所で知られていましたがこれも関東地方からは早々に絶滅しました.

 

湖に依存する種の末路はもっと悲惨でした.

霞ケ浦印旛沼手賀沼多々良沼など関東平野の多くの湖が,かつて水草に覆われていたことを知る人はもはや絶滅しつつあります.いまや腐臭を放つ茶色の水の表面をアオコの青緑が覆う,まさに腐海と化しているこれらの湖ですが,かつては琵琶湖や河口湖,芦ノ湖のように透明度もあり人が泳げるほど清浄で,水草の森が湖底を覆っていました.そして,そこには多くの生き物が住んでいたはずなのです.水草の森が失われたことによりどれほどの生き物が住処を追われたのか,想像を絶するものがあります.

流水と違い湖では透明度が下がったりヘドロが極度に溜まると水草が生育不能になります.また,コイやアメリカザリガニソウギョといった,水草の森にすむ生き物を水草ごとすべて食い尽くしていく外来種の影響も莫大です.

ガシャモクやヒロハノエビモ,エゾヤナギモといった水がきれいで,かつ適度の肥料を必要とする種がまず犠牲となりました.そして,いまとなっては平地において,オオカナダモなどの汚水耐性の強い外来の水草すらめったにみられません.

 

茨城をはじめとして,水草をとりまく環境の悪化は想像を絶するものとなっています.そしてその環境悪化はむしろ加速度的です.レッドデータブックの更新すら,環境の悪化に追い付いていないように思います.

しかし例外的に東京などでは水草がある程度みられる環境が戻ってきています.

かいぼりによる魚やザリガニの駆除,下水道の整備や水質の改善努力,除草剤の使用量減少などによってこうした環境が少しでも戻ってくるのであれば,大いに期待したいところです.

 

 

エリオカウロン セタケウム栽培おぼえがき.

Eriocaulon setaceumを入手してからしばらく経ち,ひとまず実生繁殖,栄養繁殖の両方できているのでここまでの栽培方法などをまとめてみようと思う.

 

栽培環境

Eriocaulon setaceumは2水槽+1プラケースで栽培できている.

水槽1

60㎝.底は富士砂+長繊維ピート+ケト土少量を本間商店無印茶系ソイルで被覆,そこにパワーサンド+本間商店無印茶系ソイルでカップ植えしている.

フィルターはコーナーフィルターF2に長繊維ピートを詰め,900ml角ボトルに赤玉土の特大粒を入れてそこに突き刺している.

pHは5位(pHマイナス使用下),茶系ソイルである程度バッファーされている.

ライトはフラットLEDツイン,照明時間10時間.

他の栽培種はマットグロッソスター,クロホシクサ,コキクモ,シペルスヘルフェリー,ロタラロトンジフォリアなど.

水換えはほとんどしていない.

 

水槽2

30㎝キューブ.底はミネラルソイル単用.

フィルターはリオプラス底面フィルターを使用していたが,ここ2か月ほどは根で詰まって停止している.

pHは5くらい.

他の栽培種はマダガスカルキツネノマゴ,トニナspマデイラ,サンタレンレッドリーフマヤカなど.マダガスカルキツネノマゴが非常に肥料を食うので,花用プロミックで月1~2回ほど施肥している.

水換えはほとんどしていない.

 

プラケース

実生苗の栽培に使用.フィルターはつけていない.水は他の水槽から使用.

ベアタンクにカップに入れた黒土で栽培している.水深は5~8㎝,水換えはほとんどしていない.

 

 

栽培と繁殖

こなれた酸性の水を好むため,水の作り方は容易な印象.南米系ホシクサほどの濾過強度は必要なく,クロホシクサと育て方は特に変わらない印象である.そのため,プラケースでの無濾過無換水栽培も可能である.逆に,こなれていない水では簡単に溶ける.(増殖した株を立ち上げてから間もない水槽に移植したところ,溶けた.)

根への依存はかなり高いように思える.そもそも有茎というより「伸びたロゼット」といった代物である.マットグロッソスターやクロホシクサと同じく,ソイルよりもパワーサンドの方がずっとよく根を張り成長も良好である.

 

栄養繁殖

開花後に体力が残っていると花茎の基部から子株を出すことがある.入手した3株のうち2株が子株を出した.1株は1つのみ,もう1株は3本出た.子株は基部から太く長い根を出し,速やかに伸長成長をはじめ,そこをもぎ取ってやると移植できた.

