水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

イトモと紛らわしいアイノコイトモ

関東平野の水路は不毛の地で、オオカナダモはおろかコカナダモですらみつかればバンザイものである。

そして、環境が良く肥料も豊富なところはたいていオオカナダモに占拠されてしまっていて、他の水草が希薄になる。冬は関東地方では雨が降らないので、地下水位が下がる。この時期に乾燥してオオカナダモが一掃されるようなところではササバモやコウガイモ、ときにリュウノヒゲモがみられる。センニンモやヤナギモ(のようなもの)もなんとか生き残っているが、どういうバランスで生き抜いているのかよくわからない。越冬地のようなものがあちこちでみられるので、そういうところで越して夏になると拡散しているのではないかと思っている。

さて、今回はオオカナダモに混じって葉が短く細いPotamogetonがみられた。関東の平野部でみられる狭葉性Potamogetonはほとんどがミズヒキモ類およびその雑種なので、葉が短ければその可能性が否定でき嬉しいものである。

いやミズヒキモ類も大好きなのだけど毎回毎回「よくわからない」というか、憶測を述べ続けるしかないのでブログに書きにくいのである。

上からパッと見た感想ではイトモっぽいものの、花が一つも見当たらないのはそれらしくない。ツツイトモは案外大きいので(小さいのはよく見ると托葉がバキッと裂けていて、ミズヒキモ類との雑種のことが多い)、ツツイトモかもしれない。結構期待しながら棒を伸ばして3本ほど採集。托葉はバッキリ裂けているのでツツイトモではない。残念・・・。

全草はこんな感じだった。分岐が激しい点はイトモそっくりだが、葉が弓なりに湾曲しているのはアイノコイトモっぽくもある。この分岐のせいで現場ではイトモではないかと興奮してしまった。

托葉は裂けている。アイノコイトモではしばしば、裂けた托葉が茎に巻き付くというきわめて紛らわしい現象がみられるがこのように綺麗にわかれているのはむしろ、らしくない気がする。この托葉もまた、イトモっぽいという第一印象を抱かせてしまった原因だろう。

しかしながら、そもそも今の時期のイトモは花と殖芽だらけのはずなので、これは多分アイノコイトモだろう、と見当をつけた。

葉幅は1.5㎜ないくらい。うーん非常に微妙なサイズ。普段は湧水河川のはずなので、イトモも1.5㎜くらいにはなりうる。

葉先はややなだらかに細くなる。イトモとツツイトモはわりと急にすぼまるのだけど、これはとても微妙なライン。葉脈は1~3である。イトモもよく見るとしばしば3脈なので、葉脈で見当をつけることはこの個体に関してはできない。

葉をアップしてみる。無数の葉脈っぽいものがみえるが、細胞壁が縦に肥厚したもの。エゾヤナギモとその近縁種はこれが非常に発達する。ヤナギモもそうだと聞くがあまりそんな印象はないので、今後気にしようと思う。(ちなみに、Kaplanの検索表だとヤナギモとエゾヤナギモは結構近いところに出てくる)

葉脈脇のラクナは発達しない。ラクナが発達するのは日本産では少ないが、一応気にはするようにしている。

鎌状に曲がる葉はヤナギモの特徴と思うが、同時にアイノコイトモの特徴でもある。アイノコイトモの特徴として鎌状に曲がる葉を指摘したのはP. orientalisの記載だったかP. drepanoidesの記載だったか忘れてしまった。確認せねば。少なくともどちらかの原記載で葉がカーブすることは特徴として挙げられている。

ちなみに、ツツヤナギモもカーブする。

茎が節を挟んで太さが変わっているように見えるが、これは茎が平たいために茎を境に捻じれるとこう見える。エゾヤナギモの茎が平たいのがしばしば強調されるけれど、ヤナギモの茎もまた平たい(度合いは違うけど)ので、エゾヤナギモを見るまでは混乱することになりがちだと思う。

細葉系Potamogetonで茎が平たいのは、「ヤナギモとエゾヤナギモ、あとはエビモ、センニンモ」である。

エビモとセンニンモは染色体の倍数が違うし広葉系にカウントすべきだけれど、しばしば紛らわしいので…。

(細葉系Potamogetonはほとんどが2n=26か28なのに対して広葉系は2n=52が基本)

 

というわけで、これは「イトモと紛らわしいアイノコイトモ」ということでサンプリングした。う~ん、残念。イトモはどこかに生き残っていないのか…、

知る限り、いつの間にかイトモは関東平野からほとんど絶滅している。ツツイトモのほうがはるかによく見かける。(とはいってもたいていは、よく見るとツツミズヒキモが怪しいようなものなのだけど…)

イトモは各地で優占的に繁茂しているアイノコイトモに遺伝子の爪痕を残しているので、かつてはあちこちにいたはずだ。そんなシンプルな名前で、ごく普通だったはずの植物がいつの間にか消えていることに危機感を感じてならない。