栄養繁殖により得られた株をカップにパワーサンド+本間商店無印茶系ソイルで覆土して植えたところ根張りは非常に良好であり,先端部が真っ二つに分かれて増殖した.

 

実生増殖

実生株はプラケースにてソイルに植えたところ次々に透明化し枯れたが,黒土に植えた株では問題なかった.黒土+パワーサンドでも溶けたので,発芽直後の富栄養条件には弱いようだ.栽培水槽1では実生株が次々と勝手に発芽・成長している.葉は発芽直後はあまり細くなく,5枚前後出ると細い葉が出てくる.細い葉が10枚を超えた程度でパワーサンド+本間ソイルに移植したところ,良好に生育している.

実生株は当初,細く細かい根を出す.栄養繁殖により得られた株が当初に太い根を出すことからすると,あたかも別種であるかのようである.

 

今後の目標

何と言っても実生苗からの開花を介して種子を量産し,発芽実験を隔年で行いつつ耐久時間を見極めつつ常時使用可能な種子を確保することである.

また,他のE. setaceum類似植物に関しても栽培を通じて比較できればと思う.

 

バークレア栽培情報

この前モトレイがバカ売れしたのに続き,ボルネオのBarclaya,ものすごい勢いで売れましたね.

 

Jacobsen et al., 2022にBarclayaの栽培情報があったので要点をかいつまんでみる.

参考あれ.

B. longifoliaに関しては中性pHで栽培できる(loam and mineral soilとあるから,ソイルでよいだろうし,なくても土メインの砂泥環境を用意しておけばよいだろう)

問題は丸い葉の種群.

Leaf peat単用で生存可能だが,鉱物土壌を加えることによりより良い成長を望める可能性がある,とある.

Leaf peatというのがイマイチ聞き覚えがないが,恐らく熟度の高い腐葉土のことだろう.これが肝要らしい.

B. rugosaは成熟した株は水中では生育できず,B. rotundifoliaは沈めると水中葉のみになるか,抽水形になるとのことである.

 

 

全訳

我々はマレーシア科学大学ペナン校およびコペンハーゲン大学の温室で30系統以上のBarclayaを栽培し,長年にわたり現地でのBarclayaの生育を調査してきた.

Barclaya longifoliaは,中性pH下において土と砂の混合土壌で容易に栽培可能である.頻繁に開花し,自家受粉により果実および発芽可能な種子をつける.種子は水に浸すと発芽する.

丸葉の種はLeaf peat単用でよく育つが、鉱物質の土壌を加えるとより良く育つ可能性もある.B. motleyiは十分なLeaf peatがあればよく成長・開花する.果実は自家受粉の後4-5ヶ月で成熟することが多く,種子は水中でも発芽する.果実をつけない花も観察されており,自家受粉が必ず起きるとは限らないかもしれない.葉の形・色・質感は光の強さに依存する.通常の日照条件で栽培した場合には葉は濃い茶紫色をしているが,日陰や北欧の冬場のような低照度では緑色の葉をつける.Barclaya hirtaはLeaf peatでよく育つが,花はほとんど咲かない.果実は観察されなかった.

Barclaya kunstleri (Johor産)はLeaf peatでよく育ち,花も咲き,葉身は緑色で赤い葉脈が発達する.B. kunstleri (Perak産) は,緑色の葉を展開する.栽培では結実は確認されていない.

自然界では、Barclaya rotundifoliaは水中でも抽水でも生育する.

栽培では植物体や苗は何年も水中で成長する.成熟し開花した株を恒久的な水中環境に移植すると最初にできる葉は丸くなり,次いで幼葉のような細長い葉が作られた.ここから生育を続けると最初の葉と同じような丸みを帯びた葉が作られた. このまま成長しても、成葉は発生しなかった.また、別の実験では,大きな苗を抽水状態に移したが,やや小さめの抽水葉が出るだけだった.

Barclaya panchorensisは水中で繁茂し開花する.栽培では自家受粉による結実が1個観察された.

Barclaya panchorensisとB. motleyiのいくつかのタイプは多数のランナーで水槽を圧迫して成熟した植物への成長を阻害し,開花率を下げることがある.すべてのストロンを除去したところ,B. kunstleriの若い株が開花を開始した.

B. rugosaの成株は水中では生長しない.しかし,幼株は水没した状態で何年も生育することがある.果実の形成は栽培下で観察されていない.

 

 

ぼくならどうやるだろうか?

Leaf peatは謎ですが,普通の腐葉土単体だと腐りそうです.相当熟度の高いものを使う必要があると思います.長繊維ピートに比べると富栄養だと思われますし,スイレン類ですから相当に富栄養を好むでしょう.性質が近いものとしてはケト土が真っ先に思い当たりますが,ケト土も単用だと腐りかねないので,代用品としてはパワーサンドあたりがよさげな特性を示しそうです.長繊維ピートはおそらく有効です.

というわけでパワーサンドに植え込んで長繊維ピートで被覆,追肥適宜,フィルターなしの止水で浅め,というのを提案します.

 

(とか言っときながら買ってないんですが.茶色い葉っぱにはあまり魅力を感じないので…)

 

参考文献

Jacobsen, N., Ganapathy, H., Ipor, I., Jensen, K. R., Komala, T., Mangsor, K. N., ... & Ørgaard, M. (2022). A reassessment of the genus Barclaya (Nymphaeaceae) including three new species. Nordic Journal of Botany2022(5), e03392.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/njb.03392

アクアリストのための水草講座 第一講 水草ってなんだ?

世の中には様々な水草がありますが,そもそも水草の定義とは何でしょうか.

そもそも「草」といっているわけですから,維管束植物のみを含み,藻類は含みません.コケ植物を含むのか含まないかは微妙なところで,著者により見解が分かれます.田中(2012)では水草の条件として,「一度陸上に進出した植物が再び水中に進出したもの」という点を重視しており,その理由として「水草の生物学的魅力は,その点にこそあると考える」としています.

では,水に漬かっている「元」陸生植物はみんな水草なのでしょうか?

雨上がりにそこら辺の雑草が水たまりに沈んでいるのと,水草の違いとは何でしょうか?

Sculthorpe(1967)は水草を「水底または水中で発芽し,生活環において抽水,沈水,浮葉,浮遊する時期があるもの」というように定義しています.このような定義は広く受け入れられていて,たとえば同様の定義を日本でも生嶋(1972)がしており,角野(2014)もこれに従っています.

この定義のメリットは水中生活に高度に特殊化した植物を全て含むとともに,一時的に冠水した陸生植物を除外できる点にあります.

しかしながら,季節により水位変動の大きい地域では陸で芽生えた植物が水中で長い間生育しているものが多く見当たり,そこに適応した植物も多くいます.野生ではもっぱら水上で生育し,基本的に水中では発芽できないにもかかわらず,水中でも異型葉を展開して長期間生育可能な植物がいます.たとえば,諸々のイヌタデ属などが好例で,アクアリウムで使われる種も多くいます.そもそもアクアリウムでは水上葉を沈めて水中化させるのが常識に近いので,「水中で発芽し…」と限定するのがアクアリスト的にはイマイチしっくりこないというところもあるでしょう.

というわけでもっと緩い定義をみてみましょう.

Cook(1999)は水草を「光合成をおこなう器官が常に,もしくは一年の数週間以上,水中または水面に浮いているもの」としており,大滝(1980)は「水中または水辺に生育し,植物体のすべてまたは大部分が水中にある大型の高等植物」としています.さらに簡略なものとしては,浜島(2002)は「水に漬かって生育している草が水草である」と書いています.

こういう問題にはなかなか答えがありませんが,「水に漬かって”生活”する陸上植物(だったもの)」という点には共通項が見出せそうです.

 

もっと詳しく見てみましょう.

水草とよばれるものの中で,どのような区分があるのかという点に関しては様々な議論がなされてきました.たとえば古典的な例として,Arber (1920)による水草の区分をみてみましょう.

I.土に根を張る植物
A. 陸生だが沈水でも生存可能,しかし水中での異形葉はもたない
B. 陸生のこともあるが水中葉を作ることもある.開花時は水上葉をつくる
C. 水中,浮葉,水上葉を作る
 (1)開花時に水上葉を作る 
 (2)開花時に浮く葉を作る 
D.水上で生育することもあるが基本的に水中で生活史,匍匐茎から水中葉をもち浮葉を伴わない長い茎をもつ,あるいは水中葉をもち,根を出して茂る地下茎を持たないシュートよりなる
 (1)開花時に水上葉を作る 
 (2)水上葉をもたないが水上に花を挙げる 
 (3)花は沈んでいるが必要な部分だけ水面に出る 
 (4)水中で受粉する 
E. ときに水上形をとるが基本的には水中で生育し,線形の葉から簡略化された茎をのばすもの
 (1)花は水上にあるか,草体も水上で生育することもある
 (2)花は水上に出ることもあるが沈んでいることもある
F.全草が水中で生育し,Thallus(根または茎)が基質につく.花は水上 

II.土に根を張らないもの
A.浮葉もしくは浮葉のようなシュートをもち空中に開花する
(1) 根はあるが土に刺さらない 
(2)根を持たない
B.水中で生育する
 (1)根はあるが土に刺さらず,開花時に浮くシュートを作り空中に開花する 
 (2)根がない

            i 水上で開花する 
            ii 水中で開花する 

うわあ,長くて細かい.もうちょっとシンプルな例もみてみましょう.

 

Sculthorpe(1967)は水草を4つに大分しており,これが最もよく使われる水草の生活形分類となっています.抽水植物,浮葉植物,沈水植物,浮遊植物です.

抽水植物 Emergent plant

草体の下部のみが水面上に出る.

水上の葉の構造や機能は陸上植物と変わらず,水が引いても生育できるが冠水耐性には限界がある.嫌気性の泥の中に根を張るため,通気組織が発達している.

・浮葉植物 Floating-leaved plant

水面に葉を浮かせる.

葉の表面にのみクチクラ層をもち,裏面にはない.葉の表面に集中した気孔を通じてガス交換を行い,呼吸や光合成の特性は陸上植物との共通点が多い.

・沈水植物 Submerged plant

葉や茎がすべて水中に生育する.

気孔を欠き表皮細胞が栄養塩やガス交換を直接行うなど,水中に対して様々な適応が見られる.

浮遊植物 Free-floating plant

根を水底に張らず漂流する.

この4大分類ですが,個人的に浮遊植物は蛇足なように感じてしまったりもします.

さて,困ったことに水草の多くがこの生活形による分類を簡単に跨いでしまいます.そのため,抽水「形」,浮葉「形」,沈水「形」のようにあくまでもその草の生活している状況を表す表記として使われることも多いです.

とくに陸上から水中まで広く適応するものに関しては,「両生植物 Amphibious plant」とよぶ場合があります.ホシクサ類,コウガイゼキショウ類,サワトウガラシ,タチモ,カワヂシャ,オオバタネツケバナなどが代表的で,水位上下の激しい池や溶存二酸化炭素の多い湧水環境など環境で特に繁栄しています.一般にアクアリウムで使われる水草は殆どが両生植物に含まれます.

 

水草と陸上植物の異なる点,それは様々な方法で水辺という環境に特殊化しているところにあるといえるでしょう.最も障壁になるのが,空気です.一度陸上に適応してしまった高等植物にとって,水中はあまりにも二酸化炭素が不足しています.そのため,水草では草体全面の広い面積でわずかに溶けた二酸化炭素を吸収したり,重炭酸イオンを利用したり,有機物の分解により土中で発生した二酸化炭素を根でキャッチして葉まで運ぶなど,様々な工夫がみられます.酸素に関しては光合成により生じた酸素を利用しているようです.

では逆に,二酸化炭素さえ十分にあれば水草でなくとも水中で育てることは可能なのでしょうか?試してみると多くの場合,ガラス化(Vitrificationと昔は言ったものの,最近はHyperhydricityと呼ぶことが多い)が生じて成長が止まり,枯れてしまいます.組織培養では広く知られた現象で,原因としては水の過剰,酸欠,光不足,栄養塩の過剰など様々な説が挙げられていますが,定説はありません.水中に植物を沈めただけで生じるということは,水の過剰と酸欠が有力候補でしょうか.これらによって強力な酸化ストレスが発生し,それが気孔の異常,クチクラの欠損,葉緑素の不足などといった症状を引き起こす点に関しては意見が一致しています.もしかすると,水中でガス交換ができるだけでなく,水過剰で酸欠という粗悪条件下に対するストレス耐性があることも水草水草たらしめているかもしれないと思っています.また,こうした症状はときに本来水中で育つはずの水草においても生じ,成長障害として現出します.水中で育たないと思われてきた植物も,何かの工夫をした上でガンガン二酸化炭素を加えればなんとか水中で育てられる可能性だってありそうです.げんに液体培地で培養することが可能な植物なら,いくらでもあるからです.でももしそれでうまくいくのならば…

本当に,水草ってなんだ?

 

引用文献

田中 法生, 2012.異端の植物 「水草」を科学する 315p.ベレ出版.

角野康郎, 2014. ネイチャーガイド 日本の水草.316p. 文一共同出版. 

Sculthorpe, C. D., l967. The biology of aquatic vascular plants. Edwards Arnold (Publ.) Ltd., London.

生嶋 功, 1972.水界植物群落の物質生産I (水生植物).98p. 共立出版

Cook, C.D.K., 1999.Perspect. Plant. Ecol. 2/1:79-102

浜島繁隆, 2002.水草はどんな草?それは今 トンボ新書.

大滝末男, 石戸忠, 1980. 日本水生植物図鑑.318p. 北隆館. 

Arber. A., 1920. Water plants. A study of aquatic angiosperms. 436p. Cambridge University Press, Cambridge.

ウスモンコホソハマキ ホシクサの頭花を食べる蛾

ホシクサ類の栽培にあたって病害虫はあまりないのですが,ウスモンコホソハマキだけはホシクサ類に特異的な害虫です.

(屋外のオンブバッタ,室内のアブラムシはすべての水草に当てはまるのでこれを除く)

ホシクサ類を育て始めてすぐにこの害虫に遭遇したのですが,正体がなかなかつかめず困っていました.ある程度湿度を保ってカップに詰めておくと小さな蛾が12月頃に羽化してくるのですが,意外に湿度管理が難しく乾燥させすぎるとだめ,湿らせすぎると幼虫は育つものの羽化できずに死んでしまうことが多く結構面倒でした.

それでも何回かは羽化するのですが,羽化したところでよくわからず…というのがだいぶ長引いていました.

しかし「ホシクサ属植物ガイド」p. 73.にてニッポンイヌノヒゲ頭花から出現した蛾がウスモンコホソハマキであったということを読み,調べてみるといつも発生する蛾と全く同じであったためようやく正体が判明しました.

本種は近辺のホシクサ属生息地では非常にありふれた種で,ニッポンイヌノヒゲやイトイヌノヒゲが生えている場所では大抵頭花が崩れた株が見当たり,開いてみると潰れた頭花を器用に綴り合せて内部に幼虫がいるのが見当たります.こういうものを間違って持ち帰ってしまうと…サンプルが滅茶苦茶になり,糸で種子の回収もままならなくなってしまいます.袋を噛んで穴をあけることもしばしば.

害虫としか言いようがないのですが,この虫による被害で全滅するようなことはないことや,なかなか駆除できないことから共存してしまっています.(近くにも多産地があり,実はうちでは世代交代しておらず毎年飛んできているのかも...)

興味深いことに,本種はホシクサ類の中でも選好性があるように思います.

被害は毎年イヌノヒゲ,ニッポンイヌノヒゲ,ヒロハイヌノヒゲに集中し,イトイヌノヒゲにもつくものの上記3種よりずっと頻度は少ないです.ホシクサやクロホシクサも食べないことはないのですが,やはりイヌノヒゲ系を好むようです.また類縁上はイヌノヒゲに近いシラタマホシクサにも被害は少ないようです.

本種は水田ではほとんど見たことがなく,ニッポンイヌノヒゲやイトイヌノヒゲがみられるような自然度の高い湿地で主に見かけます.しかし,栽培下においてはヒロハイヌノヒゲもよく食害するので,多分ホシクサの種類というより環境的な問題なのでしょう.

頭花の内部を食べて,食べかすを糸で綴り合せてあたかも頭花が残っているように見せる習性も興味深いところです.保湿のための巣なのか,それとも頭花に擬態しているのか,はたまた単に足場を作ろうとしたらそうなってしまうとか….さらに,巣を開けてみると何もおらず,隣の頭花に移動したと思われるものも.いったいどうやって移動したのやら…気にしてみると不思議な生物です.

あと,とても疑問なのですがホシクサが咲かない季節はいったいなにをしているのでしょうか.あの微細な蛾が冬に羽化して秋まで生存するというのもない気がしますが…

抽水条件でも発生するので,卵を株本に産んで休眠しているというのも腑に落ちません.(それとも,ホシクサやクロホシクサに少ないのは株本が深く水に漬かっているから??)謎が深まってしまいました.

近縁のコホソハマキはオモダカだけでなくオオバコなども食べるようなので,未知のホストがありそうで気になります.